僕が以前に会った方で、神奈川県で「空き家レンジャー」という取り組みを行なっている人がいます。今、人口減少で地方に空き家が増えているという話は聞きますよね。空き家がどんどんできる場所というのは、ある意味コミュニティが崩壊しているとも言えるので、そんなところに単に「移住しませんか?」と募ったところで、なかなか移住者は来ないらしいのです。
そこで彼らが考えたのが、「空き家再生」をDIYの一部と捉え楽しみましょう、という活動です。
まず「空き家再生」という活動に参加してもらって、参加者みんなで空き家をリフォームする。そうして何回か通ううちに自然とその町を好きになり、自分でつくった家に住んでみたいなと思ってもらえればいいな、と。DIY好きの人たちに集まってもらって、過疎地を活性化しようと考えているんです。なかなか良い企画ですよね。
空き家を再生する方法はいろいろあって、建て直すだけではなくて、分解してもっと価値あるものにつくり変えて、他の場所で使ってもらう方法もあるそうです。最近ではそれをアップサイクルなどと呼称していますが、リサイクルやリユースを面白くやる中で、コミュニティの活性化や移住者を増やそうとしているわけです。
ほかにも、全国各地で人口減少や過疎の問題についてさまざまな取り組みが行われています。中でも岡山県にある西粟倉村森の学校は、村おこしで成功している企業として有名です。
同社は、長い間人口減少や林業の不振に悩んでいた西粟倉村で、手軽に設置できるおしゃれなフローリング材を販売したり、間伐材を木質バイオマスとして利用した温泉をつくるなど、モノづくりと地域の資源循環に取り組んでいます。その結果、プロジェクトに魅力を感じた人たちが実際に移住してきて新たな仕事が生まれるなど、コミュニティが活性化しているそうです。
ただ、こういう取り組みの多くは、ローテクノロジーでニッチな活動になりがちです。人が手をかけて加工したりしたモノの価値を発信し、それに魅力を感じる人を募って、コミュニティをつくっていくという取り組みが多いわけです。技術者なら、ここでもう一歩突っ込んで考えてほしいので、発明塾では「こういうところに何かテクノロジーを入れると、もっと面白いことが起きる可能性があるよね、ちょっとみんなで考えてみようよ」と議論をふっかけたりします。
実は、すでに面白い取り組みをしている会社があります。その一つがVUILD(神奈川県川崎市)という建築テック系スタートアップです。
どのような事業か簡単に説明すると、森林資源が豊富だけれども林業が廃れつつあるような村に最先端のデジタル全自動加工機を置かせてもらい、村の人に、その機械で加工された部品を組み立てて家具をつくってもらって、その家具を全国に販売するというものです。これをオンデマンドでやるんです。つまり、家具の購入希望者に「こういうのが欲しいです」という簡単な図面を描いてもらって、Build to Order(注文製作)で提供するというものです。
デジタルファブリケーションを使ったこの事業って、僕はものすごくセンスがいいなぁと思いました。林業が廃れつつある場所ということは、木と人手はありますよね。人が入らなくなった森林資源の価値は下がってくるので、そこに価値をつけてその価値を全員でシェアする。地域も活性化できるしみんなが幸せになれるというわけです。なかなかいい視点です。
この仕組みが回り始めると仕事が生まれます。林業を続けたいとか、モノづくりを始めたいと思う人も増えるでしょう。移住する人も出てくるでしょう。そして人が集まってきて、コミュニティが活性化する成功例ができれば、今度はいろいろな自治体が「その機械やシステムを導入したい」と言ってくるはずです。そういうのを狙っているんでしょう。普及のためのビジネスモデルもちゃんと組み込まれていて実に素晴らしいなぁ、と僕は感じました。
新規事業のアイデアは、例えばこのように廃れつつあるものをチャンスと捉えて活用したり、テクノロジーのないところに、テクノロジーを入れることでも生まれます。みなさんもそんな視点でアイデアを考えてみてはいかがでしょう。
新規事業や起業のアイデアについては、深掘りコラム「新規事業企画のフレームワーク~構想・仮説検証の成功事例をジャベリンボードの具体例も使って紹介」で学ぶことができますので、ぜひご覧ください。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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