3行まとめ
2025年4月、「中央研究所」を「研究開発本部」へ再編し、知財部門をR&D推進部に統合
太平洋セメントは研究開発組織を抜本的に改編し、セメント・コンクリート研究所、新規技術研究所、研究開発推進部、GX推進部の4部門体制を構築。従来独立していた知的財産部を研究開発推進部に編入し、技術開発の初期段階から知財戦略を一体推進する体制を整えた。
フィリピン子会社の減損損失約247億円が直撃し、通期純利益予想を170億円へ大幅下方修正
2026年3月期Q3累計の親会社株主帰属純利益は前年同期比66.1%減の177億円にとどまり、通期予想も450億円から170億円へ280億円の引き下げが実施された。主力セメント事業の売上高も国内需要低迷により前年同期比109億円減となっている。
CO2吸収セメント「CARBOFIX」やAI予測「PreSLump AI」など、GX・DX技術を商標化しブランド展開
CO2を吸収して硬化する独自技術「CARBOFIX セメント」の実証適用を拡大するとともに、AIスランプ予測システム「PreSLump AI」や3Dプリンター用積層モルタルなどの先端技術を次々と商標登録し、東京大学・東京理科大学との産学連携特許も含めた多角的な知財ポートフォリオを構築している。
この記事の内容
太平洋セメント株式会社は、長期的な経営戦略と技術革新の推進を目的として、全社的な研究開発組織の抜本的な改編を実施した。企業公式情報によれば、2025年4月1日を実施日として、同社において長年にわたり中核的な研究機能を提供してきた「中央研究所」が新たに「研究開発本部」へと再編された。この組織改編は、研究開発部門単体の機能強化に留まらず、同本部をグループ全体の事業推進および収益の拡大に対して直接的に貢献する「総合研究所」として再定義する戦略的な位置づけを伴っている。新設された研究開発本部の内部構造は、明確な専門性と役割を持つ複数の事業所および部門によって構成されている。具体的には、セメントの基礎的な設計および製造プロセスの研究から、コンクリート製品や地盤改良製品の応用開発に至るまでの一連の技術的課題を包括的に所管する「セメント・コンクリート研究所」が設置された。これと並置される形で、機能性マテリアル分野、生物多様性保全分野、および環境関連分野の最先端研究を推進するとともに、コンクリート・建材分野における全く新しい材料や革新的な技術の創出を牽引する「新規技術研究所」が組織されている。さらに、これら高度に専門化された研究部門の活動を円滑化し、研究開発体制全体の継続的な強化と部門間連携の管理を担う中核組織として「研究開発推進部」が配置されている。この一連の組織再編により、基礎研究から製品化、さらには将来の新規事業開拓に至るまでの研究開発プロセスが、全社的な経営戦略と強固に統合された体制が構築されている1。
知的財産戦略の立案および遂行体制に関しても、前述の2025年4月1日付の組織改編において極めて重要な統合が実施されている。従来、中央研究所の組織枠組みから独立した形で機能していた「知的財産部」が、本改編に伴い、新たに設置された「研究開発推進部」の内部組織として正式に編入された。この組織統合は、技術開発の初期段階から知的財産の保護および活用戦略を一体的かつ一元的に推進する体制の構築を企図したものである。同社は自社の研究成果を広く社会に還元し、技術的優位性を示す手段として「太平洋セメント研究報告」を年2回の頻度で継続的に発行しており、1999年発行の第136号から2025年発行の第189号に至る膨大な研究論文が、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営するプラットフォーム「J-STAGE」を通じて一般公開されている。特許ポートフォリオの具体的な形成状況として、公的特許データベースの公開特許公報において、特許公開番号「特開-2024-117435」(発明の名称「硬化体の製造方法」、公報発行日2024年8月29日)が確認される。特筆すべき点として、同特許の出願人には太平洋セメント株式会社に加えて、国立大学法人東京大学および学校法人東京理科大学が共同で名を連ねており、同社が高度な学術機関との産学連携を通じて基礎技術の知財化を推進している事実が裏付けられている。さらに、CO2吸収・硬化セメントである「CARBOFIX(カーボフィクス)」やAIスランプ予測システム「PreSLump AI」など、独自に開発した技術を速やかに商標登録し、市場における技術ブランドとして確立する知財活用戦略が多角的に展開されている2。
太平洋セメント株式会社が2026年2月10日に公表した「2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」の要約情報によれば、同社の直近の財務パフォーマンスは複数の外部要因による影響を大きく受けている。2026年3月期第3四半期累計期間(対象期間)における連結ベースの売上高(実績)は671,264百万円(単位)であり、前年同期比で1.6%(単位)の減少となった。利益指標に関しても、同期間の営業利益(実績)が59,066百万円(単位)で前年同期比8.0%(単位)減、経常利益(実績)が60,233百万円(単位)で同7.6%(単位)減と、それぞれ減益を記録している。特に、親会社株主に帰属する四半期純利益(実績)は17,774百万円(単位)にとどまり、前年同期比で66.1%(単位)という大幅な減少となった。この純利益水準の大幅な低下をもたらした主要な要因は、フィリピン共和国に所在するセメント製造・販売の連結子会社「タイヘイヨウセメントフィリピンズ株式会社」において、事業環境の悪化等に伴う巨額の減損損失を計上したことにある。当該減損損失の計上額は24,696百万円(単位)に上ることが短信内で明示されている。この事態を受け、同日には「2026年3月期通期業績予想の修正」が公表され、通期の売上高(予想)は906,000百万円(単位)に据え置かれたものの、親会社株主に帰属する当期純利益(予想)は前回発表時の45,000百万円から28,000百万円引き下げられ、17,000百万円(単位)へと大幅な下方修正が実施された。なお、セグメント別の状況では、主力の「セメント事業」における当期売上高(実績)が499,734百万円(単位)となり、国内需要の低迷等を受けて前年同期から109億円減少している。一方で「資源事業」の当期売上高(実績)は69,078百万円(単位)となり、価格転嫁の進展によって前年同期比15億円の増収を確保している5。
グローバルな環境課題である気候変動対策への対応は、太平洋セメントの研究開発戦略において最重要のテーマとして位置づけられている。これを組織的に推進するため、2025年4月1日の研究開発組織の改編において「GX推進部」が新たに設立された。同部は、グループ全体のカーボンニュートラル(CN)実現に向けた総合戦略の策定とその確実な実行を担う中核組織である。その具体的な所管業務には、CO2の回収・貯留・有効利用(CCUS)に関する革新的な技術の研究開発、排出権取引制度への適応対応、さらにはカーボンニュートラル対応製品および災害対応製品の市場への普及促進が含まれる。技術開発の具体的な成果は「太平洋セメント研究報告」を通じて継続的に発表されており、特に第188号、第187号、および第183号においては、同社の独自技術であるCO2吸収・硬化セメント「CARBOFIX(カーボフィクス)セメント」の適用事例が詳細に論じられている。この技術は、スプリットンブロックの製造工程への導入や、道路法面の補強工事、流込みコンクリート製品への適用など、広範な土木・建築分野での実証が進められている。また、建設産業における循環型経済の実現を目指す技術として、第188号および第183号では廃コンクリートへの加熱炭酸化処理を通じたCO2固定化技術が報告され、第183号ではコンクリートスラッジを対象とした湿式炭酸化の反応メカニズムに関する基礎研究が示されている。これらは、製造プロセスにおけるCO2排出量の削減と、産業副産物へのCO2固定化を両立させる高度な環境技術ポートフォリオの構築を示すものである2。
製造現場における品質管理の高度化や設備保全の効率化を目的として、太平洋セメントはデジタルトランスフォーメーション(DX)および人工知能(AI)技術の社会実装を積極的に進めている。同社の研究開発成果として特に注目されるのが、「太平洋セメント研究報告」第185号で報告されたAIを用いたコンクリートのスランプ予測システム「PreSLump AI」である。このシステムは、生コンクリートの製造過程において、材料の配合や環境条件の変動が製品の流動性(スランプ)に与える影響をAIアルゴリズムによって事前予測する技術である。報告書内では、実工場における予測精度の検証結果が具体的に提示されており、長年の経験に依存してきた製造プロセスをデータ駆動型に転換し、製品品質の安定化と業務の省力化を同時に達成するアプローチが確立されている。設備メンテナンスの領域においてもデジタル化が進展しており、第186号においては「3Dレーザースキャナを用いたキルン点検」に関する技術報告がなされている。これは、セメント製造の中核設備である回転窯(キルン)の内部構造や耐火物の劣化状況を、高精度な三次元点群データとして非接触で取得・解析する技術であり、安全性の向上と予防保全の精密化に寄与している。さらに、次世代の建設・施工プロセスの探求として、第184号では「3Dプリンター用積層モルタル」に関する研究が報告されている。材料押出方式の3Dプリンターにおいて、ノズルの移動経路が積層されたコンクリートのひび割れや変形に与える物理的影響を解析したこの研究は、将来の建設現場における自動化と省力化を見据えた先進的な知財基盤の構築を意図している1。
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発行体(会社名) |
ドメイン |
文書名/ページ名 |
発行日/公表日 |
種別 |
URL |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
所在地・連絡先 |
公表日未記載 |
公式企業情報 |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
決算説明資料 |
公表日未記載 |
公式IR情報 |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
ニュースリリース一覧 |
2026年3月9日 |
公式ニュース |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結) |
2026年2月10日 |
決算短信 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260210_1.pdf |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
2026年3月期通期業績予想の修正に関するお知らせ |
2026年2月10日 |
決算補足/IR |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260210_3.pdf |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
研究・技術開発 トップ |
公表日未記載 |
公式プロジェクト |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
研究・技術開発 組織体制 |
公表日未記載 |
公式プロジェクト |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/rd/organization/index.html |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
研究・技術開発 所在地・連絡先 |
公表日未記載 |
公式プロジェクト |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
太平洋セメント研究報告 |
2025年 |
研究報告 |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
お問い合わせ |
公表日未記載 |
公式企業情報 |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
代表取締役の異動に関するお知らせ |
2026年2月24日 |
公式ニュース |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260224_2.pdf |
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太平洋セメント株式会社 |
www.taiheiyo-cement.co.jp |
組織改定について |
2026年1月27日 |
公式ニュース |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260127_1.pdf |
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日本国特許庁 |
www.j-platpat.inpit.go.jp |
公開特許公報 特開-2024-117435 |
2024年8月29日 |
公的特許DB |
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種別 |
公表日(または予定日) |
対象期間 |
FY |
根拠URL |
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組織改定 |
2026年1月27日 |
- |
2026年3月期 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260127_1.pdf |
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決算短信 |
2026年2月10日 |
第3四半期 |
2026年3月期 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260210_1.pdf |
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業績予想の修正 |
2026年2月10日 |
通期 |
2026年3月期 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260210_3.pdf |
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代表取締役の異動 |
2026年2月24日 |
- |
2026年3月期 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/260224_2.pdf |
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品目ラベル(公式表記) |
シェア(公式表記) |
対象期間または出典資料名 |
掲載場所 |
根拠URL |
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今回の調査では未確認 |
今回の調査では未確認 |
今回の調査では未確認 |
今回の調査では未確認 |
今回の調査では未確認 |
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国 |
特許番号 |
発明名称(公式表記) |
出願人・権利者(当社/他社/未確認) |
根拠(公的DBまたは一次情報URL) |
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日本 |
特開-2024-117435 |
硬化体の製造方法 |
太平洋セメント株式会社、国立大学法人東京大学、学校法人東京理科大学(当社・他社共同出願) |
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研究開発組織(公式表記) |
拠点(公式表記) |
根拠ページ名 |
URL |
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研究開発本部 |
〒285-8655 千葉県佐倉市大作2-4-2 |
所在地・連絡先 |
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知的財産グループ |
〒112-8503 東京都文京区小石川1-1-1 文京ガーデン ゲートタワー |
所在地・連絡先 |
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セメント・コンクリート研究所 |
調査範囲内では確認できず |
組織体制 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/rd/organization/index.html |
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新規技術研究所 |
調査範囲内では確認できず |
組織体制 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/rd/organization/index.html |
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研究開発推進部 |
調査範囲内では確認できず |
組織体制 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/rd/organization/index.html |
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GX推進部 |
調査範囲内では確認できず |
組織体制 |
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/rd/organization/index.html |
太平洋セメント株式会社における研究および技術開発活動は、単なる既存製品の改良に留まらず、企業の持続的な成長を牽引する中核的機能として位置づけられている。同社の公式企業情報において、研究・技術開発が担う最大の使命は「会社の将来の利益と活力を生み出す源となること」と明記されている。この使命の基盤となっているのが、前身企業の時代から起算して100年以上にわたって蓄積されてきたセメントおよびコンクリートに関する広範な技術資産である。同社はこの歴史的な技術基盤を活用し、優れた製品やサービスを社会インフラ構築のために提供し続けることを基本方針として掲げている。この方針は、具体的な経営戦略と直結する形で二つの主要なベクトルへと展開されている。第一のベクトルは「既存事業の深化拡大」であり、主力であるセメントやコンクリート製品の品質向上、製造プロセスの効率化、およびコスト競争力の強化を目指すものである。第二のベクトルは「新しい事業分野の開拓」であり、環境技術、機能性マテリアル、デジタル技術の応用など、従来の枠組みを超えた新規領域における技術的優位性の確立を目的としている。これら二つの戦略的アプローチを並行して推進することにより、長期的な市場競争力の維持と社会課題の解決を目指す体制が敷かれている1。
前述の高度な戦略的目標を具現化し、急速に変化する事業環境に柔軟に適応するため、太平洋セメントは2025年4月1日を実施日として、研究開発体制の抜本的な組織改編を実行した。この改編の最大の焦点は、従来の研究活動の中心であった「中央研究所」を解散し、全社的な統括機能を持つ「研究開発本部」として新たに再編した点にある。新たな研究開発本部は、単なる技術研究の場ではなく、グループ全体の事業展開と収益規模の拡大に対して直接的かつ具体的に貢献する「総合研究所」としての役割を明示的に付与されている。この新体制は、専門性と目的が明確化された3つの事業所(研究所および部)と1つの新設部署によって構成されている。中核を成す「セメント・コンクリート研究所」は、セメント材料の設計および製造プロセスの研究から、コンクリート製品や地盤改良製品の応用開発に至るまで、同社の主力事業を支える一連の要素技術を包括的に所管する。また、同研究所は後述するGX推進部と緊密に連携し、カーボンニュートラル(CN)に関わる実践的な技術開発を共同で遂行する役割も担う。これと並立する「新規技術研究所」は、既存事業の枠に収まらない先進領域を開拓する組織であり、機能性マテリアル分野、生物多様性保全分野、および環境関連分野の研究を推進する。さらに、同研究所はコンクリートおよび建材分野における全く新しい材料の創出と革新的技術の開発を牽引する。これらの高度に専門化された研究組織の活動全体を管理し、全部門の円滑な運営と研究開発体制の持続的な強化に取り組む統括部門として「研究開発推進部」が配置されている2。
研究開発活動を物理的・空間的に支えるための拠点展開についても、明確な配置が行われている。研究開発活動の中枢拠点である「研究開発本部」は、千葉県佐倉市大作2-4-2(郵便番号285-8655)に設置されている。この拠点は、同社の技術開発を担う中核施設として機能しており、公式な連絡先として電話番号043-498-3811およびファックス番号043-498-3819が公開されている。一方、知的財産の管理・運用を専門に担う「知的財産グループ」は、首都圏の中心部である東京都文京区小石川1-1-1の文京ガーデン ゲートタワー(郵便番号112-8503)に配置されている。同グループの連絡先は電話番号03-5801-0349およびファックス番号03-5801-0359であり、交通アクセスとしては東京メトロ南北線・丸ノ内線の「後楽園駅」7番出口直結、および都営地下鉄三田線・大江戸線の「春日駅」が利用可能であることが公式に案内されている。この拠点は、太平洋セメント株式会社の本社所在地(同一住所)と合致しており、経営中枢と知財管理部門が物理的に近接した環境で機能していることが示されている。社外との技術的コミュニケーションや発信機能の面では、同社は歴史的な技術資産を保存・公開する施設として「セメント資料館」を保有している。また、技術関連の外部からの問い合わせに対しては、公式ウェブサイト上に細分化された窓口が設けられている。「研究開発全般」という包括的なカテゴリに加え、「RFID構造物診断技術」「コンクリート舗装・道路関連技術」「太平洋ブランドセメント・コンクリート」「リントル」といった特定の製品・技術分野ごとに問い合わせ先が設定されており、さらに技術情報誌「CEM'S」に関する専用の窓口も存在する。これらの体制は、社内で創出された技術情報を適切に外部へ提供し、専門的なフィードバックを受け入れるための仕組みとして機能している1。
技術開発の成果を法的権利として保護し、競争力の源泉へと転換するための知的財産体制に関しても、2025年4月1日の組織改編は重大な変更をもたらした。本改編において、従来は中央研究所の指揮系統から独立した形で組織されていた「知的財産部」が、新設された「研究開発推進部」の内部組織として正式に編入される措置が講じられた。この組織統合の主たる目的は、研究開発の円滑化と管理を担う部門の中枢において、研究開発の基本方針と完全に連動した知的財産戦略を推進することにある。研究企画の初期段階から知財部門が関与し、特許出願の方向性や権利保護の範囲を策定することで、技術開発の投資効果を最大化する体制が企図されている。この戦略的アプローチの実践は、同社が定期的に刊行している「太平洋セメント研究報告」の巻頭言にも表れている。例えば、第169号の巻頭言では「知的財産の使い方 (How to Use Intellectual Property)」というテーマが明確に掲げられており、単に特許を取得する段階から、事業展開において知財をいかに有効活用するかという高度な戦略的視点への移行が示唆されている。また、技術成果の社会的な蓄積と認知度向上の取り組みとして、同社は1999年に発行された創刊号(第136号)から最新号(第189号)に至るまでのすべての研究報告を、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の電子ジャーナルプラットフォーム「J-STAGE」上で一般公開している。2025年に発行された第189号の巻頭言においては「社会基盤を支える技術蓄積」というテーマが設定されており、長期的視座に立った技術および知財ポートフォリオの構築方針が確認される2。
太平洋セメントの技術開発体制は、自社の社内リソースによる単独開発に限定されず、国内の最高学府や主要な研究機関との高度な産学連携プログラムを積極的に取り入れている。この共同研究体制の実証として、公的特許データベースであるJ-PlatPatにおいて公開されている特許情報が挙げられる。特許公開番号「特開-2024-117435」として登録されている特許公報によれば、同特許の発明の名称は「硬化体の製造方法」であり、セメントおよびコンクリート関連分野における基礎的な材料製造プロセスに関する権利である。この特許の公報発行日は2024年8月29日と記録されている。特筆すべきは当該特許の出願人構成であり、事業会社である太平洋セメント株式会社に加えて、国立大学法人東京大学および学校法人東京理科大学が共同出願人として明記されている点である。この事実は、同社が次世代のセメント・コンクリート材料の創出において、大学等の学術機関が有する基礎科学的な知見や最先端の分析技術を自社の応用開発力と融合させ、その共同研究の成果を確実に法的な知的財産権として保護・確保する戦略を実行していることを明白に示している4。
特許の取得に加えて、太平洋セメントは開発した独自技術や新規工法を速やかに商標登録し、市場における認知度とブランド価値を確立する知財マーケティング戦略を強力に展開している。同社が発行する「太平洋セメント研究報告」の各号(第183号から第188号等)においては、登録商標であることを示す「Ⓡ(アールマーク)」を付記された技術名称が多数報告されている。環境技術分野においては、後述するCO2吸収・硬化セメントの名称として「CARBOFIX(カーボフィクス)セメント」が商標として確立されている。また、建設・施工の補助材料として、塗布型の高機能養生剤に「クリーンセイバー(Clean Saver)」というブランド名が付与され、その性能評価が第188号で報告されている。デジタル技術の領域では、AIを用いたコンクリートスランプ予測システムが「PreSLump AI」として、RFIDを活用した構造物診断技術が「WIMO」としてそれぞれ商標登録され、事業展開の核として活用されている。さらに、土木・補修工事に関連する特殊工法や製品として、「TTR技術」「リフリート工法」「ダクタルフォーム」といった名称が報告書内で継続的に使用されている。これらの商標展開は、基礎研究から生まれた要素技術を単なる社内ノウハウとして留めるのではなく、特定のブランドアイデンティティを持つ製品・サービス群としてパッケージ化し、競合他社に対する明確な差別化要因として市場に投入する知財活用モデルの典型である3。
地球規模の気候変動問題に対処するため、産業界全体で温室効果ガスの排出削減が急務となる中、セメント製造業界におけるカーボンニュートラル(GX:グリーントランスフォーメーション)の達成は経営上の最重要課題となっている。太平洋セメントはこの課題に対する組織的な解決能力を強化するため、2025年4月1日の研究開発組織の改編において「GX推進部」を新たに設立した。本部署は、グループ全体を網羅するカーボンニュートラル実現に向けた総合戦略の立案から、その具体的な実行プロセスの推進までを包括的に担う専門組織である。GX推進部が所管する具体的な業務領域は多岐にわたる。第一に、セメント製造プロセスで大量に発生するCO2を大気中に放出させずに回収し、地中への貯留または工業的な有効利用を図る「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)技術」の基礎研究および実証開発である。第二に、国内外で規制が強化されつつある「CO2排出権取引制度」に対する戦略的な適応と対応方針の策定が含まれる。第三に、自社開発のカーボンニュートラル対応製品(低炭素型セメント等)や、激甚化する自然災害に対するレジリエンスを高める災害対応製品の市場への普及促進活動である。これらのミッションを達成するため、GX推進部はセメント・コンクリート研究所をはじめとする社内の各研究部門と緊密な連携体制を構築し、全社的な環境目標の達成に向けた司令塔として機能している2。
GX推進部が主導するカーボンニュートラル戦略の中でも、技術的に最も注力されている領域の一つが、CO2の有効利用および物理的・化学的固定化技術の開発である。「太平洋セメント研究報告」においては、この分野に関する画期的な研究成果が多数報告されている。その中核技術となるのが、大気中や排出ガス中のCO2を吸収して自ら硬化する特殊な性質を持つ「CARBOFIX(カーボフィクス)セメント」である。第188号、第187号、および第183号の各報告においては、このCARBOFIXセメントに関する具体的な実用化に向けた適用事例が論じられている。具体的には、コンクリート二次製品であるスプリットンブロックの製造プロセスへの導入試験、実際の道路法面における補強工事での実地適用、および流込みコンクリート製品への適用に関する検証データが提示されている。また、CO2を構成要素として取り込んだ新しい建材の開発として、第187号では「カルシウムカーボネートコンクリート」に関する基礎研究が報告され、無機塩の添加が当該コンクリートの圧縮強度や物理的特性にどのような影響を及ぼすかについての詳細なメカニズムが解明されている。これらの技術は、セメント産業を従来の「CO2排出産業」から、CO2を製品の形で長期的に固定化・封じ込める「CO2吸収・固定化産業」へと転換させるポテンシャルを秘めた重要な知財群を形成している3。
カーボンニュートラルと並行して推進されている環境戦略が、産業副産物や未利用資源の積極的な活用を通じた循環型社会の構築に向けた技術開発である。この領域に関しても、研究報告を通じて継続的に成果が公表されている。建設業界において大量に発生する廃コンクリートの処理問題に対して、太平洋セメントは第188号および第183号において「廃コンクリートの加熱炭酸化処理」というアプローチを報告している。これは、廃材となったコンクリートに対して加熱処理と炭酸化処理を施すことで、廃材自体に多量のCO2を固定化し、再資源化の価値を高める技術である。また、第183号では、生コンクリートの製造・洗浄過程で生じる「コンクリートスラッジの湿式炭酸化」に関する化学的な反応メカニズムの研究が示されており、副産物処理プロセスの環境負荷低減が図られている。さらに、2025年発行の第189号においては、各種の環境配慮型素材を用いたコンクリートの物性評価が中心的なテーマとして取り上げられた。「石灰石―高炉スラグセメント技術」に関する研究では、製鉄所の副産物である高炉スラグを活用したセメントの室内および暴露環境下での長期的な物性評価が実施され、流動性や鉄筋の間隙通過性に関するデータが提供された。同様に、「天然ゼオライト活用技術」によるコンクリートの収縮ひび割れ特性の改善に関する検討や、石炭火力発電所の副産物である「フライアッシュの物理特性評価」がモルタルの流動性に与える影響についての研究も報告されている。第188号では、トンネル工事等で発生する掘削ずりに対する不溶化処理の適用を検討する「不溶化工法」の研究も発表されており、資源循環型の建設インフラを支える多様な技術ポートフォリオが展開されている3。
環境技術と双璧をなす技術開発の柱として、太平洋セメントはデジタルトランスフォーメーション(DX)および人工知能(AI)の自社プロセスへの実装を急速に推進している。これらの技術は、品質管理の高度化と設備の安定稼働という製造業の根幹を支える領域に直接的に適用されている。AI導入の代表的な事例が、研究報告第185号で詳細が発表された「PreSLump AI」である。生コンクリートは、その日の気温、湿度、使用する骨材の水分量など、無数の変動要因によって流動性(スランプ値)が変化するため、製造現場では熟練技術者の経験的判断が不可欠であった。PreSLump AIは、これらの複雑な変動要因のデータをAIアルゴリズムに入力し、出荷前のコンクリートのスランプ値を高精度に事前予測するシステムである。報告書内では、実際のコンクリート製造工場における予測精度の検証結果が具体的に提示されており、このシステムが単なる概念実証(PoC)の段階を越え、実運用を通じた製品品質の安定化と製造業務の属人化解消に寄与していることが確認される。設備保守のデジタル化に関しては、第186号において「3Dレーザースキャナを用いたキルン点検」の技術が報告された。セメントの焼成を担う巨大な回転窯(キルン)の内部は過酷な高温環境にあり、耐火物の損耗状態を正確に把握することは極めて困難であった。この技術は、3Dレーザースキャナを用いてキルン内部の三次元点群データを非接触で取得し、その微細な形状変化から設備の劣化状態を解析するものである。これにより、目視点検に伴う安全上のリスクを排除するとともに、修繕計画の最適化や突発的な設備停止の回避といった予防保全の高度化が実現されている。さらに、構造物の健全性評価においては、RFID技術を活用した診断システム「WIMO」が事業展開されており、各種の「TBC」「リントル」「TQPS」「TCDS」「PFC」「X-CT」といった独自の分析・解析技術群とともに、同社のデジタル技術資産の中核を構成している1。
デジタル技術の応用範囲は、既存の製造プロセスの改善に留まらず、建設現場における全く新しい施工プロセスの開発にまで拡張されている。その象徴的な取り組みが、建設用3Dプリンター技術に対する基礎研究である。建設業界における慢性的な労働力不足や高齢化、工期の長期化といった構造的課題を解決する手段として、大型3Dプリンターによる建築物や土木構造物の自動施工への期待が世界的に高まっている。太平洋セメントはこの分野において、第184号で「3Dプリンター用積層モルタル」に関する専門的な研究報告を行っている。この研究は、材料押出方式の3Dプリンターを用いて特殊なモルタルを積層造形する過程において、プリンターノズルの移動経路のパターンや速度が、造形された構造物の物理的特性にどのような影響を与えるかを解析したものである。特に、積層界面におけるひび割れの発生メカニズムや、硬化過程における構造的な変形のリスクについての詳細な技術的検討が行われている。この研究成果は、同社が将来的に建設用3Dプリンティング市場において、単なる材料供給メーカーとしての立場を超え、施工システム全体を最適化するための知見を有するソリューションプロバイダーとしての地位を確立するための重要な布石となっている3。
太平洋セメントの技術開発に向けた投資基盤となる財務的状況について、2026年2月10日に公表された「2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」に基づき詳細な事実を確認する。2026年3月期第3四半期累計期間(対象期間)における同社の連結売上高(実績)は671,264百万円(単位)となり、前年同期との比較においては1.6%(単位)の減少を記録した。収益性の指標に目を向けると、同期間の営業利益(実績)は59,066百万円(単位)で前年同期比8.0%(単位)の減少、経常利益(実績)は60,233百万円(単位)で同7.6%(単位)の減少となり、いずれも減益傾向を示した。この中で極めて特筆すべき点は最終利益の動向であり、親会社株主に帰属する四半期純利益(実績)は17,774百万円(単位)にとどまり、前年同期比で実に66.1%(単位)という大幅な減少となった。これに伴い、1株当たり四半期純利益(実績)は159円46銭(単位)に低下している。この四半期純利益の急減をもたらした直接的な原因について、決算短信のサマリー情報では明確な事実関係が示されている。フィリピン共和国においてセメント製造および販売事業を展開している同社の連結子会社「タイヘイヨウセメントフィリピンズ株式会社」において、事業環境の悪化等を背景とする深刻な減損損失が発生し、その額が24,696百万円(単位)に上ることが特別損失として計上されたのである。この巨額の特別損失計上は、直近の財務パフォーマンスに対して甚大な下押し圧力として作用した5。
前述の連結全体の業績推移をより詳細に把握するため、「2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」におけるセグメント情報の内訳を分析する。同社の事業ポートフォリオの中核を占める「セメント事業」においては、当第3四半期累計期間(対象期間)の売上高(実績)が499,734百万円(単位)となり、前年同期差として109億円(単位)の減少を記録した。同事業の営業利益(実績)は40,477百万円(単位)であり、こちらも前年同期差で44億円(単位)の減少となった。この減収減益の背景として、国内市場におけるセメント需要が建設コストの高騰や深刻な作業員不足の影響を受けて前年同期比で7.0%減少したことが挙げられる。また海外市場においては、米国西海岸で販売価格の上昇が実現したものの、住宅需要の全般的な減退や悪天候の影響により販売数量が微減したことが利益を圧迫した。これに対し「資源事業」のパフォーマンスは相対的に堅調であった。同セグメントの売上高(実績)は69,078百万円(単位)で前年同期差15億円(単位)の増収となり、営業利益(実績)も8,314百万円(単位)で前年同期差2億円(単位)の増益を確保した。これは、生産コストの増加分を製品価格へ転嫁する取り組みが進展したことによるものである。「環境事業」に関しては、売上高(実績)が61,107百万円(単位)で前年同期差1億円(単位)の微増となった一方で、営業利益(実績)は6,445百万円(単位)となり前年同期差で5億円(単位)の減益となった。石炭灰処理等の業務は安定的に推移したものの、汚泥処理関連の受注が伸び悩んだことが利益率の低下を招いた。「建材・建築土木事業」においては、売上高(実績)が32,583百万円(単位)で前年同期差10億円(単位)減、営業利益(実績)が1,579百万円(単位)で前年同期差4億円(単位)減となった。ALC(軽量気泡コンクリート)等の主要製品の販売が低調であったことに加え、物流運賃や人件費などの各種コストの増大が収益を圧迫する要因となった6。
前述のフィリピン連結子会社における24,696百万円の減損損失計上という事象を重く受け止め、太平洋セメントは2026年2月10日付のニュースリリースにおいて「2026年3月期通期業績予想の修正」を実施し、市場に対して新たな将来見通しを提示した。修正後の2026年3月期通期(対象期間)の連結売上高(予想)は、前回発表予想と同じ906,000百万円(単位)に据え置かれ、前期比では1.1%の増収を見込んでいる。しかしながら、段階利益については下方修正がなされた。通期の営業利益(予想)は70,000百万円(単位)とされ、前期比で10.0%の減益見通しとなった。通期の経常利益(予想)は69,000百万円(単位)となり、同8.5%の減益見通しである。最も劇的な修正を受けたのが最終利益であり、親会社株主に帰属する当期純利益(予想)は、前回発表時点の予想額45,000百万円から28,000百万円もの大幅な引き下げが行われ、17,000百万円(単位)へと修正された。これにより、前期比での純利益の減少率は70.4%に達する見込みである。これに伴い、1株当たり当期純利益(予想)は152円52銭(単位)に修正された。ただし、株主への利益配分に関する方針については維持され、配当予想(年間100円)に変更はないことが明示されている。このような事業環境の激変と同時期に、同社は経営基盤の刷新と人事制度の改定に向けた複数の重要施策を相次いで公表している。2026年1月27日には、全社的な「組織改定」の方針を発表すると同時に、労働力の確保と従業員の長期的な活躍を目的とした「定年年齢の65歳への延長」を公表した。さらに、翌月の2026年2月24日には、グループ事業ポートフォリオの最適化の一環として「連結子会社の持分譲渡」を発表し、同日に経営トップ層の交代を伴う「代表取締役の異動」を公表している。これらの連動した動きは、厳しい業績見通しの中において、同社が経営体制の若返りや事業構造の転換を急ピッチで推し進めている状況を示している。なお、販売費及び一般管理費に関する情報として、当第3四半期連結累計期間において109,573百万円(単位)が計上されており、前年同期の実績値である103,842百万円から増加している事実が確認される5。
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