この記事の内容
世の中の変化が加速するこの時代に、みなさんは自分自身もしくはお子さんに、「あのスキルを身につけたら強いかも」とか「この資格も取っておけば将来役立つかも」などど、専門的スキルの習得を考えることはないでしょうか。
また、例えば今目標にしている具体的な専門スキルがあるなら、そのスキルの習得にたどり着く道筋も知りたいと思っているかもしれません。
米国・ノースウェスタン大学とハーバード大学などの研究チームが今年発表した論文「Skill dependencies uncover nested human capital」には、「人々がどのようにスキルを積み上げてキャリアを形成していくのか」「その構造が賃金格差や職業移動にどう影響しているのか」という内容が書かれています。今回はその論文をご紹介します。
この研究は「2005〜2019年までの米国労働統計局の職業スキル調査データを使用して約1000職種における120種のスキルの重要度や必要レベルを分析し、そして約7000万件の職業転職データ(履歴書データ)を解析して、スキルがどのように階層的に依存しているかを可視化したもの」だと書いてあります。
つまり、転職データの時間軸をたどることで、スキルの習得順番や、どのスキルが再利用できてキャリアを広げているのかといったことがわかります。そして、どの職業間で人がどれだけ移動しているかというスキル同士のネットワーク(依存関係)もわかる、というわけですね。
データを解析した結果、著者の最も重要な発見を次のように記しています。
「労働市場で必要とされるスキルは、バラバラに存在するのではなく、『ネスト化された階層構造』(入れ子構造)を持っている」。
ネスト化された階層構造とは、簡単に説明すると、スキルは個々の能力としてそれぞれ存在するのではなく、特定の順序と依存関係をもって積み重ねられている構造ということです。
論文中の例をあげると、「高度なプログラミングスキル(特定スキル)を習得するには、その前提として数学やシステム分析(中間スキル)の知識が必要で、さらにそれらが論理的思考や言葉で気持ちや考えを伝える口頭表現(基礎的スキル)に依存している、という連鎖」と書いてあります。
つまり、多くの専門スキルは、より広範で基礎的なスキルを土台として活かせることがわかった。と言っているんですね。
論文の中では、基礎的スキルの例として、英語、口頭表現、演繹的・帰納的推論、社会的スキル、批判的思考など、専門的スキルとして、プログラミング、エンジニアリング、会計、交渉などが書かれていました。
続いて著者の発見と考察について、重要な部分をピックアップします。
そして、最後に著者は、このデータ分析の結果に対し以下のように提案しています。
また、「提案として、これらの構造的な格差を是正し、経済的な流動性を改善するためには、政策立案者や教育者が、すべての人々に対して基礎的スキルを育成し、専門化された経路を切り開くための教育・訓練プログラムへの投資を優先すべきである」
いかがでしたか?
最後の提案部分も兼ねてまとめると、技術進化・市場変化が速くなる時代にあって、「今使える専門的スキル」を磨くことはもちろん意味がありますが、それだけでは将来的にキャリアを支える基盤として十分とは言えない。むしろ、読み書き・数学・協働・コミュニケーション・問題解決といった「基礎的スキル」を優先させることが、これからの時代において個人の成長・組織の競争力・社会の適応力を支える鍵となる、ということですね。
ある意味、言われてみれば誰もが「そうだよね」と思う内容を改めてデータが示したものだったようにも感じます。
論文の中で「技術の陳腐化が加速している」と書いてあり、そこも気になるところでした。
著者がハーバードビジネスレビューの記事の中で追加解説していましたので、補足情報としてお伝えすると「技術的スキルの「半減期」(知識の半分が時代遅れになるまでの時間)は、「1980年代には約10年だったのが現在では約4年にまで短縮しており、間もなく2年を下回る可能性がある」と言っています。
教育・子育て・人材育成という観点で言えば、専門技能を追求する前に、また並行して、基盤をしっかりと作っておくことが、AI時代という変化の激しい未来においても「生き抜く力」を育む上で非常に重要な視点になるのだと改めて考えさせられました。
根っこや幹(基本的スキル)が太ければ、たくさんの枝(専門スキル)を広げられますね。
参考資料 ◾️論文タイトル:Skill dependencies uncover nested human capital ◾️著者:Moh Hosseinioun, Frank Neffke, Letian Zhang, Hyejin Youn ◾️所属機関:ノースウェスタン大学、ハーバード・ビジネス・スクール、ウィーン複雑科学ハブ、ソウル大学など ◾️発行:2025.2.24
文:鈴木素子
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