モノをつくる前に特許をとる、預言やアイデアが特許になる、ということが認知されてきた近年、モノづくりやITに偏らない分野の人も、どんどん特許を取得していく時代です。
特に最近では、サービス業の方から「うちも特許は取れるのか」「どういう部分が特許になるのか」といった声が届きますが、それには、まずは先行事例を読んでみて、それを基に考えることが最善の方法だと思います。
この記事の内容
有名な例として、2016年にペッパーフードサービスが取得したステーキレストラン「いきなり!ステーキ」の特許を紹介しましょう。
いきなり!ステーキは、顧客の好みの肉量に応じてその場でカットして焼き上げて提供する、というのを特徴としたオーダーカット式のレストラン。低価格、気軽さなども相重なって人気になり、現在では全国に200店舗以上展開しています。
同社が特許を取得したのは、
お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様からステーキの量を伺い、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットして焼き、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶという一連のステーキの提供システムの発明です。
具体的には、①お客様を案内したテーブルのテーブル番号が記載された札と、②お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、③その肉が他のお客様のものであり、他のお客様のものと区別するよう印(シール)備える、というものです
お店に行ったことない人でも、容易に想像できると思いますが、顧客側から見るとテーブルの番号札を渡され、ステーキのお皿が出てくる際には、テーブル番号やオーダーした際の焼き方、肉量などが記載されたシールと一緒に提供されるというものですね。
(図)いきなり!ステーキの特許 https://patents.google.com/patent/JP5946491 より抜粋
初めて見た人は、「えっ!これって発明と言えるの?」「これが特許になるんか!」と驚かれたのではないでしょうか。何しろ新しい技術は何もないし、言ってしまえば、単にお客様と番号を紐付けているだけ。印刷機からシールが出てくるだけですよね。
この特許は「ビジネスモデル特許」(正式名称はビジネス関連発明)と言われているもので、お肉を提供するとき、レストラン側では顧客の回転も速く忙しい中、オーダーも一人ひとり違うので間違いが起こらないようにしなければならない、というオペレーションの課題があった。それに対して、より効果的にビジネスを行うことができるシステムとして認められた発明です。
ビジネスモデル特許の定義としては、技術が使用されていないとダメなのですが、「札」と「計量機」と「シール」が、課題を解決するための技術的手段となっていると判断されたので成立したわけです。
今、サービス業の特許というと、例えば不動産の仲介アプリとか、地図アプリといったプログラムの特許が大量に出ていると思います。そういった特許もいいのですが、新しい技術はどんどん出てくるので、数年後には陳腐化しまいます。ですから本当に取るべき特許はそこじゃないんですね。これがあると顧客の課題が解決するとか、顧客にとって価値のあるものになるとか、またはお金の流れがクリアになる、といった部分を権利化しないといけないんです。
それで言うと、すごい特許だと思うのが、Amazon(アマゾン)の「1-Click注文」の特許です。一度支払い情報や住所を登録しておくと、ユーザー認証されている状態であれば、ワンクリックだけでショッピングカートの画面に行かずに注文できる機能ですね。これこそ顧客の課題を解決し、価値のあるものにしている絶好の特許。Apple(アップル)をはじめ、さまざまなIT企業が多額のライセンス費を払って使っている、それくらい強い特許です。
ワンクリック特許は、一連の操作の流れのIT的なやりとりの部分を権利化しただけで、それ以外のプログラムなどの権利化はしていません。これって、いきなり!ステーキの特許と共通する部分です。現場の改善レベルのシステムが特許になっている、ということ。決して最新技術開発に依るものではない、ということです。
ステーキ屋さんでも特許はとれる、と知ったサービス業のあなたがもし「うちも何か特許を取りたい」と思ったら、いきなり!ステーキや、Amazonの特許のように良い特許を徹底的に読み、「なるほど、これで特許が取れてるんやから、うちも取れるやろ」というところから始めてみるのがよいでしょう。侵害回避をして先行特許と違うことを考えるというのをまずはやってみればいいわけです。(特許侵害の回避の基本方法は当コラム「特許侵害回避をするために、知っておきたいこと」をご参照)
そうやって研究することで、同じ顧客課題でも新しいアイデアが浮かんできたりします。例えばですが、シールを出すのではなくて、肉に番号の焼き印を押してもいいわけじゃないですか。どうせ焼くんだから、と。今、話をしながら思いついたジャストアイデアですよ(笑)、例えばこんな感じです。
実際、いきなり!ステーキの特許は権利範囲が意外と狭いんです。まずステーキに限定されたものですし。なので、そこからヒントを得たアイデアで特許を取得することも可能かもしれません。
これから確実に飲食業なども5年後には特許を取得するのがあたり前という世の中になっているはずです。サービス業もITを使って効率化するといのは変えられない流れですし、具体論を勉強して具体論に基づいて次のアクションを起こせば確実に進むことができます。ぜひ一歩踏み出してみてください。
語り:楠浦 崇央(弊社代表)
構成:鈴木 素子
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