発明塾では、新規事業のアイデアや発明のきっかけに繋がる重要な情報のことをエッジ情報®と呼んでいます。そして、見つかったエッジ情報からは、さらに「だったらこういうことをやっている人がいるのではないか」と仮説を立てたり、「この人たち(この市場)ってきっと将来こんなことをやろうとしてるんじゃないか」と先読み®することが重要だとお話ししています。
実際にどうやって考えていくのか、まちづくりのエッジ情報探索&先読み例をお話ししましょう。2018年に調べていたものです。
きっかけは日本の過疎化の地で、再生エネルギーを利用したコミュニティづくりや、まちづくりを行っている企業と出会ったことです。そこからさらに、世界にはどんな例があるのか、その先にはどんなことが起こりそうか探してみようと思いました。
まず、何かのエッジ情報®を探す時、日本語で情報を調べるより英語で調べた方が圧倒的に面白いのが出てきます。分野問わず、ほぼ間違いないです。
調べてみると、オランダのアムステルダム郊外に「AIが管理する村『ReGen Village』を建設する」という情報が見つかりました。アメリカの不動産デベロッパーを中心に、いくつかの企業がタッグを組んで行なっているプロジェクトです。
どういうものかというと、完全自給自足が可能な村をつくるというプロジェクトで、地熱、太陽光、風力、バイオマスといった再生エネルギーだけを使用したり、雨水や生活排水を浄化した水で、水耕栽培と魚の養殖を組み合わせたアクアポニックスを行ったり、食料生産からゴミの処理まで、すべて ReGen Village 内で完結するというものです。自給自足といってもアナログではなく、ハイテクノロジーを駆使した究極のサーキュラー(循環型)エコビレッジ。次世代の自給自足の村ですね。
図:ReGen Villagesが進める究極の持続可能なコミュニティ
この村の管理人は「AI」です。電力がどれくらいいるのか、水がどれくらい必要か、食料はどうか、例えばどんなタンパク質がどれくらい必要か、というのを計算して、全体としてうまくいくように調整する。そういうシステムを考えているようです。
彼らはこれを「Village OS」と言っています。そういうソフトウェアを開発して、「村」というシステムを制御する、というイメージなんですね。
どういう場所で、どのような人が何人ぐらいいるときには、どの資源が必要なのかといったことをAIが学習していき、それが「OS」になる。だからこの「Village OS」をインストールして村をつくれば、砂漠のど真ん中でも地球上のどこでも、快適に過ごせるということです。理想的なコミュニティの運用システムです。
彼らがすごいのは、完全自給自足の村みたいな、一歩間違えたら夢物語で片づけられそうなアイデアを、不動産ビジネスとしてやろうとしていることです。実際、インドとかアフリカのサブサハラにこの「持続可能な村のOS」を輸出する、と言っています。資源の不足する場所であるからこそ、閉鎖系にして資源循環させて、効率よく人が暮らしていけるようにするということですね。ある種、逆転の発想です。めちゃくちゃオモロいです。
今まで住めなかった場所にも人が住めるようにする考えはとても素敵なことだと思います。まちづくりも、こういうゴリゴリのテクノロジーで固められて、それを「コピぺ」して進めていく時代なのかもしれません。
ReGen Villages の創業者ジェームス・エーリッヒ(James Ehrlich)を調べると、NASAのプロジェクトに入っている人でした。ああ、なるほど。この Village OS を、おそらく月と火星に持っていくつもりだな。だから、最初はインドやサブサハラなのでしょう。地球上で最も厳しい環境でテストして、宇宙へ持っていく。そういうシナリオが見えてきます。
僕はこんな感じで探索と先読み®をしました。新規事業のアイデアやエッジ情報は、特許や論文から最先端テクノロジーの情報を見つけるということだけではなく、気になったニュースなどから、この先にはどういうテクノロジーが入ってきそうか、あるいは、すでにテクノロジーが入ってきているのではないかな、と考えて探していくことでも見つかったりします。
調べた時から3~4年ほど経ちましたが、ReGen Villagesはオランダを皮切りにその後、スウェーデンやカナダ、デンマークなど着々とプロジェクトを進行しています。VillageOSのオペレーションシステムも特許出願されたようです。
また、他にも世界で循環型コミュニティを実現しようとしている不動産デベロッパー、スタートアップが出てきています。今そのような波が来ているんですね。
ちなみに、日本では、住宅メーカーは大量に特許を出していても、不動産デベロッパーでしっかりと特許を取得しているようなところはありません。ここポイントです。「不動産デベロッパー」の視点で未来を先読み®して特許が取れないかと考えてみる、ということです。こんなところに気がつくと、新規事業のチャンスがいくらでも生まれてきますね。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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