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保険スタートアップ ジャストインケースの新規参入戦略を特許から読む

マーケットの隙を狙ったニッチな分野を構築する企業や、既存マーケットに新規参入をはかる企業など、スタートアップ企業に注目している投資家の方たちは多いと思います。
その企業の長期的な戦略は何か。伸びしろがありそうか。投資対象となり得るかどうかは、歴史が浅いスタートアップ企業ゆえに見極めるのは容易ではないかもしれません。でも、そんな時に指標となるのはやはり特許なんですね。特許は「先読み」が可能で、まだどこにも書いていないけれど、将来こんなことを目指してるんじゃないかな、ということが推測できます。

ここでひとつ、以前、僕が特許から注目した企業を例に挙げてみます。2016年設立、2018年開業のjustInCase(ジャストインケース)という保険業界(特に少額短期保険業)のスタートアップです。
以下は、2016年に出願された特許明細書の一部分です。明細書とは、簡単に言うと「具体的には、こういう技術に関する特許が欲しいんですよ」という、具体例を含む説明書みたいなものです。

 

【0001】本発明は、ビッグデータを保険料価格付けに使用した保険商品の保険料価格付け方法に関するものである。

<中略>

【0025】このような保険商品に対して、本発明による価格付け方法を適用するため、例えば、以下を含む情報を取得する。
・年齢、性別、学歴、職歴
・自宅と勤務先の位置、通勤経路
・GPSによる移動情報(1日にどの程度日常的に移動するか)
・休日の過ごし方(SNSへの投稿情報)
・飲酒の頻度(推定)
例えば、モバイル機器の落下による液晶割れ等の事故率は、職種との相関関係があるかもしれない。通勤時間が長ければ長いほど、1日の移動量が多ければ多いほど事故率が高いかもしれない。休日にプールや水辺にいく頻度が高いほど機器の水没事故率が高いかもしれない。飲酒頻度が高いほど事故率が高いかもしれない。本発明の価格付け方法により、事故発生リスクが低いと考えられるにもかかわらず高い保険料を払う必要があった保険契約者がより公平な保険料で保険加入が可能となると考えられる。

(JP6145724より抜粋)

 

「スマホ保険」は奥行きが深い! ビッグデータの入り口だった

携帯電話を落として液晶画面が割れてしまったり、うっかり水中に落としてしまうことってありますよね。ジャストインケースのスタート事業は、こういう故障や紛失などに関するいわゆるスマホ保険と言われるもので、月額200〜300円ぐらいで加入できるものです。

携帯電話ショップの店員さんに「オプションで入りませんか?」とサクッと営業してもらえますし、勧められたら「前のスマホ、ポケットに入れて走ってたら、落っことして画面割ちゃったなあ、少額だし入っておくか」と、難しく考えずに加入してもらえる可能性が高いので、許認可が必要かつ参入ハードルが高い保険事業の中では、比較的始めやすい事業だと思います。

僕は、特許を読んで、創業者の目のつけどころはすごいと思いました。スマホの画面が割れるということは、落として割ってしまうことだから、もともとモノの扱いが雑な人かもしれない。保護フィルムも貼らず、カバー付きケースにも入れていないかもしれない。そう考えると他のリスクの存在も意味しているなと。
スマホ保険というのは、ここからさまざまな情報が取れそうなビッグデータへの入り口として有利な位置付けにあるということです。

そもそも保険ってとても興味深いビジネスで、統計学を駆使してやるので、ある程度の加入者数がないと業績が大きくぶれる可能性があります。高校の数学で習う「大数の法則」ってやつです。

だから、例えば10人のための生命保険というものは、リスクが高くて難しいですよね。今まで保険業界はなぜ大手しかいなかったかというと、加入者をたくさん集めないと成り立たなかったから、ただそれだけです。なので、歴史があってすでに加入者がいるところが有利になる事業構造になっていました。ただし、これまでは、の話です。そこで、ジャストインケースの出番です。

 

本当の狙いは何か、次の戦略は?

携帯電話のデータを使えば、個別に、細かく、かつ「リアルタイム」でリスク算定ができます。例えば、スマホを頻繁に落とす人はそのうち割るかもしれないので、この人の保険料は高めにしようとか、そういうリスク評価が簡単になるので、母数が少なくても成り立つ保険を提供できる可能性があり、新規参入がしやすいわけです。

データ重視で数が少なくても成り立つ保険をつくりたい。新規参入するには、どこから入ればいいだろうか。ではスマホから入ろう、ということなんでしょう。そして、スマホ保険に関する情報が取れると次のステップが踏みやすいので、そこからデータを取ってリスクを可視化して、次のサービスに繋げていこうという戦略なんだなと思いました。保険×Techですね。

最初、スマホ保険ってどういう位置づけなのかが特許を見るまで分からなかったんですが、改めて見えてきた、という例の一つです。

僕が特許を読んだのは2018年2月。それから4年ほど経ちましましたが、ジャストインケースは同年に「スマホ保険」を発売以降、2019年に「1日ケガ保険」、2020年には「歩くとおトク保険」「わりかん保険」など、新たに4つの保険商品をリリースし注目も集まっていますね。


この特許の例は、社内の文系出身のメンバーも「興味深くて腹落ちしました」と言ってくれています。特許から未来予測をするには、難解な技術を理解しなければ分かり得ないということでもなく、いわゆる非技術系の企業だったり、身近な商品やサービスからも予測ができるんです。投資家のみなさんも、ぜひ気になる企業の「先読み」をしてみてください。

特許の読み方については、当サイト内深掘りコラム「特許の読み方と調べ方」を、また、投資に活かせる特許の活用法は、発明塾動画®セミナー「知財情報活用投資®」編で学ぶことができますので、ぜひご活用ください。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子

 

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