投資先の対象になりそうな企業を、どうやって特許から具体的に探したり、見つけたりするのか?
これは企業価値と知財が結びついていることが分かって特許や知財に興味を持った方が、最初に僕にしてくる質問の一つですね。ケースバイケースの部分が大きいので、一つのパターンで言い切ることはできないのですが、僕が最近ドローンについて情報収集した時のやり方をお話ししますので、情報の取捨選択、調べ方や考え方、特許を使った投資先の探し方の参考にしていただけたらと思います。(2023年5月頃に調査した時のものです)
この記事の内容
近年、ドローン関連の技術はどんどん進化していますよね。2022年がドローン元年と言われ、日本の航空法も改正されて住宅地の上でも飛ばせるようになりました。これから実用化に向けてどんどん新しいドローンやドローンを使った新規事業が出てくることは間違いないでしょう。僕もすごく興味を持ったので、なにか面白そうなことやっている会社はないか調べてみることにしました。
最初は特に情報を持っていなかったので、まずはドローンを製造している有名な企業を調べて、IRや特許を見てみました。もちろん、特許はいろいろ出願されているのですが、内容を読むと、どこのメーカーも頑張って出しているのは例えば「プロペラがどうだ」などドローンの機械的な部分、要するに機構や構造に関する特許がほとんどでした。
でも、こういう部分の特許ってあまり強くないんですよね。メーカーが「全く新しいドローンを作りました」と言っても、回避手段もあるかもしれないし、例えばフォルムにしてもその形じゃないとダメ、というのは少ないはずです。いろいろな形があっていい。だから僕はそういう特許を見ても、それでしかできないことは何なの?って思うので、あまり興味は沸きません。
「それしかできないこと」というのは要するに「課題の独占」です。課題が独占できていないメーカーの特許を読んでも仕方がない。そうね、いろんなやり方あるよねって思ってそこで終わりです。
しかも僕がたまたま見たドローンメーカーは、どこも出願特許件数が少なすぎました。例えば、IRには「結構売れているし頑張ってます!」みたいな記載がされていたのですが、特許件数は13件、みたいな。それが分かった時点で、僕は一気に興味を失いました。
産業としての注目度からすると、その規模のスタートアップだと50~100件ぐらいの出願があってもおかしくないかなぁと思っていたので、営業とマーケティング中心で技術や知財は後回しなのかな、と。そういう、なんというか「話題づくり」先行の会社って、スタートアップに限らず結構たくさんありますよね。
僕がいくつかのドローン技術の特許を読んで思ったことは、むしろドローンは何でもいいんじゃないかな、ということです。言い方は悪いですが、別にドローンは飛べばいいんでしょ、と。それよりも、そのドローンを使ってどう安定的にサービスを提供するか、どうやって確実に届くようにするかの方が課題で、つまり「運用」「サービス」「最終顧客(ドローンで荷物運んでもらう消費者や商店)の価値」などまで、視野を広げて知財化したり、新たな技術を開発していくことの方が大事なんじゃないの、という気がしたんですね。
それで、技術より運用やビジネスモデルに関する特許を出願している企業はないかと思って調べたら、「楽天」を見つけたんです。ざっと特許を読んでみたら、出願している特許には、まさにそういう特許が結構あったんですよね。https://patents.google.com/?q=(home+delivery+robot)+:&assignee=rakuten&oq=(home+delivery+robot)+:+assignee:rakuten&sort=new
(キーワード「home delivery robot」、出願人「rakuten」で Google Patents にて検索)
楽天は、みなさんもご存知の通りオンラインショッピングモールを主軸としている企業です。ですので、販売や配達という部分を安定的に行うことを考えるモチベーションのある企業なのですが、彼らは今後、ドローンなどを使って配送するところまで内製化しようとしています。
楽天ドローンHPより抜粋
競合のアマゾンはすでに自前の流通網を持ち、ドローン配送も始めているので、楽天もそれに対抗しようと動いているんでしょう。楽天は特に、「確実に届けるにはどうすればいいか」「間違えて隣の家にドローンなどが入り込んでしまったらどうするか」など、「言われてみれば、なるほど」という感じの、「配送現場の課題」に注目した特許を出願していました。
(例えば https://patents.google.com/patent/JP2022099338A/ja を参照、ただしこの特許は無人配送車を具体例として想定している点に注意)
よく考えてみると確かに、玄関前まで送り届ける際には、家や人を撮影し確認することになりますよね。それは確実に届けるという点は必要ですが、ばっちりデータとして個人情報的なものが残ってしまいます。それをどうやって安全に処理するか、という別の問題が出てきます。トレードオフですね。今の時代には、個人情報の管理は特に重要ですよね。それで誤配送なんかしようものなら「お前、人の家の前でなに撮影しとんねん!」って苦情が殺到して、下手したらプライバシー侵害で損害賠償請求にまで発展するかもしれない。
ドローンなどの配送ロボットは遠隔操縦になりますから、カメラの搭載なしには運転すらできませんし、家や人を認識して確実に届けることも、もちろんできません。一般道を走る車のドライブレコーダーなら、家の敷地の中までは入らないので問題なくても、配送ロボットによる宅配だと、玄関先などの敷地内まで行く可能性がありますよね。ドローンなどの配送ロボットを使うからこそ生じる課題に、楽天はしっかり注目していました。さすが楽天ですね。
楽天の特許をいくつか読んで、配送ロボットによる宅配の大きな課題の一つはセキュリティやプライバシーで、やはりそれに対応できるノウハウと技術と信頼を積み上げた会社が勝つんだろうな、と僕は確信しました。もちろん、楽天以外にもこの課題に取り組んでいる、あるいは、これから取り組む企業はあるでしょうね。ここは「独占」の話です。
特許情報から、事業を運営する上で解決すべき課題がなんとなく見つかったら、改めて、特許は何件出ているか、誰が出しているのか、を確認し、誰が何をやろうとしているのかを見るわけです。
ドローンの例なら、楽天がやろうとしているのがコレとコレとコレだと。そして、それがもし可能ならドローンを使ってプライバシーを侵害せずに宅配ができるようになるかもしれないな、などと課題を解決できそうかどうかの「先読み」をして、企業価値を判断するわけです。もちろん、「課題を独占できそうか」他の企業の動向も考慮します。
特許に書いてある技術については、最初から深く理解する必要はありません。
技術は単なる技術なので、それよりもそれが事業の成功にどう関わってきそうなのかを見抜くのが、一番大事です。その特許発明が、事業運営上の何の課題に取り組んでいるのか分かることが大事で、技術はよくわからなくてもいいんです。事業運営上の課題を解決するための重要な技術だとわかってから、調べるなり聞くなりしても良いわけですよね。だって、技術や発明の価値は、それが解決する「課題」で決まるわけですから、課題が明確になって「重要」な技術だとわかってから調べるほうが、調査の効率がいい。良い技術、というのは、「重要な課題を独占的に解決する技術」であり、重要な課題を独占的に解決している企業が価値の高い企業、だと考えるのが発明塾式です。
今回は詳しく説明しませんが、先述の「誰がやろうとしているのかを見る」、つまり「発明者」単位で見ていくことも大事です。なぜ「発明者」を見るのかというと、その技術や事業を実現するのは「人」だからです。開発者の○○さんはこういう発明をやっていて、こういう事業を考えてるんやな、と、最後には人を見る。その人が本気かどうか。あるいはその人の本気が周りに伝わっていて、周りの人もそれを認めているのかどうか。本人が本気で、それを会社としても認めているなら、特許も次から次へと出てくるはずですよね。
楽天ドローンでは、以下2名の発明者の発明を見ると、どんな事業をしようとしているのか、課題と解決法が浮き彫りになる感じです。
田爪 敏明 さんの特許 https://patents.google.com/?inventor=%E6%95%8F%E6%98%8E+%E7%94%B0%E7%88%AA&sort=new
井沼 孝慈 さんの特許 https://patents.google.com/?inventor=%E5%AD%9D%E6%85%88+%E4%BA%95%E6%B2%BC&sort=new
そうやっていろいろ調べて考えてみると、これって楽天にしか出せない特許だったのかもしれないな、と僕は思いました。
単にドローンだけ作ってても、そういう「事業上の課題」には直面しないし、そういう課題が出てくるとはなかなか想像できないんですよね。そういうのを「先読み」して、事業のシミュレーションをして色々考えているからこそ出てくる特許なのかなと思って、読んでいました。
こうやって読むと、特許はとても楽しいですね。会ったこともない人が、何を考えてて、現場で何やってるのか、なんとなく「透けて」見えるわけです。あとは、この解像度をどこまであげられるかが勝負ですね。
ネット通販の楽天モールで、日本中の企業の商品を販売している楽天。自社で購入してくれた商品を、お客さまのところにいち早く、安全安心に届けようというところに責任やこだわりを持っているからこそ、ドローン配送についても他社よりも一段深く考えているんでしょうね。
また、楽天はドローン配送のノウハウと技術を積み上げて、他の運輸運送業者にも展開していくかも知れませんね。
なぜそう思うか。ここまでなんとなく「ドローン」という言葉を使用してきましたが、これって要するに「宅配ロボット」ですよね。宅配ロボットには、空だけではなく陸上もあります。ドローン(空)で今までより早くモノが届くようになる、といった未来に加えて、陸上宅配ロボットが、車が入れない狭い道まで入って玄関前まで自動で届けてくれるようになったりと、さらに未来が広がりますね。
とすると、プライバシーや安全性に配慮する必要性は非常高くなり、楽天が想定している課題の解決は、ますます必要とされ価値があるものになるでしょう。楽天はそこまで分かっていて、今後は運送業者に広く展開することを狙っているんじゃないだろうか、ということです。
これは、あくまでも僕の推測です(笑)。でも楽天は、運輸業者よりも先に「課題」に気がついたのは、どうやら間違いなさそうですね。
このように、対象とする業界や技術についてあまり分かっていない時は、まずはその業界や技術についてよく知られているメーカーを調べてみるところから入っていくこともあります。そこで見つかった特許をいくつか読むうちに、事業を運営する上で解決する必要がある本当の「課題」が分かってくる。課題が見えると、その解決に取り組んでいる企業を改めて探せば、投資する価値が高い、面白そうな企業が(もっと)見つかるかもしれない、という感じですね。今回特許の具体的な調べ方についてはお話しませんでたが、弊社のテーマ別深掘りコラムの特許の読み方と調べ方 ~GooglePatentsを活用して特許スキルを磨くで紹介していますのでご参照ください。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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