蓄電技術は、発電所などで生成した電力を貯蔵し、必要に応じて供給する技術です。風力発電などの再生可能エネルギーは供給量にバラつきがあるため、供給のタイミングを調節できる蓄電技術の重要性が高まっています。
本記事では、最先端の蓄電技術としてフライホイール蓄電、CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)、重力蓄電の3つを取り上げ、それぞれの特徴と課題、企業の開発動向を整理します。後半では、フライホイール蓄電による電気自動車(EV)のインフラを実用化するZOOZや、CAESにより中国の電力システムを革新する中国科学院の最新技術を紹介します。温暖化対策のキーになる技術ですので、ぜひご一読下さい。
この記事の内容
まず、3つの蓄電技術について、仕組みの概要と、主な関連企業を紹介します。
いずれの技術も「回転」「位置」「圧縮」などの物理エネルギーを利用しています。化学エネルギーを蓄えるリチウムイオン電池などに比べ、シンプルで耐久性の高いシステムを構築できるので、大規模な蓄電のインフラをつくるのに適しています。
これらの蓄電技術は、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを貯蔵し、適切なタイミングで供給するシステムの構築に利用されています。例えばCAESは、上図のように再生可能エネルギーを圧縮空気として地中などに蓄積し、空気を放出する際の力でタービンを回して発電します。
※一般的な傾向で、必ずしも表のとおりではない。例えばCAESは大規模なものが多いが、小規模なシステムをつくることも技術的には可能
続いて、それぞれの技術の特性を上の表に整理しました。以下にそれぞれの技術の特徴を記載します。
フライホイール蓄電はEVの充電ステーション、CAESは特に中国の電力インフラ構築において急速に実用化が進んでいます。後半では、これらの技術開発をリードする企業や組織の開発動向を紹介します。
※重力蓄電の詳細は以下の記事で解説しています。
【図解】重力蓄電システムの仕組みとメリット・デメリット ~ソフトバンク投資先のEnergy Vault、GravityLightの特許を分析
イスラエルのZOOZ Power(旧Chakratec)は、イスラエルと米国・欧州でフライホイール蓄電によるEV充電システム構築に取り組んでいます。2013年に創業したスタートアップですが、2021年にイスラエルのテルアビブ証券取引所に上場しています。
同社のフライホイール蓄電システム(ZOOZTER™-100)は、上図のように8個のフライホイールをボックスに格納したコンパクトな構造です。ボックスから充電ユニットに電力を供給し、EVの充電を15分程度の短時間で完了できます。
2023年9月のNoCamelsの記事によると、ZOOZのEV充電ステーションは米国のガソリンスタンドやコンビニエンスストアに設置され、実証実験を開始しています。これまで、米国のEV充電ステーションはテスラのSuperChargerなどリチウムイオン電池を使ったものが主流でしたが、フライホイール蓄電へのリプレースが徐々に進む可能性があります。
※フライホイール蓄電の仕組みは以下の記事で詳しく解説しています。
【図解】フライホイール蓄電の仕組みとメリット・デメリット ~ZOOZ, TeraloopによるEV急速充電システムへの活用事例を解説
一方中国では、世界最大規模のCAESシステムの導入が進められています。例えば2022年10月のpv magazineの記事によると、中国の河北省で100MWのCAESシステムが稼働しています(それ以前は60MWが世界最大)。
このシステムに使われる技術は、中国の研究機関である中国科学院(Chinese Academy of Sciences;CAS)の研究所が開発しています。中国科学院の特許 JP5508540B2 によると、上図のように空気を高圧で圧縮した後、熱交換器で冷却し、「超臨界状態」と呼ばれる状態にして保存しています。超臨界状態の空気は液体に近い状態になり、エネルギーを高密度で保存できます。
中国科学院は、他にも蓄電システムに関する特許を次々に出願しており、例えば2022年に登録されたCN112234634Bには、CAESとフライホイール蓄電を組み合わせたシステムが記載されています。中国は風力発電等の電力インフラの投資額で圧倒的世界一なので、蓄電技術の進歩も急速に進んでいるようです。
それぞれの蓄電技術にメリット・デメリットがあるので、「どの技術が勝つか?」よりも、「どの技術とどの技術を組み合わせて使うのが良いか?」と考えた方が最適なアイデアが生まれるかもしれません。
※CAESの仕組みは以下の記事で解説しています。
以上、最先端の蓄電技術として、フライホイール蓄電、CAES、重力蓄電の3つについて、それぞれの特徴と開発動向を解説しました。最後に紹介したように、中国では国家プロジェクトとして蓄電技術の開発が進んでいます。今回は紹介できませんでしたが、米国でもGAFAMなどの巨大企業が蓄電技術の開発を進めており、特にマイクロソフトは脱炭素化を加速するための蓄電技術の開発に10年以上前から取り組んでいます。いずれも今後の展開が楽しみです。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
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