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【FY23 Q3】Salesforce の経営戦略とGenie・Net Zero Marketplaceなど最新イノベーション

前回のセールスフォース4半期レポート(FY23 Q2)では、ヘルスケア分野や、大企業の脱炭素化支援におけるセールスフォースの取り組みを紹介しました。本記事ではセールスフォースのFY23Q3(2023会計年度、第3四半期;2022年8月~10月)のイノベーション関連情報について、背景にある戦略の考察も含めてわかりやすく解説します。

まず、FY23Q3の収益など全体的な動きを解説した後、Genie、Net Zero Marketplaceなど新規リリースされたサービスの内容を紹介します。

<参考:Salesforce.com, inc.基本情報>
ティッカーシンボル:CRM
創立年:1999年
ウェブサイト:www.salesforce.com

※セールスフォースの経営戦略の全体像については以下の記事で詳しく解説しています。

【図解】セールスフォースのカスタマーサクセス戦略とは? ~トレイルブレイザーを支援し、オハナを拡大する

セールスフォースFY23Q3概況 ~Slack続伸、営業利益率改善、Bret Taylor氏退任

Slackを含むPlatform & Otherの好調が続く

セールスフォースのカテゴリーごとのFY22Q3とFY23Q3の売上高比較(セールスフォースの決算資料を元に作成)

セールスフォースのカテゴリーごとのFY22Q3とFY23Q3の売上高比較(セールスフォースのFY23Q3決算資料を元に作成)


セールスフォースの決算資料によると、FY23Q3の総売上高(Total Revenue)は78億3700万ドルで、前年から約14%増加しています。

グラフのように、全カテゴリーが成長していますが、特にSlackを含む「Platform & Other」が大きく成長しています。Slackは新機能も次々にリリースしており、例えば2022年9月のブログで、「Slack canvas(スラック・キャンバス)」と呼ばれる新たな情報集約ツールを発表しています。

Slackは情報が流れてしまうので、後でログを追うのが大変であり、ユーザーは今まで外部のストレージやWikiなどに情報を集約していましたが、Slack canvasを利用することで、「全ての情報をSlackで一元管理できる状態」がつくれるようです。

Slack canvasは来年にリリースされる予定で、Slackの進化がさらに進みそうです。

利益率 (Non-GAAP operating margin) の改善

セールスフォースのNon-GAAP営業利益率の計算式(FY23Q3決算報告の記載を参考に作成)

セールスフォースのNon-GAAP営業利益率の計算式(FY23Q3決算資料の記載を参考に作成)
無形資産の償却:Amortization of purchased intangibles
株式報酬:Stock Based Compensation
※GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)は特定の政治主体が原則として認める会計処理のルール。Non-GAAP指標は企業などが独自に設定した指標


セールスフォースは重要な指標としてNon-GAAP operating margin(Non-GAAP営業利益率)を設定しており、FY23Q3は昨年の19.7%から22.7%への増加を達成しています。
FY22Q3の投資家向けConference Callによると、同社は2026年度(FY26)までに、この指標を25%に上げることを目標としています。

この指標で使われる「Non-GAAP営業利益」には、通常の営業利益(GAAP営業利益)に加えて、

・無形資産(特許・商標など)の償却
・株式報酬(従業員への報酬など)

の2つが加算されています(上図参照)。

営業利益はもちろん、特許などの無形資産にかける費用や、従業員への報酬を増加させることを重視しているようです。

ここから、セールスフォースの「将来の価値につながる無形資産や人材への投資を積極的に行う」という考えが読み取れます。セールスフォースの経営戦略に関する記事で紹介した「人を中心に据える企業文化」とも合致しており、理念と会計指標をどうつなげるか、の参考にもなります。

共同CEOのBret Taylor氏の退任

セールスフォースは2022年11月のニュースリリースで、同社の副会長 兼 共同CEOであるBret Taylor氏が2023年1月31日付で辞任することを発表しました。Taylor氏はソーシャルネットワークのFriendFeed(2009年にFacebookが買収)や業務用コラボレーションツールのQuip(2016年にセールスフォースが買収)を立ち上げた起業家で、投資家向けConference Callでは以下のようにコメントしています。

”I really do feel that now is the right time for me to return to my entrepreneurial roots, particularly given the technology landscape and the economy going through such tectonic shifts.”

(特にテクノロジーの展望と経済がこのような地殻変動を経験している状況を考えると、私にとって今がアントレプレナーとしてのルーツに戻るのに適切な時期です。)

変化の時代だからこそアントレプレナーとしての原点に立ち返り、起業するようです。次にどのような企業を立ち上げるかが楽しみですね。

Taylor氏の退任はセールスフォースにとっては痛手と思われますが、同社はそれを吹き飛ばす勢いで次々に新サービスを発表しています。次項では、新たに発表されたGenieとNet Zero Marketplaceを紹介します。

セールスフォースの最新イノベーション ~GenieとNet Zero Marketplaceをリリース

リアルタイム共同作業を支援するSalesforce  Genie

様々な媒体から得られた情報をリアルタイムで処理するプラットフォームの概要図(US10878379B2のFig.1Bに追記して作成)

様々な媒体から得られた情報をリアルタイムで処理するプラットフォームの概要図(US10878379B2のFig.1Bに追記して作成)


2022年9月のニュースリリースで発表されたSalesforce Genie(ジーニー)は、セールスフォースのCustomer 360におけるデータのやり取りをリアルタイムで処理するデータプラットフォームです。例えば顧客データのグラフ表示は、これまで「最後に保存されたデータを表示」していましたが、今後はリアルタイムで表示し、顧客の現在の状況に応じた対応を取ることが可能になります。

セールスフォースはリアルタイムのデータ処理に関する特許出願も強化しています。例えばUS10878379B2は、IoTデバイスや各種サービスから得られた情報をリアルタイムで処理する技術に関する特許で、図のように様々な媒体から得られた情報をリアルタイムで処理し、セールスフォースのプラットフォーム上で表示するシステムが記載されています。

リアルタイムで処理することで、例えば異常が発生した際に迅速に対応することが可能になり、顧客の満足度向上につながります。

Net Zero Marketplaceによりカーボンクレジットマーケットに参入

セールスフォースは2022年9月のニュースリリースで、カーボンクレジットのマーケットプレイスであるNet Zero Marketplaceのリリースを発表しています。カーボンクレジットは国際基準に基づく検証を受けたプロジェクトに付与され、森林保全やクリーン発電、農業経営などのプロジェクトが含まれます。

Net Zero Marketplaceにより、上記のようなプロジェクトを提供するエコプレナーと企業などの購入者を結びつけることが可能になり、11か国で90以上のプロジェクトが提供される予定です(日本での購入開始時期は未定)。

一方、マイクロソフトも2022年11月のブログで、炭素クレジットの資産を追跡し、品質を管理するEnvironmental Credit Serviceのプレビュー版を発表しており、炭素クレジット取引の仕組みづくりが加速しています。

また、脱炭素関連のサービスが利用される範囲も急速に広がっており、2022年5月のロイターの記事によると、セールスフォースやマイクロソフトを含むいくつかの企業では、「在宅勤務によるCO2排出量の測定」を開始しています。我々の生活から生じるCO2排出も測定される時代が訪れており、個人向けの脱炭素関連サービスも広がりそうです。

※エコプレナー:世界中で気候変動対策をリードし推進する、環境に焦点を当てた起業家

※脱炭素化のリーディングカンパニーであるマイクロソフトの戦略については以下の記事で詳しく解説しています。

マイクロソフトのカーボンネガティブ経営戦略【図解あり】 ~Azure, Climate innovation Fundの最新情報

カスタマーサクセスを追求するセールスフォースの今後

ここまで、セールスフォースのFY23Q3の概況と、同社が重視する経営指標、Bret Taylor氏の退任について紹介した後、最新のイノベーションとしてSlaesforce GenieとNet Zero Marketplaceを紹介しました。

Genieにより実現する「リアルタイムのCRM(顧客関係管理)システム」は世界でも初めてらしく、セールスフォースが顧客の成功(カスタマーサクセス)に役立つクラウドサービスを他社に先駆けて開発していることがわかります。

また、Net Zero Marketplaceなど脱炭素化をスムーズに進めるためのサービスを開発しており、各企業がかかげる排出量削減の目標達成においてもセールスフォースが大きな役割を果たすことになりそうです。

本記事ではセールスフォースのビジネスやサービスの概要を解説しましたが、弊社の無料メールマガジンでは、特許分析などさらに踏み込んだ調査内容を毎週レポートしています。セールスフォースの取り組みをさらに深掘りしたい方はぜひご活用ください。

 

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

 

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