「工場ロボット」は、人間の手に近い複雑な動作が可能で、製造の自動化に広く使われています。以前は人の作業を代行する「産業用ロボット」が主流でしたが、最近は人と一緒に作業を行う「協働ロボット」も急速に進化しています。
本記事では、工場ロボットの全体像を理解するため、技術進化の流れと主要なメーカーを紹介します。後半では、日本企業の安川電機とオムロンが開発する最新の工場ロボット技術を紹介します。基礎から最新動向まで工場ロボットの全体像を把握したい方はぜひご参照ください。
初期の工場ロボットは「産業用ロボット」と呼ばれ、それまで人が行っていた作業を代替する目的で開発されました。1962年に米国のユニメーション社(Unimation Inc.)が開発したユニメートが世界初の産業用ロボットとされています(川崎重工のHP参照)。
その後、ABBやKUKA、ファナックなどの企業が参入し、産業用ロボットの市場は急速に拡大しました。Fortune Business Insightの記事によると、2022年の世界の産業用ロボット市場は、170億ドル近く(2兆円以上)に達しています。
ただ、これらの産業用ロボットが使える範囲には限界があります。産業用ロボットは一般的に、上図(左)のように、柵で仕切られた専用のエリアで作業を行うため「人と一緒に連携して行う作業」ができません。例えば機械の組立作業で、「強い力が必要な作業はロボットが行い、微調整は人が行う」といった分担ができると効率よく作業ができますが、従来の産業用ロボットには困難でした。
そこで2000年代から登場したのが「協働ロボット」です。協働ロボットは上図(右)のようにセンサーで周囲をセンシングし、作業エリアに作業者が近づくと自動的に動作を停止したり、スピードを落とすことができます。この機能により、産業用ロボットのように「作業スペース柵で囲う」といった安全対策が不要になります。
協働ロボットの世界市場で圧倒的なシェアを持つのがデンマーク企業の「ユニバーサルロボット」で、半導体・医薬・化粧品など様々な工場で同社のロボットが使われています。日本でも、安川電機やオムロンなど大手メーカーが独自の強みを生かして協働ロボット市場に参入しています。
次項では、日本のメーカーが開発する最新の協働ロボット技術を紹介します。
※ユニバーサルロボットについては以下の記事で詳しく解説しています。
安川電機は「モーター制御」に関する圧倒的な技術力を持つメーカーで、協働ロボット開発でもその強みを生かしています。
例えば、同社の特許 JP7063352B2 には、ロボットアームを柔軟に制御するための技術が記載されています。図のようにロボットの関節のそれぞれに、外部からかかる力を検知する「トルクセンサ」を搭載し、作業中にロボットのアームにかかる負荷をモニタリングしています。ロボットにかかる負荷の変動が激しい作業でも、状況に合わせて「強い負荷に適したモード」と「弱い負荷に適したモード」を切り替え、柔軟に対応することが可能です。
この特許では、アイスクリームなど「粘度の高いものをすくい取る作業」について詳しく書かれています。アイスをスプーンですくう作業を考えると、スプーンを差し込む時は強い力が必要ですが、いったんアイスがスプーンの上に乗ると、ほとんど力は必要ありません。
人間はこういった力の入れ具合を柔軟に制御できますが、ロボットアームで似た作業を行うと「負荷が強いタイミングでエラーが出て止まってしまう」といった課題が生じます。安川電機は、センシング技術によりその課題を解決しています。
ちなみに、弊社代表の楠浦も、コマツで風力発電の新規事業を立ち上げる際に、モーターの技術開発を安川電機にお願いしています。「止めすぎないブレーキ技術」という難しいテーマだったようですが、粘り強く取り組んで頂いたようです。
「ハードウェアのきめ細やかな制御」について信頼できる技術を持つメーカーとして、安川電機が協働ロボット市場でもさらに活躍することが期待されます。
一方、オムロンは「作業者と一緒に作業をするロボット」を超えて「作業者と高度に協調し、より働きやすくするロボット」の開発を目指しています。同社はこのコンセプトを「協調ロボット」と呼んでおり、同社のHPにコンセプトの詳細が記載されています。
オムロンが2023年に出願した JP2023029629A を見ると、協調ロボットによる「高度な協調」の具体的なイメージが理解できます。上図のように、作業者の動きをカメラなどのセンサで測定し、学習することで、作業者が次にどう動くかを「予測」するシステムが記載されています。予測した内容に応じて、制御システムがロボットが次に行う作業を指示します。
作業者の状況がカメラなどを通じてリアルタイムで把握されるので、作業者の状態に合わせたきめ細やかな「協調」が可能になります。例えば、「未熟な作業者に合わせてゆっくりと作業を行う」といった調節が可能です。
上記の事例では、安川電機はモーター制御技術により「人の手の細やかな動き」を再現し、オムロンは画像処理技術により「相手にペースを合わせた配慮」を再現しています。両社ともに、自社の強みを生かして既存の協働ロボットの課題を解決し、工場ロボットの進化をリードしています。
※オムロンの協調ロボットについては以下の記事でさらに詳しく解説しています。
以上、「産業用ロボット」から「協働ロボット」に至る工場ロボットの開発の歴史と、主要メーカーの動向、最先端の工場ロボットを開発する安川電機・オムロンの技術を解説しました。それぞれのメーカーが自社の強みを生かして独自に進化しており、今後さらに多様かつ高度な工場の自動化が進むと予想されます。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。
あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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