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SLM-Solutionsとは?

SLM Solutionsとは?【企業分析】ニコンが買収した金属3Dプリンタメーカーの技術戦略を徹底解説

ドイツ企業のSLM Solutions(以下、SLM)は、金属3Dプリンタ市場でシェア3位のメーカーで、レーザーを使った3Dプリント技術のトップ企業としても知られています。2023年にニコンが買収したことで、日本でも話題になっています(ニコンの2023年9月のリリース参照)。

本記事では、SLMのコア技術と収益構造、ニコンによる買収の狙いを詳しく解説します。後半では、特許情報分析を元に、SLMとニコンの金属3Dプリント技術開発の最新動向を読み解きます。ニコンの今後の展開に興味がある方は是非ご参照ください。

<参考:SLM Solutions Group AG基本情報>
上場時のティッカーシンボル:AM3D
設立年:2006年
ウェブサイト:https://www.slm-solutions.com/

※以下の記事では、金属3Dプリンタ市場のトップ3メーカーの比較分析を行っています。

金属3Dプリンタメーカーの比較分析 ~ニコンが買収したSLMとNo.1メーカーEOSの特許技術を解説|TechnoProducer株式会社|

SLM Solutionsの技術の概要とニコン買収の背景

レーザーで金属をプリントするSLMの技術

レーザーを利用した金属3Dプリントの仕組み(Palら,2022 の図に追記して作成)

レーザーを利用した金属3Dプリントの仕組み(Palら,2022 の図に追記して作成)

まず、SLMのコア技術である金属3Dプリントの技術の仕組みを簡単に解説します。

SLMは主に「パウダーベッド方式」と呼ばれる仕組みの3Dプリンタを開発しています。上図のように積層した金属粉(パウダーベッド)にレーザーを照射して溶かし、固めることで金属の塊をつくります。レーザーを照射して固めた後に、ローラーが次の金属粉を供給して新たな層をつくり、またレーザー照射を行う、という繰り返しで3D造形が進みます。

細いレーザー光の照射により造形できるので、溶かした金属をノズルから出して固める方法よりも精密な構造をつくることが可能です。SLMは複数のレーザーを使ってより精密に加工を行う技術(マルチレーザー技術)に強みがある企業として知られています。

SLMの収益構造とニコンによる買収の狙い

SLM Solutionsのセグメント・搭載レーザー数ごとの収益(同社の2021年のAnnual Reportのデータをもとに作成)

SLM Solutionsのセグメント・搭載レーザー数ごとの収益(同社の2021年のAnnual Reportのデータをもとに作成)

続いて、SLMの経営戦略を理解する基本情報として、同社の収益構造を整理します。

左側のグラフに示したように、収益の中心は3Dプリント装置で、約8割を占めています。残りの2割は金属材料の販売やメンテナンスなどのサービスから得ています。

右側のグラフに示したように、現時点では1台に1つのレーザーを搭載する装置が収益の中心ですが、今後はSLMの強みである複数のレーザーを搭載した装置の販売を強化するようです(SLMのAnnual Report参照)。以上の分析から、SLMが「レーザー技術の強みを活かした高付加価値の装置を販売し、収益を得るビジネスモデル」を構築していることがわかります。

SLMを買収したニコンも、半導体露光装置など、非常に精密な光学機器を開発する企業として知られています。ニコンは2023年のIR資料で、「2025年までに金属プリンタ業界のNo.1になること」を目標に掲げており、両社の技術を組み合わせることで既存の3Dプリンタよりも圧倒的に高性能な製品を開発することを目指しているようです。

次項では、SLMとニコンの特許情報を分析し、両社の具体的な開発動向を探ります。

※半導体露光装置でニコンやキヤノンを圧倒したASMLの技術については、以下の記事で解説しています。

【図解】ASMLのEUV露光技術と半導体微細化に向けた今後の戦略 ~技術の基礎から収益構造まで詳しく解説

SLM Solutions・ニコンの金属3Dプリント技術開発を特許から読み解く

SLM Solutionsのマルチレーザー技術

複数のレーザーを使うSLM Solutionsの3Dプリント技術(同社の特許出願 US20130064706A1 の図に追記して作成)

複数のレーザーを使うSLM Solutionsの3Dプリント技術(同社の特許出願 US20130064706A1 の図に追記して作成)

先述の通り、SLMは複数のレーザー(マルチレーザー)を搭載した金属3Dプリンタに強みがあり、関連特許も多数出願しています。例えば2010年に出願された US20130064706A1 には、上図のようにメインの溶融用レーザー(SLMレーザー)の他に、ダイオードレーザーと呼ばれる別のタイプのレーザーを併用する技術が記載されています。

波長の異なるレーザー光を使い分けることで、細かいニーズに対応した加工が可能になります。上記の特許出願では、ダイオードレーザーを金属粉末の「予熱」に使うことで熱の分布を均一にし、加工の精度を上げる技術が記載されています。

関連する特許として、位置精度を向上するための技術や、金属材料に付着する不純物による不具合を解消する技術などが継続して出願されています。3Dプリンタの精度や、材料の強度を改善するための開発が進んでいることが読み取れます。

ニコンもマルチレーザー関連の特許と開発体制を強化

一方、SLMを買収したニコンも、金属3Dプリンタ関連の特許出願を強化しています。例えばニコンが2022年に出願した WO2023188082A1「加工装置」には、波長の異なる2種類の光源を使った3D造形の技術が記載されています。先述のSLMの特許とも近い技術で、マルチレーザー技術の特許網を強化していることがわかります。

この特許の発明者である舩津氏の過去の発明を見ると、電子ビームを使った技術に関する出願が多数含まれています。例えば WO2018179295A1「露光装置及び方法、並びにデバイス製造方法」には、電子ビームを使った半導体の露光装置に関する技術が記載されています。

半導体分野で光学技術の開発を経験した技術者が、金属3Dプリンタの分野で新たな技術を開発していることがわかります。半導体分野はナノメートルレベルの精度が求められる分野なので、マイクロメートルレベルの金属3Dプリンタの精度が一気に向上することも期待できます。

SLM Solutionsとニコンによる金属3Dプリンタビジネスの今後

以上、ニコンが買収したSLMについて、レーザーを利用した金属3Dプリント技術の概要と収益構造、金属3Dプリンタ市場でトップを狙うニコンの戦略を解説しました。両社ともに技術力の高い装置メーカーであり、コラボレーションにより圧倒的に精度の高い金属3Dプリンタが開発されることが期待できます。今後のニコンの活躍が楽しみです。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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