この記事の内容
子どもが、この先、「自分が幸せになれると思う道を、自分自身で選択できる大人になってほしい」。そういう成長してくれることが大事だと、前回お話ししました。
そもそも人生って選択の連続ですよね。中でも「文系に進むか、理系に進むか」、という選択は重要な選択の一つになっているようです。
先日実施した子育てに関するアンケートの結果でも「子どもが文系・理系の選択を、どちらにすればよいか悩んでいる」という声がいくつかありました。近年では、高校1年生の秋ごろまでに文理選択を求められる学校も増え、中学生の段階で悩み始めるケースも見られます。親としても、どちらを勧めるべきかアドバイスに悩むことが多いのではないでしょうか。
その背景には、文理選択が大学進学や就職に直結する「将来の有利・不利」を意識する気持ちがあるようにも思います。特に今の中高生の子どもを持つ多くの親御さんは就職氷河期世代だと思うのですが、だからこそ就職に有利な進路かどうかを重視しているのかもしれません。
どちらが有利かということで答えるなら、それに対する僕の答えはシンプルです。それはどちらでもない、ということです。その理由と、文系・理系で迷った時に参考にしてほしい僕の意見を3つの視点からお話ししますね。
今はどんな仕事にもAIやITが関わってくる時代です。今の社会では、どんな職業であってもAIやITと無縁ではいられません。
例えば、ITエンジニア。そう聞くと理系のイメージが強いかもしれませんが、実際には文系出身者も多く活躍していますよね。なぜなら、プログラミングやテキストマイニングなどは、文学や論理学とも関わる領域だからです。たとえAI研究に興味があっても、「理系でなければできない」という時代ではないんですよね。
ですので、今は大学でAIの研究がしたい、といってもハードウエアを作るとか理系的なアプローチがしたいなら理系、文系的なアプローチがしたいなら文系に行く、といった選択でよいんだと思います。
そもそも、高校教育でも、情報科やプロジェクト型学習(PBL)など文理にとらわれない自由な科目が増えています。大学でも「文理融合」「学際領域」という言葉が良く使われるようになるなど、文系・理系の境界が曖昧になっていて、学問領域の再編が進んでいますよね。
高校教育ですら文系だか理系だか、なんの科目かわからない科目が増えているのですから、今後は、日本の大学も欧米のように文系、理系の境界線が少しずつなくなっていくような気がします。大学入学できっちり分かれるのなんてナンセンスですよね。
ですから、文系・理系にとらわれずに興味にあることをやっていってよいのではないでしょうか。
もし大学に入ってやっぱり違うな、となったら、転部する、学内の転部試験を受けたり、他大学の転入試験を受ける、というのも全然アリだと思いますね。大学入試にくらべればずっと簡単なはずですから。
そのくらいの柔軟な考えでいればよいと思います。
2つ目ですが、文系・理系を悩むのではなく、本当は先生(教授)で選んだ方が将来のためになると思っています。
僕は昔、京都の伏見にある甲斐塾という学習塾で高校生を教えていて、進路相談や指導などにも携わっていました。そこで高校生にいつも言っていたことは、「興味のあることに対して、その分野でトップの先生に教えてもらうために、その大学、学部を目指すのがいいんだよ」ということです。
大学のネームバリューではなく、「誰から学びたいかを重視する」のがいいと思うんですよね。それでその先生が理系学部の教授だったら理系を選択するんです。だって興味あることに関係のない大学や学部に入っても意味はないですからね。
今の時代は情報が溢れていますよね。インターネットとかYouTubeとかAIなどでいくらでも勉強はできます。AIに聞けば教えてくれるし、答えも出してくれる。勉強の仕方自体が根本的に変わっているんです。
そんな中、人と人。誰と話したいか、というニーズは存在します。どうしてもこの先生から学びたいとか、最先端が知りたい、ディスカッションしたいとかですよね。分野のトップの先生に直接教えを受ける、ディスカッションできる、というのは実は非常に貴重で価値のあることだと思うんです。
僕の経験で言うと、僕が受けていた大学のゼミの先生は、いつも20年、30年先を捉えて話をしてくれましたし、本当に面白くて影響を受けました。僕は、今までの勉強って本で勉強できるレベルだったんだな、これが大学なのか!と軽い衝撃を受けました。
大学では、そのような先生にいかに出会うかで、その後の人生にまで影響を受け、人生を変えることもあります。文系・理系で考えるより、先生という視点で選んでみてほしいです。いい先生を自ら選べたり、出会えるのって学生にしかできないんですよね。
もう一つ、僕自身の経験です。京大大学院では工学研究科エネルギー応用工学を専攻していましたが、そこは学際的な場でした。京大初めての試みだったんです。文系とか理系で分けて考えるからエネルギー問題や環境問題は解決しないんだ、という考えのもと、工学部や理学部、経済学部、農学部などさまざまな分野の先生が一緒になって、エネルギー問題と環境問題を解決できる技術と社会つくるにはどうしたらよいか、という研究していたんです。当時では珍しかったですが、30年ほど経って、今、さまざまな研究でそういうスタイルになってきていますよね。
そしてそれは、今、僕が発明塾をやっていてもよくわかります。発明、アイデア、新規事業を行うことって、文系でも理系でもないんです。僕はいつも「発明は理系でもあり文系でもある」と言っているのですが、発明や新規事業って「存在しないものを実用的に創り、かつ儲ける」ための行為なんですね。だから「理系の技術知識」と「文系的な社会理解や事業性」が融合してこそ成果につながるんです。
これからは、文系・理系どちらかよいかではなく、その境界を越えて新しい価値を創造できる人材になることが求められていると思います。理論と感性、技術と社会、分析と創造を横断できる力が、必要とされると考えています。これが3つ目の理由ですね。
ぜひここまでお話しした僕の考え方を参考にして、お子さんにアドバイスしてあげてください。
迷ったときは、「文・理」よりも「自分が何を学びたいか」「誰に学びたいか」に立ち返って考えてみてください。好きなことに情熱を注ぎ、柔軟に方向転換できる力こそが、これからの社会で価値を持つ選択力だと思います。
もしみなさんも子育てや教育についてこんなことが聞きたい、知りたい、こんなところで行き詰まっている、ということがあれば、ぜひご連絡ください。 info@52.195.225.107
語り:楠浦崇央
構成:鈴木素子
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