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【事例紹介】事業転換で既存事業の行き詰りを解消する~強みから新分野を開拓し事業を再構築(3)/まとめ

【事例紹介】事業転換で既存事業の行き詰りを解消する~強みから新分野を開拓し事業を再構築(3)/まとめ

化学企業の事業転換・事業再構築の模索事例~オープンイノベーションやアライアンスも「技術マーケティング」

TechnoProducer株式会社 CEO/発明塾 塾長の楠浦(くすうら)です。
今回も、既存事業がじり貧だ、あるいは、行き詰っている、という方々に参考にしていただきたい事例の3つ目の紹介です。最後に、3つの事例を踏まえた「振り返りとまとめ」も行います。現在例えば、事業転換や事業再構、もっと深刻な例では企業再建をしなくてはならない、そのために新分野や新市場を開拓したい、新規事業を始めたい、という方は、ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。

前回は、ナノインプリント技術の事業化を目指すスタートアップで僕が経験した失敗と成功を、かなり赤裸々に書きました(笑。
ナノインプリント技術はキヤノンにより半導体分野でも無事に事業化されましたので、関係者の方も当時のことは笑って振り返れる状態になっていると思います。当時としては誰が考えても無理だった。でも、最終的には事業化できた。誰も傷つかない結果です、ある意味、ハッピーエンドですね。キヤノンさん、本当にありがとうございます(笑。

今回の(3)で取りあげる内容は、前回のナノインプリント技術の事業化の裏話というか、それと対になるものです。実は、ナノインプリント技術を細胞培養と高輝度LEDで事業化するためには、ある「ポリマー」(樹脂)が欠かせなかったのです。それがどうやって生まれたか。実はここにも、ある化学系企業の「自社の強みや資源を活かしたい」という取り組みがあったのです。オープンイノベーションやアライアンスという言葉がよく使われるようになりましたが、結局そこでも「自社の強みや資産が活かせて、勝てるのか」が問われます。
つまり、オープンイノベーションやアライアンスも「技術マーケティング」視点で取り組む必要があるんですよね。

自社素材や技術シーズの新市場開拓と事業化を支援~特許情報分析を用いて目利き、事業化検討、企画提案まで

実は、僕たちが立ち上げたナノインプリントのスタートアップには、自分たちの事業開発以外に、特許情報分析を用いた事業化のコンサルティングを行うチームがいました。今でいう「IPランドスケープ」サービスのようなことをやっているチームがあったんですね。実は、創業当初のメンバーの多くが元々所属していた三井物産系のナノテクスタートアップには、知財部門に特許情報を用いた事業戦略の策定を行うチームがありました。彼らは、社内プロジェクトのために特許情報分析を毎日行っていました。そのメンバーの一部が創業後に続々と加わってくれて、特許情報分析を用いた事業化のコンサルティングを行うチームが再結成されたんですね。

特許情報分析を用いた事業化のコンサルティング事例としては、例えば理化学研究所や産業技術総合研究所の技術シーズの目利き、事業化検討、企画提案などを行いました。コンサルティングのチームだけでは手が足りないのと、技術分野が網羅できないので、僕も手伝っていました。介護ロボット、血糖値センサー、EEGセンサーのデータ活用、唾液センサーから教育用の玩具まで、本当に多岐にわたる分野の技術シーズの目利きと事業企画の提案を行いました。本筋の仕事からはかなり脱線するのですが、調査分析の過程で、ナノインプリントの技術開発や用途探索のヒントになる情報が見つかることもあるので、必ずしも脱線が悪いということでもありませんでした。仕事の気分転換に仕事をする感じですね(笑 あと、短期間で数多くの企画を提案するので、スジの良い企画とはどういうものか、を自分の中で客観的に定義するよい機会になりました。研究者にも多数ヒアリングしたので、「なぜ多くの研究シーズが事業化されないか」についても、なんとなく肌感覚で理解できたのも良かったですね。

このコンサルティングサービスは顧客からの評価が非常に高く、最初は国の研究機関からの依頼が中心でしたが、徐々に化学系企業から依頼が来るようになりました。化学系企業の依頼だから化学のメンバーが担当するわけですが、化学に強いメンバーはデバイスや機械に弱い、など、専門性の高いスタッフにも分からない分野があるので、「何でも屋」だった僕の所に相談が来る例が結構ありました。そんな時、ある化学系企業(以降、A社)から持ち込まれた案件が、僕のナノインプリントの技術開発・用途開拓と「ビビッと」(笑)結びついたんですね。余談ですが、この時の経験から、自分たちが必要とする情報が常に入ってくる仕組みって結構大事だなと思っています。

自社素材の新市場開拓と高付加価値化~副生成物の用途を見つけるには?

A社が持ち込んだ案件は、自社で「エチレン」を製造する際に出る、副生成物と言われる化合物の有効利用でした。「副」生成物ですから、「主」ではない。つまり、本来欲しいモノではないわけですね。やむを得ずできるもの。本来の目的のものではないので、そのままは使えない。だから極端に言うと、捨てることになる。これの用途を探したい、というのが先方の目的でした。この時点では、何が強みかもわからない、非常に漠然とした話なのですが、もうしばらくお付き合いください。こういう話が意外に多い、というのが、僕の20数年の経験から分かったことなんです。最初から強みが明確だったら、たぶん他人には相談しないんです

化学に詳しくない人には少しわかりづらい話かもしれませんが、化学業界の方のために、もう少し詳しく書いておきます。その副生成物は、「ジシクロペンタジエン」(※)と呼ばれるものです。僕の記憶では、エチレンを製造する際にはやむを得ず出てしまうもの、だということでした。「ペンタ」とあるので5員環とよばれる「5つの炭素が環/輪(わ)になった化合物」ですね。炭素が6つのものは、例えばベンゼンなどが有名ですね。炭素が6つだと使い勝手が良いのですが、5つだと途端に使いづらくなる。ざっくり言うと、そういう話でした。ただ、まったく使えないわけではなく、5員環の化合物は光学用などで一部使われ始めている、とのことで、まだまだ他にも使い道があるんじゃないか、というのが、持ち込んだ化学系企業の企画担当者の意見でした。
※ 実際には、「ジシクロペンタジエン」(DCPD)をそのまま使えないかという話ではなく、DCPDをさらに反応させていろいろな化合物を作って、それらの用途を見つけたい、という結構壮大な話になります。化学系は、こういう話が結構多いですよね。

用途探索の話になると、網羅すべき技術分野が多岐にわたるので化学専門の調査スタッフだけでは対応しきれなくなり、だいたい僕の所に相談が来ました(笑。この時も、たまたま僕がオフィスにいたので、社長に「楠浦ちょっと来て」と言われて、一緒に話を聞きました。一通り話を聞いた後に、「光学樹脂に使えるんだったらオモロいですね、ナノインプリント技術に興味ありますか?」と提案してみたところ、興味がある、とのこと。結論として、僕たちがナノインプリント用に必要と考える物性の樹脂はたぶん作れるだろう、だから少し試作してみましょう、という話になりました。当時、ナノインプリント専用に開発された樹脂は世界中に存在しなかったので、互いに手探りではありましたが、誰もやったことがないんだったらやってみるのも面白いだろうということで乗っていただけた感じでしたね。

先方から見ると、以下のような感じですね。

なんかよくわからんけど、ナノインプリントという新しい技術があるらしい。市場として、半導体や光学、バイオなど、ナノ構造が手軽に作れることで新たに生まれる市場がいろいろあるようだ。すでに問い合わせや要望が多数来ており、そういう市場に向けた用途開発をどんどんやってくれる、ということなので、試作品を提供して、データなり情報をもらえたら、自分たちの樹脂が入り込める市場が見つかるのではないか。」

スタートアップ企業の使い方としては、ある意味正しい方法でしょうね。
新たな技術「ナノインプリント」に興味を持つ企業が、続々と毎日コンタクトしてきて、市場情報がなんとなく見えていた、それが当時の僕たちの「彼らから見た場合の」強みだったわけです。強みは「市場」で決まりますので、顧客から見て自分たちが(競合より)強い部分が何か、が大事です。
互いの強みが一旦噛み合ったので、まずは共同研究という形の市場調査を始めましょう、となったわけですね。ほんとに市場が見えてくれば、必要なら買収すればよいわけです。
(実際、細胞培養関連の事業は、別の化学系企業に買収されています)

自社素材を「光学」「バイオ」製品へ~新市場開拓、川下製品への取り組みでさらに高付加価値化

当時の細かい技術開発や市場開拓の経緯は、長くなりますので割愛しますが、おおよそ以下のようなことが、僕たちの実験で分かってきました。

・分子量調整含め、物性がナノレベルの成型に向いている
光学特性、特に、透明性が良い
半導体向けでは、エッチング耐性が高く「選択比」と呼ばれる重要な指標で優れている
バイオ用途では、吸水性が低く不純物の溶出も少ない、生体親和性も高い

もちろん、実験結果をフィードバックしながらそれぞれの用途にある程度最適化していただいているので、一つの樹脂組成物がこれらの特性をすべて持っているわけではないのですが、ちょっとしたチューニングで幅広く使える、とても良い樹脂だということが分かったんですね。
特にバイオ用途では、生体親和性が必要なのは当然ですが、同時に光学特性が必要とされる場合が多いんですよね。例えば細胞や組織の計測や観察を光学顕微鏡で行うからです。よく調べると、ジシクロペンタジエンから作り出したA社の樹脂は、骨格と呼ばれる基本的な構造がバイオ用途に向いているようだ、と分かりました。具体的な市場に落とし込んだことで、A社の副生成物や樹脂の強みが見えてきた、という感じですね。

そこで、僕たちが既に開発していた細胞培養容器をA社さんで事業化しませんか、とこちらから提案しました。つまり、見つかった市場について、素材の提供だけでなく事業として一緒にやりませんか、と提案したわけです。こういう例はあまりないかもしれませんが、当時僕たちは2つの市場でナノインプリント技術の実用化・事業化を目指していて、とにかく早く立ち上がるものは早く立ち上げてしまいたい、と考えていたんですね。細胞培養という新しい市場に、新しい材料を持ち込んで事業にする。新しい者同士の組み合わせで、まさに新規事業中の新規事業。事業立ち上げのハードルがとても高いわけです。だから、最初の「ゼロイチ」の部分、つまりニーズを見つけてきて、ニーズを満たせることを確認して、市場性があることの確認までは僕たちがやりました。大きなリスクは取って、既にある程度つぶしたわけです。だからここから先は一緒にどうですか、ということですね。
企業内発明塾®」で他者、特にスタートアップ企業と組むシナリオになる場合は、こういうやりとりになれば理想的なんじゃないかなと、いつもお話ししています。自画自賛ですかね(笑

既存事業の強みを活かした新規事業で事業転換するパターン~3回分のまとめとして

ここまでの3回で、小松製作所(コマツ)での新規事業事例、ナノインプリント技術のスタートアップでの新市場開拓・用途開発の事例、化学系企業による自社素材の新市場開拓・用途開発の支援事例、を紹介しました。
ざっくりと振り返っておきましょう。

第1回は、コマツでの新規事業事例でした。
コマツでの新規事業の事例は、「信頼性の高い大型歯車を、ある程度の数量、迅速かつ継続的に製造できる」という、製造能力というか、品質管理まで含む組織能力が強みになった事例ですね。最初は「大型の歯車が作れる」「そういう設備が、リストラで空いている」というところから始まったわけですが、不況で設備が空いているわけなので、それはどこも同じですね。「きっかけ」「着想」になる強みや資源と、本当の強み、競争力の源泉は違うものになることが多いと、多数の新規事業や技術マーケティングの実体験を経て、僕は感じています。

第2回は、ナノインプリント技術のスタートアップでの新市場開拓・用途開発の事例でした。
ナノインプリント技術は当初、半導体のさらなる微細化を低コストで実現する、という触れ込みで2000年前後から話題になりましたが、半導体での実用化は2023年。キヤノンが世界に先駆けてナノインプリント技術を用いた半導体製造装置の事業化を2023年に発表しました。

ナノインプリントの強みが何か、を突き詰めて考えられていなかった我々も「用途は半導体だ!」という掛け声に流されて、案の定討ち死にしました(笑
その後、技術ドリブンで考えて過ぎていたことを反省し、「顧客の声だ!」となって光学フィルムでの事業化を模索しましたが、これもダメ。ただ、その後シャープが反射防止フィルムを事業化していますので、光学フィルムが間違いだったとは言い切れないかもしれません。でも、やはり僕たちには早すぎた。事業はタイミングですから、やはりその時点では間違いだったんでしょう。
特許情報分析と顧客候補ヒアリングを繰り返して、3度目の正直でたどり着いたのが高輝度LEDと細胞培養。いずれも5年以内に立ち上がるという感触を得て、自信をもって資金調達へ。
(細胞培養容器の事業はその後、大手化学系企業に売却されています)

第3回は、化学系企業が保有する副生成物の用途探索・新市場開拓の事例です。
これは、「副生成物」つまり、本来の目的ではなく出来てしまうもので、極端に言えば使い道がないものをどうにかしたい、というところから始まっています。だから、この時点で何か強みが明確になっているわけではないんですね。ただ、僕たちが既に持っていた用途に関する情報をもとに実験してみると、「強み」が見えてきた。強みというのは競合との比較ですので、市場に依存するもの。だから、仮説的に市場を探し、そこで評価して見ないと分からない、という典型的な例だと思います。
強いて言うなら、副生成物なので日常的にふんだんに存在していて、わざわざつくる必要がないというのは、ひょっとしたら強みだったかもしれませんね。

ここまで紹介したものを、技術マーケティング、強みや資産を活かした事業転換・新事業のパターンとして列挙し、補足しておきます。
あくまで、僕が経験した範囲でのまとめになります。

① 機械系で、製造能力や組織能力含む強みを活かす新規事業~コマツでの新規事業事例より
・すでに競合がいる市場だと価格競争になり、新規開発品は価格を合わせていくのは難しい
・最初から価格が合う、ある種破壊的な要素技術を持っているか、オペレーションが作り込まれていて、なぜか安く作れてしまう企業は勝てる
・製品の世代交代など、新たな仕様により価値や課題が生まれるタイミングがチャンス

② 大学発の技術シーズを含む、前例がない革新的な技術の事業化~スタートアップ事例より
・その技術でしかできないこと、解決できない課題が何なのか、顧客の問い合わせや要望に振り回されずシビアに考える
・技術自体も新しく、市場も新しいので難易度は高い、その時に仕上がっている技術でギリギリ行ける市場を見極め、素早く立ち上げるのが重要
・2006年ごろのナノインプリント技術において、高輝度LEDや細胞培養は、上記の条件を満たしていた

③ 化学・素材系で、副生物や派生物の新市場や新用途を開拓する~化学系企業の事例より
・当初は強みが漠然としている場合が多い、仮説的に市場を見出し、実験などを通じて強みになる特性をあぶり出すことが重要
・特許含め情報分析も大事だが、特にBtoBの場合は顧客をある程度巻き込む話になることが多く、いい相手を見つける必要がある
・ただ、相手の実力や本気度を見る意味でも、特許情報分析はとても有効

僕の幅広い技術や業種、事業分野での経験が、技術マーケティング、強みや資産を活かした新規事業を立ち上げたい、事業転換したい、既存事業の行き詰まりを乗り越えたい、という方の参考になれば、とってもうれしいです。
TechnoProducer株式会社の新規事業の実働支援サービス「企業内発明塾®」も、よろしくお願いいたします。

楠浦 拝

 

 

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