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テスラとトヨタの経営戦略の違いを徹底分析

【詳説】テスラとトヨタの経営戦略の違い ~時価総額逆転の背景・EV開発戦略を特許情報から比較分析

発明塾セミナー:電動化・自動運転普及に向けてデンソー・ボッシュはどう事業を変革するか?

電気自動車(EV)のトップメーカーとして知られるテスラ(Tesla, Inc)は2003年に設立された新興企業ですが、時価総額ではすでにトヨタを既に上回っています。その背景には、両社の経営戦略の違いがあります。

本記事では、テスラとトヨタの戦略の違いを、特許情報を活用して分析します。まず、背景となる両社の経営理念を紹介した後、バッテリー開発など具体的な事例を元に、両社の考え方の違いを読み解きます。「EV市場のこれまでと今後」を見通す上でキーになる2社の分析として、ぜひご一読ください。

※脱トヨタに向けて電動化を急速に進めるデンソーの戦略については以下の記事で解説しています。

【図解】デンソーの強みを生かした電動化戦略 ~トヨタ車で培った技術の新用途を開拓するマーケティング戦略を解説

テスラとトヨタの時価総額の推移

テスラとトヨタの時価総額の推移(2015/01/01〜2022/12/31の期間。Seeking Alphaのデータをもとに作成)

テスラとトヨタの時価総額の推移(2015/01/01〜2022/12/31の期間。Seeking Alphaのデータをもとに作成)

まず、テスラとトヨタの立場がどのように変化したのかを理解するため、両社の時価総額(※)の動きを確認します。

上のグラフは両社の2015年〜2022年の時価総額の推移を示しています。2015年時点では、トヨタの時価総額(約2000億ドル)はテスラ(約280億ドル)の7倍近くあります。しかし、2020年頃にテスラが急伸し、逆転しています。

テスラの時価総額が2020年頃に急上昇した理由は様々ですが、例えば以下の要因があると考えられています。

  • EVへのシフトを後押しする動きが世界中で広がる。例えばヨーロッパ連合(EU)は「新車のCO2排出量を2021年比で2030年までに55%削減、2035年までに100%削減」という目標を設定(ジェトロの2021年7月のニュース参照)
  • テスラの業績が向上し、2020年に通期決算で初の黒字を出している。テスラの信頼性が向上し、2020年12月に米国の代表的な株価指標の1つである「S&P500」の構成銘柄に採用されることが決定(2020年11月のS&P Dow Jones Indicesの記事参照)

つまり、EVシフトという時代の流れと、テスラのビジネスが軌道に乗るタイミングが重なり、テスラの評価が一気に上昇したようです。では、なぜトヨタではなく新興企業のテスラがEVシフトをリードできたのか? 次項では背景にある両社の経営戦略を分析します。

※時価総額:「株価x発行済株式数」の値で、企業価値や規模を評価する指標になる

テスラとトヨタの経営戦略の違い ~クリーンエネルギー市場をつくるテスラと車のNo.1を目指すトヨタ

テスラとトヨタの目指す姿は互いに異なる

まず、IR資料などの一般情報を元に、両社のスタンスの違いを簡単に説明します。

テスラのHPによると、同社の目標は「優れたEVをつくること」ではなく、「持続可能なエネルギー(クリーンエネルギー)への移行を加速すること」です。2023年4月に公表された同社のマスタープラン(基本計画)3では、電気自動車への切り替えだけでなく、電力網や航空機のクリーンエネルギー化など「持続可能な社会」を実現するための構想が幅広く記載されています。

一方トヨタも2018年9月にリリースした「トヨタ行動指針」で環境保全活動について記載しています。ただ、活動の標語は『人と地球環境に配慮した車づくり』であり、あくまでも「車の開発のトップメーカー」を目指しています。

特許情報分析から見える両社の違い

テスラとトヨタのCPC分類のトップ5の比較(LENS.ORGの分析結果を元に作成)

テスラとトヨタのCPC分類のトップ5の比較(LENS.ORGの分析結果を元に作成)

両社の違いは、特許出願の傾向にもあらわれています。上図は、両社の共通特許分類(CPC分類)のトップ5を比較したものです。「どんな技術に力を入れているか」の傾向が把握できます。

テスラのCPCランキングを見ると、バッテリーなどEVのパーツだけでなく、「充電システム」に関する技術も上位を占めています。テスラが単にEVをつくるだけでなく、EVの実用化に必要な充電インフラに関する技術も開発し、特許化していることがわかります。

一方、トヨタのCPCランキングを見ると、バッテリー関連が多い点は共通していますが、水素燃料電池やハイブリッド自動車など「EV以外のエコカー(※)」に関する技術が上位を占めています。また、出願件数はテスラとは桁違いで、「多様なエコカーに関する膨大な特許ポートフォリオ」を保有していることがわかります。

以上まとめると、両社の経営戦略には以下の違いがあります。

  • テスラは「クリーンエネルギーの普及」を目標とし、エコカーの中でまずはEVにフォーカス。EVの普及に必要な技術はインフラも含めて開発し、新たな市場を早くつくる
  • トヨタは環境に配慮した「最高性能の車を世の中に提供すること」を目標とし、関連技術を幅広く開発する。様々なタイプのエコカーについてトップクラスの技術力と特許ポートフォリオをもつ

テスラがEVシフトをリードできた背景に、「EVの市場を早くつくる」ことにフォーカスする経営戦略があったと言えそうです。

※エコカー:燃費や排気ガスを抑えた、環境性能に優れた車

テスラとトヨタの開発戦略の違い ~既存技術を使い倒すテスラと最先端技術をつくるトヨタ

テスラとトヨタのバッテリー開発戦略の違い(テスラの図は同社特許 JP6490088B2、トヨタの図は同社特許 JP6856042B2より)

テスラとトヨタのバッテリー開発戦略の違い(テスラの図は同社特許 JP6490088B2、トヨタの図は同社特許 JP6856042B2より)

続いて、バッテリーを題材に両社の開発戦略の違いを解説します。上図は、両社の特許に記載された内容を元に、バッテリーの構造と設計思想を読み解いたものです。

テスラのバッテリーは、既存のリチウムイオン電池のバッテリーセルを大量につないだシンプルな構造です。バッテリーの性能を追求する上ではクオリティが高い設計とは言えませんが、新たな技術の開発は最小限で済みます。

一方、トヨタは2023年6月のリリースで、最新バッテリーとして「全固体電池」を発表しています。上図のように、全固体電池は電極と電解質を積層した構造をもち、コンパクトさと大容量を両立できます。

新たな材料と構造の開発が必要になるため、技術的なハードルは高いですが、トヨタは15年以上かけて地道に開発を進めています。先述したように、「最高性能の車をつくる技術力のトップメーカー」として開発を進めていることがわかります。

バッテリーの設計にも、「早く実用化することにフォーカス」するテスラと、「最高性能を追求」するトヨタの違いがあらわれています。「EVへのシフトの流れを先取りする」というフェーズではテスラがリードしました。ただ、今後はEVを含む「電動モビリティ」が様々な分野で普及するので、コア技術をもつトヨタにもチャンスがありそうです。

※トヨタの全固体電池開発については以下の記事で詳しく解説しています。

トヨタ全固体電池開発の本気度を特許から分析 ~2023年発表の方針と実用化・量産化に向けた開発状況

テスラとトヨタが広げるEV・電動モビリティの今後

以上、テスラとトヨタについて、時価総額の逆転が生じた背景にある両社の経営戦略と開発戦略の違いを解説しました。特許情報の分析から、「EVへのシフトを早く進めるための技術」にフォーカスするテスラと、「最高性能の車をつくる技術」にフォーカスするトヨタの違いが具体的に把握できました。

EV市場の立ち上げではテスラがリードしましたが、今後の電動モビリティの進化においてトヨタの技術も大きな価値を生み出すことが予想されます。両社の今後の活躍に期待したいと思います。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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