TechnoProducer株式会社 CEO/発明塾 塾長の楠浦(くすうら)です。
今回は、金融機関向け「発明塾」参加者である投資アナリスト(金融アナリスト)のAさんと2023年の8月に行った対談の内容を紹介しながら、「知財・特許を用いた投資」について、発明塾の考え方や指導内容の一部をご紹介いたします。
対談は、弊社Youtubeチャンネル「知財・発明チャンネル」内の動画として公開されています。
さらに詳しい内容を知りたい、金融機関向け「発明塾」参加者の生の声が聴きたい、という方はぜひご覧くださいませ。
特許で選ぶ「投資先」~特許・知財から企業の何が分かるか?(ゲスト:投資アナリスト A 様)ー発明塾「塾長の部屋」【対談編】第5回
なお、本文中で引用している投資アナリストAさんのコメントは、対談時の内容をもとに冗長な文言を削除するなど、わかりやすいように編集している部分がありますので、ご容赦ください。
この記事の内容
Aさんは、日本の企業に投資する株式投資ファンドの運用に携わっていらっしゃいます。その投資ファンドは、基本的には、中長期で企業価値が成長していくような企業を厳選して投資する、というものです。Aさんはその投資ファンドの投資先企業について、特許・知財の情報も含め、多面的に調査を行い、投資先としてふさわしいかどうか判断しておられるわけですね。実際、対談の中で「どういう企業がいい技術を持っていて、中長期で伸びていくポテンシャルがあるのかを見る時に、特許情報が使える」とおっしゃっていただいています。
例えば、ある技術分野において「キーワード検索」を行うことで、有望な技術を持っている企業の候補を抽出する、といったことも、日常的に行っておられます。また、そういう作業の中で「意外な有望企業」が見つかることがある、ともおっしゃっています。この辺は、僕と同じですね(笑)。僕が一緒に作業をし、ディスカッションしていますので、当たり前かもしれませんけれど。
ご存じの通り特許情報は、基本的には出願されてからそれなりの時間が経っている情報です。IR情報が最低でも4半期ごとに公開されるのに比べると、特許は出願から1年半後の公開ですので、遅いですね。また、1つ2つささっと見たところで、何がわかる、というものでもありません。この辺も、IR情報とは大きく異なる部分です。だから僕も、特許情報の活用は、中長期投資の視点で、本気度などを評価するために使っていくのが一つの王道だと思っています。投資アナリストとしてのAさんの使い方は、まさに王道、ということですね。
投資家の方に特許や知財の話をすると、「この特許の権利は強いのか」とか「この特許持ってるから大丈夫なのか」みたいな質問がよく出ます。興味を持っていただくのは非常にありがたいのですが、特に知財について専門知識をお持ちでない投資家の方にとっては、その権利の「強さ」を評価するのはちょっとハードルが高い気がします。
投資アナリストであるAさんの場合、権利の評価ではなく、企業が「どのような課題を解決する技術を持っているのか」を、大まかに把握することに使っておられます。例えば対談では、「特許情報って、ほぼお約束のようにその技術で解決しようとしている課題が必ずどこかに書かれているんですよね。なので、自分の専門外の結構難しい技術領域であっても、まず日本で出願されている特許を読んで、そこで把握しています」と仰っています。
その上で、ある企業の特定の技術領域に絞って特許を読み、解決しようとしている課題が何なのかをエクセルでリストにまとめる、という作業をしておられるんですね。ここまでくると、特許マップと呼ばれるようなものになっています。こういう作業を通じて、「ある企業がどういう課題を解決しうる技術を持っていて、それぞれの技術がどの製品やサービスに結びついているのか、分かる」と仰っています。
いずれにせよ、特許に書かれていることを100%理解しようとするのは難しいので、わからないなりにうまく活用するコツを自分の中で整理しながら、「学びながら、成果を出す」方法で、Aさんは特許情報の活用を進めておられます。金融アナリスト・投資アナリストでここまでの作業をしていらっしゃる方はまだまだ少ないですので、これだけでも十分なアドバンテージがあるわけですね。
Aさんは、他社との比較を通じて、投資先候補企業が保有する技術や強みについての「解像度を上げる」という作業も、実務で行っておられます。例えば「CPC(技術分類)」を用いて、同じ事業分野で事業を行っていて、一見似たような技術を保有していると思われる企業について、それぞれの強みや独自性を把握できますよね。
Aさんは対談の中で、殺虫剤業界の「アース製薬」「フマキラー」「大日本除虫菊」の3社について、特許に付与されたCPCの上位を比較して気づいたことを、次のように述べておられます。
”アース製薬とフマキラーのトップ5のCPCはだいたい同じなんですが、大日本除虫菊の場合、前の2社にはないカテゴリー「殺微生物剤」がトップ5に入っています”
ドラッグストアで商品を見る限りでは同じように見えてしまう殺虫剤業界の企業も、実は、保有技術や強みには、明確な違いがあるわけですね。こういうところから、それぞれの企業が今後どういう方向で研究開発を行うつもりなのか、把握していくそうです。
また、今回は取りあげませんが、IR部門へのヒアリングの前に、たとえ10分でもよいので特許検索を行って、CPCのランキングを見たり、競合他社と比較して、違いがありそうだと感じた部分をさらに調べる、という作業を行うことが、とても重要なんだそうです。こういうちょっとした作業で、ヒアリングで取れる情報が大きく変わってくるのを実感している、とおっしゃっています。
いかがでしたか?
今回は、金融機関向け発明塾に参加されていた現役の投資アナリストAさんのお声をもとに、「知財を用いた投資」について、発明塾の手法と考え方をご紹介しました。少しおさらいしておきましょうか。
1つ目は「企業のポテンシャルを見る」でしたね。これは、今後成長が期待される技術領域などの「キーワード」での検索で、有望な技術を持っている企業の候補を見つける、というものですね。「意外な企業が見つかる」と、投資アナリストの方もおっしゃっているのが、印象的ですね。
2つ目は「”権利”ではなく”課題”を知る」でした。知財の専門家でない方が、いきなり「権利」の評価をするのは難しい。Aさんは、「まずはできることから手をつけて、結果を出していく」方法で、特許情報の投資活用を進めておられます。まさに「発明塾」式ですね。
3つ目は「”他社比較”を通じて”解像度”を上げる」でした。Google Patents では特許検索結果の下(横)に、「CPC」と呼ばれる技術分類のランキングが出ます。これを使っておられるんですね。発明塾でも「分析とは比較」だと、いつもお伝えしています。同じ業界の企業でも、それぞれ強みや保有技術は異なるわけです。「違い」を見ることで、「解像度」を上げていくんですね。
他にも、「知財を知るとヒアリングの深さが変わる」「知財から最先端技術動向が把握できる」など、投資の現場で知財の情報をどう活用しているか、様々なお話をしてくださっています。ご関心ある方は、動画もご覧ください。
楠浦 拝
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