バイオCDMOは、抗体医薬品などバイオ医薬品の製造・開発の支援サービスを提供する事業です。バイオ医薬品の普及により市場が拡大しており、日本企業では富士フイルムがリーディングカンパニーとして知られています。
本記事では、バイオCDMOの基礎としてCDMOやバイオ医薬品の定義とメリット・課題を解説します。後半では、具体的な事例として富士フイルムがつくるバイオCDMOのプラットフォームと特許技術を紹介します。
バイオCDMOの全体像を把握し、新規参入や投資の機会を探りたい方はぜひご一読ください。
まず、医薬品業界におけるCDMOの位置づけを簡単に解説します。
CDMOは「Contract Development and Manufacturing Organization(医薬品開発製造受託機関)」の略語です。上図のように、主に製薬企業から、医薬品の開発と製造の業務を受託するサービスを実施する組織を示します。
かつては、薬の開発から製造まで製薬会社が一社でまとめて行うビジネスモデルが主流でしたが、最近はCDMOなどの組織を利用した水平分業が進んでいます。また、旧来の低分子医薬品だけでなく、タンパク質などの生体分子を利用した「バイオ医薬品」の開発・製造に対応する「バイオCDMO」も増加しています。
Global Informationの2024年2月のレポートによると、バイオ医薬品CDMOの市場規模は2024年に153億2,000万米ドル、2029年までに279億4,000万米ドルに達すると予測されています。5年で2倍近い成長が予測されており、多くの企業にとって魅力的な市場であることが分かります。
続いて、バイオCDMOが取り組むバイオ医薬品の特徴を説明します。
上図のようにアスピリンなどの「低分子医薬品」は比較的単純な構造をもち、アセチル化などの化学合成によって製造されます。一方、生体分子を使った「バイオ医薬品」は複雑な構造をもち、人工的に合成するのが困難です。そこで、動物や細菌などの細胞内でタンパク質やDNAを合成するプロセスが利用されます。
複雑な構造の生体分子を利用することで、旧来の低分子医薬品よりも付加価値の高い治療を実現できるのがバイオ医薬品のメリットです。例えばがん治療に用いられる抗体医薬品は、がん細胞を標的にした抗体を使うことで、がん細胞にターゲットを絞って攻撃することが可能です。正常細胞への影響が少ないため、旧来の医薬品に比べて副作用が出にくいメリットがあります。
一方、バイオ医薬品の課題として、製造工程が複雑で大きなコストがかかることがあげられます。一般的なバイオ医薬品は、以下の工程で製造されます(上図参照)。
生きた細胞を扱うため、特にセルバンクの構築や培養のプロセスを安定化させるのに設備投資と管理ノウハウが必要です。このため、一般的な製造業のノウハウを持つメーカーでも、バイオCDMOに参入するのは容易ではありません。
ただ、ハードルがあるということは、参入できれば高付加価値により大きな利益を上げるチャンスがある、ということでもあります。次項では、高付加価値のバイオCDMOに参入する日本企業の代表例として、富士フイルムの事例を解説します。
富士フイルムはバイオCDMOの設備増強を積極的に進めています。2022年9月のニュースイッチの記事によると、同社は2030年度にバイオCDMO事業で5000億円の売上高を目指す目標を発表しています。
上図のように、世界各地に開発・製造拠点を開設しており、世界規模のバイオCDMOプラットフォームを構築していることが分かります。以下に概要を整理します。
前述の抗体医薬品の他に、RNAワクチンなどの核酸医薬品についても開発・製造できる体制をつくっていることが分かります。国内にワクチンなどバイオ医薬品の製造拠点をつくることは、Covid-19などの感染症への対策の観点でも重要と考えられます。
※富士フイルムは2008年に富山化学を買収し、2018年に新会社として富士フイルム富山化学を設立(富士フイルムのリリース参照)。富山化学の主な事業は低分子医薬品の研究開発と製造販売
最後に、富士フイルムが保有するバイオCDMO関連の技術と関連特許を紹介します。
富士フイルムは買収による技術獲得だけでなく、自社の強みを生かしたバイオCDMO関連の技術開発も積極的に進めています。例えば上記の細胞培養に関する出願の発明者である香川英章 氏の特許出願を見ると、偏光板などの光学フィルムの開発を行った後、細胞培養の技術開発に取り組んでいます。
フィルムやメッシュなどの微細構造をつくる技術は富士フイルムの強みであり、その技術がバイオCDMOの分野でも生かされていることがわかります。このように、既存の強みである技術の用途を開拓し、新たな顧客を開拓するマーケティングは「技術マーケティング」と呼ばれます。富士フイルムは技術マーケティング戦略をうまく活用し、バイオCDMO分野で活躍している企業とも言えます。
以上、バイオCDMOの概要と富士フイルムのプラットフォームについて解説しました。最後に紹介したように、富士フイルムは単に買収で事業を拡大するだけでなく、技術マーケティング戦略を生かして成長しています。
本記事では紹介しきれませんでしたが、富士フイルムはバイオ医薬品以外に再生医療の分野でも事業を拡大しています。このあたりの動向の詳細は5/24に開催する弊社セミナーで解説します。
最後に、技術マーケティングに強みをもつTechnoProducerのサービスを少し紹介させて頂きます。富士フイルムのように「技術マーケティングによる事業転換」を実践したい方に向けて、弊社では「企業内発明塾」というサービスを提供しています。
サービスの特徴は、自社の技術の新用途について、「市場セグメント」といった抽象的なレベルでは終わらないことです。「この企業のこの人」というレベルまで具体化してターゲティングし、説得力のある新規事業の企画書を提案できます。
本記事でも後半の事例で、特許情報を元に簡単な発明者分析を行いました。「特許情報の活用」により「解像度の高い技術マーケティング」を実践できるのが企業内発明塾の強みです。サービスの参加者には、医療分野の事業創出に成功した実績のある、弊社代表の楠浦が直接支援させて頂きます。
また、楠浦が執筆する無料メールマガジンでは、サービス参加者の方からのお声や、企業の技術マーケティング事例を本記事よりもさらに掘り下げてご紹介しております。情報収集のツールとしてぜひご活用ください。
★セミナー動画リリースのご案内
発明塾®動画セミナー:事業転換のための新規事業マーケティング™
~ 既存市場がなくなっても生き残れる事業の生み出し方を富士フイルム・出光興産の事例から解説!
2024年7月26日(金)に開催したセミナーを収録した動画セミナーです。
単なる新商品ではなく「会社の新たな柱となる新規事業」をつくりたい方に向けて、新規事業ならではのマーケティングの進め方を、具体的な企業の事例を元に解説するセミナーです!
技術マーケティングの中でも特にハードルの高い「新規事業マーケティング」にフォーカスします。特に参考になる企業としてフィルム事業の衰退を乗り越えた富士フイルムと、全固体電池開発で石油依存からの脱却を進める出光興産の事例を紹介し、事業創出のプロセスを明らかにします。現状を打破したい方は是非ご活用ください!
★本記事と関連した弊社サービス
①企業内発明塾®
「既存事業の強みを生かした新規事業の創出」を支援するサービスです。技術マーケティングのプロである楠浦の直接支援により、BtoC、BtoBを問わず、あなたの会社の強みを生かした新規事業の企画を生み出せます。
例えば「ガソリン車の部品技術の新用途を医療・介護分野で創出」・「スマートフォン向けの材料の新用途を食品分野で創出」など、次々に成果が出ています。
➁無料メールマガジン「e発明塾通信」
材料、医療、エネルギー、保険など幅広い業界の企業が取り組む、スジの良い新規事業をわかりやすく解説しています。半導体関連の技術に関する情報も多数発信しています。
「各企業がどんな未来に向かって進んでいるか」を具体例で理解できるので、新規事業のアイデアを出したい技術者の方だけでなく、優れた企業を見極めたい投資家の方にもご利用いただいております。週2回配信で最新情報をお届けしています。ぜひご活用ください。
★弊社書籍の紹介
弊社の新規事業創出に関するノウハウ・考え方を解説した書籍『新規事業を量産する知財戦略』を絶賛発売中です!新規事業や知財戦略の考え方と、実際に特許になる発明がどう生まれるかを詳しく解説しています。
※KindleはPCやスマートフォンでも閲覧可能です。ツールをお持ちでない方は以下、ご参照ください。
Windows用 Mac用 iPhone, iPad用 Android用
◇本コラムの内容にご興味をお持ちいただけましたら、関連する幅広い情報を盛り込んだ弊社の新刊書籍もぜひチェックしてみてください。本書籍特設サイトはこちら
畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。
あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略