知識創造理論をわかりやすく解説

知識創造理論とは?基礎から実践までわかりやすく解説!

2021.1.20

本コラムでは、知識創造理論について、以下の流れで解説します。

  • 知識創造理論とは、野中郁次郎氏が提唱した理論で、イノベーションを生み続ける(価値のある知識を創造し続ける)企業の仕組みを理論化したものであり、「洞察」や「直観」といった理論化の難しい因子も取り込んだ理論体系である
  • 知識創造理論を理解する上で、「知識」を「暗黙知」と「形式知」に分けて考えることが基本となり、イノベーションの現場では暗黙知をうまく形式知に変換する必要がある
  • 暗黙知と形式知が相互作用しながら新たな知識が創造されるサイクルをモデル化したのがSECIモデルであり、松下電器のホームベーカリーの開発では、パン職人の暗黙知(美味しいパンをつくる技術)を形式知化し機械で再現することに成功した
  • 知識創造理論を実践する組織として、例えばエーザイにおける全社的な知識創造理論の実践があげられ、SECIモデル考えを適用することで、知識創造のマネジメントを行っている
  • 知識創造理論を実践することで、イノベーションを生む組織運営が実現する

     

    知識創造理論は野中郁次郎氏による成功企業の分析から生まれた

     

    知識創造理論は、一橋大学教授の野中郁次郎氏によって提唱された理論で、1996年に出版された竹内弘高氏との共著『知識創造企業』により世界中で広く知られることになりました。

    本書では、イノベーションのような「価値のある知識創造」をくり返し、長期的な成功をおさめた企業に共通する特徴を整理し、理論として体系化しています。例えば、「オートバイのメーカーとしてスタートしたホンダが、クルマや飛行機の分野でも次々に画期的な製品を生み出せたのはなぜか?そこでは何が起きていたのか?」といったテーマを詳しく調査し、考察しています。

    知識創造理論の特徴は、「洞察」や「直観」など、一般的には「センス」といった言葉で表現され、理論化できないと考えられている概念も取り込もうとしているところです。「ベテランの技術者や経営者の洞察や直観」といったものが、ビジネスの現場では重要な成功要因であり、そういった概念を含まない「机上の空論」は役に立たないことは、多くの方が同意されることではないかと思います。そういった既存の理論の限界を打ち破ることに挑戦した理論体系が知識創造理論です。

    つまり、「成功している企業の本質」を、理論化しにくい概念も含めて解き明かそうとしたのが知識創造理論であり、答えのないビジネスの現場で成功するための処方箋といえます。ただ、理論化しづらい内容に取り組んでいるが故に難しく、どう使ってよいか分かりにくい側面があるようです。本稿では、知識創造理論の基礎だけでなく、どう実践するかまでイメージできるよう、事例を交えて丁寧に解説します。

     

    知識創造理論における知識の分類~暗黙知と形式知

    知識創造理論は名前の通り「知識」に関する理論ですが、理論の枠組みとして知識を「暗黙知」と「形式知」の2つに分類しています。野中氏と山口一郎氏の共著『直観の経営』では、暗黙知と形式知について以下のように解説しています。

     

    暗黙知とは、言語や文章で表現し難い主観的・身体的な経験知であり、特定の文脈ごとの経験の反復によって個人に体化される認知スキル(信念創造、メンタル・モデル、直観、ひらめきなど)や、身体スキル(熟練、ノウハウなど)を含んでいます。

    これに対して形式知は、特定の文脈に依存しない一般的な言葉や論理(理論モデル、物語、図表、文書、マニュアルなど)で表現された概念知です。

    直観の経営』初版p205より(引用者により改行追加)

     

    例えば先ほど述べた、「ベテランの直観」などは「言語や文章で表現し難いもの」であり、「暗黙知」に分類されます。そのような知識は、データとして保存することはできず、「個人に体化される」とあるように、「人」が知識の主体になります。一方で、マニュアル等の形で言語化できる知識は「形式知」に分類されます。

    難しそうに聞こえますが、例えば「後輩が先輩の仕事を見て、成長する」という一般的な場面を「後輩が先輩の暗黙知を理解し、成長する」と言い換えると、感覚的にはすんなり理解できると思います。「わざわざ言葉にはしないが、何となく経験的にわかってること」が暗黙知に含まれ、私たちはそれらを自然に学んだり教えており、難しいことではありません。

    ただし、イノベーションのような「新たな知識の創造」においては、「まだ言葉にならないアイデアのイメージ」のような漠然とした「暗黙知」をうまく育て、価値のある知識に変換していく困難な作業が必要になります。例えば前出のホンダにおけるクルマ(ホンダ・シティ)の開発では、「クルマはどのようなものに進化していくのか?」というチームリーダーの「問い」が起点となりました。その時点では「クルマの製品仕様」のような形式知は全く見えていない状態でした。それが、開発チームで検討を重ねる中で、「進化したクルマ」⇒ 「ヒトのためのスペースを最大化したクルマ」 ⇒ 「球状のクルマ」のようにアイデアが具体化し、「短くて背が高いクルマ」という当時は世の中になかった製品コンセプトが生まれました。

    このような「知識創造の現場で起こっていること」は複雑で、説明が難しいですが、繰り返しイノベーションを起こすには、その仕組みを理解することが重要です。知識創造理論では暗黙知と形式知の概念をうまく活用し、知識創造の仕組みを「SECIモデル」として体系化しています。次項では、事例を交えてSECIモデルを解説します。

     

    知識創造の仕組みを体系化したSECIモデル

    開発におけるSECIサイクルのイメージ図

    開発においてSECIモデルを適用した際のSECIサイクルのイメージ

     

    SECIモデルの「SECI(セキ)」とは以下の4つの頭文字から来ており、知識創造のサイクルはこの順番で、暗黙知と形式知が相互作用しながら進むとされています。

    ①共同化 (Socialization)  - 暗黙知から暗黙知へ
    ②表出化 (Externalization)  - 暗黙知から形式知へ
    ③連結化 (Combination)  - 形式知から形式知へ
    ④内面化 (Internalization)  - 形式知から暗黙知へ


    前述のように、暗黙知は「洞察や直観のように言語や文章で表現し難い知識」、形式知は「マニュアルなどの形で言語化でき、容易に情報共有できる知識」を指します。各ステップでそれぞれの知識が人から人へと伝わりながら進化し、新たな知識が生み出されます。

    松下電工の開発プロセスにおけるSECIモデル

    SECIモデルだけを見ても抽象的すぎるので、具体例として松下電器の調理家電である「ホームベーカリー」の開発を取り上げます。

    ホームベーカリーは全自動化された家庭用パン焼き器であり、1987年に売り出されました。プロのパン職人の技術を機械で再現した画期的な商品であり、調理家電分野のイノベーションとして注目を集めました。

    ここでは、ホームベーカリーの開発プロセスの中で、「開発担当者の田中郁子氏がパン職人から熟練の技術(暗黙知)を学び、機械でそれを再現できるようになる(形式知として使えるようになる)までのプロセス」について、SECIモデルに沿って解説します。

    ①共同化(暗黙知⇒暗黙知)

    「共同化」のプロセスでは、人と人が経験を共有し、暗黙知が暗黙知のまま伝わります。ホームベーカーリーの開発では、開発担当者である田中氏が、熟練パン職人から技能を学ぶ、というプロセスが該当します。パンを練るコツなど「職人技」と呼ばれる暗黙知を、まずは「体で学ぶ(暗黙知のまま受け取る)」ことで、田中氏はベースとなる知識を獲得していきました。

    ②表出化(暗黙知⇒形式知)

    「表出化」のプロセスでは、獲得した暗黙知をコンセプトとして形式知化していきます。田中氏の場合、例えば職人のパン生地の練り方を「強さ」や「回転速度」といった「エンジニアに分かる言葉」に置き換えていきました。この過程で、田中氏だけでなく、他の開発メンバーにも伝わるように知識が翻訳(形式知化)されます。

    ③連結化(形式知⇒形式知)

    「連結化」のプロセスでは、コンセプトを組み合わせ、体系化した知識を創出します。②のプロセスで田中氏が翻訳した「強さ」や「回転速度」といった形式知が、機械を動作させる「プログラム言語」など他のエンジニアが持つ形式知と結びつき、「職人技を再現する動作プログラム」といった新たな知識体系が創出されます。このプロセスを通じ、「プロのパン職人の技術を機械で再現」という製品コンセプトが具現化します。

    ④内面化(形式知⇒暗黙知)

    「内面化」のプロセスでは、①~③の知識創造プロセスにおける体験を通じ、関わったメンバーの暗黙的な知識のベースが育ちます。ホームベーカリーの開発では、田中氏を始めとする開発メンバーが開発プロセスに対する洞察を深め、次の開発に生きる暗黙知が個々人の中に蓄積されました。それらの暗黙知は、ホームベーカリーの開発を経験したメンバーと一緒に仕事をする別の個人に、「①共同化」のプロセスを通じて伝わり、次のサイクルが回ることになります。

    以上、SECIモデルに沿った知識創造サイクルの具体例を解説しました。この例からもわかるように、SECIモデルは「理解したらうまくいく」という魔法の杖ではなく、価値の高い知識創造には、個々人の努力が欠かせません。

    例えばホームベーカリーの開発における「①共同化」のプロセスで、田中氏が職人から学び取った暗黙知が不十分であれば、開発は成功してなかったでしょう。

    ただ、SECIモデルを意識することで、「知識創造のどのプロセスが足りてないか」を考え、改善の手を打つことができます。つまり、知識創造のマネジメントができる、ということです。次項では、ホームベーカリーのように単一の製品開発ではなく、組織全体のマネジメントに知識創造理論を適用したエーザイの事例を解説します。

     

    知識創造理論を実践するエーザイの事例

    「共同化」を重視した人材育成を行うエーザイ

    エーザイは認知症などの治療薬や、患者をサポートする各種サービスを提供する企業で、「患者と生活者の皆様の喜怒哀楽を考え、そのベネフィットを第一義とし 世界のヘルスケアの多様なニーズを充足する」という経営理念を掲げています。その理念を一言に集約したものをhhc(ヒューマン・ヘルス・ケア)と呼んでいます。知識創造理論は、このhhcの理念を社員が内面化し、イノベーションを促進する仕組みをつくる理論的な柱として組み込まれています。

    具体的な取り組みとして、SECIモデルの起点である「共同化」を重視した人材育成が行われており、例えば2018年のエーザイ統合報告書では、「人材成長支援戦略」の項で以下のように記載されています。

    人財育成の基本は、「共同化」、すなわち「社員一人ひとりが患者様とともに時間を過ごすことによって患者様の真のニーズを理解すること」です。共同化によって患者様のニーズを満たすイノベーションの実現に向けた動機づけが生まれます。2016年4月に開始した中期経営計画「EWAY 2025」では、この基本に立ち返り、「患者様との共同化プログラム」をあらゆる社内研修プログラムに盛り込み、人財育成を強化しています。

    エーザイ株式会社 統合報告書2018 p22より

     

    SECIモデルを「知識創造のマネジメント」に活用

    先ほどのホームベーカリーの例における共同化プロセスでは、一人の開発担当者が職人の暗黙知を獲得していましたが、エーザイは全社員に対し「患者の暗黙知(真のニーズ)」を理解することに取り組んでいることがわかります。また、エーザイでは理念として掲げるだけでなく、結果を評価する調査(知識創造サーベイ)も行われており、前記の報告書において以下のように記載されています。

    2017年9月から全世界のエーザイ社員約1万人を対象に知識創造サーベイを実施しました。(中略)

    全172問の解析の結果、全世界のエーザイ社員において、企業理念の深い浸透(図1)と会社への高いエンゲージメント(愛着心、思い入れ)(図2)を確認しました。また、トップマネジメント・ミドルマネジメント・フロントリーダーのリーダーシップが、企業理念の浸透や実践を促進していることが分かりました(図3)。

     一方、エーザイが特に重視している患者様と時間を共有し暗黙知を蓄積する「共同化」については、社員は重要だと認識している一方、より遂行度を高める必要があると認識している傾向が見られました(図4)。「共同化」を通じて患者様の真のニーズを把握する必要性を真摯に受け止めていることが原因ではないかと推察します。「共同化」は、エーザイの根幹であり、これまで以上に活発化していきます。

    エーザイ株式会社 統合報告書2018 p7より(太字は引用者による)

    調査を通じ、企業理念の浸透など成果の出ている部分と、共同化の強化など強化すべきポイントが明示され、次の改善につなげているようです。このように、SECIモデルのステップを分けて考えることで、知識創造という複雑な取り組みの進捗を確認でき、組織としての「知識創造のマネジメント」が可能になります。

    知識創造理論の実践によりイノベーションを生む組織運営が実現する

    ここまで、知識創造理論について「何を理論化したものか」という背景から、基礎となる概念、実践の事例まで解説してきました。最後に取り上げたエーザイの例からも分かるように、SECIモデルの考えを組織運営に取り入れることで、「イノベーションのプロセスのどこが成功しており、どこが足りないか」という分析が可能になります。

    場当たり的に成功したり、失敗したりをくり返すのではなく、知識創造理論をイノベーションの「羅針盤」のように使うことで、客観的に現状を把握し、次の知識創造サイクルを生み出すマネジメントができれば、継続的にイノベーションを生む組織運営が実現できます。

    「暗黙知」や「形式知」など聞きなれない言葉が多いため、知識創造理論を「難しい話」として敬遠されていた方もいらっしゃるかもしれませんが、先行きの見えない状況で、イノベーションを生み出す企業になるための実践的な理論であることがご理解頂けたのではないかと思います。まずは、自社の現状をSECIモデルに当てはめると、どこに強みがあり、どこで行き詰まっているか、考えてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

    また、弊社で取り組んでいる「発明」や「新規事業創出」といったテーマも、知識創造の連続で成り立つもので、形式知として体系化したものはEラーニング教材の「e発明塾」として提供しております。

    さらに、実働支援サービスの「企業内発明塾」では、形式知となる教材を提供しつつ、弊社代表の楠浦が直接支援することで、楠浦が蓄積した「暗黙知」も吸収して頂けます。既に、企業内発明塾参加者の方により、特許出願や事業化が次々に進められています。ご興味がある方は、お問合せフォームよりご連絡頂くか、説明会等の情報を発信している弊社のメールマガジンにご登録下さい。

    末筆ながら、本コラムが知識創造理論の理解や実践と、その先にあるイノベーション創出のきっかけになれば幸いです。

    畑田 康司

    畑田康司

    TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
    発明塾東京一期生。現在は企業内発明塾™における発明創出支援、教材作成に従事。
    個人でも発明を創出し、権利化を行う。

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