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スキルアップに欠かせない「暗黙知」獲得の理論と実践法(3)~実践共同体と「正統的周辺参加」

スキルアップに欠かせない「暗黙知」獲得の理論と実践法(3)~実践共同体と「正統的周辺参加」

「発明塾」塾長の楠浦です。
今日も、2025年4月に開講する新規事業サポーター養成講座(支援者向け発明塾 公開講座)」に関連する内容を、紹介していきます。

新規事業サポーター養成講座(支援者向け発明塾公開講座)
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上記ページから、「詳細資料請求」「説明会動画の視聴」「お申込み」が、それぞれに可能です。

新規事業サポーター養成講座(支援者向け発明塾 公開講座)」では、支援者の方に発明塾の手法を学んでいただくだけでなく、「学び方」「指導法」、まで学んでいただけたらよいな、と考えております。既にお申し込みの受付を開始しております。
先着10名様までの募集となりますので、ぜひ参加したい、という方は早めにお申し込みをお願いします。

 

前回は、「プロ」「仕事がデキる人」になるための「暗黙知」獲得の具体的手法の1つである、「認知的徒弟制」のお話をしました。

・認知的徒弟制とは、伝統的な徒弟制を認知スキルの習得に応用した手法で、熟達者の思考プロセスを、言語化を通じて観察し、実践しながら習得する仕組み
・認知的徒弟制は、以下の6つのステップからなる
 ①モデルの提示(指導者が実演)
 ②観察と助言(学習者が実践し指導者が助言)
 ③足場づくり(徐々に支援を減らす)
 ④言語化の支援(思考を言葉にする)
 ⑤省察(学習したことを整理・内省)
 ⑥挑戦の支援(独力で問題解決に挑むことを促す)
・言語化と内省が高度な認知スキル習得の鍵で、SECIモデル(暗黙知を形式知に変換するプロセス)と認知的徒弟制が密接に関連している
・「失敗から学ぶ」は効果が薄く、自己流の成功パターンを見つけることが大切で、暗黙知の「伝承」ではなく「生成」「獲得」というイメージを持つのが正しい

今回は、プロになるため、スキルアップするために欠かせない「暗黙知」獲得の方法について、また別の観点から、説明します。
キーワードは「実践共同体」「正統的周辺参加」「実践知」です。
認知的徒弟制では基本的に、「指導者が正しい」「指導者はなんでも知っている」という前提に立つのですが、そんなことは実際にはあり得ません
特に「認知スキル」「問題解決」においては、この傾向は顕著です。
むしろ指導者も学習者とともに成長する、そして学習者が(部分的にでも)指導者を超えていく、という考え方に立つのが、「正統的周辺参加」と呼ばれる方法です。

1.「正統的周辺参加」は認知的徒弟制と何が違う?

正統的周辺参加は、ジャン・レイヴとエティエンヌ・ウェンガーが1991年に発表した考え方です。
正統的周辺参加では、学習を「知識の受け渡し」ではなく、「実践共同体」への参加を通じた社会的プロセスだと捉えます。
知識やスキルは、教える側・教わる側、という「師弟関係(徒弟制度)」で学ぶものではなく、「社会」「共同体」で共に実践する中で身につけるものだ、ということですね。

正統的周辺参加は「認知的徒弟制」の限界を突破した手法だ、と考えられます。
なぜなら、「師」が「弟子」より優れている、とか、師が弟子に優れた指導を行える、という前提に立っていないからです。
これは実際、優れたプレーヤーが必ずしも優れた指導者になり得ないことを考えると、当然でしょう。
共同体ですから、当然、一時的に誰か誰かに何かを教えることは起こり得ますが、それは固定的なものではない、ということです。

これにより、認知的徒弟制では起こらない、「優れた知識がその場で生み出され、全員が瞬時にそれを学ぶ」という、非常にスピード感と深みがある学びの場が形成されます。
これは、「発明塾」での、2010年からの15年を超える実践活動で、証明されています。

2.「正統的周辺参加」を取り入れて成功した「発明塾」

実は、学生向けの「発明塾」では、まさにこの点を重視していて、「その場で気づきを得た人が、他の人にそれを教える(紹介する)」ことを繰り返し、全員が学ぶ仕組みにしていました。
僕もその「実践共同体」のメンバーの一人であって、教えることはありますが、「楠浦さんがなんでも知っている」わけではないんだよと、だから、自分たちで「うまくいく方法」や「その背後にある原理」を積極的に見つけ出して、僕を含む全員に教えてね、といつも説明していました。

まぁ、学生向け発明塾における僕の役割は、「発明塾」という実践共同体の「管理人」だった、ということです。
実際、僕も非常に多くのことを学びました。
「企業内発明塾」で指導している内容の基礎は、「発明塾」という実践共同体で生み出された、と言えるでしょう。

実は当初は、僕が、発明投資ファンドやナノテクスタートアップで実践してきた特許情報分析や発明法、あるいはコマツやカワサキで学んだ設計や技術の知識を教えることから始まりました。
しかし始めてみてすぐに、それでは「毎月数本の発明を投資ファンドに提案する」というスピード感のある取り組みにならないことに気づきました。
要するに、「僕だけが知識を持っていて、それを教える」という方法は、スピード感がなさすぎたんですよね。
そもそも、僕自身も発明投資ファンドへ提案するにあたって、発明法、特に「解決すべき課題の見つけ方」には不十分な点を感じていたので、学生さんに主体的に参加してもらって、全員が知識を生み出す(知識創造を行う)仕組みに切り替えたんです。
これが2010年ですから15年前ですね。それ以来15年間、企業向け含め発明塾は原則としてすべてこの考え方で運営しています。

発明塾は認知的徒弟制から始まったのですが、すぐに限界に行き当たり、正統的周辺参加に切り替えたわけですね。
もちろんこれは、認知的徒弟制や正統的周辺参加という考え方を、僕が知っていた(昔から学んでいた)から、できたことです。行き当たりばったりでは、もっと遠回りしていたでしょうね。

3.「正統的周辺参加」の実践には、「実践共同体」が不可欠

正統的周辺参加という手法が生まれた背景には、学習とは「特定の状況に埋め込まれたもの」(状況に埋め込まれた学習)だとする考え方があります。これを「状況的学習」と呼ぶことがあります。
だから、知識やスキルを学ぶためには、その「状況」を「共有」する必要があるわけです。
リアルな状況から切り離しては、学ぶことができないものがある、ということですね。

正統的周辺参加では、初学者であったとしても、その状況を共有する「共同体」の正統なメンバーとして扱われます
初学者のメンバーは、当初は「周辺」から、しかし、「主体的」に参加していきます。
既にある程度経験がある「中心」的なメンバー(中心的存在)を見習って、周辺的・補助的な役割を果たすところから、徐々に参加していくわけですね。
中心的なメンバーを見習って、参加の度合いを徐々に進化させていくこと自体を学習と捉えるのが、正統的周辺参加の考え方です。
誰かが教える、とか、何かを明示的に教わる、というレベルで「学習」を捉えないんですね。
参加・関与を深めながら、ほかメンバーとの交流を通じて(全員が)自ら知識を生み出す、と捉えます。

正統的周辺参加においては、様々なメンバーが存在して業務(タスク)を実行する共同体の存在が不可欠です。
さまざま 様々なメンバーがいるからこそ、発達段階に応じた学びが、メンバーとの交流から得られるからです。
これが「実践共同体」ですね。
熟達者、ベテランだけがいても、初学者は学べないんですよね。自身の発達段階に応じた交流・対話が得られないからです。

4.「正統的周辺参加」と、ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」の関係

正統的周辺参加においては、様々な(レベル/発達段階の)メンバーが存在することが重要だ、というお話をしました。
このあたりは、教育学者のヴィゴツキーが提唱する、「発達の最近接領域」という考え方が参考になります。
ヴィゴツキーは、発達段階に合わせたちょうどよい難易度の課題が効果的な段階的発達を促進するとしています。この、ちょうどよいレベルのことを発達の最近接領域と呼びます。

要するに、「ちょうどよいレベルの相手との交流がないと、人は学べない」ということです。
自分の発達段階と大きくかけ離れた「すごい人」とばっかり話していても、刺激にはなるでしょうが、学びは深まらないんですね。
子どもの発達は、「ひとりでできる」「支援があればできる」「できない」の3領域に分かれる、とされます。
ちょうど「支援があればできる」段階にあることが、発達の最近接領域を指します

認知的徒弟制では、「指導者は正しい」(唯一の正解を持っている)という前提に立つのですが、創造的能力や問題解決が求められる状況では、これが正しくない部分もあります。
「唯一の正しい答えがない状況」あるいは「正しい答えがないかもしれない状況」においても、「全員が即時に学びながら結果を出す」「その場で結果を出し続けながら学ぶ」というのが、発明塾が求めていて、実践している「指導法」「学び方」なんですね。

 

次回はこの、「唯一の正しい答えがない状況」あるいは「正しい答えがないかもしれない状況」での学びが、いかに重要であるか、についてお話をします。
実践共同体での正統的周辺参加による学習の、肝になる部分ですね。
ここを外すと、「形だけ」の「ザ・お勉強コミュニティ」が出来上がります(笑)。
世の中では非常によく見ますが、僕は全く興味がありません(笑)。
学べるものはあるとは思いますが、「プロになる」ことを目指す場合、要するに「仕事がデキる」レベルを目指す場合、効率が悪すぎるんですよね。

4月22日開講の「新規事業サポーター養成講座(支援者向け発明塾公開講座)」では、認知的徒弟制と正統的周辺参加を、うまく使い分ける独自のプログラムで、学びを深めていただきます。

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楠浦 拝

 

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