今回は特許戦略のニューノーマルについてお話ししましょう。
みなさんは、そもそも特許の取得って、何か工夫してこれまでだれも作ったことのなかった前例のないモノ(発明)を創造し、それから特許として出願する、ということだと思っていませんか?
これはもちろん正解であり、正統なプロセスです。しかし、戦略として考えた場合、このような特許の取り方はオールドエコノミーなんですね。今はなにかと言うと「モノをつくる前に特許を取得してオープン化する」が特許戦略のニューノーマルです。
簡単に説明すると、10年後はこういう世の中になっているはず、将来はこんな技術が必要になるだろうと予測や仮説を立て、それを実現するのに必要な技術やそれをきっとやっているだろうという人や企業を推測します。そして、そこに自分たちは関わるかどうかは分からないけれども、誰かがやることになるはずだから先に権利を取っておこうと考えて発明提案書を出し、それを発明と認定してもらって特許出願する、という流れです。
つまり、モノをつくる前のアイディア段階で特許を取得するのがニューノーマルということです。このような特許はいわゆる「アイディア特許」とも称されています。
なぜそういう流れになったかというと、特許の価値基準が「自社が所有している技術をいかに守るか」から「今後世の中でどれくらいの人が使うものか」という視点に時代が変わってきたからです。多くの特許はそれによって企業価値を上げているんですね。
発明塾では、この考え方を「知財先行」と言っていて、10年ほど前からセミナーや教材でも教えています。日本の中ではやっとここ数年で広まった感じがします。日本ではこれまでずっと現場で工夫してうまくいったものや、現在販売している製品の特許の方が価値があるという考えが根強かったので、世界からは遅れていたんです。
一方「知財先行」が遅れていた日本に対し、世界の中でも特に進んでいたのはアメリカで、その代表がマイクロソフトです。同社は1990年頃から「発明先取り会議」と称する、まだ誰もやっていないけれど、10年先、20年先の未来にはこの領域で、こんなことが始まるのではないかな、を考えて発明を考えましょう、という会議を行っていました。要するに自分たちが業界の主導的な立場になるためにどういう特許を取得すればいいかを考えましょう、という会議です。
この発明先取会議を始めたのは、当時のマイクロソフトの知財責任者マーシャル・フェルプスという人物。彼は『マイクロソフトを変革した知財戦略』という本の中で「発明先取会議で生み出す発明は、最終的にその人がライセンスで私とパートナーを組みたがるような、関係進展させるような特許をとるためのもの」と明言しています。
後からやりたいという人が出てきた時に「それ、うちが先に考えていて、特許を持っています、一緒にやりましょうか」とライセンスする。オープンアラインアンス、オープンイノベーションということです。
20年以上も前から未来を先取りする特許戦略を行っていたマイクロソフト。今日独占的状態にいる理由がなんとなくおわかりいただけたのではないでしょうか。詳しく知りたい方は弊社サイト内の深掘りコラム「Microsoftの知財戦略~オープンイノベーションの知財活用の成功事例~」をぜひご覧ください。ちなみにマーシャル・フェルプスはマイクロソフトの前にはIBMでも同じように発明を積極的に権利化する戦略を立てていたので、IBMの戦略も調べてみるといいでしょう。
誰も考えていない未来のことって権利化しやすいですよね。
みなさんもぜひ5年後、10年後を「先読み」して自分が思い描く未来を先に発明・権利化し、そうなるように引き寄せる、という視点で新規事業を考えてみてください。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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