3行まとめ
事業・技術・知財の「三位一体」体制をCTO直轄で全社展開
東レは副社長(CTO)が技術全般と知的財産全般を統括し、2ヶ月に1回の「特許会議」を軸とした特許責任体制を国内外のグループ会社に展開。製品安全と同様に現場が知財の責任を持つガバナンス構造を構築している。
国内9研究所+世界10拠点超のR&Dネットワークが知財創出を支える
繊維・フィルム・複合材料・医薬など専門特化した国内9研究所に加え、中国・韓国・米国・欧州など世界10拠点以上に研究開発網を展開。設備投資額は2025年度第3四半期累計で約1,150億円と大規模な資本投下を継続している。
サステナビリティ・ビジョン2050を軸にNANODESIGN等の新技術を事業化
2050年のカーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー実現を目標に掲げ、独自紡糸技術「NANODESIGN」活用の新繊維「AURLIST」や3Dプリンター用ポリアミド12真球微粒子など、社会課題解決型の新素材開発を加速させている。
この記事の内容
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発行体 |
文書名 |
発行日/公開日 |
種別 |
URL |
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東レ株式会社 |
2026年3月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結) |
2026/02/10 |
決算短信 |
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東レ株式会社 |
Toray Report 2024 |
日付明示なし |
統合報告書 |
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東レ株式会社 |
Toray Report 2025 |
日付明示なし |
統合報告書 |
https://vane.online/monthly_page/img/page48/toray_report.pdf |
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東レ株式会社 |
公式ニュース:レミッチ特許訴訟 |
日付明示なし |
公式ニュース |
https://www.toray.co.jp/news/article.html?contentId=t01zwytp |
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東レ株式会社 |
公式サイト:主要拠点 |
日付明示なし |
公式ページ |
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東レ株式会社 |
公式サイト:研究組織 |
日付明示なし |
公式ページ |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/laboratories/ |
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東レ株式会社 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
日付明示なし |
公式ページ |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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東レ株式会社 |
公式サイト:研究・技術開発協力機関 |
日付明示なし |
公式ページ |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/collaborating/ |
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東レ株式会社 |
公式サイト:グローバル連携 |
日付明示なし |
公式ページ |
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東レ株式会社 |
公式サイト:CSRロードマップ2025 |
日付明示なし |
公式ページ |
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東レ株式会社 |
2023年3月期 第2四半期決算短信 |
2022/11/08 |
決算短信 |
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東レ株式会社 |
2025年3月期 決算補足説明資料 |
日付明示なし |
決算補足資料 |
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東レエンジニアリング株式会社 |
公式サイト:事業拠点 |
日付明示なし |
公式ページ |
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案件名 |
Announcement |
Effective(Event) |
Completion |
Start |
状態ラベル |
根拠 |
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経口そう痒症改善剤「レミッチ」特許延長登録拒絶審決等の取消判決の取得 |
確認できず |
確認できず |
確認できず |
確認できず |
完了 |
3 |
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新ポリエステル長繊維「AURLIST」の開発 |
2026年3月 |
確認できず |
確認できず |
確認できず |
完了 |
6 |
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3Dプリンター用ポリアミド12真球微粒子の開発 |
2026年2月 |
確認できず |
確認できず |
確認できず |
完了 |
6 |
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ポリアミド4バイオ原料化技術の開発 |
2026年2月 |
確認できず |
確認できず |
確認できず |
完了 |
6 |
※2026/03/05時点で、有報(直近FY)・決算短信(直近4四半期)・統合報告書(直近版)・公式IR/公式ニュース(直近24ヶ月)を確認した範囲では、各案件の西暦を含む正確な発表年月日、効力発生日、完了日、および開始日を一次情報として特定できない(調査範囲内では確認できず)。なお「AURLIST」「ポリアミド12真球微粒子」「ポリアミド4バイオ原料化技術」については統合報告書関連情報の記述から「2026年3月」「2026年2月」の開発であることが示されている3。
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国 |
特許番号 |
発明名称(公式表記) |
正本一次情報(ページ名) |
公的DBでの検証結果 |
根拠URL |
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該当なし |
該当なし |
該当なし |
該当なし |
該当なし |
該当なし |
※2026/03/05時点で、有報(直近FY)・決算短信(直近4四半期)・統合報告書(直近版)・公式IR/公式ニュース(直近24ヶ月)を確認した範囲では、具体的な特許番号と発明名称が対応付けられた網羅的なリストを一次情報として特定できない(調査範囲内では確認できず)。公式ニュースにおいて経口そう痒症改善剤「レミッチ」に関する用途特許として「特許第3531170号」の言及は存在するが、発明名称を伴う対応表の要件を満たすリスト情報が存在しないため、本表は空欄としている3。
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センター名(公式表記) |
根拠ページ名 |
URL |
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繊維研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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フィルム研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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化成品研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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複合材料研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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電子情報材料研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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地球環境研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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医薬研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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先端融合研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
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先端材料研究所 |
公式サイト:主要拠点 |
※公式ページ「主要拠点」および「研究組織」では上記の9研究所が紹介されている4。
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施設名(公式表記) |
根拠ページ名 |
URL |
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環境・モビリティ開発センター |
公式サイト:主要拠点 |
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テキスタイル・機能資材開発センター |
公式サイト:主要拠点 |
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エンジニアリング開発センター |
公式サイト:主要拠点 |
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新事業開発部門 |
公式サイト:主要拠点 |
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A&Aセンター |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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繊維関連技術部署 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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フィルム関連技術部署 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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樹脂・ケミカル関連技術部署 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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複合材料関連技術部署 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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電子情報材料関連技術部署 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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水処理・環境関連技術部署 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
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医薬・医療関連技術部署 |
公式サイト:開発・エンジニアリング組織 |
https://www.toray.co.jp/technology/organization/departments/ |
※公式ページでは上記の施設・部署が紹介されている4。
東レ株式会社における知的財産戦略は、単なる法務部門の個別施策に留まらず、全社の企業理念および経営戦略と強固に結びついた「三位一体」の構造を持っている。「Toray Report 2024」において開示されている同社の基本哲学によれば、経営基本方針はステークホルダーに向けた4つの明確なコミットメントから構成されている。第一に顧客に対するコミットメントとして「お客様のために 新しい価値と高い品質の製品とサービスを」提供する方針を示している。第二に従業員に対するコミットメントとして「社員のために 働きがいと公正な機会を」提供する方針を定めている。第三に株主に対するコミットメントとして「株主のために 誠実で信頼に応える経営を」実践する方針を掲げている。第四に社会に対するコミットメントとして「社会のために 社会の一員として責任を果たし相互信頼と連携を」図る方針を明記している。これらの経営基本方針は、同社が社会に提供する価値の根幹を定義するものである2。
さらに、日々の事業活動における実践規範として、9項目からなる「企業行動指針」が策定されている。第一項目は「安全と環境」であり、安全・防災・環境保全を最優先課題とし、社会と社員の安全と健康を守るとともに持続可能な社会の実現に貢献するとしている。第二項目は「倫理と公正」であり、社会的規範の遵守はもとより、高い倫理観と強い責任感をもって公正に行動し、社会の信頼と期待に応える方針を示している。第三項目は「お客様第一」であり、お客様に価値の高いソリューションを提供し、満足と世界最高水準の品質を追求するとしている。第四項目は知財戦略の源泉となる「革新と創造」であり、企業活動全般にわたる継続的なイノベーションを図り、ダイナミックな進化と発展を目指すことを規定している。第五項目は「現場力強化」であり、相互研鑽と自助努力により企業活動の基盤となる現場力を強化するとしている。第六項目は「連携と共創」であり、グループ内の有機的な連携と外部との戦略的な提携により、新しい価値を創造して社会とともに発展するとしている。第七項目は「人材重視」であり、社員に意欲をもって能力を発揮できる職場環境を提供し、人と組織に活力が溢れる風土をつくるとしている。第八項目は「情報開示」であり、企業情報の適切な開示とステークホルダーとのコミュニケーション促進により、経営の透明性を維持するとしている。第九項目は「人権尊重」であり、良き企業市民として人権尊重の責任を果たすことを宣言している1。
これら全社的な経営哲学に基づき、技術とイノベーションを守るための指針として「知的財産に関する基本方針」が定められている。「Toray Report 2025」によれば、知的財産部門のミッションは「“知財の事業への貢献”を実現し、東レグループの企業価値の向上に繋げる」こととされている。このミッションを遂行するため、グループ全体で4つの基本方針が設定されている。第一の方針は「経営方針に沿った三位一体の知財戦略」であり、重要な経営資源の一つである知的財産の戦略を、事業戦略および研究・技術開発戦略と相互に有機的に連携させることを定めている。第二の方針は「権利取得の推進」であり、東レグループの製品・技術を守り利益を確保するために質の高い特許出願や権利化を推進し、牽制力のある強い特許網の構築に努めるとともに、商標についてもブランド価値向上を意識した適切な権利の取得を実行するとしている。第三の方針は「他人の権利の尊重」であり、他人の権利を侵害することのないように製品・技術と他社特許などとの関係を包括的に調査する特許確認制度を設けており、商標についても使用前に他社登録商標との関係を確認する手順を徹底している。第四の方針は「自己の権利の正当な行使」であり、他人による権利侵害に対する侵害行為の中止要請のほか、ライセンス許諾による金銭的利益の享受や他人の権利とのクロスライセンスなど、正当な権利行使や活用を行い、状況に応じて適切な措置を取る方針を定めている2。
前述の知的財産に関する基本方針を日々の事業活動において実行するため、東レは研究開発部門と知的財産部門が密接に連携する強固なガバナンス体制を敷いている。「Toray Report 2025」に記載された「事業分野における知財実行計画の策定・遂行」の項目によれば、東レ本体では技術分野ごとに「特許責任体制」が構築されている。この体制の核となるのが、2ヶ月に1回の頻度で開催される「特許会議」である。各担当領域の技術責任を持つ現場の長は、担当領域に発生する特許問題の総責任者として「特許責任者」に任命される。特許責任者は、知的財産部から専門的見解や法的助言を得つつ、現場の責任として知財戦略を遂行する役割を担っている。同社は報告書において、この仕組みについて「特許に関しても製品安全と同様に現場が責任を持つことが明確に体現された制度である」と意義を強調している2。
さらに、この特許責任体制は組織の最上層である取締役会と直接的に連携する構造となっている。最高技術責任者(CTO)にあたる副社長が、東レの技術全般と知的財産全般の双方を統括する役割を担い、部門間の垣根を越えた全社的な視点から「事業・技術・知財」の三位一体戦略を指揮している。また、この特許管理の枠組みは日本国内の本体事業に限定されない。国内外の各種関係会社についても、技術分野ごとに「グローバル特許戦略責任体制」のなかに組み込まれており、東レグループ全体が一体となって知財戦略を推進し、各技術分野における重要テーマについて実行計画を策定・遂行する体制がグローバル規模で整備されている2。
こうした厳格な知財ガバナンスの運用実績として、自社の基本方針である「自己の権利の正当な行使」に基づく具体的な法的対応の事例が公式に公表されている。東レが創製した世界初の選択的オピオイドκ(カッパ)受容体作動薬であり、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などとは異なるメカニズムで痒みを抑える経口そう痒症改善剤「レミッチ」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)に関する特許訴訟がその一例である。同社は、東レが医薬品製造販売承認を取得した「レミッチ」および東レ・メディカル株式会社が承認を取得した「ノピコール」に関する用途特許(特許第3531170号)の特許延長登録に関連して、特許延長登録拒絶審決の取消しおよび特許延長登録無効審決の取消しを求めて知財高裁へ訴訟を提起していた。公式ニュースの発表によれば、去る3月25日に同社は延長登録拒絶審決および延長登録無効審決の取消判決を得るとともに、用途特許に対する特許無効審判(無効2019-800038)での特許維持審決に対する審決取消訴訟についても審決維持(特許有効)判決を得たとしている。この訴訟において、同社の主張が認められ、本剤における有効成分が用途特許に規定するナルフラフィンであることが認められた。同社は本件に関連して「必要に応じて、自社の有する知的財産を侵害から守るため、当社の基本方針である『自己の権利の正当な行使』に従い適切な対応を取り続けてまいる所存です」との公式見解を示し、技術的優位性を法的に保護する断固たる姿勢を明確にしている3。
東レの現在の広範な知的財産と高度な技術力は、一世紀に迫る長期的な研究開発と事業展開の歴史の上に築かれている。コーポレート・ガバナンス報告書および有価証券報告書に記載された沿革によれば、同社の事業の基盤は1926年1月12日に三井物産株式会社の出資により、資本金10,000千円をもって「東洋レーヨン株式会社」として設立されたことに遡る。設立翌年の1927年8月には、滋賀県石山に現在の主力拠点の一つに連なる滋賀工場を設立し、ビスコース法によるレーヨン糸の生産を開始した。その後、1936年8月にはレーヨンステープルの生産を開始し、1938年2月にはレーヨンステープルの紡織の一貫工場として瀬田工場を完成させている。1941年7月には東洋絹織株式会社、庄内川レーヨン株式会社および株式会社庄内川染工所を吸収合併し、愛媛工場および愛知工場を設立して生産体制を拡大した。戦後の1949年5月には東京証券取引所へ株式を上場している10。
合成繊維に関する技術開発と量産化は、1950年代に飛躍的な進展を遂げた。1951年4月にナイロン工業化のために名古屋工場を建設するとともに、既存の愛知工場にも設備を新設し、ナイロンの本格生産を開始した。同年6月には米国DuPont社とナイロンの技術提携契約を締結している。続いてポリエステル分野においては、1957年2月に英国ICI社とポリエステル繊維の技術提携契約を締結し、1958年4月に三島工場を完成させてポリエステル繊維「東レテトロン」の生産を開始した。さらに1959年4月にはポリエステルフィルム「ルミラー」の本格生産を開始し、フィルム分野への技術展開を果たした。1960年代には、1960年2月に岡崎工場を完成させて強力ナイロン糸の本格生産を開始し、同年8月には現在の東レエンジニアリング株式会社の前身となる東洋工事株式会社を設立してエンジニアリング領域の基盤を強化した。1961年4月には、同社が独自で開発したPNC法によるカプロラクタムの本格生産を開始し、自社技術による化学素材の製造を確立している。基礎研究をさらに促進するため、1962年9月には基礎研究所(現在の基礎研究センター)を開設し、社内の研究体制を強固なものとした。1964年3月にはアクリル繊維「トレロン」およびABS樹脂「トヨラック」の本格生産を開始した。1970年1月に社名を現在の「東レ株式会社」へと変更し、同年4月には高級スエード調素材「エクセーヌ」を開発して高付加価値素材へのシフトを進めた。1970年7月に千葉工場を完成させてABS樹脂の生産を開始、同年11月には土浦工場を完成させてポリプロピレンフィルム「トレファン」の生産を開始した。翌1971年3月には東海工場を完成させてテレフタル酸およびカプロラクタムの生産を開始し、同年7月には岐阜工場を完成させてポリエステルフィルムの生産を開始している。このような長年にわたる新素材の開拓、独自製法の開発、そして生産技術の高度化といった歴史的歩みが、現在の東レにおける特許網構築と研究・技術開発体制の確固たる土台となっている10。
東レは、基礎研究から応用技術の開発、エンジニアリング、そしてグローバルな製品展開に至るまで、極めて広範かつ専門化された研究開発ネットワークを構築している。同社の公式サイトに記載された「研究・技術開発主要拠点」の情報によれば、日本国内においては特定の技術ドメインに特化した9つの独立した「研究所」が稼働している。各研究所の所在地は以下の通りである。静岡県三島市には「繊維研究所」が設置されており、繊維材料の基盤研究を担っている。滋賀県大津市には、大津市園山に「フィルム研究所」「電子情報材料研究所」「地球環境研究所」「先端材料研究所」が集中して配置され、一大研究開発拠点を形成している。愛知県名古屋市港区大江町には「化成品研究所」が、愛媛県伊予郡松前町筒井には「複合材料研究所」が位置している。さらに、ライフサイエンスおよび先端融合領域の研究拠点として、神奈川県鎌倉市手広に「医薬研究所」および「先端融合研究所」が設置されている5。
基礎研究の成果を市場のニーズに合わせて製品化し、量産プロセスを確立するための「開発・エンジニアリング組織」も国内に多数配置されている。滋賀県大津市大江には「環境・モビリティ開発センター」および「テキスタイル・機能資材開発センター」が設置され、同市園山には「エンジニアリング開発センター」が存在する。また、技術部門の統括機能として「技術センター」が置かれ、その傘下には「A&Aセンター」のほか、繊維関連技術部署、フィルム関連技術部署、樹脂・ケミカル関連技術部署、複合材料関連技術部署、電子情報材料関連技術部署、水処理・環境関連技術部署、医薬・医療関連技術部署といった専門領域ごとの技術部署が編成されている。新たなビジネスドメインを開拓する機能としては、東京都中央区日本橋室町の日本橋三井タワーに「新事業開発部門」が置かれている4。
自社内の組織に加えて、外部との連携や専門的支援を担う「研究・技術開発協力機関」も東レのイノベーションを支えている。1978年6月に東レの研究開発部門から独立して設立された「株式会社東レリサーチセンター(TRC)」は、高度な分析・評価技術に基づき、原因究明や課題解決の技術支援を行っている。近年では、全固体電池、燃料電池、水処理、バイオマス、先端医療材料、パワー半導体などのサステナビリティおよびデジタルイノベーション事業分野に対する技術支援を強化している。また、2002年に設立された「株式会社鎌倉テクノサイエンス」は、東レのナノバイオテクノロジー研究や医薬・医療機器研究開発で培われた技術と人材を活用し、新規事業を創出するためのインキュベーターとしての機能を果たしている4。
さらに、東レの研究開発ネットワークは日本国内に留まらず、「グローバル連携」として世界各地域の主要市場および生産拠点に研究施設を展開している。中国においては「東麗繊維研究所(中国)有限公司(TFRC)」および「東麗先端材料研究開発(中国)有限公司(TARC)」が設立されている。韓国には「Toray Advanced Materials Korea Inc.(TAK)」が位置している。米国においては「Advanced Materials Research Center(AMRC)」「Toray Composites Materials America, Inc.(CMA)」「Toray Plastics (America), Inc.(TPA)」が研究開発活動を行っている。東南アジアの拠点としてマレーシアに「Toray Plastics (Malaysia) Sdn. Berhad(TPM)」が存在する。欧州市場に向けては、フランスの「Toray Carbon Fibers Europe S.A.(CFE)」、イタリアの「Alcantara S.p.A.」、およびオランダの「Toray Advanced Composites Netherlands B.V.(TACNL)」が連携拠点として機能している。これらグローバルな研究開発拠点網を通じて、現地の顧客ニーズに密着した製品開発を進めると同時に、世界規模での知的財産ポートフォリオの強化を推進している4。
東レの知的財産創出と技術開発を資金面から支える財務基盤について、代表取締役社長大矢光雄氏のもとで2026年2月10日に発表された「2026年3月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」およびその補足説明資料から詳細な実績値が確認できる。当報告は、2025年4月1日から2025年12月31日までの第3四半期累計期間における経営成績を対象としている。
当該期間における連結経営成績の主要数値は以下の通りである。売上収益は1,919,493百万円であり、前年同四半期と比較して0.2%の減少となった。営業利益から非経常的な要因により発生した損益を除いて算出される「事業利益」は105,090百万円(対前年同四半期増減率3.4%減)であった。営業利益は71,039百万円(同31.6%減)、税引前四半期利益は74,663百万円(同30.6%減)であった。最終的な四半期利益は45,946百万円(同44.2%減)であり、親会社の所有者に帰属する四半期利益は40,164百万円(同46.6%減)として計上された。この結果、基本的1株当たり四半期利益は26.53円、希薄化後1株当たり四半期利益は26.49円となっている。また、当該期間の四半期包括利益合計額は172,299百万円(同46.5%増)であった。配当の状況については、第2四半期末における配当金が10.00円となっており、期末配当予想の10.00円と合わせて年間配当金は20.00円が予定されている7。
2026年3月期通期の連結業績予想については、売上収益2,600,000百万円(対前期増減率1.4%増)、事業利益150,000百万円(同5.1%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益82,000百万円(同5.2%増)を見込んでおり、通期の基本的1株当たり当期利益は54.43円と予想されている7。
2025年12月31日時点での連結財政状態(バランスシート)の構造は以下の通りである。資産合計は3,515,106百万円であり、前期末(2025年3月期)の3,292,597百万円から増加している。資本合計は1,884,604百万円であり、このうち親会社の所有者に帰属する持分は1,761,974百万円となっている。結果として、親会社所有者帰属持分比率は50.1%と算定される7。 負債および資本の具体的な内訳数値は以下の通りである。負債合計は1,472,025百万円であり、流動負債合計857,530百万円と非流動負債合計614,495百万円から構成される。非流動負債の主要な内訳は、社債及び借入金が432,468百万円、退職給付に係る負債が80,254百万円、繰延税金負債が51,115百万円、リース負債が32,150百万円、その他の非流動負債が14,325百万円、その他の金融負債が4,183百万円となっている。資本に関する内訳では、親会社の所有者に帰属する持分のうち、資本金が147,873百万円、資本剰余金が120,562百万円、利益剰余金が1,170,508百万円計上されており、自己株式はマイナス57,240百万円として控除されている8。 また、参考データとして2025年3月31日時点の資産内訳の一部を確認すると、流動資産合計は1,522,640百万円であり、うち営業債権及びその他の債権が659,600百万円、棚卸資産が531,959百万円、現金及び現金同等物が235,887百万円、その他の流動資産が67,110百万円、売却目的で保有する資産が15,111百万円、その他の金融資産が12,973百万円であった。非流動資産の主要項目としては、有形固定資産が1,081,115百万円、持分法で会計処理されている投資が228,989百万円、のれんが95,996百万円、無形資産が95,269百万円、使用権資産が50,486百万円計上されていた11。
将来の知的財産とイノベーションを生み出すための設備投資および研究開発基盤への資金投下状況を示す指標として、キャッシュ・フローのデータが存在する。2025年4月1日から2025年12月31日までの累計期間において、「有形固定資産及び無形資産の取得による支出」として114,973百万円が計上されている。前年同期間の実績値は131,949百万円であり、同社が有形・無形の技術資産の構築に向けて継続的かつ大規模な資本投下を行っていることが財務数値から裏付けられる8。
東レは、自社が保有する高度な素材技術と知的財産を、地球規模の社会課題解決へと直結させるイノベーション戦略を推進している。同社が中長期的な指針として掲げる「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」では、2050年に向けて達成すべき4つの目標とする世界像が定義されている。第一に、地球規模での温室効果ガスの排出と吸収のバランスが達成された世界(Net-zero GHG emissions world)を目指す。第二に、資源が持続可能な形で管理される世界(Sustainable resource management world / GO CIRCULAR)の実現を目指す。第三に、すべての人が安全な水と空気を利用でき、自然環境が回復した世界を目指す。第四に、すべての人が健康で衛生的な生活を送る世界の実現を目指すとしている2。
これらの長期ビジョンを具現化するための実行計画として、中期経営課題「Project AP-G 2025」(サブタイトル:Innovation and Resilience Management – A New Leap Through Value Creation)が策定されている。同プログラムの基本戦略は5つの柱から成り立っている。持続可能な成長の実現、価値創出力強化、競争力強化、「人を基本とする経営」の深化、そしてリスクマネジメントとグループガバナンスの強化である。「Toray Report 2024」の記述によれば、同社は技術開発と知財の成果を市場価値に転換するため「戦略的価格設定」に注力しており、研究・技術開発の現場から営業の最前線に至るまでマインドセットの変革を促し、革新的な素材の価値が市場で適正に評価される仕組みの構築を推進している。また、限られた経営資源を成長性と収益性が期待される事業や研究開発領域へ最適に配分するための経営指標としてROIC(投下資本利益率)を導入している。報告書に示された計画値によれば、全社レベルのROICを2023年度の実績である2.8%から、2024年度には約4%へと改善させることを目標として掲げている6。
さらに、サステナビリティ・ビジョンと連動する「CSRロードマップ2025」(対象期間:2023年度〜2025年度)においては、技術革新のターゲットがより具体的に設定されている。気候変動対策としては温室効果ガス排出削減やカーボンニュートラル移行に向けた先進材料の開発を推進し、サーキュラーエコノミーに向けては資源回収技術やバイオマス由来素材、CO2の資源化技術に注力するとしている。健康・衛生分野では、医療ケアや介護支援、一般衛生用途に向けた先端材料の提供を通じて生活の質の向上に貢献する目標を掲げている。これらの取り組みの進捗状況は、CSRマテリアリティ(重要課題)に基づくKPIによって定量的に管理されている6。
これらの戦略と目標に基づく直近の技術的ブレイクスルーとして、研究開発・技術組織から創出された複数の新技術が公表されている。2026年3月には、同社独自の複合紡糸技術である「NANODESIGN」を活用した新たなポリエステル長繊維「AURLIST」の開発が発表された。この素材は、上質な光沢感とふくらみ感、微細な起毛感を発現させる特性を有する。また、2026年2月には、3Dプリンター用の材料として高い耐衝撃性と表面の平滑性を実現する「ポリアミド(PA)12真球微粒子」の開発が公表された。同月にはさらに、化粧品用微粒子市場をターゲットとした「ポリアミド4バイオ原料化技術」の開発も発表されている。これら最新の研究開発成果は、東レが保有する先端材料技術と知的財産が、次世代の産業ニーズや環境課題に対する具体的なソリューションとして結実したものである6。
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情報の性質
ご利用にあたって
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