新規事業に欠かせないのが特許戦略。特許は取得することで多くのメリットがあり、また、深く読み解くことで他社の戦略が見えたり、課題やアイデアを見つけることに繋がったり、未来を先読みすることもできるすごいツールです。
ところで、特許の定義って何でしょう。僕がこれまでそう質問をすると、独占排他権(独占的に使用する権利であり他者に使わせない権利)と返答する人が多いんです。みなさんの中に今同じ答えが頭に浮かんだ人もいるのではないでしょうか。この答えはもちろん間違いではありません。定義としては合っていると思います。ただ、事業や経営という視点ではちょっと違うんですね。
特許は「使う」「使わせない」を決める権利です。特許は独占排他権を獲得できるものだけど、他社を排除することだけではなくて、他社に使わせる、などいろいろな利用方法があって、それを後で決定できるようにするものなんです。いわゆる経営上のオプションです。
金融に「オプション取引」というものがありますよね。株式などについて、後で売る権利、後で買う権利を売買するもので、買う権利はコールオプションと呼ばれ、売る権利はプットオプションと呼ばれているのはご存知だと思います。
例えば、株式の価格が120万円の時に「100万円で株式を売る権利(プットオプション)」を買った場合を考えてみましょう。株式の価格が120万円の時に、わざわざ100万円で売りたい人はいませんので、この権利には価値がないように思うかもしれません。
しかし、株式の価格が50万円になれば、株式を50万円で買って100万円で売却することができます。売り値と買い値の差額である50万円から、オプションの購入価格(100万円で売る権利の価格)を差し引いた分だけ儲かる、というわけです。オプション取引はリスクヘッジのためにあるものです。値上がりするかもしれないし値下がりするかもしれないというのが金融資産の特徴なので、上がると思って資産を購入しておくけど、下がるかもしれないリスクに備えてオプションを買っておけば、どっちに振れても大丈夫。少なくとも、大損はしません。
実は、特許権の仕組みもこれと同じなんです。特許を取るというのは、要するに、模倣されるリスクに備えて、模倣されそうになったり、もしくは実際模倣してきた人がいたときに、それを排除する権利を買っておくということです。
「お宅使いたいの? 使ってええよ。そのかわりお金払ってね」って積極に使わせてもいいし(これがライセンスやアライアンスを組むといった戦略に繋がるものですね)、後になってこれだけは真似されたくない技術だったと判明することもあるので、その時に使わせない権利の行使もできるわけです。いろんな取引ができるという経営上のオプションです。経営上、特許の取得は時間を買うという行為でもあり、意思決定を先延ばしにできるメリットがあります。とにかく一旦、使わせるか使わせないかを後で決める権利を買いに行く行為だと思ってください。
また、特許には「使わせない」「使わせる」の他にもう一つ「公開する」というのがあります。これは公開戦略(公知化戦略)と言って、以前は、自社の技術を他社に権利化されないようにするために、特許出願のみを行って技術を公開する(公知技術化)方法を取ることがありました。今日では、特許を取得するつもりで出願するのが基本スタイルなので、ゼロではありませんが、ほとんどありません。もしあるとすれば、いずれ特許として取得する予定の出願の一部に公知技術化したい情報を入れて、あわよくば権利化、最悪の場合でも他者に特許を取られないようにする、という戦略として使われていることが多いですね。
特許の基本、特許戦略の基本的な考え方については、弊社書籍『新規事業を量産する知財戦略~未来を預言するアイデアで市場を独占しよう!』、当HP内、テーマ別深掘りコラム「知財戦略とは? 考え方と事例を簡単に説明」がありますので、そちらもぜひご覧ください。
構成:鈴木素子
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