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体育の授業にAIが入ると何が変わる?  〜小学生の投球力向上を検証した研究から〜

小学生の体力・運動能力「投げる力」が下がり続ける現実

今回は「体育×AI」の話をします。
みなさんは、小学生の頃、50m走や握力、ソフトボール投げ、シャトルランなど、8〜10項目で体力・運動能力測定を行っていたことを覚えていますか?

この体力測定は、1964年から今のかたちで全国調査が始まったそうです。

近年の子どもは、調査初期の頃の子どもたちに比べたら、体も大きくなっています。それに体育指導法の進歩もあることから、全体的に記録は上昇傾向にあるのでは?と勝手に思っていたのですが、実は「ボール投げ」は下降傾向となっているんですね。

下記の図をご覧ください。昭和39(1964)年度、平成5年(1993)度、令和5年度と、10歳のボール投げの記録をちょうど親子3世代といった年代で比較したものですが、現在の子どもたちの記録がもっとも低くなっています。特に男子が顕著です。

 図/ 10 歳のボール投げの三世代比較 (出典:スポーツ庁「令和5年度体力・運動能力調査結果」より)

 

ボール投げの記録が下降している理由は、ゲームやスマホなど、生活や遊びの質が変化したことや、都市部を中心に外で思いっきりボールを投げられるような遊び場が減っていることなど、いろいろな要因はありそうです。

どうしたら児童の投球能力をアップすることができるのでしょうか。

今回は、このような背景を踏まえ、小学校の体育授業でAI動作分析アプリを活用した学習プログラムを導入し、児童の課題発見能力や投球能力が向上するかどうかを検証した国内の論文をご紹介します。

論文タイトルは「児童の課題発見を促すAIを用いた学習プログラムの開発に関する実践的研究―小学校体育科における投の運動を題材にしてー」です。

 

体育授業でAIを活用するとどうなる? 動作分析アプリ「SPLYZA MOTION」と授業の流れ

研究で活用したのは、iPadとマーカレス動作分析アプリ「SPLYZA MOTION」です。
このアプリの特徴は、センサーなどを付けていなくても、撮影するだけでAIが以下の情報を可視化してくれる点にあります。
・スティックピクチャー: 骨組みのような線(棒人間)を動画に重ねて表示。
・数値データ: 関節の「速度」「角度」「距離」などをグラフや数字で表示。

 また、実験と学習プログラムは次のように実施されました
〈実験対象〉
・栃木県の公立小学校の5年生 2 クラス(63 名)
・授業は 4 時間 の学習プログラムとして実施。

 〈学習プログラムの流れ〉

  1. 現状把握: 遠投の記録を測り、自分の投動作を撮影・AI分析して課題を見つける。
  2. 個別練習: 発見した課題に合わせて、6種類の練習(振り子投げ、バウンド投げ、ステップ投げ、新聞スティック投げ、ロープ越え投げ、ロケットボール投げ)から自分に合ったものを選び、練習する。
  3. 協働学習: 友達とAI分析を見せ合い、アドバイスし合いながら練習を深める。
  4. 成果確認: 再度記録を測り、AIで動きの変化を確認して、課題が解決したか確かめる。

AIで何が変わったのか? 投球記録の向上と「自分で気づく力」の成長

研究の結果は以下の通りです。

  1.  投能力と動作の劇的な向上
    プログラムの前後で比較したところ、男女ともにソフトボール投げの記録が有意に向上した(男子平均2.0m、女子平均2.33mの伸び)
    また、投げ方のフォーム(投動作)を35点満点で評価したスコアも大きく改善しており、AIによる分析が「正しい動き」の獲得に有効だったことが示された。

  2. 視覚的な「課題発見」の促進
    テキストマイニング(記述内容の分析)の結果、児童はAIが示す「角度」や「速度」といった具体的な数値や、スティックピクチャーを頼りに課題を見つけていることが分かった。
    ・「腕の角度が90度だったので、もっと後ろに引きたい
    ・「棒人間で見ると、足の幅が狭いことに気づいた」
    このように、感覚ではなく客観的なデータに基づいて自分の課題を捉えられるようになった。

  3. 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現
    児童は自分の課題に合わせて練習場所を自由に選択した(個別最適な学び)。また、友達と一緒に画面を見て「ここをもっとこうした方がいいよ」と教え合う姿も見られ、AIがコミュニケーションのきっかけとして機能したことも大きな成果となった。 

 

少し補足すると、運動有用感(自分は運動ができるという感覚)の高さによって、AIの役立ち方が異なることも明らかになっていたようです。
例えば、「運動が苦手な子は、先生のアドバイスをAIの数値が裏付けることで課題を理解できた」「運動が得意な子は過去の自分とAIの今の分析を比較して、もっと遠くに飛ばすにはどうしたらよいか、とさらに高い課題を見つけた」と報告されています。

AIがもたらす新しい体育のかたち

著者は論文の最後で、次のような結論と考察を示しています。
AIは単なる分析ツールではなく、児童と教師、あるいは児童同士の「対話」を深めるための強力なサポート役になることが示された。
AIによって自分の動きが「見える化」されることで、以下のサイクルが生まれた。
・AIで自分の動きを客観的に知る。
・教師や友達との関わりの中で、具体的な課題に気づく。
・自分で選んだ練習方法で解決に取り組み、成長を実感する。

この研究は、「AIのデータ」と「人間同士の関わり」を組み合わせることで、子どもたちが主体的に学び、楽しみながら技能を高められることを証明した。これは今後のデジタル時代の体育授業において、非常に重要なモデルケースになると言えるだろう。

 

以上が論文の内容です。
たった4時間のプログラムで平均2mも記録が伸びるのは驚きです。

運動は、頭で分かっていても、イメージしていても、思い通りにはいかないものですし、先生の言葉によるアドバイスだけでは理解しにくい子も少なくないでしょう。ですが、AIを活用することで、特に「運動が苦手」と感じている子どもが自ら気がつき、課題を見つけるようになった点に、大きな可能性を感じました。

運動能力は、特に小さいうちに伸ばしておきたい科目の一つではないでしょうか。
現在、体育授業におけるAI活用の検証は、まだ実験段階の研究が多いものの、この研究の成果は、投運動以外のさまざまな種目にも応用できる可能性を示しているように思います。

 

◾️論文タイトル:児童の課題発見を促すAIを用いた学習プログラムの開発に関する実践的研究―小学校体育科における投の運動を題材にしてー ◾️著者:阿部功(さくら市立喜連川小学校)、石井 幸司(宇都宮大学)、石塚 諭(宇都宮大学)◾️掲載誌:臨床教科教育学会誌 ◾️発行年:2024年(23巻2号 p.1–12)

 

 この記事のまとめ

  1. 小学生の体力は全体的に回復傾向も見られる一方、「投げる力」は長期的に低下し続けている。
  2. 体育授業にAI動作分析を取り入れることで、子どもは自分の動きを客観的に理解できるようになる。
  3. AIを活用したわずか4時間の授業で、ソフトボール投げの記録が平均2m以上向上した。
  4. 数値や映像による「見える化」は、運動が苦手な子の気づきや理解を特に助ける。
  5. AIは体育を置き換える存在ではなく、子ども同士や教師との対話を深める学びの支援役となる。

文:鈴木素子

 

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