「発明塾」塾長の楠浦です。
今回は、2025年7月18日に熊本県の平田機工様本社にて開催されました、下記イベントでの講演報告をいたします。
JIPA 2025年第1回中国・四国・九州地区協議会~特別講演 「IPランドスケープ成功の秘訣 ~ 相手を動かし、儲かる事業を育てる ~」登壇のお知らせ(7/18 ・熊本会場&オンライン開催)
https://www.techno-producer.com/news/seminar-ip-landscape-jipa2025/
IPランドスケープに取り組んでいる企業様は確実に増えておりますが、一方で、「成果」「成功」にはまだ課題があることが、弊社のアンケートから明らかになりました。当日は、アンケート内容を踏まえ、弊社が受託した例、あるいは、企業内発明塾で支援した事例において、何が「成果」「成功」のキーポイントか、いくつかご紹介をしています。
ここでは、当日のディスカッションや質問もふまえて、要点を3つに絞ってご紹介します。
この記事の内容
これは、弊社支援先の方で、企業内発明塾OBOGの方のコメントにもとづいて、お話しした内容です。その方曰く、IPLが最も効果を発揮するのは、「営業」ではないか、とのことでした。実際、その方は現在営業部門で奮闘されています。
僕もまったく同感で、素晴らしい活動をされているなと思っています。さすが、企業内発明塾OBOGですね。ちゃんと、経営者を動かすポイントを理解しています。
講演終了後のディスカッションでも、「分析結果を持って行っても刺さらない」「ふーん、で終わる」という声が多く聞かれ、何から手を付ければよいのか、というご質問が多くありました。
僕の答えは、ズバリ以下です。
僕自身、毎日売り上げのことばかり考えていますので、より大きな責任を負って、4半期業績の報告を求められている上場企業の社長、役員の方は、「とにかく売り上げのことで頭がいっぱい」です。
正直に言うと、「売り上げのこと以外のことをあれこれ言っても、まったく刺さらないですよ」と言いたい(笑)。
だから、「売り上げに直結する情報」を、IPLで持っていくのが一番良いと僕は考えています。もっとも、売り上げはもう十分足りていて、他の経営課題が重要視されている、という企業様では、この限りではありませんのであしからず。僕の経験では、急成長中のスタートアップ企業などが、これに該当します。業績の急拡大に伴う歪みが、いろいろ出るからです。
次に僕が重要だと考えているのが、「予定通り進んでいない製品・事業開発プロジェクトのてこ入れ」です。そもそも僕が、コマツに転職したきっかけもこれでした。「開発してるけどまったく上手くいってない/大幅に遅れていて何とかしたい、頼むから来てほしい」の繰り返しで、僕の転職人生は成り立っています(笑)。今でも、多数のオファーをいただきます(笑)。
世の中は「行き詰っているプロジェクト」であふれており、「手柄を立てる機会」は無数にあるということです。さすがに僕も全部にはかかわれませんので、行き詰っているプロジェクトをきちんと立て直して手柄を立てたい方は、僕に連絡しておいてください、ご紹介します(笑)。
そもそも、世の中に「予定通り進む製品開発・技術開発・事業開発」(技術的な開発要素が伴うもの)なんて、あるんでしょうか?
僕は経験したことがありません。川崎重工時代のオートバイの新機種開発も、常に新しい技術を搭載していたので、遅れに遅れるのが普通でした。トラブルの中から学ぶのが日常茶飯事だったんですよね。
例えば、僕が担当したW650のエンジン開発では、カムシャフトの駆動が「ベベルギヤ」と呼ばれる一般的かつ社内で実績がある歯車だったものが、駆動音と歯面の損傷問題から「ハイポイドギヤ」と呼ばれる特殊な歯車に変更になり、開発は半年遅れです。おかげで僕は歯車の専門家になりました(笑)。
こういう時、設計者はとにかく片っ端から電話(メール)をして、課題を解決してくれる新たな取引先を探すのですが、この「新たな」がポイントです。従来のネットワークや、業界の常識では解決できない課題に直面しているので、「まったく新しい知見」を求めているんですよね。
実は、特許情報はこういうフェーズで非常に役立つことが、僕自身の実践で繰り返し証明されています。僕がトラブルシューターとして引っ張りだこになったのは、この「異分野ではあるがおそらく解決策を持っている」企業や大学などの研究者を見つけて協力してもらうのが非常に上手かった、ということが一つの要因だと思っています。調べれば、だいたいわかるんですよね。
とにかく相手が困っているわけですから、「こういう技術を持っているところがあるよ」「この大学の先生が詳しいようだ」「ここにこういう設備があるらしい」という情報を、特許・論文・その他の情報から抽出できるのは、非常に大きいですね。
実際、僕が弊社創業当初に支援した案件では、ある特定の技術課題に対して、「異分野含め、世界中からソリューションを探す」というものが複数ありました。
開発が行き詰っている中で、とにかく「猫の手も借りたい」状況です。これを放置して「戦略」がどうのこうのと、のんきに提案している場合ではないですね。火中の栗を拾ってください。必ず感謝されます。
今回の講演資料は、原則としてすべて畑田(はただ)が作成しています。原則として、と言っているのは、彼が資料を作成するときに、過去に僕が作成した資料も多く引用されているからですが、「そのスライドを選ぶ」という判断は畑田に任せています。
そして、講演にも熊本まで同行してもらいました。
なぜか。
これがまさに今回の、「IPランドスケープ(IPL)成功の秘訣」だからです。
僕は、Xで知り合ったある企業の社長さんと、「社長のかばん持ち」という仕事が、人材育成において非常に有効だ、という話をしたことがあります。その方は、数年間にわたって社長のかばん持ちをやって、その後グループ会社の社長をされています。僕は、前職のスタートアップ立ち上げ後約1年ほど、営業や業務提携、出資交渉において社長にプレゼンをしてもらう際、どんな場合もすべて僕が資料を作成して、同行していました。
社長が出ていく段階ですので失敗が許されない商談・提携・交渉が多かったのですが、社長は忙しいので、打ち合わせをしている時間もない。「社長は何を考えているのか」「社長は何を見ているのか」「社長は何を言うのか」を、日ごろから常に意識して、ほとんど打ち合わせ無しで、社長が話しやすい資料、社長が話したいことが、そこに的確に書いてある資料を作っていました。
だいたい、資料を作成するのが夜中ですから(笑)、打ち合わせしている時間なんてないわけです。翌日初見で社長が話しても、問題ない資料を作る必要があります。
今回で言えば、僕の講演と自身が作成した資料の差分をその場で聞いて、畑田が何をどう読み取ったか、が大事ですね。これを繰り返すことでしか「社長が何を考えているか」を理解することは不可能だからです。社長が何を考えているかわからないのに、提案しても、まず刺さりません。というか、あてずっぽうでボールを投げているだけになるので、正直言って、迷惑でしかないです(笑)。やめてほしい(笑)。
提案したいなら、まず「相手の目に映っている景色がどのようなものなのか」「それを見て社長が何を思って(考えて)いるのか」を、熟知する必要があります。同じ社内にいるわけですから、そんなに難しい話ではありませんよね。最適なのが「社長のかばん持ち」です。役員でも事業責任者でもよいのですが、とにかく、提案したい相手が「何を見ているのか」を理解するために、相手の仕事を手伝うわけですね。相手のことが理解できて、人間関係もできるわけですから、提案を外す理由がなくなります(笑)。
僕の印象では、皆さん
ので、刺さらないんです。当たり前です(笑)。刺さるほうがおかしいです。
「社長のかばん持ち」については、他にもいろいろお話したいことがあるのですが、今日はこれぐらいにしておきます。出席者の方からも、その場で賛同いただきましたので、今後実践例が出てくるものと思っています。フィードバックをお待ちしております。
2時間はあっという間でしたが、講演後のディスカッションで、皆さまが非常に熱心にご質問、意見交換をされていたのが大変印象的でした。
JIPA(日本知的財産協会)の中国・四国・九州地区協議会での講演は2回目ということで、懐かしい方々との再会もありました。関係者の皆様に、改めまして感謝申し上げます。
また、個人的には、投資家の方からたいへん注目を集めている「平田機工」様を訪問させていただく、貴重な機会が得られたことを、大変ありがたく思っております。ご縁ですね。
楠浦 拝
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