特許や論文など「エッジ情報®」から見つけた、まだ世間にほとんど知られていない技術、あるいは自分が以前から注目している技術分野。それに注力している企業が今後本当に伸びていくのかどうかー。
そういう「先読み®」をする上で、情報と興味を確信に変えていく重要な判断材料の一つが、ズバリ「お金の流れ」です。
前職のナノテクStart-Upで経験したこととして、どんなに良いアイデアや発明も、お金が無ければ残念ながら実現できない、ということです。モノづくりにはお金がかかるのです。そして新しい技術ほど、だいたいお金がかかります。新しい技術は金食い虫なんですね。周辺技術や研究開発のインフラが整っていないからです。まず、準備段階でお金がかかるということです。
だから、技術の情報だけ見ていても実は技術のトレンドってわからないんです。でもそこにお金がついていることが分かれば、この技術はやっぱり伸びそうだとか、技術開発が確実に前に進みそうだな、その先どうなりそうか調べてみる価値がありそうだな、となります。
繰り返しですが、技術ってお金がないと進化しません。だから、アイデアや技術の情報だけ見ててもダメ。特許情報とお金の情報を組み合わせて見ていくことではじめて、「アイデアのスジは良いし、本気で取り組んでいるようだし、お金もついてきてる、これはいけそうだな。じゃあ次どうなるかな」と先読み®が可能になってきます。
例えば、前回のコラム「投資と新規事業に役立つ『エッジ情報®』の見つけ方」の事例では、発明塾投資部でVR(バーチャルリアリティ)領域での投資機会を調査する目的でその用途、つまり「市場」について「先読み®」をしていましたよね。その際、僕たちが注目したのはマジックリープ社という企業なのですが、特許だけでなく投資情報までちゃんと調べています。マジックリープ社には、アリババ、アンドリーセン・ホロウィッツ、JPモルガンなどそうそうなる企業、かつ、さまざまな分野の著名な投資家が投資をしているのがわかったので、この先をさらに調べる必要がありそうだと、ある程度の確信が持てたんですよね。
重要なのは、どうやらお金が出始めたみたいだぞっていう時を見逃さないことです。みんなが投資し終わってから投資してもちょっと遅いですからね。
現状では、ほとんどの先端技術はアメリカで生まれています。ですから、僕はまずアメリカの特許情報を調べて、エッジなアイデアや発明を探すんですね。発明「群」と言うべきかもしれません。一つを見てどうのこうのではないんです。技術とは発明の連続なんです。だから、発明を「繋がり」「束」で見ていく必要があるんですね。そしてそれらを見て、今後こういう技術が出てくるんだろう、というのを予測していく。さらに、数年後に日本にも波及してくるんじゃないか、と考えていきます。
ということで、企業としてはアメリカのベンチャーやスタートアップに注目することが多いんです。では、そのベンチャーのアイデアに最初にお金を出す人って、いったい誰やと思いますか?
それはアメリカの政府関係機関や、アメリカのベンチャーキャピタルです。最近は中国の動きも見逃せないのですが、アメリカではほぼそのあたりです。特に、最初にお金を出すのが、NASA(アメリカ航空宇宙局)、DARPA(アメリカ防総省国防高等研究計画局)、NIH(アメリカ国立衛生研究所)、 EPA(アメリカ環境保護庁)などです。それらの補助金リストを調べて、お金の流れを見ていきます。
もちろん、大手企業によるM&Aや、クラウドファンディングなども調べますけど、アメリカの政府機関は最先端技術に戦略的に大きな額の補助金をつけますので、最先端を知るためにそこはだいたい見ます。僕が以前、実用化を手掛けたナノインプリントでも、アメリカのスタートアップ企業にDARPAなどが補助金で先鞭をつけ、最終的に数十億の研究開発資金が集まっていました。その後、世界中の企業の開発競争に火がついたんですよね。そういう流れを目の前で何度も見ているんです。補助金情報は政府機関のHPなどに掲載されているので、調べるのはそんなに難しいことではありません。
例えば、調べていって政府系機関がめちゃくちゃお金を落としているんだな、と分かると、これって最初は軍事用だけど、そのうち民間用に技術開発が可能なのではないかな、というふうに見ていくわけです。実際その流れはよくあります。
また、アメリカのベンチャーやスタートアップは、コンセプトがある程度固まったら、仮出願で内容の濃い特許をドーンといくつか出しといて、それを材料に資金調達と追加の特許出願を繰り返していきます。特許ポートフォリオと呼ばれる特許の束を、お金を集めながらつくっていくわけですね。効率的に特許をポートフォリオ化していくために、基本的には最初に出した特許を分割出願していくパターンが多いですね。マジックリープもこのパターンでした。
だから、お金が流れ始めると特許や論文も増えるといったように、お金の流れと技術の流れはある程度比例していくんです。そういうサイクルを想定しながらいろいろ見ていくと、投資が増えて、特許も増え始めたぞ、とか、技術開発と特許のポートフォリオ化が進んでさらにお金がつくようになったぞ、などと読めるようになります。特許情報とお金の流れは、一見関係ないように思うかもしれませんが、密接に関係があるんですよね。
ほかにも、ある分野でベンチャーがどんどん誕生してきてると感じたら、それはその分野にお金がつき始めているってことですよね。であれば、誰が出資しているのかを調べたりして、こういう投資家がお金を出し始めてるのか、だったらこの技術はイケるんじゃないか、のように予測をしてみるとよいでしょう。
結局、新しい分野自体が勝手に、ほっといても伸びていくというようなことはないわけです。誰かが、目利きをして最初のお金を出す。それが技術を進化させ、さらにお金を呼ぶ。だから、お金が集まりつつあるところには、何かチャンスが生まれているということ。要はその一言なんですが、その集まり始めをいかに早く見つけて、どう伸びていくのかを「先読み®」していく。それが投資にも新規事業にも役立つということです。ぜひみなさんも特許とIRやお金の流れは、セットで見ていってください。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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