技術マーケティングの解説記事では、技術マーケティングの基本的な考え方や、技術シーズと顧客ニーズをつなぐための手法などを簡単に解説しました。本記事では、より理解を深めるのに役立つ書籍を3冊の内容と要点を解説します。
技術者の目線で書かれたものを中心に紹介するので、これから技術マーケティングに取り組む方の参考になれば幸いです。
※日本企業の技術マーケティングのお手本とされる富士フイルムの成功事例は以下の記事で解説しています。
この記事の内容
本書は、これからマーケティング活動に取り組む技術者の方に向けて書かれており、技術を顧客の価値に結びつけるための考え方が解説されています。
本書の前半(第1章~5章)では、マーケティングと顧客価値に関する基本的な考え方を紹介したのち、ヒアリングやユース・オブザベーションなど顧客価値を探索する手法が解説されています。最後に、提供する価値を商品コンセプトとして言語化し、ストーリーにまとめる手法が解説されており、技術者が顧客価値の理解から商品化までの全体に関わるイメージを持つのに役立ちます。
また、各章で具体的な事例をあげて説明しているのが本書の特徴で、例えば顧客価値探索の事例として、サントリーの缶コーヒー「BOSS」の例が紹介されています。サントリーの開発スタッフは、深夜の工事現場への参加などを通じてユーザーである現場作業員と体験を共有し、「働く男の相棒」というコンセプトを抽出し、商品に落とし込んだそうです。
一方、本書の後半(6~8章)ではいかに顧客価値を守るかという観点で、競合に勝つための戦略が解説されています。企業のポジションを、業界で最大のシェアをもつ「リーダー」と、リーダーの座を奪おうとする「ドッグファイター」の2つに分類し、それぞれの立場でどのような戦略を選択すれば優位に立てるかを考察しています。
ここでも、具体的な事例が多数紹介されており、例えば勝ち続けるリーダー企業の戦略として清涼飲料業界で圧倒的なシェアを持つコカ・コーラのイミテーション戦略(他社の新製品と類似した商品を投入し、差別化を防ぐ戦略)を紹介しています。
また、ドッグファイターの戦略としては、例えば文具業界におけるプラスのeビジネス(アスクル)の事例が紹介されています。プラスは、「インターネットを通じた小規模事業者向けの販売」という、リーダー企業のコクヨが従来の販売ルートを活かしにくい分野でサービスを立ち上げ、コクヨが追従する前に急速に事業を拡大することに成功しました。
顧客価値の探索から商品企画、競合他社に勝つための戦略まで事例をベースに書かれているので、具体例を参照しながらマーケティング活動を進めたい方に参考になる一冊です。
本書では研究開発(R&D)とマーケティングを同時並行で進めるR&D&Mの考えを提唱しており、R&Dに関わる研究者や技術者も、事業化や市場導入のプロセスに積極的に関わることを推奨しています。シーズ技術の開発やニーズ探索などの初期段階から、量産・営業活動など最終段階までを7ステージに分け、各ステージで具体的にどんな業務が発生し、どう考えるべきかが筆者の実体験ベースで解説されています。
また、研究開発の成熟段階を考えるフレームワークとして、技術と市場を導入期(E)・成長期(G)・成熟期(M)・衰退期(A)の4段階で評価するマチュリティ評価などが紹介されています。筆者はこの評価方法をベンチャー企業の評価などに活用しており、技術の位置づけを客観的に評価する手法として参考になります。
本書の第4章では、新技術を「未完成技術」(量産の目途が立っていない技術)と、「未実証技術」(用途や需要の分からない技術)に分類し、それぞれのマーケティングにおける成功・失敗事例を解説しています。
例えば、未完成技術のマーケティングの成功例として、海外企業へのライセンスと量産化に成功した高分子接着剤技術を、失敗例として、需要に見合う量産性能を確保できなかったビール缶の冷却技術などを紹介しています。また、章末では、これらの事例を先述のマチュリティ評価に当てはめるとどうなるかも解説されており、技術の位置づけに関する考え方の理解が深まります。
実体験ベースで書かれているため偏りはありますが、特に著者の専門領域である化学・材料分野で新規事業に取り組む方に参考になると思います。
本書では、日本の製造業が世界でリーダーシップを取れない原因の1つが技術マーケティング力の弱さである、という考えに基づき、技術マーケティング力の強化と継続的な事業成長につながる戦略を提案しています。
第2~第3章が本書の中核となる部分で、技術マーケティング戦略の基本コンセプトを説明したのち、戦略を「仮説設定」、「ドメイン設定」、「ターゲット市場調査分析」、「戦略企画」の4フェーズに分けて解説しています。戦略のベースとなる仮説を立て、企画に落とし込むまでの大枠の流れがここで理解できます。
また、長期視点で技術マーケティング戦略を成功させるため、技術や顧客価値の長期的な変化を考慮している点が本書の特徴です。自社の強みである技術と、技術に対する顧客の期待が今後の5~10年でどう変化するかの流れを予測し、技術開発の方針やターゲット市場を決めるための考え方が解説されています。
また、長期的に強みを蓄積するための戦略として、自社と競合他社を含む業界全体のエコシステムづくりや、オープンクローズ戦略についても解説されています。これらの戦略はGoogleやアップルなどの成功例を参考に書かれており、長期的な成功につながる企画づくりの考え方が理解できます。
具体的な事例の解説は少ないですが、技術マーケティングに関連するフレームワークがわかりやすい図で解説されており、自社の戦略を俯瞰して見直す際に参考になると思います。
ここまで、技術マーケティングに関連した書籍について、技術者の目線で書かれたものを中心に紹介しました。実際に自社の技術を世に出すための検討を進めている方の参考になれば幸いです。
ただ、ディープテックや最先端技術の新規事業開拓を進める方には、書籍情報だけでは参考になる情報が十分に得られないかもしれません。弊社が提供する技術マーケティングの資料では、技術系スタートアップにおけるマーケティングの成功事例を詳細に解説しています。弊社ホームページの資料ダウンロードページから無料で入手して頂けますので、ぜひご活用ください。
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