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TSMCの経営戦略

【詳説】TSMCのビジネスモデルと技術戦略とは? ~No.1半導体ファウンドリの強みをIRと特許から読み解く

台湾の半導体トップ企業であるTSMC(台積電)は2022年11月21日現在で時価総額世界12位であり、日本のトップ企業のトヨタ(47位)の2倍以上の時価総額を誇る巨大企業です。
ただ、半導体の製造を請け負う「ファウンドリ」という業態のため、その詳細はあまり知られていません。

本記事では、TSMCのビジネスモデルと技術戦略を、IR情報や特許情報を元に読み解きます。アップルやNVIDIAなどの企業との関わりなど、具体的な事例を交えて解説するので、ぜひご参照ください。

<参考:TSMC基本情報>
正式名称:Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd., 台湾積体電路製造股份有限公司
ティッカーシンボル:TSM
創立年:1987年
ウェブサイト:www.tsmc.com

 

TSMCのファウンドリ型ビジネスモデルと収益構造 ~顧客の仮想工場としてファブレス企業と連携

半導体ビジネスの業態と代表的な企業の概要

半導体ビジネスの業態と代表的な企業の概要

※近年はインテルやサムスンもファウンドリビジネスに参入しているため、実際は図よりも複雑な業界構造になっている

世界に先駆けてファウンドリ型ビジネスモデルを構築したTSMC

TSMCの業態は「ファウンドリ」と呼ばれ、図に示したように半導体のサプライチェーンの中で「製造」の部分だけを専業で請け負います。

アップルやクアルコム、NVIDIAなど半導体チップの設計だけを行い、製造工場を持たない企業は「ファブレス」と呼ばれ、TSMCに設計情報を提供します。TSMCは設計情報に基づいてチップを製造し、顧客に提供します。それらのチップが組立ラインに供給され、スマートフォンやPCなどの製品に組み込まれます。

TSMCはファウンドリビジネスの先駆けであり、創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は創業当初から「バーチャル・ウェハー工場」という構想を提唱しています。この構想は、「顧客がまるで自社工場のようにTSMCの工場を管理できる仕組みをつくること」を示しており、実際に顧客企業はTSMCのサイト経由で製造の進捗をリアルタイムでチェックできます。

(創業ストーリーの詳細は書籍の『台湾の企業戦略 経済発展の担い手と多国籍企業化への道』(勁草書房)の第1章を参照)

かつては設計から製造まで一気通貫で行うインテルなどの企業(垂直統合型)が圧倒的に強い立場でした。しかし、スマートフォンの普及などにより業界構造が変化する中で、「製造設備をもたずに次々に製品をリリースしたいファブレス企業」とTSMCが連携するエコシステムの方がスピード感があり、急成長した結果、TSMCやNVIDIAの時価総額はインテルを追い越しています。

ファウンドリビジネスは、最先端の半導体設備とそれを使いこなす人材を集める必要があるため、ファブレスなどの業種よりも新規参入が困難であり、競合の追従を防ぐ「モート(堀)」が形成されていると言えます。2022年11月のBloombergの記事で、ウォーレン・バフェット氏がTSMC株の50億ドル相当を取得したことが報じられていますが、「TSMCは盤石である」と判断する理由に前記の要素も含まれているかもしれません。

 

スマートフォンや高機能コンピューティングを中心とするTSMCの収益構造

TSMCの製品カテゴリーごとの売上(同社のAnnual Report 2021を元に作成)

TSMCの製品カテゴリーごとの売上(同社のAnnual Report 2021を元に作成)

※HPC:High Performance Computing (高性能コンピューティング)の略
※DCE:Digital Consumer Electronics (デジタル消費家電)の略。AIを搭載したスマートデジタルTVやカメラ用のチップなどが含まれる

 

続いて、TSMCの収益構造をIR情報から読み解きます。TSMCは製品カテゴリーごとに収益を計算しており、図のように「スマートフォン用のチップ」(iPhoneメインチップなど)や「HPC用のチップ」が収益の中心になっています。

HPCとは ”High Performance Computing” の略で、5G通信やAI、クラウドコンピューティング等に使われる高性能コンピュータ(プロセッサ)に使われる半導体チップが含まれ、デスクトップPCなどに搭載されます。2019年から2021年にかけて各カテゴリーの売上が伸びていますが、特にHPCの伸びが顕著で、TSMCも成長を牽引するキーになる分野と考えています。

※5G通信技術のリーディングカンパニーであるクアルコムの戦略は以下の記事で解説しています。

インテル・クアルコムのオープンクローズ戦略 〜成功事例から知るメリット

北米を重視する戦略を強化し、中国向けの売上は減少

TSMCの地域ごとの売上(同社のAnnual Report 2021を元に作成)

TSMCの地域ごとの売上(同社のAnnual Report 2021を元に作成)

※EMEA:Europe(ヨーロッパ), Middle East(中東), Africa(アフリカ)の略

一方、地域ごとの売上を見ると、2019年の時点で北米向けが6割程度ですが、2021年になると北米のシェアがさらに拡大し、逆に中国向けの売上は減少しています。

北米の売上が大きい理由として、TSMCの協業先となるファブレス企業が米国に集中していることがあげられ、冒頭の図に示したアップル、クアルコム、NVIDIAはいずれも米国企業です。

例えば2022年9月の日経アジアの記事によると、アップルは「N3E」と呼ばれるTSMCの最新技術を用いてiPhoneのプロセッサを量産する計画を立てているようで、今後も北米企業とTSMCの連携は広がりそうです。

他方、中国については、2020年5月に米国商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security : BIS)がHuaweiを含む中国企業への輸出管理を強化したため、TSMCはHuaweiなどの企業への輸出ができなくなっています(2020年5月の日経XTECH記事参照)。

Huaweiなど中国市場における大口顧客からの受注がストップしたため、グラフのように中国市場の売上が大きく下がる結果となっています。

TSMCの技術戦略と特許戦略 ~圧倒的スピードで成長しながら特許網を築く

追従を許さないスピードで技術革新を進めるTSMC

TSMCの製品に占める、半導体パターンの線幅の内訳(同社のAnnual Report 2021を元に作成)

TSMCの製品に占める、半導体パターンの線幅の内訳(同社のAnnual Report 2021を元に作成)


前項でTSMCの「ファウンドリ型ビジネスモデル」について解説しましたが、顧客の発注に合わせて製造する点では「下請け」に近く、高収益のビジネスモデルをつくるのは難しいように見えます。

しかし、TSMCは圧倒的な技術革新のスピードにより、「最先端の半導体チップはTSMCに頼まないとつくれない」という状況を常につくり、顧客と対等な関係を築くことに成功しています。TSMCの主力製品である半導体プロセッサの進化は回路パターンの「微細化」が主題であり、「いかに微細な(細い)回路をつくれるか」の勝負です。

表に示したように、TSMCは「自社製品に占める半導体パターンの線幅の内訳」を公開しており、2019年にはゼロだった5nmが、2年後の2021年には19%と、7nmに次ぐ2位の比率になっています。これは、2019年に実用化していなかった技術を2021年に主力製品にするスピードで成長していることを示しています。

TSMCのスピードの源泉は「人材」

上記のようなスピードで成長できる大きな理由として、TSMCが有能な人材を大量に採用し、育てていることがあげられます。同社の Annual Report 2021 (p105)には社員の学歴の内訳も記載されており、Ph.D保有者は4.1%、修士号の保有者は47.2%と、実に半数以上が博士・修士の学位を持っています。また、英語学習など教育システムにも力を入れているようです。

ちなみに筆者は2015年頃から数年間、製造設備のエンジニアとして台湾に駐在し、TSMCのエンジニアとも交流がありましたが、1人1人が「製造現場の地道な作業をこなす勤勉さ」と「製造技術に関する深い知識と、ビジネスレベルの英語力」を備えていました。半導体設備は速いサイクルで入れ替わり、「最先端の設備」もすぐに陳腐化するため、「プロセスの本質を理解した優秀な人材」の育成が重要になります。TSMCはその点で全くスキの無い会社で、感銘を受けたことを記憶しています。

「スマートフォンなど常に高速化が求められる市場でトップランナーになるためには、TSMCに頼むしかない」という状況が生まれる背景に、優秀なエンジニアの存在があります。

製造技術で圧倒的な特許網をつくるTSMCの特許戦略

一般的にあまり議論されていませんが、「特許」もTSMCの強みであり、2022年6月のFocus Taiwanの記事によると、TSMCの特許出願件数は75000件を越えており、6年連続で台湾最大の特許出願人になっています。特に米国での出願が盛んで、2020年、2021年ともに米国で3番目に出願件数の多い出願人となっています。

また、同じ技術分野の特許を大量に出願し、特許網をつくっているのもTSMCの特徴です。例えばフィン型と呼ばれる構造の半導体を製造する技術に関する ”US9520482B1 Method of cutting metal gate” は800件以上の被引用特許(※)がありますが、そのほとんどがTSMCの出願です。

また、前出の『台湾の企業戦略 経済発展の担い手と多国籍企業化への道』(勁草書房)によると、TSMCは創業時にフィリップス社から出資を受けており、その際にフィリップスの知的財産を利用できる契約を結んだことで、事業の立ち上げがスムーズに進んだようです。よって、TSMCは創業期から知財の重要性を理解していたことが推測されます。

参入障壁の高いビジネスモデルと、それを支える突出した人材と知財が噛み合ったことで、TSMCの急成長が実現したと考えられます。

※被引用特許:特許の審査の際に審査官が比較対象として引用する特許

半導体製造の未来を担うTSMCの今後

ここまで、TSMCのファウンドリ型ビジネスモデルの概要と、製品・地域ごとの収益構造、同社の圧倒的な技術力とそれを支える人材・知財戦略について解説しました。

常に性能向上が求められる半導体分野で、「最先端のチップをつくれるのはTSMCだけ」という状況を可能にした経営戦略の全体像を理解する一助になれば幸いです。

現時点では同社の主な収益源はスマートフォンやPC向けの高性能チップですが、2022年11月のDigiTimes Asiaの記事によると、テスラがTSMCに自動運転用のチップを発注したという噂も流れており、自動車向けも拡大するかもしれません(確定情報ではありませんが)。

いずれにしても、半導体の技術進化をTSMCが今後も牽引することは間違いなさそうです。引き続き、同社の動向を注視したいと思います。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
製造設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

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