東京の公立中学校では、近年ESAT-Jという英語のスピーキングテストが1年生から導入されています。また、2023年度からは、都立高校の一般入試にも導入され、入試合計点に中学3年次のESAT-Jの点数が加算されたものが総合点数になる仕組みになっています。
現在は、東京都のみの導入ですが、このスピーキングテストは全国でも検討されているようです。
これに伴い、公立中学の英語授業ではスピーキング学習の時間が増えました。英語も受動的なスタイルの学習から少しずつ変化しているんですね。
でも、英語学習の4技能(リスニング、スピーキング、リーディング、ライティング)の中で、発音の難しさなどから、特にスピーキングに苦手意識を持つという人は多いのではないでしょうか。ここは、昔も今の子どもたちも変わっていないような気がします。
そこで、今後重要になる英語のスピーキング学習において、近年、日本ではどのような取り組みが行われているかを見てみました。
今回は「Does Speaking Training Application with Speech Recognition Motivate Junior High School Students in Actual Classroom? – A Case Study」(音声認識を用いたスピーキング学習アプリは、実際の中学校授業で生徒の学習動機を高めるか ― ケーススタディ)を紹介します。
タイトル通り、学校で効果的に使える音声認識型スピーキング学習アプリの開発についての論文です。
まず、この研究について著者は、
「日本人学生にとって英語は発音や文法が母国語と大きく異なるため、流暢に話すことは容易ではなく、書く力があっても、話すことには苦手意識や恥ずかしさを感じる生徒が多いのが現状である」という背景をあげています。
そして、「教育現場でのスピーキング能力向上が急務となっているが、現状のアプリは、一人静かな環境で使うことが前提とされていて、教室で大勢の生徒が一斉に発声するような環境では他の生徒の声や雑音が入ってしまい、機械が音を認識できない」という問題点を指摘しています。
そういった課題に対し、この研究は授業でも使える音声認識アプリを改良し、その効果を実証することを目的としたものです。
論文には、改良方法について以下のように書いています。
第1段階(初期システム)
・ スマートデバイス向けの学習アプリに音声認識を導入。
・ 雑音対策: 教室の騒音によって生じる「意図しない単語の混入(挿入誤り)」を評価時に無視する仕組みを導入。
第2段階(改良システム)
第2段階は、最初の1カ月で得られたデータや生徒・教師の声を反映し、大幅なアップデートを行った。
・ 音声認識の強化: 生徒の声や教室の雑音に自動で慣れる(教師なし適応)機能を加え、精度を向上させた。
・使い勝手(UI)の改善:自分の声が雑音に消されていないか確認できる「音量メーター」や、お手本を再生して自習できる機能を追加した。
・内容の改善: 正解のパターンを増やしたり、生徒のレベルに合わせて「簡単・難しい」の2段階を用意した。
少し補足すると、お手本再生では「ネイティブのお手本と自分の声を聴き比べられるようにした」とあります。自分の声も聴けるシステムは、客観的に発音などを確認できていいですね。
また、「正解のパターンを増やす」ことは、より柔軟な回答が認められるようになることですので、理想的だと思います。
このシステムの実証実験の結果は以下のようになっています。
〈対象〉148名の中学生
〈期間と方法〉2カ月の授業でアプリを使用。性能と感想を調査
〈結果〉
そして、最後に著者は「この研究により、音声認識技術を工夫することで、騒がしい教室環境でも生徒の学習意欲(モチベーション)を高め、スピーキング練習を促進できることが示された」と結論づけています。
授業でのスピーキング学習では、先生を相手に答えたり、他の生徒が注目している中で行われますよね。緊張感や苦手意識のある生徒の心理的ハードルを下げて、発話量を増やせた、ということは、とても大きな効果だと感じます。
また、「自分のペースで学べる」ということについては、回答後にすぐに正解が分かるため、先生を待たずに学習を進められるという利点があった」と書いてありました。教師の負担が軽減されることも有効ですね。
以上が論文の内容です。
本研究は2019年に発表されたものですが、現在ではもう同じような仕組みのものが学校で使用されているようです。ESAT-Jのテストも現在、タブレット端末とヘッドセットを使用した方式で、パーテーションもない教室で一斉に行われているようです。
ただ、私がこのような研究が決して古いものではなく、重要だと思うのは、「人がAIをどう使うか」に焦点を当てていることです。
近年、生成AIや技術は飛躍的に進化しましたが、この研究は技術面だけでなく、「話してみよう」という、子どもたちの心理的ハードルを下げようとしている点がすばらしいと思います。このような考え方は、今後生成AI活用教育においても、極めて重要な視点ではないでしょうか。
◾️ 論文タイトル:Does Speaking Training Application with Speech Recognition Motivate Junior High School Students in Actual Classroom? – A Case Study ◾️著者:Satoshi Kobashikawa 、Atsushi Odakura、Takao Nakamura、Takeshi Mori、Kimitaka Endo、Takafumi Moriya、Ryo Masumura、Yushi Aono、Nobuaki Minematsu ◾️ 発行日:2019.9.20※8th ISCA Workshop on Speech and Language Technology in Education (SLaTE 2019)(国際音声通信協会主催ワークショップ) ◾️DOI:10.21437/SLaTE.2019-23
コラム記事のまとめ
文:鈴木素子
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