この記事の内容
ちょっと静かにしていてほしい時や、どうしても手が離せなくて相手をしてあげられない時など、子どもにスマホやタブレットを見せておく。そんな経験をしたり、光景を見たりしたことはありませんか?
今はベビーカーに乗った幼児でも慣れた手つきで画面をスクロールしながら見ている、という話も聞くほど、子ども、特に幼児のスマートフォンやタブレット画面の見過ぎ、いわゆる「スクリーンタイム問題」が世界的な課題になっています。
WHO(世界保健機関)や日本、アメリカ、インドなどで奨励している幼児期のスクリーンタイムは1日1時間。
ちなみに、大阪大学などの研究では、日本の幼児の平均スクリーンタイムは1日約2.6時間という報告もありますので、日本も思った以上に深刻な現状なのかもしれません。
これは単にルールの問題ではありません。幼児期の過度なスクリーンタイムは、外で遊ぶ時間が減ることによる運動能力の発達の遅れや睡眠の質の低下や、心のバランスを崩しやすくなったり、認知や言語発達の阻害など、広い範囲にわたる影響があると科学的に言われているんですね。
そしてもう一つ大事なのが、幼児だけの問題ではないという点だと思います。
今、さまざまな国や地域で、この幼児のスクリーンタイム問題を解決するプログラムが試されているようですが、今回はその中の一つ、インドで実施された、2歳から5歳の子どもを対象とするスクリーンタイム削減プログラム(PLUMS)の効果を検証した研究報告をご紹介します。
論文タイトルは「Effectiveness of a program to lower unwanted media screens among 2–5-year-old children: a randomized controlled trial」(2〜5歳児における不要なメディア画面時間を減らすプログラムの効果:ランダム化比較試験)です。
PLUMS(Program to Lower Unwanted Media Screens)プログラムは2歳〜5歳の子どもを持つインドの340世帯に対し、プログラムを実施する介入群170世帯と実施なしの対照群170世帯をランダムに割り当てて8週間行われました。
PLUMS介入プログラムの詳細は以下のように書いてあります
1.週ごとの学習テーマ
プログラムは以下の8つのテーマに沿って進行する。
2. 具体的な介入手法
各家庭では、以下の活動が並行して行われる。
このプログラムは、単にスクリーンを遠ざけるだけでなく、親子で一緒に活動する時間を増やすことで、持続的な行動変容を目指す仕組みになっている。
少し補足説明すると、 このPLUMSは以下の理論を組み合わせています。
・社会的認知理論:子どもは「大人の行動を見て学ぶ」
・自己決定理論:親が「やらされ感」ではなく、自発的に行動を変える
・社会生態学モデル:行動は個人だけでなく「環境」によって決まる
例えば、認知発達が途上にある幼児は「観察学習」が重要ですので、親自身がスマートフォンを控える姿がお手本になります(社会的認知理論)。また、画面視聴に代わる活動を提案することで、子どもが自然に学べるようなアプローチや、家庭環境を改善し続けられるよう、カウンセリングを通じて親自身の「やりたい」「できそう」という自律的な意思を支えるアプローチ(自己決定理論)が組み込まれているということです。
このプログラムの評価は、プログラム開始時、2カ月間(2020年10月29日から2021年1月3日まで)の介入直後、および6カ月後の追跡調査の計3回、対面インタビューや質問票を用いて調査が行われました。
その結果は以下の通りです。
介入の結果、複数の項目において統計的に有意な改善が認められた。
かなり大きな変化ですね。しかもこの効果は一時期ではなく、半年経ってさらにその差がさらにスクリーンタイムが減少したということですね。加えて体を動かす時間も平均で73分以上増え、いい連鎖が生まれていたということですね。
以上が論文の内容です。
PLUMSは、単なる「スクリーン時間を減らしましょう」という啓発ではなく、子どもと親と家庭のメディア環境を同時に変えることを狙い、それが成功したということですね。
このプログラムの検証から示唆することは、幼児期は、親の関わり方や家庭環境が決定的になるということかもしれません。
そして、スクリーンタイムを減らすだけでなく、「何に置き換えるか」がポイントだということだと思います。ただ、禁止するのではなく「設計」と「習慣化」が大切なのでしょう。
このことは、幼児期を過ぎても、スクリーンタイム問題以外にも、企業の教育までもつながりそうですね。
◾️論文タイトル:Effectiveness of a program to lower unwanted media screens among 2–5-year-old children: a randomized controlled trial ◾️著者:Nimran Kaurほか◾️発行日:2024年6月18日 ◾️掲載:Frontiers in Public Health, 12, 1304861.◾️DOI:10.3389/fpubh.2024.1304861
この記事のまとめ
文:鈴木素子
【アンケートのお願い】
本記事についてのご感想ごご意見、ご感想、また、取り上げてほしいトピックなどを伺いたく思います。
アンケートに回答していただいた方には、本記事でとりあげた論文のAI要約をお送りいたします。ご協力をお願いいたします。
アンケートはこちら
https://forms.gle/VAiYn5tnTZdW1Rg6A
2026.04.08 知識はAIと協働して深めていくもの 〜AI時代の新しい「書く力」〜
2026.03.30 「紙のほうが成績がいい」は本当だった 〜子どもの読解力を左右する意外な差〜
2026.03.23 AIリテラシーが子どもの思考力を左右する? ―研究が示す「依存」と「活用」の分岐点―
2026.03.09 AI時代でも「ノートを取る子」が伸びる理由 〜中学生405人の実験から〜
2026.03.02 AIで読解力は鍛えられるのか? 〜高校国語授業での新しい挑戦〜
2026.02.24 図工の授業にAIを導入したら、子どもはどう変わる?
2026.02.17 AIで音楽の才能はここまで伸びる 〜音楽教育の最前線〜
2026.02.12 英語スピーキング学習はどう伸ばす? 〜中学の授業で検証したAI活用研究〜
2026.02.06 マッキンゼーの採用試験にAI登場 〜仕事に必要なスキルはどう変わるのか〜
2026.02.02 地理が暗記科目ではなくなる? 〜GeoAIで変わる、体験型・問題解決型の学習〜
2026.01.21 体育の授業にAIが入ると何が変わる? 〜小学生の投球力向上を検証した研究から〜
2026.01.07 幼児のスマホ見過ぎをどう改善するか 〜スクリーンタイム削減に成功した研究から学ぶ〜
2025.12.23 AIは創造力を奪うのか、育てるのか? 〜 美術教育で検証された生成AIの可能性〜
2025.12.09 AI彼氏やAI親友はなぜ生まれるのか 〜人がAIに親密さを感じる“仕組み”を科学する〜
2025.11.27 AIは歴史学習に向かない? 〜論文が示す「文脈力」と「批判的思考」の重要性〜
2025.11.06 AI時代に“根っこ”の学びをどう育てるか 〜人の学びとキャリアの構造を可視化した研究〜
2025.10.22 AIは人間の心を読めるのか? 〜スタンフォード大学の研究〜
2025.10.08 ChatGPT利用で成績はアップする? 〜51研究のメタ分析から見えた答え〜
2025.10.01 なぜAIは「もっともらしい嘘」をつくのか 〜OpenAIがハルシネーションの原因を分析〜
2025.09.03 AI依存はバカになる? 考える力が衰えるのは本当?
2025.08.01 AI時代に求められる人材と仕事とは 〜「全部が60点」という人が不要になる? 〜
2025.07.15 子どもの生成AIとの付き合い方とは? 〜親子で考える教育と家庭の役割
2025.06.24 発明塾式「頭のよい子が育つ家」〜思考を育てる環境設計〜
2025.06.06 文系・理系どちらを選ぶべき? 〜子どもの進路選択に悩む親が知っておきたい3つの視点
2025.05.19 発明塾の手法と子育て
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略