この記事の内容
今回は発明における「顧客課題」と「技術課題」の関係についてお話しします。
どんなに技術者や開発者が満足するモノやアイデアができても、それが顧客価値と結びついていなければ、ビジネス的にはあまり意味がありません。
ということは、発明にとってまず欠かせないのが顧客価値に繋がる顧客課題の解決です。つまるところ発明とは、顧客課題を解決する上でネックになる技術課題の解決、だと言えます。この2つの「課題」を意識しながら進めていくと、いい発明が生まれると思っています。
わかりやすいようにシンプルにすると、例えば「コレが小さくなったらXXで便利だよね」が顧客価値、「これ大きくて邪魔なんだよね、小さくしたいけどできないんだよね」というのが顧客課題、「なぜ小さくできないかというと・・・」が技術課題です。
技術課題は、例えば、小さくしようとすると必要な機能が搭載できないとか、正しく測定できなくなっちゃうとか、壊れやすくなるといったことですね。
基本的に技術課題にはトレードオフが存在します。こちらを立てればあちらが立たず、というやつですね。そこの解決が発明です。
顧客課題と技術課題の関係がよく分かる発明を、ひとつご紹介しましょう。
レストランにとって利益を上げる方法って何だと思いますか? 考えられるのは、人件費を下げるとか、食材コストを下げる、顧客の回転率を上げる、メニュー単価を上げるとかですね。
でも、食品のグレードを落とせばお客さんが離れてしまうかもしれないし、単価を上げればやっぱりお客さんは離れてしまう。回転率を上げようとしたら値段を下げないといけないとか、そこにはたくさんのトレードオフが存在するわけです。
でも、実は一つだけ良い方法があります。それはフードロスを減らすこと。そこにトレードオフはありません。フードロスは減らしただけ得になります。ロスをなくし仕入れ管理が適切になれば、経費も削減できるので、食材や料理のグレードを落とす必要もなく、むしろグレードを上げられるかもしれません。グレードが上がれば顧客満足度が上がり、客足が伸びて売り上げがアップするかもしれません。レストランにとってフードロス解決はメリットが大きいのです。社会問題の解決にもなりますしね。
レストランのフードロスを解決する発明に、「IoTゴミ箱」があります。イギリスのスタートアップ企業ウィンナウ(Winnow)が開発したものです。
レストランの厨房のゴミって、100%食品関係のモノのはずですよね。食材とか、つくり損ねとか、切れっぱしとか。そこで彼らは、ゴミ箱を改良すればフードロスがなくせるんじゃないか、と思ったわけです。破棄されるゴミの量を量ればいいんじゃね?と。彼らは最初、ゴミ箱の下に「はかり」をつけたんですね。
実際にレストランに持っていくと、それではダメでした。
たしかに、ゴミの量が減っていればフードロスが減っているのは分かる。でも、もし全体的に仕入れを少なくしていたとしたらどうでしょう。フードロスは減っているけど、品切れなどで売り上げの低下や機会損失に繋がっているかもしれない。レストラン側にとっては、野菜のヘタや皮の部分を捨てているのか、丸ごと捨てているのかなど、何をどういう状態で破棄しているのか知りたかったんですね。それが分からないと仕入れに活かせないというわけです.
このトレードオフをなくすには、どうすればよいか。ここが発明の本丸です。発明はトレードオフ解決の連続です。
彼らは次に、ゴミ箱にはかりとカメラを付けて、破棄されたものの重さと種類が分かるようにしたんです。蓋を開けたらカメラがオンになって蓋が閉まるまでの画像を撮影する。そして重さと紐づけしてAIで画像認識しデータ管理できるようにしたんですね。
もしなにか野菜がまるごと捨てられていたら、保存期限が過ぎていたり余って捨てたんだなとか、調理済みのものだったらオーダー違いや失敗だとか、そんなことがわかるようになりました。「レストラン経営」に必要なゴミの情報がわかるゴミ箱の発明ですね。
フードロス問題というと、つい、仕入れ管理システムをどうするかとか、そんなことを考えがちです。在庫管理の問題ですからね。サプライチェーンがどうのとか、受注予測システムの精度を上げるにはとか、そんなことを考えがちです。でも、「答えはゴミ箱にあった」わけです。それがこの発明の面白いところですね。入り口(仕入れ)を知るには、出口(ゴミ)を知る必要があった。そんな感じです。
ウィンナウ(Winnow)が開発したフードロスをモニタリングするゴミ箱(Winnow HPより抜粋)
これが顧客課題と技術課題の関係です。フードロスで無駄な経費がかかっている、という顧客課題を解決するために、ある既存の技術的な手段を使おうとするんだけれども、それだけでは上手くいかないというのが技術課題ですね。
じゃあ、はかりを付ければいいよね、となったけど、重さだけでは食材や食品のどの部分が破棄されているのか分からず、やむを得ないゴミなのか減らせるゴミなのかわからない。もっと技術的な工夫が必要になった。そこでカメラとはかりを連動させ可視化して、「いつ何が捨てられたか」リストアップするところまでやらないといけなかった。
僕がこのモニタリングできるゴミ箱について「すごい!」と思うところ、それは、経営者が現場に行かなくても遠隔で様々なことが分かるようになる、ってことです。これってすごくないですか? こういうのが発明なんだなって思いますね。
例えば、調理済みのものが捨てられていたのが判明すれば、オーダー間違いなのか、調理を失敗してしまったのか、お客さんの注文が集中してミスが起こっているのか、それともお客さんとトラブルがあったのかなど、ほかの課題も見えてきます。この発明は、実は経営課題の解決、つまり、経営そのものに直結しているんですね。顧客の経営課題をズバリ解決する発明は、BtoBの分野では理想的な発明です。
発明プロセスでは、調査や育成の途中で横道に逸れて行ってしまうことがよくあります。その原因の一つが、「顧客課題」「技術課題」をそれぞれに考えつくしていないこと、そして、そのつながりが見えてないことです。常に顧客課題と技術課題の繋がりを意識しながら進めると、迷走せずに良い発明、良い企画に辿り着けます。
課題解決の考え方については、e発明塾®「課題解決思考2」などで学べますので、ぜひご覧ください。
語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子
こちらもオススメ
深掘りコラム 「新規事業・起業アイデアの考え方と出し方【図解あり】 ~発想法と成功事例を紹介」
e発明塾® 「課題解決思考2」
2022.08.26 その発明は顧客課題の解決に繋がっているか ~レストランのフードロスを解決する「IoTゴミ箱」~
2022.05.06 アイデアを育て、発明を創出するために大事なチーム作りとは
2022.01.28 新規事業のアイデアを、投資家目線で考えていますか?
2022.01.14 エッジ情報®調査や検索など、情報収集を行う際のポイント
2021.11.05 ありきたりなアイデアでも、育てていくと発明になる
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略