前回のセールスフォース4半期レポート(FY22 Q4)では、Slack買収に関連した動きとコロナ対策関連サービスについて紹介しました。本記事ではセールスフォースのFY23Q1(2023会計年度、第1四半期;2022年2月~4月)の動きを簡単に紹介します。
まず、FY23Q1の収益増加と、成長の背景にある同社のサービスの仕組みについてNTTの事例を参考に解説し、次に、脱炭素分野の動きとして、炭素除去技術やブルーカーボンへの投資について解説します。
<参考:Salesforce.com, inc.基本情報>
ティッカーシンボル:CRM
創立年:1999年
ウェブサイト:www.salesforce.com
※セールスフォースの経営戦略の全体像については以下の記事で詳しく解説しています。
この記事の内容
セールスフォースのプレゼン資料によると、FY23Q1の総売上高(Total Revenue)は74億1100万ドルで、前年のQ1から24%増加しており、急成長していることが分かります。
セールスフォースの成長速度はソフトウェア企業の中でも群を抜いており、東海東京調査センターのレポートによると、2012~2022年の10年間の増収率は+1069%です。セールスフォースと同様に顧客関係管理(CRM)サービスに取り組むマイクロソフト、オラクルの10年間の増収率がそれぞれ+157%、+13%であることを考慮すると、セールスフォースがいかに高い成長率を長期的に維持しているかがわかります。
その成長速度を支えるのが、各サービスの継続的な成長で、図に示すように、全カテゴリーが前年より10%以上成長しています。セールスフォースの経営戦略の解説記事にも書いたように、セールスフォースはMuleSoftやTableau、Slackなどを買収しながら成長した企業ですが、買収後も各サービスが連携して成長する仕組みをつくっているようです。
具体的に各サービスがどのように関わっているのかについては、NTTデータの資料で詳しく解説されているので、そちらを参考に掘り下げてみます。
NTTデータはセールスフォースのコンサルティングパートナーで、セールスフォースのCRMサービスを導入する企業へのサポートをしています。CRMにおいては、顧客情報を収集し、顧客ニーズにマッチしたアクションを取ることが必要ですが、例えば以下のように各サービスを使い分けているようです。
これらの作業が自動的に行われることで、例えば「この顧客は1週間後に店舗に商品を受取りに来る可能性が高いので、その数日前に関連商品のクーポンを送付する」といった、個人ごとのきめ細やかな対応を少ない労力で行えます。また、複雑なプロセスを同じプラットフォーム上で行えるので、利便性が向上します。
(1つのGoogleアカウントで、Docsやスプレッドシートなど複数のツールが使えると利便性が上がるのに似ています)
上記の事例から、セールスフォースは買収によって獲得したサービス同士を連携させ、より高い顧客価値を提供していることがわかります。顧客価値の向上が新たなカスタマーサクセスを生み、新たな顧客の開拓にもつながるという好循環が、セールスフォースの急成長の背景にあるようです。
※2021年のSlack買収に関連した動向については、以下の記事で解説しています。
一方、セールスフォースは社会貢献にも力を入れており、気候変動の課題に対しても、独自のClimate Action Planを作成し、多面的に取り組んでいます。以下に最新の活動を紹介します。
2022年5月のニュースリリースによると、セールスフォースは世界経済フォーラムの年次総会で、炭素除去技術に1億ドルを投資する計画を発表しました。
この投資は、First Movers Coalitionと呼ばれる国際的なイニシアチブの一部で、同イニシアチブは企業の購買力(purchasing power) を活かし、航空や鉄鋼分野などCO2削減が困難な分野の脱炭素化を目標としています。
一方、2022年4月のニュースリリースによると、セールスフォースは、ブルーカーボン(海洋や沿岸の生態系によって捕捉される炭素)の市場拡大に向けた取り組みを開始しています。
ブルーカーボンは今後成長する分野として期待されていますが、海底の土壌に蓄積された炭素の移動や放出などを考慮すると、炭素除去効果を正確に把握するのは難しく、データの信頼性に課題があります。
ちなみにマイクロソフトの炭素除去レポートでも1件のブルーカーボンプロジェクトが紹介されていますが、耐久性・安定性に対する評価は低い(Low-durability)プロジェクトに分類されています。
セールスフォースは今後4年間で1000万ドル相当の高品質なブルーカーボンクレジットを購入する計画を立てており、信頼性の高いプロジェクトの成長を支援しています。
また、サステナビリティ関連のニュースリリースによると同社は海洋持続可能性のディレクターとしてWhitney Johnston博士を採用し、プラスチック汚染等の課題に取り組むなど積極的に活動しており、取り組みの本気度が伺えます。
※脱炭素分野で世界をリードするマイクロソフトの経営戦略については、以下の記事で解説しています。
マイクロソフトのカーボンネガティブ経営戦略【図解あり】 ~Azure, Climate innovation Fundの最新情報
ここまで、セールスフォースのFY2023Q1の動きを中心に、同社の急速な成長を支える仕組みや、気候変動対策など社会課題の解決に向けた取り組みを紹介しました。
NTTの事例から、買収したサービスがプラットフォーム全体の利便性をさらに向上させ、顧客価値の向上と成長につながる仕組みが読み取れました。2021年に買収したSlackとの連携を強化することで、今後さらに成長することが期待できます。
また、サステナビリティ関連では、炭素除去技術に加え、ブルーカーボンなど海洋分野でも投資を行っており、気候変動という社会課題に対しても多面的に取り組んでいることがわかります。海洋分の持続可能性に関する取り組みは独自性が高く、今後の展開が楽しみです。
急速に拡大しつつ、社会課題の解決にも積極的に取り組むセールスフォースについて、今後も継続的にウォッチしていきます。より踏み込んだ考察については弊社の無料メールマガジンで紹介しているので、ご興味のある方はぜひご活用ください。
★セミナー動画リリースのご案内
発明塾®動画セミナー:事業転換のための新規事業マーケティング™
~ 既存市場がなくなっても生き残れる事業の生み出し方を富士フイルム・出光興産の事例から解説!
2024年7月26日(金)に開催したセミナーを収録した動画セミナーです。
単なる新商品ではなく「会社の新たな柱となる新規事業」をつくりたい方に向けて、新規事業ならではのマーケティングの進め方を、具体的な企業の事例を元に解説するセミナーです!
技術マーケティングの中でも特にハードルの高い「新規事業マーケティング」にフォーカスします。特に参考になる企業としてフィルム事業の衰退を乗り越えた富士フイルムと、全固体電池開発で石油依存からの脱却を進める出光興産の事例を紹介し、事業創出のプロセスを明らかにします。現状を打破したい方は是非ご活用ください!
★本記事と関連した弊社サービス
①無料メールマガジン「e発明塾通信」
材料、医療、エネルギー、保険など幅広い業界の企業が取り組む、スジの良い新規事業をわかりやすく解説しています。
「各企業がどんな未来に向かって進んでいるか」を具体例で理解できるので、新規事業のアイデアを出したい技術者の方だけでなく、優れた企業を見極めたい投資家の方にもご利用いただいております。
週2回配信で最新情報をお届けしています。ぜひご活用ください。
②【新規事業・起業・投資の羅針盤 イノベーション四季報™】
イノベーションには「流れ」がありますが、「感覚」では捉えられません。
実際の企業の分析結果を元に「具体的な事例」を読み解いた最新情報を、今後を見通す「羅針盤」として4半期ごとに提供します。創刊号ではGAFAMの分析に正面から取り組みました。巨大企業の戦略を読み解き、その先を攻略したい方はぜひ!
★弊社書籍の紹介
弊社の新規事業創出に関するノウハウ・考え方を解説した書籍『新規事業を量産する知財戦略』を絶賛発売中です!新規事業や知財戦略の考え方と、実際に特許になる発明がどう生まれるかを詳しく解説しています。
※KindleはPCやスマートフォンでも閲覧可能です。ツールをお持ちでない方は以下、ご参照ください。
Windows用 Mac用 iPhone, iPad用 Android用
畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略