気になる企業や特定の技術について、特許から競合企業を洗い出すと、その分野が今どれぐらい「熱い」か、その企業が競争の中でどんなポジションにいるか、だいたいわかります。
そこで今回は、僕がよく行っている「特許分類検索」を用いて競合を知る簡単な手法をご紹介します。オリンパスが開発を進めている医療機器の例で見てみましょう。
(※2019年にセミナーで紹介した時の事例と資料を使用します)
この記事の内容
オリンパスってそもそも光学機器がメイン事業の企業ですよね。しかし、現在はその強みを生かして生まれた医療機器事業の方にウエイトが置かれているんです。そしてまさに今が、医療機器のグローバルメーカーに脱皮できるかどうかの正念場で、個人的にも非常に注目している企業です。
同社のIR資料(※2019年)によると、オリンパスの医療機器事業の柱は2つ。内視鏡事業と治療機器事業。治療機器とは、例えばハサミみたいなものでチョキチョキと疾患部分を切ったり繋いだりするようなものだと思ってください。それが彼らの事業です。
僕は、これから医療機器メーカーは、低侵襲医療に参入しないと勝ち残れない日が来ると思っています。だから参入企業は、例えばいかにロボットを使うかなど、いかに短い時間で患者に負担がないように手術や治療が終えられるか、ということにフォーカスせざるを得ないはずなんです。
それでいくと、内視鏡技術って低侵襲手術とめちゃくちゃ相性がいい。オリンパスはこの内視鏡技術を生かさない理由がないわけで、ポジショニングとしては世界で最高に良い位置にあると言っても過言ではないでしょう。なにせ消化器内視鏡で7割という世界トップでダントツのシェアがあり、内視鏡の開発・製造・メンテナンス技術でもトップなんですから、間違いないでしょう。
あとは、それにロボット技術とか、他の周辺技術、手術機器の技術をどう取り込んでいくかというところがメインになっていくのではないかと僕は理解しているんです。つまり「おたく内視鏡以外の開発はどこまでやれてんの?」というところですね。これがオリンパスについて注目している部分です。
そこまで分かった上で、じゃあ競合はどこ?というのを見ていきましょう。
特許を調べる際に利用しやすいツールはGoogle Patentですが、競合を見る時には「LENS」という分析ツールが使いやすいでしょう。
特許分類番号でA61Bというのが手術・診断で、A61B1というのが内視鏡なので、それをLENSに入力して見てみると手術診断枠の中で内視鏡は激戦区なんだ、というのがわかります(※図1)。内視鏡は今、めちゃくちゃ熱いんです。新規参入するのは大変ですよね。でもオリンパスはその激戦区に先にいるわけですから良い位置にいますよね。技術的に面白くていいものを持っていて、経営再建も進んでかなりいいポジショニングになってきたのかなというのが僕の見立てです。
図1 図2
【抜粋版オリンパス事例のみ】「投資に活かす」特許の調べ方・読み方 動画セミナー資料より
また、LENSは被引用情報をうまく扱える秀逸なツールで、上の図と同ページ内にこのバブルのようなチャートが出てきます(※図2)。この図のどこかをクリックすれば熱い分野の震源地情報をつまみ読みできます。
特許を読むって、多くの方はつまみ読みにならざるを得ませんよね。全部読む人はなかなかいないわけです。僕は特許情報分析の依頼を受けて、ある分野について2万件の特許を隅々まで読んだことあります。でも、それはあくまでも「2万件の特許を全部読んで情報を整理し分類して欲しい」という依頼を受けたからやるものであって、自身の発明や投資のために2万件の特許読む人ってなかなかいないと思います。
ということで、まずは手術器具の熱そうなところをつまみ食いして、最新の被引用のめちゃくちゃ多い特許を見てみたら、やっぱり内視鏡がゴロゴロ出てくる。例えば、タイコ(現:メドトロニック)という企業の特許が出てきます。さらにこの特許の被引用はエチコン(J&J)ばっかりでした。恐るべき特許戦略ですね、エチコンは。
【抜粋版オリンパス事例のみ】「投資に活かす」特許の調べ方・読み方 動画セミナー資料より
これだけぶつかっているので訴訟になりそうだと思いませんか? そう思っていたら、案の定、タイコ対エチコン、つまり現在のメドトロニックとJ&Jという医療業界の巨人2人が激突している要素が現れていました。
また、「A61B」出願2位のフィリップスの内視鏡関連特許を見ていくと、当然のごとく被引用に、内視鏡手術支援ロボットの先駆者であるインテュイティブ・サージカルが出てきました。
【抜粋版オリンパス事例のみ】「投資に活かす」特許の調べ方・読み方 動画セミナー資料より
オリンパスは超音波内視鏡というちょっと変わった内視鏡もやっているのですが、特許を見ると、その被引用にはカールストルツとか、ボストンサイエンティフィックに買収されたエンドチョイスという海外の医療機器の強豪が出てきます。この辺に勝てるか勝てないか、でしょうか。オリンパスが内視鏡で世界シェア7割を維持できるか否かはもちろんですが、今後重要な「他の外科手術器具の分野に参入していけるか否か」は、これらのメーカーとの戦い次第かなと思います。このあたりは、よくニュースや記事でも話題になりますので、特許を見てない方でもご存知かもしれません。
このような感じで、特許分類を使って競合の情報を見ていくと、企業の技術開発競争のドラマが見えてくるのでとても面白いんです。そういうドラマを見つつ、特許戦略的な視点でも見て、ご自身の仕事にも活用してみていただけたらと思います。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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