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特許侵害を回避するために、知っておきたいこと

他社の保有する特許権を侵害していないか。新製品、発明を生み出す際に避けて通れない案件ですよね。侵害していたら、せっかくの発明もムダになってしまいますので、みなさんも回避するために日々先行特許の調査、対策をとられていることと思います。
一般的によく言われている、特許権侵害を回避するための方法はというと、

・特許権侵害の可能性がある製品やサービスの一部を変える、いわゆる「設計変更」
・特許権を無効にする、例えば「異議申立をする」など
・特許権の使用許諾を得る、いわゆる「特許ライセンス」を受ける
・特許権を買い取る、いわゆる「特許権の譲渡」を受ける
・特許権だけでなく会社ごと買ってしまう
・特許権侵害の可能性がある製品やサービスの提供を止める

です。中でもよく行われているのは「設計変更」でしょう。
といっても、そもそも、特許を侵害しているかどうかが分かっていないと回避もできません。実際の侵害判断はすごく難しいところなので、多くの場合は専門家に鑑定してもらっていると思いますが、事業をスムースに進めるためにも、ある程度自分たちで判断できるようになるとよいですね。

 

何をすると特許侵害になる?

では、ここでちょっと確認しましょう。

【問題】
脚」と「座面」と「背もたれ」がある他社の椅子「X」という特許発明があります。後に、自社で下記の2つの椅子をつくりました。この2つの椅子は特許侵害しているでしょうか。
① 脚と、座面と、背もたれと、座面の上にヒーターがある椅子「Y」
② 脚と、座面だけの椅子「Z」

正解は、①は特許侵害する、②は特許侵害しない、です。なぜか分かりますか?
例えば、A+B+Cという構成要素を持つ特許発明があった時、A+B+C+Dという要素をもつ製品は、特許発明のAとBとCを備えています。
これを問題の椅子に当てはめてみると、脚、座面、背もたれという構成要素を持つ特許「X」に対し、椅子「Y」は脚も座面も背もたれもあるので、椅子「X」の特許発明の範疇に入っていますね。
要するに、単純に何かを加えても特許発明「X」の構成要素がすべて入っているので、侵害回避はできません。
それに対して椅子「Z」は脚と座面はありますが、背もたれがついていません。特許発明は脚、座面、背もたれがついていることが必須なので、全部備えていない椅子「Z」は大丈夫なのです。必要要素のうち何か取り除けば侵害回避できる可能性があるんです。これが侵害判断の基準です。


ただ、一つ注意点として覚えていて欲しいのが、侵害している(かもしれない)モノでも特許取得はできるということです。
例えば、特許発明品の要素に座面ヒーターが追加された椅子「Y」では、座面ヒーターに新規性(新しいこと)と進歩性(現状の技術水準より進んでいること)が認められれば、特許取得は可能です。
でも、特許が取れたからと喜んで事業をおこしたりすると、先行特許「X」を持つ企業から「この部分は使えないよ」って特許侵害で訴えられてしまいます。そうなると、結局特許権を買ったりする方法でしか「Y」は商品化することはできなくなります。実際このパターンはよく起きているんです。

 

特許を侵害しているかどうかの判断ができると、回避策がとれる

基本的な説明でしたが、このようにして侵害しているかどうかの判断ができれば、それを逆手にとって、ごく小さな変化でも回避策が立てられます。
設計を変更する方向で回避策をとるなら、つまり

・ 要素を(少なくとも一つ)削除する
・ 要素を(少なくとも一つ)変える
・ 新しい技術などを使って、まったく新しいコンセプトの製品を考える

の3つになるわけです。
1つ目の「要素を削除する」というのは椅子「Z」と同じですね。座面をなくす。このような場合、性能は落ちるかもしれないけれども商品としては成り立ちます。
2つ目の「要素を変える」は、例えば脚、座面、背もたれのうちの「背もたれ」をなくして「ひじ掛けをつける」にする。そうすると新しいコンセプトの商品になる可能性があります。他に製品や業界によっては「材質を変える」といった小さな変更でも回避できる場合もあります。

 

回避策を考えるなら、まったく新しいモノを考えよう

3つ目の、新しい技術などを使って、まったく新しいコンセプトの製品を考える。これは、分かりやすい例では、有名な「Yogibo(ヨギボー)」がそうでしょう。素材も違えば、もう概念も違います。高さの調節もいらないし、椅子にもソファにもベッドにもなる画期的な商品ですよね。
脚があって座面があるのが「椅子」でしょ、あれは椅子って言えるの?と思うかもしれませんが、Yogiboは椅子なんです。だって本来椅子というのは、座れれば椅子ですからね。まさにYogiboは椅子の考え方を変えたんです。

               新しいコンセプトのyogibo。yogiboHPより抜粋

技術者なら、やっぱりこういうぶっとんだ発想をしたいですよね。侵害しないように何かを変更する、要素を削除するというような策を考えるより、どうせならこれまでにない発明を考えた方が楽しいです。それが醍醐味ですから。本当は僕が言いたいのはここです(笑)。発明塾が日々実践していることですね。

回避策を含め、新しい発明を考えるポイントの一つは、他の分野の技術に注目することです。こういうものを使えば、もっといいものできるんじゃないっていうのは、実は他の分野に結構技術があります。yogiboも中に入っているビーズみないなものはすでに存在していましたから、もしかするとすべてが新技術ではなく他分野の技術を応用しているのかもしれません。みなさんも、ぜひいろいろな技術に目を向けてどんどん発想を広げてみてください。

語り:楠浦 崇央(弊社代表)
構成:鈴木 素子

 

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