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アップルの特許情報からApple Watchの未来を予測

アップルの特許情報からApple Watch・AirTagsの未来を予測

アップルはiPhoneの開発により、近年飛躍的な成長を遂げ、スマートフォンの巨大な市場を切り開きました。アップル製品に採用されるかどうかで、部品や材料メーカーなどの売上は大きく変動するため、「アップルが次にどんな製品を出すか」はあらゆる産業分野から注目の集まるトピックと言えます。

本記事では、特許調査による「先読み」の事例として、アップルのヘルスケア事業、特にウェアラブルデバイスのApple Watchについて関連特許を調査します。

アップルの開発動向をApple Watchの特許から読み解く

アップルが今後強化する分野として知られているのが医療・ヘルスケアの分野で、ウェアラブルデバイスのApple Watchが重要な役割を果たすと考えられています。例えば、2018年に発表されたApple Watch Series4は心電図(ECG)アプリケーションを搭載しており、2019年にスタンフォード大学と共同で行った論文では、は40万人以上を対象としたApple Watchによる心不整脈 (cardiac arrhythmias) の検知に関する調査が行われています。

Apple Watchの今後の動向に関する情報も様々なメディアで取り上げられていますが、本記事ではアップルから出された「一次情報」である「特許情報」を元に、Apple Watchの開発動向を読み解くことを試みます。

Apple Watchの新機能を切り口に特許調査を進める

血中酸素レベル測定に関する特許を調べる

アップルのような大企業になると、Apple Watch関連だけでも大量の特許を出しているので、いきなり全部読もうとしても挫折してしまいます。そこで、まずはApple Watchの最新バージョン・Series 6に新規搭載された機能である「血中酸素レベル(blood oxygen level)測定」に着目し、特許情報を調べてみます。

調査ツールとしてGoogle Patentsを使用し、Appleから出願された特許で、”blood oxygen”の記載を含み、日本でも出願されているものを調べてみます。ヒットした中で、Apple Watchに関係がありそうなものを抽出すると、JP2019536998A「Mounting system for watchband(ウォッチバンド用取り付けシステム)」がヒットしました。この出願自体は、時計の筐体に関する発明のようですが、血中酸素について以下の記載がありました。

【0032】

図2に更に示すように、ウォッチ10はまた、バイオセンサなどの、ウォッチ10上の実質的にどこにでも配置される1つ以上のセンサ78を含むことができる。

(中略)

センサ78は、フォトプレチスモグラフィ(photoplethysmography)(PPG)センサを形成するように光源及び光検出器を含むことができる。光は、センサ78からユーザに伝達され、センサ78に戻ることができる。例えば、本体部14及び/又は背面カバー22は、センサ78への及び/又はセンサ78からの光を透過するように、1つ以上の窓90(例えば、開口部、透過媒体、及び/又はレンズ)を提供することができる。

光(例えば、PPG)センサ(単数又は複数)が、心拍数、呼吸速度、血中酸素濃度、血液量推定、血圧、又はこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、様々なバイオメトリック特性の計算に使用されてよい。

JP2019536998A「ウォッチバンド用取り付けシステム」より(太字は引用者による)

血中酸素濃度の測定に光センサを使っており、血中酸素濃度以外にも様々なパラメーターを測定することを考えているようです。今後のセンサの進化によって機能も拡張しそうですね。

関連特許から、光センシングの新たな用途を見つける

US20200272240A1では、光センサによる腕の腱などの動き検出に関する技術が記載されている(Google Patensより)

US20200272240A1では、光センサによる腕の腱などの動き検出に関する技術が記載されている(Google Patensより)

上記の調査結果を参考に、光センシングに関連した特許を抽出してみます。例えばUS20200272240A1 ”Motion and Gesture Input from a Wearable Device(ウェアラブルデバイスによる動きとジェスチャーのインプット)” では動きの検知に関する技術が記載されています。以下に請求項1の内容を抜粋します。

An optical sensing device, comprising:

a housing; and a display disposed within the housing;

a set of light emitters included in the housing of the optical sensing device, wherein a first light emitter of the set of light emitters is configured to emit a first wavelength of light toward a user's body part and a second light emitter of the set of light emitters is configured to emit a second wavelength of light, different than the first wavelength of light, toward the user's body part;

a set of optical sensors included in the housing of the optical sensing device, configured to detect reflections of the first and second wavelengths of light from the user's body part; and

a processor configured to determine a difference between the detected reflections of the first and second wavelengths of light, and to identify motion artifacts using the determined difference between the detected reflections of the first and second wavelengths of light.

US20200272240A1より(太字は引用者による)

異なる波長の光を出力する発光体(light emitter)と光センサ(optical sensor)のセットを利用し、それぞれの波長の光の反射の違い(difference between the detected reflections) を検知し、動きを測定する技術のようです。

[0037]以降に記載された実施例によると、赤外光(infrared light)など長波長の光は、腕の腱など深いところまで届くので、その反射シグナルを読み取り、皮膚表面で反射する短波長の光との差を解析することで、指の動きの変化などモーションに関するデータが取れるようです。

動き検知がコミュニケーション手段に

動きを検知してどう使うのか?については例えば [0051] に ”The device can interpret the gesture input as a command. ”(デバイスは、ジェスチャー入力をコマンドとして解釈できる)と書いてあり、ユーザーが手や指の動きがコマンドとして認識できるようです。

より具体的な用途として、[0058] には ”In some examples, detecting sign language can include detecting both finger and wrist movements in both hands of the user. ” (ユーザーの両腕の指と手首の動きを検知することで手話を読み取る)とあり、「動き」を「言葉」に変換して入力することなども考えているようです。

音声入力ならぬ「手話入力」のようなこともできそうで、コミュニケーションの手段が広がりそうです。

「動きの検知」には一般的には加速度センサーなどが使われますが、アップルでは波長を工夫した発光・受光システムを使うことで、ユーザーの筋肉の変化を読み取り、より詳細な動きのデータ取得を検討していることがわかりました。全て実現するかは分かりませんが、光センシングを使った多機能化が進む可能性は高そうです。

アップル開発リーダーの特許から次世代デバイスの構想を読み取る

プロダクトデザインのチームリーダーの特許に着目する

 Erik de Jong氏の出願一覧(Google Patensより)

Erik de Jong氏の出願一覧(Google Patensより)

ここまでの調査から、光センシングを使った技術が、血中酸素濃度以外にも様々な健康パラメーターの測定に使われ得ること、ユーザーの動き検知への適用も進められていることがわかりました。ここからは少し切り口を変えて、「発明者」にフォーカスして調査を進めます。

先ほど、動きの検知に関する出願として紹介したUS20200272240A1の発明者について一般情報を確認し、発明者の一人であるErik de Jong氏に着目しました。Erik氏のプロフィールによると、現在の業務として ”Leading a team of design engineers to create next generations of WATCH” (次世代時計デバイスを創出するデザインエンジニアチームのリーディング)と書かれており、Apple Watchの開発をデザイン側から主導する立場のようです。

Erik氏の関わる最新の特許を追うと、さらに進化したApple Watchの手がかりが得られる可能性があると考え、Erik氏を発明者に含む出願を調べたところ60件以上の出願ヒットしました。Apple Watchに関する出願だけでも、健康データの取得に関する例(US20200229761A1)タッチ操作に関する例(US20200150815A1)など様々な内容のものが含まれており、Erik氏がApple Watchの開発に広くかかわっていることが確認できました。

中でも、2019年に出願されたUS20200333421A1 ”Fastener with a constrained retention ring” では、 “wirelessly locatable tag” (ワイヤレスで位置特定できるタグ。以下「ワイヤレスタグ」と呼ぶ)を時計に搭載するアイデアが記載されており、時計本体の進化とは別方向の展開が読み取れたので、以下で紹介します。

最新の特許出願における次世代Apple Watchの姿

 Erik氏の最新の出願US20200333421A1では、ワイヤレスタグをバンドに搭載した時計の記載がある(Google Patensより) ※ここで記載した「最新」とは2021/01/21現在・Google Patentsでヒットする範囲での出願時期が最新のものを示す

Erik氏の最新の出願US20200333421A1では、ワイヤレスタグをバンドに搭載した時計の記載がある(Google Patensより)
※ここで記載した「最新」とは2021/01/21現在・Google Patentsでヒットする範囲での出願時期が最新のものを示す

Erik氏の最新の特許出願である US20200333421A1 は、ワイヤレスタグのハウジングに関する出願ですが、その用途の一つとして時計のリストバンドへの搭載が記載されています(Fig. 134A~C)。

最近、Appleの紛失防止タグ AirTags(エアタグ) が近日発売されるのではないか、という噂が広まっており、例えばDIMEの記事でも紹介されていますが、特許出願に書かれたワイヤレスタグもそれに近いデバイスのようです。

特許出願の [809] には ”the wireless module 13500 may be used to enhance the functionality of the watch 13504 without substantially modifying or altering the hardware of the watch 13504.”(ワイヤレスモジュールは時計のハードを変更せず時計の機能を拡張しうる)と書かれています。つまり、時計を買い替えなくてもタグの搭載により機能拡張できるということで、ユーザーにとっては魅力的な話です。

ヘルスケア分野でワイヤレスタグがどう使われるか

上記の特許出願には、ワイヤレスタグの活用について様々なアイデアが記載されていますが、[807] にはヘルスケア分野への適用例として心拍モニターに関する利用方法が書かれています。
”the heart rate monitor may interface with a variety of base devices (e.g., a watch, a mobile phone, a tablet computing system) through a respective wireless module”(ワイヤレスモジュールを介して、心拍モニターは時計、携帯電話、タブレットなどの様々なデバイスと連携しうる)と書かれており、デバイス間ネットワークのハブとしてワイヤレスタグが機能するようです。

つまり、ワイヤレスタグを利用することで、Apple Watch単体ではコミュニケーションできなかった複数のデバイスともデータのやり取りが可能になるようです。例えば、心拍モニタリングであれば、データの取得はApple Watchで行い、データの解析はより高度な演算機能を備えた別のデバイスで行う、といった活用方法も考えられます。

Apple Watchだけでは実現できない機能が、ワイヤレスタグを介して拡張され、デバイス単体ではなく、デバイス間ネットワークとしての進化が進むのかもしれません。

特許調査の結果をアイデアに活かし、「攻め」の開発を

特許調査の結果をアイデアにつなげる

ここまでの調査で、Apple Watchに搭載された光センシング技術が、血中酸素濃度測定以外にも他の健康パラメータやユーザーの動き検知にも活用され得ること、ワイヤレスタグとの組み合わせでデバイス間のネットワークを介した進化が進む可能性があることが見えてきました。その通りに進むかどうかは未知数ですが、アップル社内で上記の方向性が検討されていることは特許から読み取れます。

調査結果のどこに着目するかは自社の状況によって様々ですが、例えばハード面では、光センシング技術が進化することを予想すると、乱反射などによるノイズを生まない材料の需要が高まるかもしれません。また、発光素子や受光素子の小型化・高精度化につながるアイデアには需要がありそうです。

ソフト面では、例えばデバイス間のネットワークでやり取りされるデータの通信や、情報セキュリティ関連の技術は活躍の幅広がりそうです。ワイヤレスタグがあらゆるデバイスに組み込まれた際に必要となるアイデアを考えると良いかもしれません。

特許情報の活用により、先読みに基づく「攻め」の開発ができる

このように、特許情報から読み取った具体的な情報を使って考察を進めることで、先読みに基づく「攻め」の開発を進めることができます。私も以前は製造設備メーカーで技術者として勤務しており、アップルの動向が仕事に大きく影響していました。悪く言えば、振り回されていた面はあったと思います。

当時から特許情報を活用できていれば、もっと主体性のある開発を進められたのではないかと思います。技術の分かっているメンバーが特許を読み込むと、地に足の着いたアイデアが出せるので、特に研究開発者の方はぜひトライしてみて下さい。本記事が参考になれば幸いです。

最後に、特許情報の活用に関する弊社の教材をいくつか紹介させて頂きます。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

 

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