この記事の内容
近年、学習方法が大きく変わり、子どもたちが学習理解にAIを使う場面が急速に増えています。
私たち大人は、学生のころに勉強の理解を深めたり暗記しなければいけない時は、書いたり、ノートに整理したりして一生懸命覚えていたと思います。
しかし今の子どもたちは、必要な時にAIが何度でも教えてくれて、その都度自分専用の要点をまとめて提示してくれたりするため、ノートを取ることが必須ではなくなっています。負荷を減らし効率よく理解しているのでしょう。(そこは今、大人も同じですね)
ただ、従来のような、自分で考えてノートを取るという作業なしに、AI学習だけで子どもたちは本当に理解できているのだろうかと個人的にはそんな疑問も残ります。
この疑問を検証する論文を探したところ、興味深い研究がありました。
「Effects of LLM Use and Note-Taking on Reading Comprehension and Memory: A Randomised Experiment in Secondary Schools」(LLM利用とノートテイクが読解理解と記憶に与える影響)です。
この研究は、特に自律的な学習習慣を形成する重要な時期にある14〜15歳の中学生を対象とし、LLM(以下AIとします)の使用が「テキストの理解」と「長期的な記憶(保持)」にどのような影響を与えるかを調査したものです。
今回はこの論文をご紹介します。
実験は、イギリスの7つの中学校から計405人の生徒(分析対象は344人)が参加し、以下の3つの条件で行われました。
生徒たちはまず、学校で歴史に関するテキスト(アパルトヘイトやキューバ危機)を10〜15分かけて上記3つのそれぞれの条件で学習しました。
そして3日後に、抜き打ちで理解度テスト(記憶、推論、自由記述)を実施。また、学習中の楽しさや努力感、AIへの質問内容(プロンプト)も記録されています。
なお、学習テキストもノートも紙ではなく、すべてデジタル形式です。ノートはパソコン上のメモアプリ(Notepad)でタイピングして作成しました。使用したAIは主にOpenAI社の「GPT-3.5 turbo」です。
結果は以下の通りです。
この論文における3つの学習条件(AIのみ、ノートのみ、AI+ノート)のテスト結果を、具体的な平均点と統計的な数値を用いて比較します。
テストは「逐次的記憶」「読解力」「自由再生」の3つの指標で評価しています。
結果①
学習の3日後に行われたテストの平均スコア(平均値)
|
評価項目 (満点) |
AIのみ |
ノートのみ |
AI+ノート |
|
逐次的記憶 (20点満点) |
8.83〜8.95 |
10.80 |
9.68 |
|
読解力 (12点満点) |
3.80〜4.00 |
4.89 |
4.11 |
|
自由再生 (50点満点) |
4.32 |
5.36 |
4.20 |
結果②
生徒の主観的な評価とエンゲージメント
※逐次的記憶…情報や出来事を順番通りに記憶し再生すること
※自由再生…覚えている内容を自由に書き出したり、思い出したりすること
なんと、テストでは「ノートのみ」で学習した生徒が記憶力、読解力のすべてでスコアでもっとも高いという結果です。「AI+ノート」というのが最強な学習だと考えていたので少し意外な気もしました。
その理由は著者によると以下にあるようです。
「AI活用では、多くの生徒が学習に役立ちそうな質問をしていたが、『AI+ノート』のグループでは、AIが出した回答をそのままノートにコピペする行動が多く見られ(約16%の生徒がほぼ丸写し)、これが学習効果を下げた一因と考えられる」
もし紙のノートだったとしても、丸写しはあると思います。しかし、デジタルノートでは数秒でできてしまう作業のため、覚えながら書いたり、思考を整理する時間がないのかもしれません。デジタルの落とし穴ですね。
そしてもう一つ気になるのが、「なぜAIのみでは学習効果が低いのか」についてです。
上記の生徒の主観的な評価の結果にある通り、生徒たちは、テストの結果とは裏腹に、AIを高く評価しています。
この理由について、著者は次のように考察しています。
「生徒たちは『楽に、楽しく、スムーズに情報が得られること』を『効率的に学べている』と勘違いしてしまう。しかし、実際の学習には、自分の頭で情報を整理し、言い換えるという『苦労(認知的な努力)』が必要である。ノート作成はこの努力を強制するが、AIはそのプロセスを肩代わりしてしまうため、表面的な理解で終わってしまう。
ただし、AIには生徒の興味を引き出し、テキストの枠を超えた知的好奇心を刺激するという独自の利点があることも認められている」
以前、当コラム「AI時代に問われる「分かりやすさ」と学びの関係 〜流暢さが生む“学びの錯覚”を検証した研究〜」の中で、流暢な授業はわかったつもりになってしまうという内容の論文をご紹介しましたが、それに通じるものですね。
最後に著者は教育への示唆と結論を以下のように述べています。
本研究は、AI時代の教育において以下の3点を提案する。
結論として、AIは学習の動機付けや初期の理解を助ける強力なツールになるが、それ単体では長期的な記憶や深い理解には不十分である。「伝統的なノート作成の努力」と「AIの利便性」いかに賢く組み合わせるかが、これからの教育の鍵となる。
念のため補足すると、伝統的なノート作成というのは、紙のノートにペンで書く「手書き」を推奨しているのではなく、「情報を取捨選択し、自分の言葉で言い換え、整理して記録する」という、古くから学習に有効とされる認知的プロセスを指しています。
以上が論文の概要です。
この実験は、ランダム化比較試験であり、参加人数も405名という規模なので、信頼性の高い研究と言えるでしょう。
自分の頭で考えてノートをまとめるという行為そのものが、AI学習よりも効果的というのはなかなか興味深いです。楽しいと感じることと効果がある学びはイコールではないんですね。多少の困難が記憶を強くするということなのかもしれません。
AIは、学習のハードルを下げたり、理解の手助けをしてくれたりする便利な道具です。
しかし、知識を本当に自分のものにするためには、情報を整理し、自分の言葉で考え直すというプロセスが欠かせないのかもしれません。
この論文は、AIの役割と人間にしかできない学びのプロセスを、改めて教えてくれているように思います。
最終的に思考を整理するのは、やはり人間です。
AIには自分の思考を手伝ってもらう――そんな形で、これからの学びと賢く付き合っていくことが大切なのではないでしょうか。
◾️論文タイトル:Effects of LLM Use and Note-Taking on Reading Comprehension and Memory: A Randomised Experiment in Secondary Schools◾️著者:Pia Kreijkesほか◾️掲載誌:Computers & Education ◾️DOI:10.1016/j.compedu.2025.105514 ◾️公開日:2026 年 4月
文:鈴木素子
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