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分割出願・国際出願に注目! 企業の重要特許を見つける方法

投資機会を見つけるための企業の特許調査において、特に大企業では、対象となる事業も特許も多くなりがちです。また、化学や素材のメーカーは機械や電機に比べて、探索対象になる事業領域が広くなることが多い。件数が多くなくても、幅広い事業や技術領域の中から注目すべき重要な特許を探し出すのは、なかなか大変な作業です。

すでにこれまでのコラムで、特許の読み解き方をいくつかご紹介しています。しかし業界や企業ごとに特許戦略は異なりますので、画一的な分析方法には「解像度」の点でやはり限界があります。しかし幸いにも僕は、これまで16年以上、委託調査や自らの発明において数万件の特許を査読し、調査してきています。その中で、素早く重要特許を見つけるために、まずはこういう特許に注目しましょう、という、あたりをつける自分なりの方法が出来上がっています。
今回はその中から、「これは読むべき!」という特許を「一瞬で」見つける方法を、いくつかご紹介します。

 

分割出願されている特許の意味

一つ目は、特許の中でかなり重要だと考えている「分割出願」を取りあげます。分割出願は、一つの特許を多数の特許に増やすことができる、重要な技術や製品を上手にかつ徹底的に守りたい人にとって魔法(笑)の制度です。正確には知財用語で「出願の分割」と呼びます。だいたいまずは、これに注目することが多いんです。

分割出願を行う目的はいろいろあります。例えば、特許をどんどん分けて増やしていくことによって、トータルとして権利の範囲を広げる人たちがいます。僕がセミナーでよく取りあげる3M(スリーエム)なんかは典型ですね。投資家に人気の文具メーカーのパイロットの「こすると消えるボールペン」なんかも、えげつない分割特許が出ていて読むとワクワクします(笑)。

こういう人たちは、この部分はどうしても権利にしたい、あの部分もどうしても権利にしたいと、どんどん分割して出願していく。これも特許戦略です。それだけ絶対に権利化したい「何か」があるわけです。
どうしても権利化したい理由は「その事業(技術・発明)を守りたい」からであり、守りたい理由は「その事業(技術・発明)は儲かる」からですよね。普通に考えれば、だいたいそういう結論になります。

もう少し丁寧に言うと、「その会社にとって重要」で「他社がやりたがる(やられると困る)」発明や技術が含まれているから、「分割出願」が行われている、と考えられますよね。だから企業内発明塾で注目すべき特許を探す際は、「まず分割特許に注目しましょう!」といつも言っています。分割出願は、誰の目から見ても、知財や特許初心者から見ても、非常にわかりやすい指標なんですよね。

 

分割出願した特許からはコア技術や競争力の源泉が何か、などが見えてくる

               第2回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

 

実際の特許を見てみましょう。上図はGoogle Patentで検索して見つけたレオン自動機の特許です。レオン自動機は、あんパンや中華饅頭など生地で具材を包み込む課程を自動化した「包あん機」や、パンの自動成形機を主力商品とする、食品の加工機械の製造・開発を行っている企業ですね。

右側の「Family」と記載されている箇所を見てください。「US(2)」とか「JP(3)」と記載されていますよね。これは、一つの発明に対し日本で3つ、アメリカで2つの出願がある、ということを表しています。これが分割出願です。こういうのを読んだ上で、実際にレオン自動機にヒアリングに行きました。そういう調査をした上で僕は、レオン自動機は特許に力を入れているなと、特許戦略を高く評価しています。こういった企業や組織への多数のヒアリングを通じて、分割出願の裏には特許戦略がある、という裏付けも結果的に取れています。机上の調査だけでなく、ヒアリングで裏付けもとってきたので、僕は分割出願を「自信をもって」重視しているんです。

レオン自動機は、国内シェア9割、グローバルでもガチで争っている競合他社は存在していません。「特許が競争力の一つの要因になっている」と取材に伺った時に仰っていました。分割出願を含む、巧みな特許戦略の勝利ですね。素晴らしい企業です。

細かいことはヒアリング先の企業秘密に触れるので書けませんが、分割出願された特許に注目し、読んでいくと、その企業が何を重要と考えているか、コア技術、競争力の源泉が何なのかが見えてくることが、調査とヒアリングからわかっています。ちゃんと裏が取れている方法ですので、安心してご活用くださいませ。

 

国際出願で「固めだし」している特許 

二つ目に注目したいのが、国際出願している特許です。ある発明について国際出願がいくつも始まっている、となるとそれはもう要注目です。同じ発明について、ある時期に特許をいくつも出すことを、発明塾では「固め出し」と呼びます。

国際出願には「WO」という頭文字が付きます。先ほどのレオン自動機の特許では「WO(1)」となっていますし、アメリカなど国ごとにも出願していますよね。
日本で出願してから国際出願に持っていって、それをさらに各国に持っていって出願するというのが、基本的なパターンです。ただ最近は、特に重要な特許については最初に国際出願をして、各国に展開していくパターンを取る企業が増えています。それぞれメリットがありますが、長くなるので今回は省略します。どちらにしても、国際出願されている特許には、何らかの意図があるわけです。

それが大企業なら割と当たり前のことなので、そこまで評価する必要はないのかもしれませんが、そんなに規模感の大きくない企業が、国許出願をしている、何件も「固め出し」で出願している、もしくは急に「固め出し」を始めた、というのは絶対に要注目ですね。何か準備をしているのではないか、事業を本格化してくるのではないか、などいろいろ考えられますね。

まずは国際出願しているかどうかを見てから、じゃあその特許に書かれているのはどんな発明なのか、それはその企業や事業の競争力になるのかならないのか、というふうに読んでいただくと効率が良いと思います。日本企業が国際出願している場合、たいてい「日本語」で出願されていますので、国際出願含め世界中に出願している重要な特許を日本語でチェックできるのは、便利ですよね。

あくまで一般論ですが、日本の製造業の企業の中には、競合の外国企業ほど特許に費用をかけていないところが、まだまだ多数あります。特許や知財って、まじめにやると結構お金がかかります。でも、それにもかかわらず国際出願している特許って、よっぽどの特許なんですよね。特に中小規模の会社であれば、社運を懸けている、とまでは言い過ぎかもしれませんが、かなり気合入っているんだな、と理解して、ぜひ読んでもらいたいんです。

 

「特許ポートフォリオ」を「固めだし」「連続(連番)」で作っている

               

               第2回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

 

一つ、「固めだし」の特許群の具体例を見てみましょう。特許群のことを「特許ポートフォリオ」と呼んだりします。ポートフォリオとはもともと「書類入れ」という意味なんですが、特許の場合は「特許の束」を作るイメージです。
上図はハーモニック・ドライブ・システムズの特許群のリストです。同社は産業用ロボットに使用される精密減速機の開発、製造、販売している会社ですね。

注目は、ある時点から国際出願を増やし始めた特許です。番号が、023742、023743、023744、023745、023746、023747と連番なんですね。これは実は同日出願で、かつ、同時に出願したものです。同じ日であっても、別の企業の出願が間に入る場合があるので、同じ日に出しても連番にならない場合もあります。これは繋がっているので、6件同時に出していますね。
このような連番の特許というのは、多くの場合、内容がほぼ同じです。どこが違うか、よく読まないと分からない場合があるぐらいです。
けれども、なぜそのような僅かな違いしかないような発明をたくさん出すかというと、やはり、その分野でよほど権利が取りたいからです。絶対に他社にマネされたくない、もしくは、自分たちが絶対に先に取りたい何かがあるということです。連番特許は「この発明について、強固で、手堅い特許ポートフォリオを絶対に作りたい」という戦略の結果なんですね。

 

もう一つの例を見てみましょう。THKです。THKはLMガイド(リニア・モーション・ガイド)を中心とした、工作機械や半導体製造装置など産業機器用の部品を作っているメーカーです。

               第2回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

 

番号を見ると、連番ではない。でも実は、読んでみると内容がほぼ同じだとわかります。
発明の名称に注目すると、例えば「異物除去装置、及びリニアガイド」のように、同じタイトルのものが近い番号で出願されています。ほかの特許の名称にある「状態診断」とか「故障検出」、「寿命診断」なんかも、キーワードとしては近いですよね。

こんな感じで、細かいところはさておき、どうやら彼らはリニアガイドの寿命診断に関して、かなり力を入れてるんじゃないかなと、仮説がたちますね。では、ほんとにそうなのか、そうだとしたら、それはなぜなんだろう、というふうに分析しながら、特許を読んでいただくとよいと思います。

 

重要そうな特許が見つかれば、あとは「数パターン」の特許分析で検証できる

ここまでお話ししたように、重要特許を探したいなら、特許をざっと見て「分割出願」「国際出願」「固めだし」にまず注目してみることです。企業が注力している部分が一発で見抜けますので、「分割出願」「国際出願」「固めだし」の特許があれば優先して読んでみてください。

読んでいけば、「ここを守りたいんじゃないか」「こういう技術を開発しているんじゃないか」「将来こういう製品を作るんじゃないか」など、「仮説」がいくつか見えていきます。仮説が見えてくれば、次はそれを検証(確認)していけばよいんです。投資家の方は、IR担当者にヒアリングできるならヒアリングしてもいいのですが、実はここでも特許分析が使えます。

詳細はまた別のところで書きますが、特許分析って実は、発明者、企業名(出願人)、IPCやCPC(特許分類)などを含む発明の内容、の3つを、どういう順番で、どう見ていくかに尽きるんですよね。特許分析の方法って、突き詰めると数通りのやり方しかないんです。そう考えると、そんなに難しくないんですね。

ですからまず、何が知りたいかという「仮説」を明確にする。それを検証する際、使う項目をうまく取捨選択し組み合わせて、特許分析をする。そうすれば、注目すべきキーマンや技術進化の流れ、技術開発の歴史などを、比較的に簡単に読み解いていけます。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子

 

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