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オカドの経営戦略と技術戦略

【詳説】オカド(Ocado)とはどんな企業か? ~ネットスーパーを変革する経営戦略をIR・特許から分析

英国企業のオカド(Ocado Group)は、ネットスーパーを事業の中心とする小売業者です。同社は単なる小売業者ではなく、食品の物流に関する高度な技術を保有しており、イオンなど著名な大手小売企業にも技術提供を行っています。ただ、その全体像はあまり知られていません。

本記事では、オカドの経営戦略とビジネスモデルに加え、「物流の自動化」に関する同社のコア技術を詳しく解説します。「スマート物流の最先端企業」の全貌を端的にお伝えするので、物流に関わる方はぜひご参照ください。

<参考:Ocad Group基本情報>
ティッカーシンボル:OCDO
設立年:2000年
ウェブサイト:https://www.ocadogroup.com/

オカドの経営戦略とビジネスモデルの概要

オカドの収益構造とセグメントごとの事業内容

オカドの収益構造(同社の2022年のFinancial Statementsを元に作成)

オカドの収益構造(同社の2022年のFinancial Statementsを元に作成)
※元の資料ではグループ内での取引額を示す「Group elimination」という項目があるが、グラフでは省略

まず、オカドのビジネスモデルを把握するため、同社の収益構造を整理します。上のグラフは同社のセグメントごとの収益額を示したもので、以下のセグメントが含まれます。

  • Retail(小売業務):イギリス国内のオンライン小売業務。食料品や生鮮食品が中心
  • UK Solutions & Logistics(英国内ソリューション):英国の小売業者向けにオカドの技術やインフラを提供
  • International Solutions(海外ソリューション):海外の小売業者向けにオカドの技術やインフラを提供

オカドはもともと食料品のオンライン小売業者としてスタートしており、「Retail(小売業務)」事業が収益の大半を占めています。ただ、伸びているのは他社にソリューションを提供する事業で、特に海外ソリューション部門の売上は2021年から2022年で2倍以上に伸びています。

日本でも、小売大手のイオンがネットスーパー向けにオカドの自動倉庫を活用することを発表しており、オカドの技術は世界中に普及し始めています(2023年4月の日経新聞参照)。

オカドの提供するプラットフォームの概要

オカドのスマートプラットフォームのイメージ(同社HPの図に追記して作成)

オカドのスマートプラットフォームのイメージ(同社HPの図に追記して作成)

では、オカドは具体的にどのような技術を保有しているのでしょうか?同社は自社のHPで「Ocadoスマートプラットフォーム (OSP) 」の構想と具体的な技術を紹介しています。上図のように、同社のプラットフォームは発注から配達までのプロセス全体を網羅しており、オンライン小売業務に必要な仕組みを丸ごと提供しています。つまり、「オカドに頼めばすぐにオンライン小売事業を始められる」という状況が同社の目指すところと言えます。

オカドが保有する技術として、例えば以下が知られています。

  • 倉庫内に商品を収納するための構造体や、商品を搬送するロボットの技術
  • トラックへの商品の積み込みや、顧客への配送を自動化する技術
  • 複数の倉庫の一括管理や、配送ルートの最適化を支援するクラウドシステム

次項では、オカドのコア技術をより具体的に把握するため、同社の特許情報を読み解きます。

オカドのイノベーションの詳細を特許から読み解く

スマート倉庫のコアになるロボット技術

オカドの倉庫ロボットシステムの概要(JP2022180403Aの図に追記して作成)

オカドの倉庫ロボットシステムの概要(JP2022180403Aの図に追記して作成)

オカドのコア技術が、ロボットを使った「スマート倉庫」に関する技術で、商品の倉庫管理を自動で行うシステムに関する特許を多数出願しています。例えば、JP2022180403A「ロボットサービス装置」では、上図のように格子状のフレーム内に積み重ねられた商品をピックアップするロボットを使った技術が記載されています。

特許の明細書にはロボットの清掃などのメンテナンス作業を自動で行うシステムについても記載されています。倉庫内作業を「完全自動化」するための技術をつくりこんでいることが分かります。

ロボットによる倉庫管理は、最近では一般的になりつつありますが、オカドはロボット倉庫に関する出願を2013年頃から行っており、10年前から構想を練っていたようです(例えばWO2013167907A1は2013年に出願)。特許出願の分析から、同社がスマート倉庫の先進企業であることが分かります。

Myrmex買収で獲得した「無人配送車」の技術

配送システムに関するオカドの出願(US20210110339A1に追記して作成)

配送システムに関するオカドの出願(US20210110339A1に追記して作成)

一方、オカドの特許出願US20210110339A1では、倉庫から商品を配送する作業の自動化に関する技術が記載されています(上図参照)。明細書には、オンラインで注文された内容に応じて補充するスペースを準備するシステムや、トラックにコンテナを自動で積み込むシステムが記載されています。オカドが「倉庫内」だけでなく「倉庫からの搬出(トラックへの積み込み)」の自動化も考えていることがわかります。

また、上記の特許は2020年に「Myrmex」という米国のロボティクス系スタートアップから出願され、2023年にオカドに譲渡されています。オカドは2022年5月のリリースでMyrmexの買収を発表しており、買収により新たな技術を獲得したようです。

本記事の前半で説明した「スマートプラットフォーム」の実現に向けて、オカドが自社技術の開発だけでなく、買収による技術の獲得も進めていることがわかります。自社の理想を最短で実現する戦略として参考になります。

物流の自動化をリードするオカドの今後

以上、オカドの経営戦略とコア技術について、IR情報と特許情報を元に詳しく解説しました。現時点では小売を中心としていますが、特に海外企業へのソリューション事業が急速に伸びており、変革期にある企業と言えます。

また、オカドは物流の自動化に関する技術開発に加え、買収も積極的に行っており、スマート物流のプラットフォームを急速に拡大しています。「オカドに頼めば最先端のネット販売事業がすぐに始められる」という存在になりつつあり、今後の展開が楽しみです。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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