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知られざる投資先企業の見つけ方 ~特許とIR情報から見つかる隠れた有望企業~

自分が詳しくない分野の企業や、名前を聞いたことのない企業って、普通はなかなか投資先の候補に上がってきませんよね。でも世の中には、自分は知らないけれどスゴい成長企業が存在するのも事実ですね。そういった企業を、なんとかして見つけたいという方は多いでしょう。どうすれば見つかるでしょうか。有効な手法の一つは、有望企業の調査を通じて、別の有望企業を探す、というものです。
僕が知らなかった企業で、調べてたどり着いてみると実は圧倒的な市場シェアを持ち、独自技術の強みを活かして急成長していた、朝日インテックという企業があります。朝日インテックは医療用カテーテルのダントツ企業なのですが、一般の人がその製品を見ることはほとんどありません。ここでは、製品を見ることもない朝日インテックをどうやって見つけたのか、そして、この先の成長シナリオをどう読んだかをお話しします。知られざる成長企業の見つけ方の一例として、参考にしてみてください。

 

PTCAバルーンで世界シェアトップに躍り出た有望企業テルモ

前回と前々回のコラムで、医療機器メーカーのテルモについて2012年に特許情報やIR情報で分析をした結果、安定しつつも成長性がある非常にオモロい企業だと分かった、というお話をしました。(「投資家が見る企業の持続可能性は「危機の時にどう乗り越えてきたか①」、「投資家が見る企業の持続可能性は「危機の時にどう乗り越えてきたか②」をご参照)

テルモについてはその後、発明塾のOBたちと一緒に、特許の知識が投資に使えることを検証していた際に、再度調べています。当時は発明塾「投資部」と呼んで、隔週で討議していました。ちょうど2015~2016年頃、医療・ヘルスケア分野で優れた企業がみつけられないかと探していたOBがいました。

テルモについて改めて調べてみると、2008年のリーマンショック後に営業利益が少し下がっていましたが、すぐに復活してすでに評価が高まっていたんですよね。
当時から投資家の中では定評がある企業だとは聞いていたのですが、その成長力に改めて驚きました。そこで、さらに深く調べてみたくなったんですね。

   資料1

          発明塾®動画セミナー:「エッジ情報®」探索とその活用より抜粋  

 

上記の図は、テルモの2008年時点の中期経営計画のIR資料の抜粋です。
テルモはPTCAバルーンという、血管が詰まって狭くなった部分を広げるカテーテルのシェアをもともと19%持っていたんですけど、2008年末時点で26%まで伸ばしていて、将来は35%シェアを目標にするぞ!と言っているんです。1年の間にそこまでシェアトップだったボストン・サイエンティフィックを追い落としたわけですね。めちゃくちゃ気合いが入っていますよね。ボストン・サイエンティフィックが国内首位だったんですけど、追い抜いちゃった。この中期経営計画を出した2008年は、リーマンショックの年ですね。改めて驚きました。

 

テルモの業績急成長の陰に、別の有望企業「朝日インテック」がいた

そこで、テルモを調査中、必須であったカテーテルを調べていると必ず登場してくるのが朝日インテックという企業名でした。
実は、朝日インテックはテルモに製品を供給していたんです。僕は社名も知らなかったのですが、テルモが絶好調の波に乗れたのは朝日インテックの製品力と技術力があったからなんじゃないか、という結論になったんですね。

朝日インテックというパートナーを見つけたテルモの目利き力はもちろんすごいと思います。しかし、仮にPTCAバルーンカテーテルで世界シェアトップになった競争力の一端を朝日インテックが担っているとするなら、今度は朝日インテックも調べざるを得なないですよね。

   資料2

           発明塾®動画セミナー:「エッジ情報®」探索とその活用より抜粋

 

世界トップの企業に製品を提供している知られざる有望企業、朝日インテックとは?

そこで朝日インテックを調べると、当然のことながらすでに業績は絶好調でした(資料3)。この裏に何があるのか、もっと詳しく調査してみようということになったわけです。
業績が好調だから調べるというより「へえ、実はこんな会社が肝になる技術を持ってたのか」みたいなの驚きがあったので、まだ今後もいろいろなイノベーションを起こすのではないか、という期待感が大きかったんですね。言い換えると、一発屋じゃなくて、もっといろいろやって大暴れ(笑)してくれるんじゃないか、という感じですね。今好調だけど、ネタの賞味期限が切れたらもう終わり、といった企業もありますよね。
では、朝日インテックはどうなのか、気になったんですね。以前取り上げた、「アラインテクノロジー」の時は、多くの人は「一発屋」だと思ってたけど、実際はそうでもなかった。今回はどうでしょうか?

   資料3

          発明塾®動画セミナー:「エッジ情報®」探索とその活用より抜粋

   資料4

          発明塾®動画セミナー:「エッジ情報®」探索とその活用より抜粋

 

調べてみた結果として、朝日インテックも、どうも一発屋ではなさそうだ、と感じました。2014年6月期の有価証券報告書を見ると、「経営上の重要な契約等」のところに、アボットとテルモの社名が記載されています(資料4)。どちらも世界の医療機器で、トップクラスの企業です。世界のトップ企業が認めたダントツの製品力だということですね

HPを見ると、少なくともテルモには製品をOEM供給しているようでした。OEMとは相手先のブランド名で売ってもらう取引形態で、言ってみれば黒子になることですね。製品のOEM供給って利益率が高くない場合も多く、あまり儲からない可能性もあるのですが、朝日インテックはめちゃくちゃ儲かっている。どこの企業も真似ができなくて、彼らしか作れないってことなんだろうなと、わかりました。アジアとヨーロッパ、アメリカでもそれなりのシェアを持っていて、急速に伸びていると朝日インテックのHPに書いてありましたが、それは「世界トップの医療機器メーカーにも作れない」ダントツの製品力に裏付けられていたわけです。

ここまでくると「このお化け企業は一体なんなんだ?」っていう感じですね(笑)。今度は、この先どうなっていくのか本気で調べてみよう、ということになりました。

 

朝日インテックは、コア技術を特許でガッチリ固め、知財でも有望企業

僕は、朝日インテックのダントツの製品力の裏には、きっとダントツの技術力があるのだろうと考え、まず特許を調べることにしました。具体的にどんな技術を持っているのか、部品や材料の企業の場合、特許が大きな手掛かりになることが多いからです。
特許をざっと調べていくと、朝日インテックの強みが見えてきました。非常に簡単に説明すると、金属の極細ワイヤーを束ねて均一な撚り線に仕上げていくという、非常に地味な、そして、おそらく世界で最も日本人が得意とする材料の加工技術や熱処理技術が強みでした。僕は材料の熱処理や表面処理が大学時代の専門でしたし、川崎重工時代も材料の先行研究や規格化のワーキンググループを任されたりしていたので、これは非常に興奮しました。朝日インテックって、めちゃくちゃオモロいことやってるやん!って感じですね(笑)。材料の世界って、非常に地味なんですが、その分非常に奥が深いんですよ。「ここでこういう企業に出会うんか!」と、なんか運命のようなものを感じましたね(笑)。ちょっと大げさかもしれませんけど、そんな感じです。

   資料5

          発明塾®動画セミナー:「エッジ情報®」探索とその活用より抜粋

しかもこの技術の特許は、もう本当にえげつなかったです(笑)。自社の関連特許が被引用特許としてたくさんついていて、発明塾で言う「固め出し」をこれでもかというぐらい行っています(資料5)。この特許群を見て、これがコア技術である可能性が非常に高いなと感じました。

ちなみに僕は、企業のコア技術を知りたい時に、ホームページやIRよりも先に特許を見ます。多くの企業は、本当にコアなところは上手く隠してアピールしますよね。なので、ホームページには「本当のコア技術の内容」は記載されていないことが多いんですよね。でも特許を見ると、例えば自社特許が被引用にたくさんついているから、これは自社で守りを固めておきたいんじゃないかとか、コア技術の中身を理解する手がかりがいろいろ得られるんです。

朝日インテックの「もう関連特許はすべてウチが抑えているぞ!誰も真似でけへんで!」みたいになっていた特許群を見て、製品力と技術力はもちろんダントツなんでしょうが、知財力の点でもおそらくダントツで、この会社はかなり気合入ってるなと感じました。

 

有望企業の裏に有望企業あり。特許とIRから知られざる企業を見つけよう

朝日インテックを見つけた過程をもう一度簡単に振り返ってみましょう。最初は医療・ヘルスケアで投資先として優れた企業はないかと、すでに定評のあったテルモを調べてみた。リーマンショック後の若干の落ち込みからも完全回復し業績は完璧で、将来も成長しそうだとわかった。その調査の過程で、テルモが当時注力していてシェアを大きく伸ばしているカテーテルに注目した。これについて、有価証券報告書で情報を確認していたら、朝日インテックという企業名が出てきた。これ何の会社だろう、と思って調べてみたら実はカテーテルをテルモ以外にアボットにも提供しているすごい企業で特許も完璧だった。こういう感じでしたね。

 

テルモのように、体温計などの一般消費者向け商品も出しているような企業と違って、朝日インテックは、かなり医療機器業界に詳しい人でなければなかなか見つけられないでしょうね。でも、「すごい企業の裏には知られざるすごい会社があるかもしれない」ということを念頭に入れて調べていくと、そういう企業も意外に見つかる。こんなイメージを僕は持っています。なかなか見つけられないから知られざる企業なのですが、絶対見つからないわけではなくて、見つける方法はちゃんとあるってことですね。

知られざる企業や情報を効率よく見つける方法って、結局は「芋づる式」に尽きるんじゃないかなと思ってます。これは「エッジ情報®」探索とその活用セミナーでも、詳しくお話しています。

まだ調べていませんが、朝日インテックの特許とテルモの特許もある程度繋がっていると思います。似たような製品を出しているわけですから、繋がらないほうがおかしいですね。すでに解説した通り、両社とも特許戦略には非常に熱心で、気合が入っていますしね。
今回は有価証券から見つけましたが、特許からも見つかるでしょうね。そして、特許からはもっともっと知られざる企業が見つかるかもしれませんね(笑)。

 

特許情報とIRのどちらを先に見るか、とか、どちらを重視するか、とかよく聞かれるんですが、僕はどちらでもよいと思っています。どちらかということではなく、特許を見てIR見てまた特許を見て、というように、片方で得られた情報から仮説を立て、その裏をとりながら他方を調べて読んでいく。そうすると、情報から情報へ、企業から企業へと繋がっていく。こんな感じですね。
知られざる投資先や関連情報の見つけ方の一つとしてぜひ、参考にしてみてください。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子

 

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