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荏原製作所の知財戦略:独自の知財ROIC導入とAI活用による無形資産ガバナンスの構築および事業ポートフォリオへの波及

3行まとめ

全主要財務項目が過去最高を更新、精密・電子セグメントが営業利益の約5割を創出

2025年12月期の連結業績は、売上収益9,582億円(前期比10.6%増)、営業利益1,138億円(同16.2%増)と過去最高を達成。中でも半導体製造装置を擁する精密・電子セグメントが営業利益の約50.7%を占め、全社の成長エンジンとして機能している。

独自指標「知財ROIC」の導入とAI活用による暗黙知の形式知化が外部機関から高評価

荏原製作所は知的財産を経営資源として活用するため、独自の「知財ROIC(投下資本利益率)」を導入し、組織全体に浸透させている。さらにAIを活用した「知財プロアクティブ活動」でベテラン従業員の暗黙知を形式知化する取り組みが評価され、「知財・無形資産ガバナンス表彰(2025年)」優秀賞を初受賞した。

CMP装置の受注伸び率49%増を計画、水素事業・資源循環など新規領域への先行投資も加速

主力のCMP装置は、生成AI需要によるロジック投資の継続とメモリ投資の回復を背景に、新年度の受注伸び率49%増という意欲的な目標を設定。加えて、液化水素昇圧ポンプの開発やケミカルリサイクルパイロットプラントの立ち上げなど、中長期の成長を見据えた新規事業への技術投資を積極化している。

エグゼクティブサマリ

観点1:経営実績とセグメント別収益構造の全体像および財務基盤の確立 株式会社荏原製作所が2026213日に公表した「202512月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」によれば、対象期間である202512月期(202511日~20251231日)における連結業績の実績として、受注高は949,683百万円(前期比10.4%増)、売上収益は958,285百万円(前期比10.6%増)、営業利益は113,802百万円(前期比16.2%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は76,633百万円(前期比7.3%増)となり、これらすべての主要な財務項目において過去最高額を更新する結果となった。この業績を支える事業セグメント別の実績としては、建築・産業セグメントの売上収益が241,900百万円、営業利益が15,200百万円を記録している。エネルギーセグメントの売上収益は217,800百万円、営業利益は25,900百万円であり、インフラセグメントの売上収益は57,100百万円、営業利益は4,600百万円となった。また、環境セグメントの売上収益は97,800百万円、営業利益は13,000百万円であり、全社の成長を強力に牽引する精密・電子セグメントの売上収益は342,200百万円、営業利益は57,700百万円に達している。各事業部門における継続的な製品開発および製造プロセスの高度化が全社の強固な収益基盤の拡大に直接的に寄与している事実が、これらの一連の一次情報から確認できる。1

観点2:知的財産戦略の根幹をなす「知財ROIC」の導入と組織的浸透 株式会社荏原製作所の公式ニュースルームにおいて2026325日に公表された「『知財・無形資産ガバナンス表彰(2025年)』の優秀賞を初受賞」のリリースによれば、同社は大学発のベンチャー企業として創業したという歴史的背景を保有しており、伝統的に知的財産および無形資産を重視した経営を展開してきた経緯がある。同表彰において優秀賞に選定された主要な理由の一つとして、同社が独自の経営指標である「知財ROIC(投下資本利益率)」を導入している点が明確に挙げられている。この「知財ROIC」という独自の指標を用いた取り組みを継続することにより、知的財産を単なる法的な権利保護の手段として扱うのではなく、事業収益を直接的に牽引するための重要な経営資源として有効に活用するという高度な考え方が、社内組織において着実に浸透していることが外部機関から高く評価された。同社は、知的財産や技術、人材、ブランドといった多岐にわたる無形資産の価値創造プロセスを適切に開示し、ステークホルダーに対して説明責任を果たす日本企業のロールモデルとして位置づけられており、今後はこの「知財ROIC」に基づく活動をさらに深化させることで、事業化のプロセスを加速させるとともに、中長期的な企業価値の向上を促進させる方針を掲げている。2

観点3AI技術を活用した知財プロアクティブ活動の推進と暗黙知の形式知化 前述の「『知財・無形資産ガバナンス表彰(2025年)』の優秀賞を初受賞」に関する2026325日付の公表資料によれば、株式会社荏原製作所における無形資産ガバナンスのもう一つの核心的な構成要素として、人工知能(AI)を実務プロセスや情報開示の領域に積極的に導入し活用している実績が詳細に示されている。具体的な運用として、AI技術を活用した「知財プロアクティブ活動」を全社的に推進しており、従来の受け身の権利化業務に留まらない、攻めの知財活動を展開していることが明記されている。さらに、AIの導入を通じて、組織内のベテラン従業員などの長年の経験によって蓄積された「暗黙知」を抽出し、それを組織全体で共有・活用可能な「形式知化」へと変換するプロセスを推進しており、これにより知財および無形資産の活用基盤を抜本的に強化している。同社はこれらのAI活用による知財活動の具体的な成果が、時価総額などの財務指標、すなわち資本市場における企業価値にどのように結びつくかを明確に意識しており、投資家をはじめとする広範なステークホルダーに対して透明性の高い情報開示を実現している点も評価の対象となった。この情報開示を通じた透明性の確保が、同社の無形資産の価値評価を支える強固な構造となっている。2

観点4:精密・電子カンパニーにおける半導体製造装置(CMP)の技術展開と市場戦略 2026年213日に開催された「202512月期 決算説明会」における質疑応答要旨によれば、精密・電子セグメントの主力製品であるCMP(化学的機械的研磨)装置の受注動向において、顕著な成長が確認されている。2024年第4四半期のCMP受注高実績は685億円となり、第3四半期の受注高実績331億円から大幅な増加を示した。この増加の要因として、第4四半期に顧客からの案件が集中したことに加え、年間を通じて営業および技術部門が準備してきた案件が確定したことが挙げられている。また、年間を通じてロジック半導体向けの投資が堅調に推移し、下期にはメモリ半導体向けの投資が増加に転じたことが受注高を押し上げた。株式会社荏原製作所は新年度の計画として、CMPの受注伸び率を49%増とする意欲的な目標を掲げている。生成AIを中心とした旺盛なロジック投資と、202511月末頃から顕著になったメモリ投資の回復を背景に、WFE(前工程製造装置)市場の平均成長率を上回る売上成長を目指す方針である。技術的な優位性として、ウェーハの微細化に伴うCMP工程数の増加において、同社が強みとする「メタル層向けCMP」のプロセスの割合が増加しており、これが市場シェア拡大の最大のドライバーとして機能している。3

観点5:新規事業領域(水素事業・資源循環)に向けた技術投資と研究開発の方向性 2026年213日開催の「202512月期 決算説明会」における質疑応答要旨および公式IR情報によれば、株式会社荏原製作所は既存事業の強化・拡大に留まらず、脱炭素社会の実現や資源循環を目的とした新規事業領域への投資を全社レベルで推進している。エネルギーセグメントにおいては、新規事業である「水素事業」の一部を同セグメントに移管する組織的な再編を実施しており、水素サプライチェーンに不可欠な液化水素昇圧ポンプや極低温水素リターンガスブロワなどの開発および受注に向けた体制構築が進められている。また、環境セグメントにおいては、従来の固形廃棄物処理をメインとするビジネスモデルから「資源循環型ビジネス」へ転換するための技術投資を増加させており、その一環として「ケミカルリサイクルパイロットプラント」の立ち上げを完了させた。これらの成長投資や研究開発への固定費支出は、短期的な営業利益の押し下げ要因として作用するものの、同社は中長期的な成長を見据えた不可欠な投資として位置づけている。加えて、精密・電子セグメントにおいても、熊本に建設されたK3工場が昨年竣工し、2026年からの本格稼働および生産開始を予定しており、2030年までの需要増加に対して完全に供給対応可能な生産体制の構築を完了させている。1

公式ドメイン一覧

 

発行体(会社名)

許可ドメイン

根拠URL

株式会社荏原製作所

ebara.com

https://www.ebara.com/jp-ja/

金融庁(EDINET

disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp

https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/

独立行政法人工業所有権情報・研修館(J-PlatPat

j-platpat.inpit.go.jp

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

Evidence Index

 

発行体(会社名)

ドメイン

文書名

発行日/公表日

種別

URL

株式会社荏原製作所

ebara.com

2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

2026年213

決算短信

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q4_jp.pdf

株式会社荏原製作所

ebara.com

2025年12月期 決算説明会 質疑応答要旨

2026年213

質疑応答要旨

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/briefings-documents/2025/161_q4_QA_jp.pdf

株式会社荏原製作所

ebara.com

2025年12月期新長期ビジョン・中期経営計画および202512月期決算説明会 スクリプト

2026年213

議事録/スクリプト

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/briefings-documents/2025/161_q4_scripts.pdf

株式会社荏原製作所

ebara.com

荏原グループ統合報告書2025

2025年

統合報告書

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/ir/library/annual-report/INT25_all_JP.pdf

株式会社荏原製作所

ebara.com

「知財・無形資産ガバナンス表彰(2025年)」の優秀賞を初受賞

2026年325

ニュースリリース

https://www.ebara.com/jp-ja/newsroom/2026/20260325-02/

株式会社荏原製作所

ebara.com

2025年12月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)

2025年1113

決算短信

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q3_jp.pdf

株式会社荏原製作所

ebara.com

2025年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔IFRS〕(連結)

2025年814

決算短信

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q2_jp.pdf

株式会社荏原製作所

ebara.com

2025年12月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)

2025年515

決算短信

https://www.daiwair.co.jp/td_download.cgi?c=6361&i=2993975

株式会社荏原製作所

disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp

訂正発行登録書

2025年48

法定開示

https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100VKZM.pdf

最新IR一覧表

 

資料種別

公表日/開催日

対象期間

FY

根拠URL

決算短信

2026年213

2025年11日~20251231

2025年12月期

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q4_jp.pdf

議事録/スクリプト

2026年213

2025年11日~20251231

2025年12月期

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/briefings-documents/2025/161_q4_scripts.pdf

質疑応答要旨

2026年213

2025年11日~20251231

2025年12月期

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/briefings-documents/2025/161_q4_QA_jp.pdf

決算短信

2025年1113

2025年11日~2025930

2025年12月期(第3四半期)

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q3_jp.pdf

決算短信

2025年814

2025年11日~2025630

2025年12月期(第2四半期)

https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q2_jp.pdf

決算短信

2025年515

2025年11日~2025331

2025年12月期(第1四半期)

https://www.daiwair.co.jp/td_download.cgi?c=6361&i=2993975

研究開発費 抽出表

対象期間

金額

単位

出典資料名

掲載場所(項目名)

根拠URL

調査範囲内では確認できず

調査範囲内では確認できず

調査範囲内では確認できず

調査範囲内では確認できず

調査範囲内では確認できず

調査範囲内では確認できず

※有報(直近FY)・半期/四半期報告書(直近)・決算短信(直近)・統合報告書(直近版)・公式IR/公式ニュース(直近24ヶ月)を確認した範囲では、当該情報を一次情報として特定できない(調査範囲内では確認できず)。1

知財対応表

 

特許番号/公開番号

発明名称(一次情報表記)

出願人・権利者

根拠(公的DB URL

特開2025-43875

排ガス処理装置および排ガス処理方法

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特開2025-23557

研磨装置

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7606490

真空ポンプ装置

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7599330

研磨装置、及び研磨方法

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7597545

粉末供給装置および粉末供給装置を用いるAM装置

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7597656

回転機械の振動監視システム、および回転機械の振動監視方法

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7596438

光学式表面監視装置の洗浄方法

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7595322

ポンプ装置

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7592434

ワークピース支持装置およびワークピース支持方法

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7590875

取付部材およびモータポンプ

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7590913

研磨方法

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7590118

ポンプ装置

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特許7590492

めっき装置、および、めっき方法

株式会社荏原製作所

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

※上記の特許および公開公報は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(J-PlatPat)のデータベース上において出願人または権利者が株式会社荏原製作所である事実に基づく。5

本文

1. 全社業績の拡大と事業ポートフォリオの構造的変革

株式会社荏原製作所が2026213日に公表した「202512月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」によれば、対象期間である202512月期(202511日~20251231日)における連結業績の実績として、受注高は949,683百万円(前期比10.4%増)を記録した。同時に、売上収益の実績は958,285百万円(前期比10.6%増)、営業利益の実績は113,802百万円(前期比16.2%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益の実績は76,633百万円(前期比7.3%増)となり、これらすべての主要な財務項目において過去最高額を更新する結果となっている。1

同社の事業ポートフォリオは、建築・産業、エネルギー、インフラ、環境、精密・電子という5つの強固なカンパニー(セグメント)によって構成されており、各分野において専門的な研究開発と製品展開が推進されている。対象期間である202512月期における各事業セグメントの売上収益および営業利益の実績を詳細に確認すると、建築・産業セグメントの売上収益実績は241,900百万円、営業利益実績は15,200百万円であった。エネルギーセグメントの売上収益実績は217,800百万円、営業利益実績は25,900百万円を記録している。また、インフラセグメントの売上収益実績は57,100百万円、営業利益実績は4,600百万円となった。環境セグメントの売上収益実績は97,800百万円、営業利益実績は13,000百万円である。そして、全社業績を最も強力に牽引する精密・電子セグメントの売上収益実績は342,200百万円、営業利益実績は57,700百万円に達している。これらの実績数値から、精密・電子セグメントが全社の売上収益の約35.7%342,200百万円 / 958,285百万円)、営業利益の約50.7%57,700百万円 / 113,802百万円)を占める最大の収益源として機能している事実が定量的に確認できる。1

全社的な資本政策および株主還元策の進行状況については、20251113日に公表された「202512月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」において、当第3四半期連結会計期間末(対象期間:202511日~2025930日)における資本の変動要因が詳細に説明されている。同期間の実績として、配当金を27,718百万円支払い、在外営業活動体の換算差額が5,764百万円減少し、自己株式を5,401百万円取得したことが示されている。一方で、親会社の所有者に帰属する四半期利益44,683百万円を計上したことなどにより、前年度末に比べて資本合計は7,053百万円増加し、492,390百万円となった。また、親会社の所有者に帰属する持分の実績は479,892百万円であり、親会社所有者帰属持分比率の実績は45.8%を記録しており、健全な財務基盤と積極的な株主還元が両立して進行していることが裏付けられている。8

2. 知的財産戦略のフレームワーク:知財ROICの導入と無形資産ガバナンス

株式会社荏原製作所は、研究開発や事業活動から生み出される技術成果を知的財産権として単に保護するだけでなく、それらを企業価値の向上に直結させるための高度な無形資産ガバナンス体制を構築・運用している。2026325日に公式ニュースルームにて公表された「『知財・無形資産ガバナンス表彰(2025年)』の優秀賞を初受賞」のリリースによれば、同社は大学発のベンチャー企業として創業したという歴史的な背景を有しており、伝統的に知的財産および無形資産を重視した事業展開を行ってきた。同表彰において優秀賞に選定された最大の要因は、同社が独自の経営指標である「知財ROIC(投下資本利益率)」を導入し、それを組織内に浸透させている点にある。この「知財ROIC」という指標を継続的に運用することにより、知的財産を単なる法的な権利の束として扱うのではなく、事業収益を創出するための重要な経営資源として有効活用するという考え方が、経営層から現場に至る組織全体に定着している。株式会社荏原製作所は、これらの活動をさらに進化させることで、知財や無形資産を活用した事業化の加速と企業価値の継続的な向上を促進させる方針を対外的に示している。2

さらに、この無形資産ガバナンスの運用プロセスにおいて、人工知能(AI)技術の導入が積極的に推進されている点が特筆される。同リリースによれば、AIを活用した「知財プロアクティブ活動」が全社的な施策として展開されている。この活動を通じて、長年の製品開発や現場での保守運用を通じて従業員に蓄積された高度な「暗黙知」を抽出し、それを組織内で共有・再利用可能な「形式知」へと変換する取り組みが進行している。この暗黙知の形式知化プロセスは、属人的な技能やノウハウを組織全体の強固な知的資本へと変換する中核的なメカニズムとして機能している。同時に、これらのAIを活用した先進的な知財活動が、時価総額などの財務指標(企業価値)にどのように結びつくかを明確に意識し、投資家等のステークホルダーに対して透明性の高い情報開示を行っている点も、優秀賞選定における主要な評価ポイントとなった。無形資産に関する適切な情報開示とステークホルダーへの説明責任の徹底が、資本市場における同社の高い評価を支える構造的な要素となっている。2

一方で、同社の2025年発行「荏原グループ統合報告書2025」等において、知的財産戦略や技術経営の詳細、知財ROICの具体的な計算式、および特許件数や海外特許比率といったKPIの数値目標に関しては、提供された資料内には記載されておらず、今回の調査範囲内では確認できず、詳細な定量データとしては特定できなかった。9

3. 精密・電子カンパニーの技術展開と特許ポートフォリオの形成

精密・電子セグメントは、ドライ真空ポンプ、半導体製造装置、排ガス処理装置、オゾン関連製品などの高度な技術を要する製品群の開発・製造を担っており、荏原製作所の成長を牽引する中核部門として位置づけられている。2026213日に開催された「202512月期 決算説明会」における質疑応答要旨によれば、南部勇雄プレジデントより、同セグメントの主力製品であるCMP(化学的機械的研磨)装置の受注動向に関する詳細な状況が説明されている。2024年第4四半期のCMP受注高実績は685億円となり、第3四半期の受注高実績331億円から大幅な増加を記録した。この大幅増の背景には、第4四半期に顧客からの大型案件が集中したという期的な要因に加え、年間を通じて周到に準備してきた案件が計画通りに確定したという営業的成果が存在する。地域別の受注状況としてはアジア地域が中心であり、用途別では年間を通じてロジック半導体向けの投資が堅調に推移し、さらに下期にはメモリ半導体向けの投資が増加したことが受注高を全体として押し上げる要因となった。1

今後の事業見通しとして、株式会社荏原製作所は新年度の計画において、CMPの受注伸び率を49%増とする極めて意欲的な目標を掲げている。この高い成長目標の背景には、生成AIの普及を中心とした旺盛なロジック投資の継続と、202511月末頃から顕著になったメモリ投資の回復という市場環境の好転がある。南部プレジデントによれば、2025年から2026年にかけてロジック、メモリ双方の投資が進展し、ウェーハの微細化技術が進む中で、半導体製造プロセスにおけるCMPの工程数自体が増加している。これに対し、同社が技術的な強みを有する「メタル層向けCMP」のプロセスの割合が増加しており、これが同社の市場シェア拡大の最大の要因となっている。この結果、同社はWFE(前工程製造装置)市場の平均的な成長率(10%以上の伸びと推測される市場環境)を大きく上回る売上成長を達成する計画を示している。また、メモリ向けの受注増加分については、中国市場以外の地域からの需要が見込まれており、地域的なリスク分散も進行している。3

精密・電子セグメントの収益構造と投資方針について、新年度の営業利益計画は73,500百万円(735億円)に設定されている。売上収益の増加率に対して営業利益の伸びが相対的に緩やかに設定されている理由として、顧客ミックスの変化による影響に加え、将来のさらなる成長を見据えた「成長投資」を継続していることが挙げられている。具体的には、高度な技術人材の採用等への先行投資が営業利益を押し下げる要因となっているが、製品粗利の改善施策を通じて、営業利益率自体は前年度実績よりも改善する計画である。さらに、中国市場への依存度に関しては、一昨年度と比較して受注・売上ともに若干減少し、全体に占める割合は3割弱の水準となっており、次年度も同程度の水準を維持すると見込んでいる。生産体制の拡充においては、熊本県に建設されたK3工場が昨年竣工し、2026年から本格的な稼働および生産を開始する予定である。同社はこのK3工場の稼働により、2030年までの期間における需要増加に対して十分に供給可能な生産能力を構築したとしている。2027年に向けた市場の見通しについても、2027年上期までの動向はすでに明確に視界に入っており、期待の持てる事業環境が継続するとの認識が示されている。3

これらの事業戦略を裏付けるように、同社は精密・電子セグメントの技術成果を強固な特許ポートフォリオとして権利化している。独立行政法人工業所有権情報・研修館(J-PlatPat)のデータによれば、CMP装置および半導体製造関連技術として、特開2025-23557「研磨装置」が2025年に公開されているほか、特許7599330「研磨装置、及び研磨方法」、特許7590913「研磨方法」、特許7592434「ワークピース支持装置およびワークピース支持方法」といった研磨・支持プロセスに直結するコア技術が特許登録されている。これらの特許群は、前述の「メタル層向けCMP」など微細化が進むウェーハ加工において、ナノレベルの平坦性を実現するための技術的防壁として機能している。また、半導体製造工程における真空環境の構築および排ガス処理技術として、特許7606490「真空ポンプ装置」が特許登録されており、同時に特開2025-43875「排ガス処理装置および排ガス処理方法」が公開されている。これにより、ドライ真空ポンプの省エネ・省フットプリント化と環境対応を両立する技術の権利保護が図られている。さらに、特許7590492「めっき装置、および、めっき方法」や特許7596438「光学式表面監視装置の洗浄方法」の登録も確認されており、半導体製造プロセスの多岐にわたる工程を網羅する広範なポートフォリオが構築されている。5

4. 建築・産業およびエネルギー、インフラセグメントの事業展開と知財戦略

建築・産業カンパニーは、標準ポンプ、給水ユニット、送風機、産業チラー、冷熱機械、建機製品といった社会インフラと産業活動の基盤を支える幅広い製品群の開発・製造を所管している。2026213日の「202512月期 決算説明会」の質疑応答要旨において、永田修プレジデントより当セグメントの動向が報告されている。前期(202512月期)の第4四半期における利益実績が当初の想定よりも伸び悩んだ背景として、一部計画していた海外案件の計上が期ずれしたことが要因として挙げられている。しかしながら、新年度に向けた事業環境としては、市場全体の動向は前年と大きな変化がない中で、データセンター向け市場が引き続き堅調に推移するという予想に基づき、冷却設備や関連機器の需要増が期待されている。また、国内のS&S(サービス&サポート)事業の強化策として、メンテナンスクラウド等のデジタルソリューションの展開に注力しており、これが新年度の売上収益の増加に直接的に貢献すると見込んでいる。これらの施策を通じて、株式会社荏原製作所は建築・産業セグメントの新年度における売上収益および営業利益の双方を増加させる見通しを示している。1

エネルギーカンパニーは、コンプレッサ・タービン・クライオジェニック製品、カスタムポンプなどを展開しており、インフラカンパニーは水インフラ市場における各種ソリューションを提供している。これらのセグメントでは、既存設備の高度化と環境負荷低減に向けた技術投資が進められている。決算説明会における報告によれば、脱炭素社会の実現に向けた効率化の要請や、顧客が保有する既設製品の高効率化に直結する修繕・改造需要への対応が活発化している。荏原製作所の保有する機械要素・振動音響技術、流体の最適化技術、回転軸・軸受・シール技術などの基盤技術が、これらの修繕・改造プロジェクトにおいて競争優位性を発揮している。これらの分野においても知財戦略は着実に実行されており、特許7595322「ポンプ装置」、特許7590118「ポンプ装置」、特許7590875「取付部材およびモータポンプ」が特許登録されている。これらは、標準ポンプからカスタムポンプに至るまでの製品群における流体設計技術や構造強度技術の高度化を示すものである。加えて、メンテナンスソリューションや予知保全の高度化に寄与する技術として、特許7597656「回転機械の振動監視システム、および回転機械の振動監視方法」が登録されている。これは、建築・産業セグメントで言及された「メンテナンスクラウド等の国内S&S強化」を裏付けるIoT・センシング技術の権利化と位置づけられる。さらに、次世代の製造プロセス革新に関連する技術として、特許7597545「粉末供給装置および粉末供給装置を用いるAM装置」が特許登録されており、金属3Dプリンター(積層造形技術)を活用した流体機械部品の特殊製造技術の開発が進展している事実が示されている。1

これらの特許出願および登録活動は、同社が全社的に推進する「知財ROIC」の指標管理のもと、事業収益に直結する「攻めの知財活動」として展開されている。全社的な研究開発項目の対象となっている材料技術、数値解析技術、表面分析技術、キャビテーション関連技術、腐食・防食技術などが、各カンパニーの製品設計の最適化に活用され、知的財産としての権利化を経て、最終的に高い営業利益率を生み出す事業基盤を形成している。1

5. 新規事業領域への投資と中長期的な研究開発方針

既存の主力事業に加えて、株式会社荏原製作所は中長期的な成長の実現と社会課題の解決を目的とした新規事業領域への研究開発および技術投資を積極化している。2026213日の決算説明会および関連資料によれば、次世代エネルギーの根幹を担う「水素事業」が主要な投資対象として明示されている。同社は、水素サプライチェーンの構築に不可欠なインフラ技術として、液化水素昇圧ポンプや極低温水素リターンガスブロワなどの開発を進めており、すでにこれら関連機器の開発・受注に向けた体制が本格的に稼働している。事業運営の効率化と専門性の強化を目的として、これまで全社的な新規事業として推進されていた「水素事業」の一部を、エネルギーセグメントに直接移管する組織改編が実施された。この移管に伴い、関連する研究開発費や人的投資などの固定費の発生がエネルギーセグメントの営業利益を押し下げる要因(前期比49億円減の要因)となっているものの、同社はこれを将来の水素社会を見据えた不可欠な先行投資として明確に位置づけている。1

また、環境セグメントにおいては、固形廃棄物処理プラントの建設・運営を主力事業として展開しているが、従来の廃棄物処理を中心とするビジネスモデルから「資源循環型ビジネス」へと事業ポートフォリオを転換するための先行投資が増加しており、これも固定費の増大要因となっている。この一環として、「ケミカルリサイクルパイロットプラント」の立ち上げが実施され、これに伴う減価償却費やプラントのランニングコストの増加が財務上の影響として計上されている。しかしながら、この投資は脱炭素社会の要請に応える次世代環境技術の実証として極めて重要なマイルストーンとなる。1

水素事業や資源循環に加えて、同社の研究開発の対象領域には、航空宇宙事業、エコ・GX事業、マリン事業、バイオ事業といった多岐にわたる新規領域が含まれている。製品ライフサイクル全般におけるデジタルエンジニアリングの導入や、VR(仮想現実)技術の産業応用、焼却プラントにおける高度なシミュレーション技術の開発など、デジタル技術と物理的なものづくりを高度に融合させた「製造DX(デジタルトランスフォーメーション)」の取り組みも加速している。事実、人を主役にした製造DXEBARA-D3™」がデータマネジメント賞2026を受賞するなど、製造プロセスにおける技術革新にも注力していることが示されている。これらの技術開発は、持続可能な社会の実現と企業価値の向上という長期的な経営目標に連動しており、研究開発活動が生み出す技術資産が、将来の「知財ROIC」の分母となる無形資産の蓄積に直結する構造となっている。荏原製作所は、創業以来の理念である「熱と誠」に基づき、知的財産を経営資源として最大限に活用し、事業ポートフォリオの変革とグローバル市場における競争力の強化を継続する方針を示している。1

未確認/到達性まとめ

  • 荏原製作所の202512月期における連結研究開発費の総額およびセグメント別の研究開発活動の金額:「調査範囲内では確認できず」
  • 荏原グループ統合報告書2025における知財ROICの具体的な計算式、特許件数、海外特許比率等の定量KPI:「調査範囲内では確認できず」
  • URL https://www.ebara.com/jp-ja/ir/library/earnings/index.html に掲載されている情報:「参照リンクにアクセスできず」(理由:This website is inaccessible等のため)
  • Snippet URL https://www.ebara.com/jp-ja/ で質問された荏原製作所の長期ビジョンおよび中期経営計画における知財の役割:「調査範囲内では確認できず」

引用文献

  1. 2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結), 3 26, 2026にアクセス、 https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q4_jp.pdf
  2. 「知財・無形資産ガバナンス表彰(2025年)」の優秀賞を初受賞 ..., 3 26, 2026にアクセス、 https://www.ebara.com/jp-ja/newsroom/2026/20260325-02/
  3. 株式会社荏原製作所 2025 12 月期 決算説明会 質疑応答の内容 ..., 3 26, 2026にアクセス、 https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/briefings-documents/2025/161_q4_QA_jp.pdf
  4. 株式会社荏原製作所, 3 26, 2026にアクセス、 https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/briefings-documents/2025/161_q4_scripts.pdf
  5. 特開2025-43875 | 知財ポータル「IP Force, 3 26, 2026にアクセス、 https://ipforce.jp/patent-jp-P_A1-2025-43875
  6. 特開2025-23557 | 知財ポータル「IP Force, 3 26, 2026にアクセス、 https://ipforce.jp/patent-jp-P_A1-2025-23557
  7. 株式会社荏原製作所の特許登録一覧 2024 - IP Force, 3 26, 2026にアクセス、 https://ipforce.jp/applicant-710/2024
  8. 2025年12月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結), 3 26, 2026にアクセス、 https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/pdf/ir/library/earnings/earnings/161_q3_jp.pdf
  9. INTEGRATED REPORT - 荏原 - EBARA CORPORATION, 3 26, 2026にアクセス、 https://www.ebara.com/content/dam/ebara/grand-masters/entities/ja/ir/library/annual-report/INT25_all_JP.pdf

 

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  • 2025年12月時点の情報に基づきます
  • 企業の非公開戦略や内部情報は含まれません
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