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特許件数が少ない企業の評価方法① ~グレイステクノロジーの特許を読む(特許の内容を分類・整理する)~     

投資機会を探るために企業の特許を調べる場合、いろんな意味で、特許の数を気にされる方は多いと思います。例えば、特許件数が少ない場合、その特許をもとに技術や企業を評価して意味があるのか、とか。基本的には特許数は多い方が評価しやすいんですが、特許数が少ないけど急成長してる、みたいな企業の場合、数が出るまで待っていたら投資機会を逃しちゃうことになりかねませんよね。
そういう時、どうしたらいいか。少しシビアに見る必要はありますが、たとえ数件しか出てなくても特許から技術や企業の評価はできるんです。そこで、今回はグレイステクノロジーという企業の特許を例に、特許件数が少ない時の読み方と評価方法をお話しします(資料、内容は2019年時点のものです。同社は現在上場廃止しています)

 

「企業のDX推進を支援」を行うグレイステクノロジー

グレイステクノロジーという企業は、一般の方にはなじみのない企業かもしれません。実は僕も、投資家の方から「この企業、特許が数件でてますが、どう思います?」と質問されて特許を読んで評価することになって初めて知りました。
HPには「企業のDX推進を支援する」と記載されています。簡単に説明すると、電子マニュアルの作成支援から管理までをワンストップで行っている会社ですね。グイグイと業績を伸ばしているようです。

彼らのサービスである「電子マニュアル」に、いったいどんなテクノロジーが入っているのか。ぱっと見ただけでは流石に僕もピンとこなかったのですが、特許を丁寧に読んでみて、かなりピンときたんです。少ない特許しかなかったんだけど、それでうまい具合に技術と企業が評価できたわけです。そのへんの「感触」を、みなさんと共有できたらと思っています。

 

              第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

 

上図は、同社の第21期第一四半期の有価証券報告書の抜粋です。「e-manual」とあるのは、要するに「電子マニュアル」のことですね。
ここだけ読んだら、まあイマドキだからマニュアルは電子化する時代だよね、で終わってしまうでしょう。いくら業績が伸びているといっても、製品や技術にどれぐらいの独自性があるのか、競争に勝ち残れる将来性がある会社なのかは、また全然別の議論です。ちゃんと読み解いていかないと、単なる一時的なブームで終わってしまう会社なのか、その先もしっかり企業価値向上を続けていける会社なのか、判断を誤ってしまうことになります。
ここでは「e-manual」と「GRACE VISION」というキーワードをとりあえず拾っておきます。

マニュアルを電子化すると紙を持ち歩かなくていい、とかそういうレベルの話だったら僕はあまり興味なかったんですけども、調べたら実は単なるマニュアルの電子化の話ではなかったんです。電子マニュアルって、結構奥が深いことがわかりました。特許情報さまさまですね。

 

グレイステクノロジーの特許件数は全部で8件だけ。強みは何か?

 

               第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋              

 

上図はグレイステクノロジーのビジネスレポートの抜粋です。クラウド型のマニュアル管理サービスにはこんな特徴がありますよ、というのが説明されていて、まさにこのあたりの内容が特許として権利化されています。

ある製品のマニュアルを改訂する場合って、変更したい部分についてその製品のマニュアル管理者の承認を得て、改訂するんですね。一つ変更して終わりならそれでいいんですけど、実際には、似たような製品のマニュアルが他にもたくさんあって、そっちも変更しないといけないってことが、意外によくあります。例えば、法律が変わったとか、部品が変わって同じ部品を使っている製品全部に影響があるとか、そんな場合です。そういう時に一つ一つ、変更が必要か、変更して大丈夫か確認して改訂していくのは、結構めんどくさいんですね。

同じようなことが、例えば、翻訳版についても言えます。日本語版と英語版とドイツ語版など数カ国版があったりすると、全部変えないといけない。これ、意外と大変なんです。変更した部分を翻訳版で一つ一つ確認して、改訂しないといけない。変更した翻訳版の翻訳チェックは誰がやるねん、とか、もういちいち面倒くさいんですよね。

僕が川崎重工でオートバイの開発を担当していた時は、自分が開発したオートバイのいろんなマニュアルを自分で作っていました。基本的に、設計者が製造法や内部構造や使い方について一番詳しいので、マニュアル作りまでやるんですよ。ちょっとびっくりしたかもしれませんね(笑)。
なので僕は、マニュアル作成の仕事が結構面倒な作業だってことはよくわかっています。本当のところ、マニュアル作りはできたらやりたくないなって、いつも思っていましたし(笑)。


でも、誰かが「やりたくない」と思うところにニーズがあるわけで、グレイステクノロジーは、テクノロジーを使ってそこに上手く入っていった企業なんですね。

 

              第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

 

それで肝心の「グレイステクノロジーの強みは何か?」ということなんですが、当初、上図のビジネスレポートなどIR資料をいくつか見ても、あまりピンとこなかったんです。でも、IR資料と特許を照らし合わせて読むと、この業界に明るくない素人の僕でも、結構いろいろなことがわかってきました。

 

特許を深く読むための準備 ~分類する~

グレイステクノロジーの特許は、たった8件しかないんです。件数が少ない時は、やはりじっくり読むしかないですよね。でも、ここでもやはり読み方というのがあります。やみくもに、一字一句丁寧に読めばいいということではないんです。以降、読み方を紹介します。

8件の大まかな内容と基本的な情報を、まずGoogle Patentで確認します。Google Patentは遅いと1カ月遅れぐらいの情報になってる場合がありますので、本当に最新の情報が知りたい場合はJ-Plat Patで確認してください。今回はGoogle Patentで見ます。

 

              第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

 

8件ですから読めばわかるので、焦る必要は全くありません。最初に対象になっている商品や技術で分けます。IR資料やホームページの情報と特許に書かれている発明の内容を照らし合わせて、分けていきます。さらに細かく分けたい場合は、この後に課題で分けていきます。

 

              第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋    

まず、マニュアル作成技術、つまり電子マニュアルに関しての特許が6件ありました。残りの2件はウエアラブル関連です。グレイステクノロジーのコア技術はマニュアル作成技術なのだから、まずこの6件の内容をしっかり理解すればいいんです。ということで2件減りましたね、ラッキーです(笑)。
6件のうち、用語統一の課題に関するものが3件(上図特許①~③)で、翻訳関係も3件な(上図特許④~⑥)でした。先ほどお話ししたように、翻訳版に関する課題の解決も重要なんじゃないかということが、特許からもなんとなく見えてきましたね。

出願された日付にも注目し、用語統一に関してこういう順番で出ているな、ドキュメントの翻訳に関するものがこの順番で出てるな、と見ます。特許が出願された日付を追っていくと、開発の流れが分かるんです。発明が出たら、すぐに特許を出すのが普通ですから、いつだれが何を考えたかが、特許出願の日付と内容でわかる。これって結構大事なんですよね。

 

特許件数が少なくても確実に情報は取れる

残り2件のウエアラブル関連の特許は、メガネにマニュアルを表示させるみたいなものです。今、産業IoT関連で流行りつつあるものですが、そこにも目をつけていますね。いろいろな記事を見ると、ウエアラブルの方を先に思いついたのかな、という印象を受けました。

準備段階として、まず分類できる程度に読んで、分類する。それだけで、少ないながらも情報は確実に取れますし、理解が深まります。この後、さらに深く読んでいきます。実際には特許分析の結果をレポートにまとめていて、そちらにはかなり細かいことが書いてあるのですが、スライドには抜粋を載せています。ご容赦ください。

 

重要特許と大まかな内容が分かってきたところで、次は請求項を読んでみます。続きは次回コラム「特許件数が少ない企業の評価方法 ~グレイステクノロジーの特許を読む(重要特許の請求項を読む~)でお話しします。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子

 

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