本記事は、当社が開催した障害特許網の突破事例紹介
~突破方程式®による突破発明®の創出(米国3M社の特許網を突破した事例)~セミナーのエッセンスをお届けするものです。
セミナーの重要な知見を、どなたでも気軽に学べる形でまとめています。
競合の特許を調べる時、請求項だけ読んで「なるほど、こんな技術か」で終わっていませんか?
公開された特許情報を眺めても、相手の本当の狙いが見えない。どこが一番重要な部分なのか分からない。結果的に、表面的な対策しか立てられずに困っている。
実は、特許には「表の顔」と「裏の顔」があります。表の顔は誰でも見られる請求項ですが、裏の顔は特許庁とのやり取りの記録に隠されています。この記録は一般的に「審査経過情報」と呼ばれており、この審査経過情報を読むと、出願人が「ここだけは絶対に譲れない」と考えている部分が明確に見えてくるのです。
今回は、弊社代表の楠浦による400件もの特許と向き合った実体験から、競合の本音を見抜く実践的なテクニックをお伝えします。
この記事の内容
競合特許の請求項だけではなく、特許庁とのやり取りの記録である審査経過情報を読み解くことで、競合が「絶対に譲れない」と考えている核心部分が明確になります。
本記事では以下の内容を解説します。
400件の特許分析から得られた分析方法をお伝えします。表面的な情報だけでは見えない「競合の本音」を読み解いてみましょう。
「400件の特許も実際にどんなものか、もちろん読まないと分からない。一部の塾生さんがほぼ全部読んでくれました」(楠浦)
実際に400件という膨大な数の特許を読み込んだ結果、請求項だけでは見えない相手の本音が審査経過情報にあることが分かりました。そして、その審査経過情報の中でもひとつの注目すべきポイントが見えてきました。それが分割出願の動きです。
分割出願(ぶんかつしゅつがん)とは、一つの特許出願から新しい特許出願を作り出す手続きのことです。一つの出願書類の中に複数の発明が含まれている場合や、別の切り口で権利を取りたい場合に使われます。
通常は一度特許を出願したら手続きは完了しますが、どうしても確保したい権利がある場合は違います。実際の分析経験では、「分割出願について注目する」という結論に至りました。ここに出願人の真剣さが現れるのです。
特に注目すべきは分割のタイミングです。特許庁から拒絶理由通知(「この発明は認められません」という通知)が来る前に分割するのか、来てから対応として分割するのか。
「どのタイミングで、どの特許からどの特許に分割されて、そのタイミングの審査請求を元の特許の審査請求とか、拒絶理由が来た後が前だとか、そういったタイミング」を詳しく調べることで、相手の戦略が明確に見えてきます。
拒絶理由が来てから分割するということは、「この切り口がダメなら、別の切り口でも必ず権利を取る」という強固な意志を表しているのです。
では、実際の審査経過情報分析の事例を見てみましょう。今回分析したのは、世界的な粘着テープメーカーであるスリーエムです。同社の特許戦略にはある種の執念深さを感じました。
スリーエムの審査経過情報を詳しく調べると、その取り組みは「巧みに取っている」というレベルを遥かに超えた戦略的アプローチであることが分かりました。
最初の出願は「表面形態を制御する方法」という抽象的なタイトルでした。内容は粘着テープに溝を作る製造方法についてです。
しかし、特許庁から「突起がある剥離紙(はくりし:テープから剥がす保護紙)は既に存在している」という拒絶理由が出された時の対応が見事でした。
通常であれば諦めるところですが、彼らの対応は違います。
「出っ張りではなくて、出っ張りに囲まれた部分。出っ張ってないところです。ランダムという言葉を持ち出して、この面積で規定しようとしていますということです」(楠浦)
つまり、「突起」という概念で拒絶されたら、「突起以外の部分」という切り口で再挑戦したのです。同じ技術的内容を、異なる表現で権利化しようとする巧妙な戦略でした。
更に興味深いのは、拒絶理由を受けても権利範囲を狭めるのではなく、逆に広げるケースがあったことです。
「焼け太りじゃないですけど、何か拒絶理由を食って権利範囲を広げてきたみたい」という状況で、一つの限定が加わる代わりに、別の部分で制限を緩める戦術を使っていました。
「あの手この手、もともと考えていたと思うんですけれども、補完的な概念で次々と分割の答えをもらって、じゃあこっちがだめならこっち、こっちがだめならそれでもだめだという形で分割していく」(楠浦)
この粘り強いアプローチは、特許戦略の教科書のような事例でした。
特許分析において最も重要なのは、「どこにこだわっているのかを把握すること」です。
拒絶理由通知に対する出願人の反応を観察すると、その優先順位が見えてきます。
長文で詳細な反論を行っている部分は「絶対に譲れない核心部分」です。一方、簡潔に修正対応している部分は「妥協可能な部分」と判断できます。
この温度差を読み取ることで、競合企業が本当に重要視している技術要素が明確になります。
分析した企業の事例では、「やはり何とかして溝がついている、細い溝がついているような粘着剤テープは全部取ったろうというような感じ」であることが分かりました。
つまり、溝を使った技術がこの企業の専門領域だったのです。この分析結果から、もし同じ市場で競合するなら、溝以外のアプローチであれば、まだ特許で保護されていない可能性があるという戦略的示唆が得られます。
「相手が最も重視している構成というのを外さないと、小手先の構成を外したところでなかなかうまくいかない」
単純な数値の変更ではなく、競合企業のコア技術そのものを回避した全く新しいアプローチが必要だということです。これが審査経過情報分析から得られた重要な洞察でした。
特許の本当の狙いは、審査経過情報に現れることが多くあります。分割出願のタイミングから競合企業の本気度を読み取り、拒絶理由への反論の内容から「絶対に譲れないポイント」を特定しましょう。
そこが明確になれば、競合が想定していない新しい突破口が見えてきます。表面的な特許情報だけでなく、審査経過情報まで読み解くことで、より有効な競合対策が可能になるのです。
このコラムで解説した審査経過情報の分析手法は、実際に楠浦が400件のスリーエム特許を徹底分析して得られた実体験に基づいています。動画セミナーでは、記事では触れきれなかった具体的な特許読解テクニックや、実際の突破発明創出プロセスを詳しく学ぶことができます。
受講された方からは「他社特許の回避案出しをするときの事前準備として役に立つ。どこに狙いを定めて、アイデア出しをすればよいかが明確になった」「他社の特許網に苦しんでいる技術者の方には、ぜひ一度確認していただきたい講習」との声をいただいています。
競合特許の本質的な分析力を身につけたい方、より実践的な突破手法を学びたい方におすすめの有料動画セミナーです。
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