特許は、深く読み解くことで、ある技術の未来を先読みできたり、逆に課題を見つけて自分たちの新規事業のきっかけも作れるツールです。そして、同時に投資家にとってもその企業の将来の方向性や成長の可能性など、投資対象か否かの重要な判断材料にもなるものです。
要するに特許は、読む人によって(目線を変えれば)新規事業のネタにもなり、競合企業を探る手がかりにもなり、投資先の選定としても使えるすごい情報源なんです。
このカテゴリーでは、「投資に活かせる特許・企業の読み方」として投資家目線の読み方をお話ししていきますが、もちろん起業や新規事業を興す側の人も注目していただきたいです。事業は投資家がいなければ持続できないものですよね。ですから投資家が注目する部分を知って、それを自分たちの企画やプレゼンを考える際に役立てて欲しいと思います。
では今回、レオン自動機(栃木県宇都宮市)を見てみましょう。実はこの企業を調べたきっかけは、3年ほど前、ある投資家から「この企業どう思いますか?」と調査を依頼されたことでした。
レオン自動機は、あんパンや中華饅頭、カレーパンなどの生地で具材を包み込む課程を自動化した「包あん機」や、クロワッサンなどのパンの自動成形機を主力商品とする、食品の加工機械の製造・開発を行っている企業です。国内シェア約9割、世界約125カ国以上に販売している国内・世界共にシェア№1の、グローバルニッチトップ企業です。考えてみたらニッチとは言え、包んで食べる食べ物って世界中に存在するのでニーズありますよね。
でも、言い方は悪いですが、延々と緻密に生地を伸ばしたりするようなのって地味な技術です(笑)。でも僕は根っからの技術屋ですからそこに興味を持ちました。実際、例えば「平たく薄く伸ばす」というのにはかなりの技術が必要なのだそうです。地味だけどすごい技術、しかもあまり知られていないのに実はダントツ。僕はそういうのが大好きです。
一体誰がつくっているんやろう。キーマンはどういう人で、いつ頃から活躍しているのか、これまでほかに何を手がけてきた人なのか、転職していないんかな。そんなことを考えながら特許を読み、ほかにも技術開発の体制や技術開発の歴史も調べました。
特許を読む時のポイントの一つは、「人の情報」です。特許には技術情報以外に人の情報が載っています。技術を読むのはもちろんですが、今回は特に「人」に注目してみます。
文末の図は、事前に僕が調べた特許の資料の一部再現ですが(図:レオン自動機のキーマンは?)、レオン自動機では、森川さんという人が技術のキーマンで、彼がレオン自動機の製品の肝になる技術開発を率いているはずだ、ということが分かりました。資料元はGoogle Patentですが、図の森川さんのところクリックすると森川さんの特許がバラバラと出てきます。技術についてもとにかく面白そうな会社だと感じたので、依頼を受けた投資家の人と一緒に実際ヒアリングにも行きました。
伺った結果、やはり森川さんはキーマンで技術のトップでした。後任を育てた上で現在は第一線から退いているようですが、森川さんがこの分野を長年牽引して、今のレオン自動機の基礎になる重要な技術開発を行い、その後の改良も徹底的にやられた方でした。後続特許のリストなども見せていただきましたが、改良して改良して改良して、徹底的に差別化され続けているんです。
こういうのを知った時に、会社の歴史も見え、この会社頑張っているな、と感じ取れました。実力のある人が技術のトップにいて長くやっていて、後継者もちゃんと育っている。「レオン自動機の技術面は安泰ですね」と同行した投資家の方と意見が一致しました。
特許の人の情報から、結果的に本気度もわかります。キーマンの周りには当然それを手伝う研究者もいます。周りの研究者の数が増えたりしていると本気で開発している証拠になります。逆に1人でコツコツやっているだけらしいと分かると、大丈夫かな?まだまだ実になるのは先かな?となりますよね。
もっと詳しく読んでいくと、何年ぐらいから出願が始まって何年ぐらいに終わっているのか、この人はもう辞めているんじゃないかな、とか、珍しい名前ならあの企業から転職してきたんちゃうか、などいろいろ推察もできるわけです。
メーカーなど特に技術系企業について調査する場合、技術者の情報はとても重要です。良い技術者がよい発明を生み、技術をつくりそれが製品になる。これが技術系の企業の典型的な成長ストーリーです。技術者の情報は、会社が今後発展するかどうか、ファンダメンタルズ分析の重要な視点の一つであり、投資の判断材料になり得ます。技術者が社内のキーマンなら、社内報や雑誌などにインタビュー記事なども掲載されていることもあるので、併せて探して読んでみるのもいいと思います。
人の情報の読み方などは、まだまだ今後もお話ししていこうと思いますが、「発明塾®」 動画セミナー「投資に活かす特許の調べ方・読み方」 「知財・特許で得すること」でも詳しくお話ししていますので、ぜひご覧ください。
図:レオン自動機のキーマンは?
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
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