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「強い特許とは何か」回避策を考えながら判断してみる

ナガイレーベンのメディカルウエアは「強い特許」で守られているか?

強い特許とはどういうものか。これまでも当コラムの中で強い特許を持つ企業や技術の事例をいくつかあげてきました。そこで示したように、定義は複数あります。それらに精通し、どのような特許が強い特許かが判断できるようになると、実際に新規事業を立ち上げる時、または投資家として投資判断する際に役立ちますよね。

実際先日、日ごろからやり取りしている投資家と投資アナリストの方が、投資候補企業の特許について、「どう読めば、この特許が強い特許かどうかわかるのか、教えて欲しい」と仰っていました。その場で一緒に読みながら、強いのか強くないのか、どう判断するかをお話ししました。
今回は演習を兼ねて、比較的分かりやすい事例を一つ取りあげます。ぜひ一緒に考えてみましょう。

 

ナガイレーベンという企業があります。ナガイレーベンは医療用白衣のメーカーで、シェア60%超の最大手企業です。行き届いたサービスも含め、オリジナリティーの高い事業、製品・商品を有していますので、僕は非常に強くて面白い企業と思っていますが、特許から見たらどうなのでしょうか。
実際に、ナガイレーベンの白衣の特許をひとつ見てみましょう。請求項1(下記図参照)と図面(下記図参照)を取りあげます。医療介護用のユニフォームですね。

 

 

       発明塾®動画セミナー「『投資に活かす』特許の調べ方・読み方」資料より抜粋

 

請求項1では、読点で改行が入っています。改行ごとに、一つの技術要素になっています。このように、発明を構成する技術要素、いわゆる「構成要素」(構成要件)ごとに改行し、区切って書くの最近では一般的になっています。特に発明が多くの要素からできている場合、全部繋がって書かれていると、どこまでが一つの要素なのかわかりづらいですよね。書く方も読むほうも、この方が分かりやすいんです。

 

携帯電話が落ちないように位置と形を工夫したポケットの発明は「強い特許」になるか?

特許を読むと、2つの図の左側の白衣が従来の技術だと言われています。従来は胸ポケットのところに携帯電話などを入れました、という図です。右の図が、今回の特許発明の説明です。腰のあたりの、アパレル用語でコースレットベルトと呼ばれる帯みたいなところにポケットを備え付けると、かがんだ時に落ちない、という発明だそうです。

この図を見たときにこれは賢いな、と思いました。昔は、胸ポケットに携帯を入れていて、味噌汁をよそう時に、鍋に落として使えなくなっちゃった、なんてことがありました。トイレに落とした人もいるでしょうか。そういうことは起きませんね。

でも、これだったら他にもいろんなやり方あるんじゃない?とも思えますね。みなさんはどう思いますか?

工夫としてはすごくいいし、商品としての実用性も高いし、ニーズあるからこの白衣とそれを考えたナガイレーベンは隅々まで配慮が行き届いていると思います。白衣にここまで関心ある企業って、なかなかないでしょうね。そこがナガイレーベンの強みで、細部まで行き届いている上にデザイン的にもセンスがあって、現場の看護師さんが、病院でこういうのを着て仕事したいなと思うところに価値があるんですね。でも僕は特許上は、ちょっと弱いんとちゃうかな、という気がしました。

 

回避策を考えてみると「強い特許」かどうか分かる

弱そうな気がするから弱い、では説明になりませんね(笑)。
では、その「弱そうな気がする」を裏付けるには、どうしたらいいでしょうか。

例えば、実際にこの特許が回避できるかを考えてみるんですね。別に腰じゃなくてもいいんじゃない?とか、コースレットベルトじゃなくてもいいんじゃない?とか、何か他のやり方、ポケットを深くしたらいいんじゃないかとか、いろいろ考えてみたらいいんです。多くの優れた技術者は、実際に回避策をそうやって考えています。投資家の方も、投資先が「強い特許」を持っているかどうか気になるのであれば、こういう風に考えてみるとよいと思います。

「考えるのが面倒くさいな」って思われた方もいるかもしれません。
実は特許出願の際、その作業のヒントになる情報を審査官が集めてくれています。審査官は類似の特許を引っ張ってきて、「あなたとしては初めて考えたのかもしれないけど、世の中には部分的に似たようなものを考えている人もいるから、新しいとは言えないかもね、もう1回考え直してね」って、過去の類似の発明を知らせてくれます。拒絶理由通知というものですね。

その辺の審査のやりとりを全部紐解くのが本当は良いのですが、さすがにそれは大変ですよね。なので、審査官が類似の発明としてあげてくれた文献(引用特許)を読んでみればいいんです。似たような発明をヒントに、回避策を考えられる可能性があります。

 

       発明塾®動画セミナー「『投資に活かす』特許の調べ方・読み方」資料より抜粋

 

類似の特許を見てみると「強い特許」かどうか分かる

引用特許をいくつか読んでみると、役立ちそうなアイデアを書いた特許が存在しました。田中加代子さんという個人の方が出した、白衣ではなく作業着みたいなものの特許でした。ナガイレーベンの特許と同様に、ポケットに入れたものが落ちにくくする発明です。ポケットは同じような場所についており、そのポケットの向きを「斜め」にしておけばよいと書かれていました。

斜めに付いたポケットってたぶんこれまでにあるよな、と僕は思ったんですけど、そこはちょっと置いといて、「落ちないように」という発想で田中加代子さんが「ポケットを斜めにする」という回避策のヒントをくれているわけです。

ほかにもいろいろ見た後、僕の判断としては回避できる余地が結構ありそうだなと結論付けました。あの特許一つだけ見て「強い特許」かどうかを判断するのは難しいと思いました。

特に投資家の方に誤解があったらいけないので付け加えておくと、ナガイレーベンは白衣について似たような特許をいくつも出しています。だから、それによって関連アイデアが広く網羅され保護されている可能性もあります。特許は一件じゃなくて、関連特許も併せて「特許網」として分析しないといけないんですね。一件が「強い特許」ではなく、束になって「強い特許」になる。毛利元就の「3本の矢」の話みたいなイメージです。でもまぁ、そこまでいくとちょっと複雑な話になってくるので、今回は省略します。



「強い特許」は、同じ「目的」「機能」「効果」を達成できる他の手段が見つけづらい

ここまでで、まず言えることは、同じ「目的」「機能」「効果」を達成できる他の手段が簡単に見つかれば、単体で強い特許とは言いづらいとうことです。
引用特許とか被引用特許に似たようなものが上がってきますので、それを見て回避策あるよね、と考えつくようならその特許は弱い可能性があります。

「強い特許」の定義は、簡単に言うと競合が嫌がる特許なんですね。ある目的を達成するのに「この技術しかない」というのはあまりない。だいたい、他の方法でもできてしまいます。他の方法をどこまで「特許」「権利の範囲」としてカバーできているか。同じようなことを、その特許を回避してやろうとしたとき、すごく複雑・面倒で高コストなことをしないとできない、みたいになって同じ機能・効果・目的を達成するのが現実的に困難になる。そんな、回避すると製品が成り立たなくなる、売れなくなる、儲からなくなる、みたいなのが、現実的な意味での回避が困難な特許、つまり、強い特許ですね。

 

ちなみに、今回の事例は、特許としては弱い可能性があるものでしたが、実は、この白衣の発明のように技術的に必ずしも高度でないものの方が特許になったら強いというものは意外とあるんです。だから特許の強さと技術の強さともまた切り離さないといけないんですね。高度な技術って、別のもっと高度な技術が出てきたらそれまでの特許は無駄になるわけです。その特許は、今は強いかもしれないけど将来わからない、ということですね。このあたりを見抜けるようになると、発明にも投資にも強くなれます。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子

 

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