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【事例紹介】事業転換で既存事業の行き詰りを解消する~強みから新分野を開拓し事業を再構築(1)

【事例紹介】事業転換で既存事業の行き詰りを解消する~強みから新分野を開拓し事業を再構築(1)

リストラからの新規事業を2回経験してわかったことは?

TechnoProducer株式会社 CEO/発明塾 塾長の楠浦(くすうら)です。
今日は、既存事業がじり貧だ、あるいは、行き詰っている、という方々に是非読んでいただきたい内容です。現在例えば、事業転換や事業再構築、もっと深刻な例では企業再建をしなくてはならない、そのために新分野や新市場を開拓したい、新規事業を始めたい、という方からのお問い合わせが増えています。そういった方が、私の経験から学べることを少しお話しします。

僕は、「リストラ」からの「新規事業」を、規模も業界も全く違う企業で、しかもまったく異なる立場で2回経験しています。
今まで、こういうお話が役に立つと思っていなかったので、あまりここにフォーカスして話していなかったのですが、最近、既存事業が行き詰っていて何とか新規事業で活路を見出したい、新市場を開拓して事業転換や事業再構築を行いたい、既存事業のジリ貧状態から抜け出したい、というお話をよく聞きます。

リストラからの新規事業の1回目は、2002年に風力発電向け歯車の新規事業を担当するために小松製作所に転職したときの経験です。
当時、コマツでは史上初めての大規模リストラをやっていたのですが、その陰で新規事業開発も必死でやっていたわけです。

リストラからの新規事業の2回目は、自分たちで創業したナノインプリント技術のスタートアップで経験しました。会社立ち上げ当初に想定していた事業開発が完全に行き詰まり、まさに「事業転換」「事業再構築」といえる方針転換を行いました。スピード、精度、使える経営資源の制約など、非常に厳しい状況下での事業転換でした。「強みを活かす」ことで「スピード勝負」で結果を出す、という考え方にたどり着いたのは、この2回目の経験によるところが大きいと感じます。

詳細は、以降でお話をします。関連する内容や経緯をすべてお話すると長くなりすぎて、ポイントが分かりづらくなってしまいますので、ここでは事業転換や事業再構築、企業再建に関連する内容や経緯だけに絞り込んでお話しします。

また、ここまでドラスティックな例ではありませんが、ナノインプリント技術のスタートアップ時代に、ある素材系メーカーから「新市場の開拓」について相談を受けて、取り組んだ事例があり、これも参考になると思いましたので、紹介いたします。
つまり今後、僕が経験した事例を3つ紹介することになります。
まず今回は、第1回目ということで小松製作所時代の事例を、経験談を中心にお話します。

歯車製造技術を活かした新規用途開拓~リストラ下の入社、新市場への進出

僕は、大学院を出て新卒で1997年に川崎重工に入社し、その後、小松製作所で風力発電向け歯車の新規事業を担当するため、2002年に小松製作所に転職しました。
小松製作所の事業の大半は、当時から建設機械の製造販売ですので、風力発電向けは誰も経験したことがない新規事業ですね。
2002年当時、ゼネコン不況と呼ばれる不況の時期で建設機械がパタリと売れなくなり、コマツでは希望退職を募るなど史上初めてという大規模なリストラをやっていました。当時、社長は坂根さんです。「ダントツ」で有名な方で、いつも「大規模なリストラをやったらなければならなかったのが辛かった」というお話をされていますね。それぐらい厳しい状況だった、ということです。
しかし、単にリストラするだけでは企業は成長しませんし、再建できません。当然、その陰で新規事業開発をやっていました。その一つが、風力発電向けの歯車装置の製造販売事業です。

分かりやすいように、僕がコマツに入社した当時の状況を整理しておきましょう。

・2002年に、ゼネコン不況でリストラの中、新規事業メンバーとして小松製作所に転職
・新規事業は、風力発電向けの歯車装置の製造販売
・すでに国内大手風車メーカーに、事業の足掛かりになる歯車装置を販売を開始、つまり最初の商品は立ち上がりつつあった
・不況でリストラをしているので、工場の稼働率は下がり設備は空いているので、製造能力の有効活用という側面もあった

強みや事業資産を活かして新規事業や事業転換、事業再構築を行う、という事例の中には、こういう「製造能力」や設備などを活かすという着想がきっかけのものも、結構ありますね。
弊社が「企業内発明塾®」で相談を受ける中でも、類似の事例はかなりあります。
タイトルでは「歯車製造技術を活かした」としていますが、まずは「歯車製造能力」が新規事業のきっかけだったということです。

コマツの強みは何だったのか?~建設機械と風力発電の意外な共通点、取締役直轄での運営

小松製作所(以降、コマツ)がなぜ風力発電向けの歯車に参入したのか。そこで活かせる強みやアセット、事業資産は何だったのか。皆さん気になりますよね。

実は、風力発電機の中には、風車の回転運動を電気に変えるために、多数の歯車が使われています。イメージとしては、車のエンジンの力をタイヤに伝えるために、多数の歯車が使われているのと同じですね。川崎重工でバイクのエンジン開発をしていた僕が、コマツで風力発電向けの新規事業を担当することになった背景には、こういう「意外なつながり」があるわけです。

当然、建設機械にも多数の歯車が使われており、しかもかなり大型のものが使われています。また、建設機械では耐久性が非常に重視されるので、耐久性が非常に高い、高品質の大型歯車を大量に作れる能力が、コマツにはあったわけです。
風力発電装置は不便な土地に設置されることが多いうえに、それ自体が非常に高い塔(タワー)の上にあります。そうなると、メンテナンスが難しくなりますね。それが理由で、使われる歯車には建設機械並み、またはもっと高い耐久性が要求されるとわかり、コマツの強みが活かせる!となったわけです。

大規模リストラが進行している中の新規事業立ち上げですので、既存の建設機械事業に関わっている方の中には、新規事業といっても所詮お遊びだろう、将来どれぐらい儲かるの?風力発電ってそもそも普及するの?という感じの陰口を言う方もおられたようです。この新規事業が取締役直轄のプロジェクトだったことと、当時の事業部長が非常にそのあたりを上手く進める方だったので、あまり表立って問題にはなりませんでした。ただ、やはりプレッシャーは相当なものでしたね。

強みがあっても事業転換に成功するとは限らない~競合との関係、知財問題

僕がコマツに入社した時点で、まずは足がかりになる商品がファーストユーザーに売れ始めており、新規事業としては「次の一手」の段階に入るところでした。ちなみに、この「足がかりになる商品」は、建設機械向けとほぼ同じ製品で、性能もコストも顧客要望にマッチしたものでした。仕様が建設機械向けのものとほぼ同じなので、特別な開発が必要なく、事業立ち上げ段階に最適な商品でした。

次の一手になる商品は、建設機械で使っている歯車装置をベースに、新たに開発する必要がありました。だから僕が雇われたわけですね(笑。そして残念ながら、「競合他社」が存在しました。既に市場がある、ということは、誰かがすでにやっている、ということですね。コマツにとっては新事業であり新市場ですが、世の中的には先人がいたわけです。
風力発電向けの歯車装置は、独自の商品を提案していくわけではなく、相手の仕様でつくる形態のビジネスでしたので、当然「相見積もり」「価格競争」になります。結論から言うと、新規開発したのですが最終価格が合わず、僕が担当した「次の一手」の商品はお蔵入りになってしまいました。

まぁ、これは今から考えると予想できた結果ですね。当時のコマツは、高い耐久性で高品質の歯車を作る技術は持っていましたが、安く作れるかと言われると、それはまた別の話でした。競合は既に開発を終えて量産していましたので、むしろその時点で参入するにはスペックや品質ではなく、「(圧倒的に)安く作れる」「安く売れる」という強みが必要だったわけです。顧客サイドでも既に量産が始まっているので、スペックは変えたくないですからね。

もちろん、顧客の製品に何か大きな世代交代の流れがあれば、そこは参入のチャンスですね。実際、そのチャンスが来ました。これまでにない、まったく新しいタイプの風車を開発するということで、新たな仕様書が出てきました。ちょっと常識外れの機構を盛り込む必要があり、それはそれで開発は難航しましたが、チャンス到来でした。
この展開の場合に難しいのは、新たに必要になるイノベーションが、自社の強みと合致しない可能性があることです。実際、当時まさにそれに陥っており、一旦新規事業として始まったものの、次の一手で苦しむという展開になりました。

今から思えば、まずは既に売れ始めている「足がかりになる商品」の販路拡大とさらなる新分野開拓、新用途開拓に力を入れるべきだったように思います。技術マーケティングの中でも、特に「マーケティング」を中心にした手法ですね。開発無しでほぼそのまま売れていたわけですから、マーケティング投資と顧客拡大のバランスを取りながら事業開発を進めることができたはずです。当時の顧客ありき、開発ありきになってしまって視野が狭くなった状態で先を急ぎ過ぎた、という感じでしょうか。

またその後、最大手の顧客企業が他者知財の侵害問題で事業縮小に追い込まれるなど、当時想定できていなかった事態も起きて、結局、風力発電向けの歯車装置事業はあまり伸びませんでした。しかし、事業ですから結果がすべてです。今から思えば、顧客の知財リスクについても十分デューデリジェンスすべきだったんでしょうね。

弊社TechnoProducer株式会社の新規事業提案の支援サービス「企業内発明塾」での指導には、当時の数多くの反省点が活かされています。

新規事業は成功だったか?~事業転換には至らず、ただ、人は育った

リストラからの新規事業の1回目として、コマツ時代の風力発電向け歯車装置の新規事業のお話をしました。会社の歴史上初めての大リストラの嵐が吹き荒れる中、逆風をものともしない熱意ある人たちと、新規事業に取り組むチャンスに恵まれたわけです。建設機械に匹敵する事業なんてなかなか誰も考えつかないわけですが、風車ならあり得るかも?とそこに集まった人は思った。その現場に居合わせたこと、および、そこで顧客や製造現場の人と苦労し経験したことは、その後の人生において貴重な財産になりました。

事業自体は大きく花開かなかったのですが、当時の事業部長には非常に可愛がっていただき、結果として事業開発と経営の基礎を学ぶことが出来ました。これも貴重な財産になりました。失敗しても新規事業に取り組むことには意味がある、とはなかなか大声では言いづらいのですが、仮に最終的に失敗したとしても、その過程でリーダー人材が育つのは間違いないと僕は思っています。

先日、ある若い経営者の方とお話をしていて、「なんで経営者になろうと思ったのか」という話題になりました。話していくうちに、僕とその方の共通体験として、「社長のかばん持ち」的な経験を一定期間経験していたことが分かりました。「門前の小僧、習わぬ経を読む」ということわざがありますね。これは、お寺の前に住む子供たちが、日常的にお経を聞いているため、特に習うことなく自然にお経を読むようになる、ということで、人の成長には環境が大切だという意味です。

新規事業に取り組むことで、経営者に一段と近い立場で仕事をすることになりますし、自ら経営者の立場で物事を考えることになります。新規事業チームのメンバーも、経営者や新規事業リーダーと密にコミュニケーションを取ることになるでしょう。人が「育たざるを得ない」環境が、自然に出来上がるわけですね。もちろん、事業は結果出してナンボだと僕は思っていますが、100%上手くいくとは限りませんし、100%絶対上手くいくことだけやってても企業も組織も人も成長しない。「チャレンジ」が、人と組織と企業を大きくするわけで、それが「新規事業」だということですね。

TechnoProducer株式会社の新規事業の実働支援サービス「企業内発明塾®」も、最近は「リーダー人材育成」という観点から継続的に利用いただく例があります。チャレンジできる仕組みを創るための一つのツールとして、ご活用ください。

楠浦 拝

 

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【事例紹介】事業転換で既存事業の行き詰りを解消する~強みから新分野を開拓し事業を再構築(2)

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①企業内発明塾®
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