特に技術者や研究者の方は、特許取得のノルマがあるなど、アイデアを無理やりにでも出さないといけない場面があると思います。
本稿では、特許になるアイデアを効率よく出すための原則と、アイデア出しの各ステップで役立つコツやツールを紹介します。以下に要点を記載します。
特許になる発明の要件:新規性、進歩性、産業上の利用可能性(e発明塾「特許基礎」より)
日本の特許制度において基本となる「特許になる発明の要件」は次の3つです。
(1) 新規性
(2) 進歩性
(3) 産業上の利用可能性(本稿では説明を省略)
「新規性」は「今まで知られている技術と全く同じではない、新しいもの」といった指標で、「進歩性」は「発明の分野における標準的な知識を持った人が、簡単に思いつくかどうか」といった指標です。新しくて、専門家でも簡単には思いつかないアイデアを出す必要がある、ということになります。
「簡単には思いつかないアイデア」を出すにはどうするか?は難しい問題ですが、シンプルかつ確実な解決策は「とにかく数を出し、そこから選ぶ」ことです。次項では、「数を出す」のに効果的な手法として、ブレーンストーミングを紹介します。
※前述の「図. 特許になる発明の要件」はかなり簡略化して説明しているので、厳密な定義を確認したい方は特許庁HPの特許・実用新案審査基準などをご参照ください
ブレーンストーミングはアレックス・オズボーン氏によって提唱されたアイデア出しの手法で、少人数の人々がアイデアを出しあう際の原則として以下の4つをあげています。
① 批判厳禁
② 質より量
③ 自由奔放
④ 結合改善
これらの原則に従ってアイデアだしが進む流れについて、文化人類学者の川喜田二郎氏は書籍における説明が分かりやすいので、以下に引用します。
この方法はアイデアの発想をねらった会議で用いられるが、とくにその四原則については、ふたたび注意をうながしておこう。
そのひとつは「批判を禁ずる」である。これは探検段階では、会議で同席する他人の発言をけっして批判してはいけないということである。
第二は「量を求める」である。これはひとつひとつの発言の意見の質よりも、多種多様に豊かな数多いアイデアをだせということである。
第三は「自由奔放」である。たとえば、「こういうことをいったら、他人に笑われやしまいか」などという、いじけた、控えめな気持ではなく、場合によってはどんな奇想天外に見えることでもいってみることである。また、「あとでまとめることを考えて……」などとケチなことを考えないこと。考えすぎて発言するため、紙きれづくりの枚数が少なくなったりする。
第四は「結合」である。すなわち他人の発言を聞いて、それに刺激され、あるいは連想を働かせ、あるいは他人の意見に、さらに自分のアイデアを加えて、新しい意見として述べることである。
川喜田二郎『続・発想法 KJ法の展開と応用』(中公新書)62版・p34より(引用者により改行追加。文中の「探検」とは問題解決に向けた多様な情報を集める過程のこと。)
思考の枠を取り払ってとにかく数を出すことに加え、他の人とアイデアをつなげることで、多面的なアイデアが徐々に育っていくことがわかります。追加のアイデアを出す際にも、「①批判厳禁」というルールがあることで、安心してどんどんアイデアを広げられます。
数を出したら、アイデアをグルーピングして整理する段階に入ります。グルーピングする方法は様々ですが、特許アイデアを出す際に特に有効な手法であるロジックツリーについて以下で説明します。
ロジックツリーによる課題解決の整理の例
課題―解決を整理する有効な手段である
ロジックツリーは、問題をツリー状に分解して考えることで、その原因や解決策を効率よく探すためのツールです。
特許になるアイデアは「なんらかの課題を解決している」ことが求められるため、それぞれのアイデアが解こうとしている課題を構造化し、解決策を紐づけて考えることで効果的にアイデアを整理できます。
例えば、特許を取れるネタの探し方に関するコラムでは「植林」に関する技術として、「複雑な地形において植付け作業が効率よく行えない」という課題に「ドローンの活用」という解決手段でアプローチした発明を紹介しました。この課題から解決をロジックツリーに整理し、関連した課題と解決手段を構造化したのが、上に示した「ロジックツリーによる課題解決の整理の例」の図です。
「複雑な地形で植付け作業が効率よく行えない」という課題に対して、例えばドローン以外のアプローチとして、地形自体を植付けしやすいように改良してしまう、という別の解決手段も考えられます。
また、課題をもう少し広くとらえて「植林が進まない」という上位の課題を考えると、「植付け後の水分が不足」することで「樹木が枯れてしまう」といった下位の課題を新たに考えることができます。
ロジックツリーで課題ー解決を整理した後に、「別の解決手段」を考える際に「TRIZの発明原理40」は有用なツールです。ロシアの特許審査官のゲンリッヒ・アルトシューラ―氏が大量の特許を統計的に分析し、「異なる分野や時代に繰り返し使われている原理」を抽出したもので、40個の原理にまとめられています。
例えば、「汎用性原理」という原理は「1つのシステムに複数の機能をもたせて、他のシステムの必要性をなくす」という原理で、シャープペンシルとボールペンを組み合わせたシャーボなどが該当します。また、「相変化原理」では、「体積の変化、熱の損失・吸収など相変化の間に起こる現象を利用する」というもので、水が気体化する際の気化熱を利用した発明など、広く使われています。
せっかくなので、「相変化原理」の具体例として、弊社代表であり発明塾塾長の楠浦の特許を使ってTRIZを活用例を紹介します。
JP5563170B2「ナノ粒子を単離するためのシステム、材料および方法」では、「ナノ粒子は小さすぎて分離が難しい」という課題に取り組んでいます。一部のナノ粒子は、体内に蓄積することで健康リスクをもたらすことが懸念されており、粒子を分離し、除去する方法が求められています。
上記の発明では、「ナノ粒子を凍らせて塊にする」という「相変化」により、課題を解決しています。ナノ粒子を含む水などの液体を低温条件に置くと、ナノ粒子が氷の核となり、氷晶と呼ばれる塊になります。体積の大きな塊になれば扱いは容易になるので、除去することが可能になります。また、「液体全体が凍ってしまう」という問題を回避するため、「不凍糖タンパク質」などを液体に加え、全体が凍結することを防いでいます。
このように、「既に発明につながることが統計的に検証された原理」を適用できないか?と考えることで、スジの良いアイデアを効率よく出せる可能性があります。解決手段のアイデアに詰まったら、TRIZの原理を参照してみると、ヒントが得られるかもしれません。
ここまで、「そもそもどんなアイデアが特許になるか」という基本的なことから、アイデアを大量に出す方法(ブレーンストーミング)、構造化する方法(ロジックツリー)、解決手段を追加するのに役立つ手法(TRIZの40原理)を順に紹介しました。
紹介したアイデア出しの方法が全てでは無いですが、アイデア出しのプロセスにも段階があり、それぞれのステップで役立つコツがあることをご理解頂けたのではないかと思います。アイデア出しをくり返せば、ツールの扱いにも慣れるので、特許性のあるアイデアを次々と出せる状態になります。
まずは数を出せるようになることが大事ですが、次の段階として、「自社にとって価値のあるアイデア」にターゲットを絞り、事業を成長させるアイデアを効率良く出すことが求められます。
ご紹介したロジックツリーについては、弊社の動画セミナー・「”ロジックツリー”を用いた、研究・新製品・新事業開発テーマの創出法」にて詳しく解説しています。
また、弊社のEラーニング講座・e発明塾「課題解決思考(1)」と「課題解決思考(2)」では、「自社のコア技術を事業に活かすアイデアの作り方」と「まだ解かれていない重要な課題を見つけ、狙ってアイデアを出す方法」を詳しく解説しています。
上記のような教材をつくることができた背景には、「発明塾」の活動を通じて「より価値の高い発明を、いかに効率よく出すか」というテーマを掘り下げ続けた歴史があります。
弊社の無料メールマガジンでは、発明塾における「アイデアの育て方」に関する話題の提供も行っておりますので、ご興味のある方はご活用頂けたら幸いです。
畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
発明塾東京一期生。現在は企業内発明塾™における発明創出支援、教材作成に従事。
個人でも発明を創出し、権利化を行う。
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