発明提案書の書き方の記事で書いたように、自分の発明に近い先行技術の調査は、特許出願に向けた重要なポイントになります。詳細な調査は高度なスキルが必要ですが、簡単な調査を行うだけでも、特許出願までの流れがかなりスムーズになります。
そこで本記事では、特に調査が専門でない新規事業担当者や技術者の方に向けて、簡単な先行技術調査のやり方を解説します。
まず、調査を進めるための準備と検索ツールの使い方についてポイントを解説し、最後に重要な先行技術の見逃しを防止する方法を解説します。
この記事の内容
先行技術調査のゴールは、「自分の発明に最も近い発明」を見つけることです。ただ、「近い」かどうかを判断するには、発明を他の技術と比較できる形式に整理することが必要です。
そこで、「その発明が取り組む課題」を解決するための「解決手段」を、構成要素に分解する作業を行います。分解した構成要素をキーワード検索し、それらを含む先行技術を見つければ、構成要素どうしの比較を行うことができます。
具体的なイメージを持って頂くため、仮想のケースとして、お菓子に関する発明を取り上げます。
一般的なお菓子として、チョコレート入りの円筒形プレッツェルが知られていますが、気温が高いとチョコレートが溶けてしまうという問題があります。そこで、糖類のトレハロースを混ぜた溶けにくいチョコレートを開発し、上記の問題を解決しました。
先行技術調査にあたり、、発明の構成要素である「プレッツェル」・「チョコレート」。「トレハロース」でキーワード検索を行います。
今回は、調査ツールとしてGoogle Patentsを使った方法を解説します。まず、Google Patents Advanced Searchを開き、左上のSearch Terms欄に「プレッツェル」「チョコレート」「トレハロース」を入力します。
検索結果として、約509件(2021年2月25日現在)がヒットしますが、お菓子以外の発明も多く含まれています。より近いものに絞り込む場合、技術分類を用いた検索が便利です。以下にその方法を紹介します。
Google Patentsページ下部のCPCsのタブで、上位の技術分類を確認できます。例えば、”A23G” は「ココア・カカオ製品」に関する区分で、チョコレートなどが含まれます。
A23Gをクリックすると、A23Gを検索式に加えた検索結果が表示されます。例えばJP2015037434Aは、「焼き菓子とチョコレートの複合菓子」に関するもので、焼き菓子の例としてプレッツェル、チョコレートの原材料の例としてトレハロースが記載されており、共通した構成要素をもつ先行技術を抽出できました。
上記の検索から、比較的近い先行技術をピックアップできましたが、今回の検索結果には含まれないもので、重要な先行技術があるかもしれません。今回は「プレッツェル」「チョコレート」「トレハロース」を全て含む先行技術を調査しましたが、それ以外のものは調査できていません。
改めて発明の内容を振り返ると、「トレハロースを混ぜて溶けにくいチョコレートをつくったこと」が重要なポイントでした。よって、上図に斜線で示した、「チョコレート・トレハロースを含み、プレッツェルを含まない領域」に、重要な先行技術が含まれる可能性があります。
そこで、「チョコレート」「トレハロース」をキーワードとし、さらに「溶けにくさ」を示す「耐熱性」というキーワードを加えて調査してみます。
Google Patentsの検索結果を見ると例えばWO2013099810A1に「耐熱性チョコレート類の製造方法」としてトレハロースの添加を含む内容が書かれており、「トレハロースによりチョコレートを溶けにくくする技術」はすでに知られていることがわかりました。
このように、検索式を修正しながら調査を繰り返すことで、見逃しを防止できます。
以上、先行技術調査について、発明の構成要素の把握、GooglePatentsを使った調べ方、見逃しを防止する考え方と方法を順に解説しました。キーワード検索を中心とした簡単な調査でしたが、自身の発明に近い先行技術をいくつか抽出でき、「他社はどこまで考えているか」の概要を把握できました。
このように、新規事業担当者や技術者が簡単な先行技術調査を進められると、出願プロセスが効率化するだけでなく、自社技術の独自性も明確になり、今後の方針も立てやすくなります。ぜひ調査スキルを磨き、新規事業創出や特許取得につなげて頂きたいです。
より詳細な調査の考え方と方法については、弊社の教材であるe発明塾「特許情報の検索と活用(初級)」で解説しています。特許公報を読む際のポイントも解説しているので、調査スキルを向上したい方は是非ご活用ください。また、動画セミナー「エッジ情報®」探索とその活用では、新規事業創出のネタを特許情報から見つける独自の調査手法を解説しています。
その他、弊社の教材に関する資料を資料ダウンロードページにて無料提供しております。ご興味のある方はそちらもぜひご利用ください。
★本記事と関連した弊社サービス
★本記事と関連した弊社サービス資料
★書籍出版のお知らせ
弊社初となる書籍『新規事業を量産する知財戦略』を出版しました!新規事業や知財戦略の考え方と、実際に特許になる発明がどう生まれるかを詳しく解説しています。
※KindleはPCやスマートフォンでも閲覧可能です。ツールをお持ちでない方は以下、ご参照ください。
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略