今回は、高度な技術ではないけれど、価値のある特許、強い特許の例をお話しします。僕が特許を調べていた2018年当時の話です。
ジェットエンジンなどの製造をしているアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)。同社の事業の一つにヘルスケア部門があり、その中の一つにフレックスファクトリという、コンテナを並べて工場を作るモジュール式工場事業がありました。これは、バイオ医薬品の一貫生産を可能にするための製造工場です。
再生医療や細胞医療と言われる分野では、無菌操作が必須で、一つのワクチンあるいは一人の患者のために施設を建て、そこで細胞培養をして終了したら、細胞培養する設備の一部を廃棄して、次の患者のために新しい設備で細胞培養をするというのを繰り返します。ですから、ぱっと建てられてすぐに建て替えたり拡張したりできる工場が必要なんですね。GEはその事業に乗り出していて、提供していたのがモジュール式工場「KUBio」でした。僕はこの事業は非常に画期的で面白いなと思っていて調べていたんです。
コンテナが工場の中に並んでいて、これを繋ぐ。フレキシブルで短納期のモジュール工場が造れる、というようなのが基本特許で、2004年に出ていますが、そのコンセプトに各国ファミリー特許がまたがり、被引用も45件。しかも分割もされているので、頑張っていろいろカバーしているんだな、というものでした。
その中には、ごく小さな部品の特許があって、最初「しょうもない特許出しとんなあ」と思っていたんです。でも、世界各国にも出願しているし重要な特許なんだろうと読み進めていたら、実はすごい特許だったんです。
人の細胞培養では、コンタミネーション(雑菌混入)したものを使ったりすると大変なことになりますから、装置を組み立てて細胞を流して、それをばらして捨てて、また装置を組んでまたばらして捨ててと、ばらしたり組み立てたりを多分毎日のようにします。
そんな作業を何百回と繰り返し行なえば、装置の接続ミスが起きる可能性もありますよね。だから完璧に接続されているかどうかを機械で検出するアダプターのようなものを付ける必要がある、というようなことが書かれていました。僕は思わず「なるほど!そこか!」と気付いて感心してしまいました。
基本特許も大事ですが、オペレーションする上で実はここがネックになるはず!という肝のところパシッと特許でおさえてある。こういう絶対に必要なシンプルな部分の発明ってとても大事なんです。シンプルなアイデアほど特許にする価値が高いとよく言われますが、その典型です。
実はGEのこの事業、僕が調べていた直後の2019年に、ダナハーという競合企業に買収されました。やはり、それだけ発明や事業として優れたものだったから目をつけられていたんでしょう。
みなさんも、今一度シンプルだけど押さえておくべきポイントはないか目を向けてみるというのも一考です。「これがあるといいよね」という意外に気がつかなかった重要なものが見つかるかもしれません。
また、競合も簡単に真似しやすいものは、最優先で特許出願して、即座に特許を取得するべき、ということも付け加えておきます。
発明塾でも技術者の方にはよく「シンプルな発明は真っ先に申請した方がいいですよ。ちょっとした発明だとか言ったらダメですよ。こねくり回した発明は権利範囲も多分狭いし、誰もやらない可能性あるからそんな出してもしゃあない可能性あるけど、ぱっと思いついて、こんな簡単なことでええんかなと思うのこそ出さなあかん。そして、すぐに出さないと後でえらい目にあいますよ」と、言っています。ぜひ覚えていてください。
強い特許についていろいろな例を知りたいという方は、発明塾®動画セミナー「技術者に知ってほしい『知財・特許で得する』こと~技術者・起業家。経営者の視点から」 でも学ぶことができますのでご覧ください。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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