【2024年9月24日 修正】
AI適用性スコアが最も低い下位40の職業ランキング情報に誤りがございました。正確な情報に修正いたしました。読者の皆様にはご迷惑をおかけし、お詫び申し上げます。
この記事の内容
今年、マイクロソフトが業績好調の中、大幅に人員を削減する方針を発表したことがニュースになりました。その数は約15,000人。CEOは、その理由を「技術革新やAIシフトに伴う環境変化に備えるため」と言っています。
さらなるAI開発に巨額の投資を行うということです。
レイオフは営業部門やXbox、中間管理職など多岐にわたっていますが、その中にはソフトウエア開発のエンジニア職に属している人も大量に含まれているようです。
AI時代に生き残っていけそうなIT系エンジニアでもレイオフされるということに驚いた人も多いと思いますが、実はその一方でクラウド(Azure)、AI(Copilot、OpenAI連携)、サイバーセキュリティ、データセンター関連のエンジニア職はむしろ採用を強化しているようです。
近年のAIの進化によって、シンクタンクなどから「未来にAIに仕事を奪われる職業」といったさまざまな「予測」が出されていますよね。そんな中、そのマイクロソフトのR&D部門であるマイクロソフトリサーチが、今年7月に「AIとの協働:生成型AIの職業的影響の測定」という研究レポートを発表しています(査読前論文)。
論文の中で、「AIの職業的影響を受けやすい職業ランキング」と、「AIの職業的影響を受けにくい職業ランキング」が記載されていて、メディアでも取り上げられて話題になっていました。
今回は、その論文を紹介したいと思います。
最初にお伝えしておくと、論文タイトルやランキングタイトルが少々誤解しやすいのですが、この論文は実際のところ、「AI奪われる仕事、奪われない仕事」というものを分析や検証したものではありませんでした。
マイクロソフトリサーチの研究目的は、生成AI(人工知能)が経済や仕事にどのような影響を与えているのかを理解しよう、というもの。そのために次の方法で調査・分析を行いました。
対象データ:
米国で20万人がCopilotを使った9か月分の会話ログ(2024年1月〜9月)
分析方法:
1.ユーザーがAIに求めた目標と、AIが実際にとった行動を比較
2.アメリカの職業データベース「O*NET」と照合し、各職業の活動ごとにAIがどの程度影響したかを数値化
評価指標:
・どの職業活動をどのくらいカバーしたか(カバレッジ)
・成功裏に完了した割合(完了率)
・全体への影響の広さ(影響範囲)
それを研究者たちによって、AIがそれぞれの仕事の活動を「どのくらい手伝えているのか」を適用性スコアに表す、というやり方です。
わかりやすく説明すると、AIに求めた目標と、AIが実際にとった行動の一致度の評価は、例えば以下のように考えられます。ユーザーが「資料の書き方を知りたい」要望があったとします(ユーザーの目標)。それに対しAIが実際にした行動が「書き方を教えた」のか、「書き方を教える資料を提供した」のか、「関係ない答えを出した」のかで、目標の達成度は違ってきますよね。
このように、ユーザーの要望に対してAIが完全に要望を満たす働きをしていたのか、完璧ではないがある程度手伝えていたのか、まったく手伝えていなかったのか、を評価して、適用性スコアに反映させます。
分析の結果、ユーザーがAIに最も求めていたのは
・情報収集
・文章作成
・プロジェクトの詳細に関するやり取り
でした。
実際にAIが多く果たしていた役割は、
・情報提供
・文章作成
・支援・助言・指導
であり、これらはユーザーの満足度も高く、AIが得意とする分野だと示されています。AIは特に「情報を集めて整理し、人にわかりやすく説明する」コーチやアドバイザー的な役割を果たすことが多い、と書いています。
そして、スコア分析の結果で注目したいのが、ユーザーがAIに求めること(ユーザー目標)と、AIの回答(AIの実際の行動)です。
会話の40%はユーザーの目標とAIの行動に共通する活動がなかったと書いています。
では、どの仕事がAIの適用性スコアが高いのでしょう。AIがユーザーの要望に一致する回答を出している仕事は何か、をランキングにしたのが以下です。
AI 適用性スコアが最も高い上位 40 の職業
1位:通訳者・翻訳者
2位:歴史家
3位:客室乗務員
4位:サービス営業担当者
5位:ライター・著者
6位:カスタマーサービス担当者
7位:CNCツールプログラマー
8位:電話オペレーター
9位:チケット販売・旅行代理店
10位:放送アナウンサー・ラジオDJ
以下(ランキング順)
⚫︎11位〜20位
証券事務員 、農場と家庭管理の教育者、テレマーケター、コンシェルジュ、
政治学者、ニュースアナリスト・レポーター・ジャーナリスト、数学者、
テクニカルライター、校正者・コピーマーカー 、接客係
⚫︎21位〜30位
編集者、ビジネス教師(高等教育)、広報専門家、実演販売員および商品プロモーター、
広告販売担当者、新規口座事務員、統計アシスタント、カウンターおよびレンタル事務員、
データサイエンティスト、個人金融アドバイザー
⚫︎31位〜40位
アーキビスト(記録保管人)、経済学教師(高等教育)、ウェブ開発者、
経営コンサルタント、地理学者、モデル、市場調査アナリスト、公衆安全通信士、
交換手、図書館情報学教師(高等教育)
※ 以上の職業表記はNotebookLM による翻訳
AI 適用性スコアが最も高い職業は、いわゆる知識労働とコミュニケーションが重要な職業が多いですね。たくさん書いてありますが、意外と特定の分野に固まっているように思います。
一方、AI適用度が低い職業も出しています。
ランキング順に記載します。
AI 適用性スコアが最も低い下位 40 の職業
1位:浚渫船オペレーター
2位:ブリッジとウォーターゲートウォッチャー
3位:水処理プラント・システムオペレーター
4位:鋳物型・中子工
5位:線路敷設・保守機器オペレーター
6位:杭打ち機オペレーター
7位:床研磨・仕上げ工
8位:病室補助員(オーダーリー)
9位:モーターボートオペレーター
10位:伐採機器オペレーター
以下(ランキング順)
⚫︎11位〜20
位舗装・路面仕上げ・タンピング機器オペレータ、メイド・ハウスキーピング清掃員、
油田・ガス田作業員、屋根職人、ガス圧縮機・ガス送油所オペレーター、屋根職人助手、
タイヤ製造工、外科助手、マッサージ療法士、眼科医療技術者
⚫︎21位〜30位
産業用トラック・トラクターオペレーター、消防士監督者、セメント職人・コンクリート仕上げ工、
皿洗い、機械サプライヤーおよびエジェクター、梱包・充填機械オペレーター、
医療機器準備作業員、道路整備作業員、生産作業員助手、補綴歯科医(プロストドンティスト)
⚫︎31位〜40位
タイヤ修理・交換工、船舶機関士、自動車ガラス取り付け・修理工、口腔顎顔面外科医、
プラント・システムオペレーター(その他全て)、葬儀屋(エンバーマー)、
塗装工・左官工などの助手、有害物質除去作業員、看護助手、採血技師
※ 以上の職業表記はNotebookLM による翻訳
上記の職業から、AIがユーザーの要望をカバーしにくい職業は、人と物理的に接するのが必須の職業や、機械の操作や監視、いわゆるブルーカラー職業中心の肉体労働が多いことがわかります。
この分析結果は、以前マイクロソフトの専門家が予測した結果とかなりの一致が見られたとのことです。
いかがですか? このデータをみてどう思われたでしょうか。
繰り返しですが、このランキング表題を翻訳すると「AIの影響を受けやすい仕事、受けにくい仕事」という表現になるので、なんとなく、AIに奪われる仕事、奪われない仕事、という意味に捉えてしまうかもしれないのですが、そういう意味ではありません。
著者も論文中の考察で、「AIがどう使われているか」を示しているだけで、AIによって仕事が「自動化されてなくなるのか」それとも「仕事のやり方が変わって効率的になるのか」は直接は予測できない。AIが仕事のタスクの大部分をこなせるようになる一方で、AIは万能ではないし、職業全体がなくなるわけではないことを強調しています。
加えて、このデータはCopilotのみを使用していることや、会話データ分析は仕事とプライベートを区別していないことなどから、検証として不十分であることなども言及しています。
予測できない理由として、著者は銀行の例を挙げて「昔ATMが登場したとき、銀行員の仕事は減ると思われていたけれども、より価値の高い人間的な顧客対応にシフトしたため、実際には銀行員の数は増えた」と言及しています。
このことは、冒頭で記載した、マイクロソフトが従来型のエンジニアを減らした一方で、クラウド(Azure)、AI(Copilot、OpenAI連携)、サイバーセキュリティ、データセンター関連のエンジニア職を増やしていることと類似していますよね。
著者は最後に結論と考察として以下のように述べています。
「AIは知識労働における強力なアシスタントだが、完璧な代替品ではない。だから私たちが今、本当に考えるべき問いは、自分の仕事がAIに代わられてなくなるかではなく、AIを使って自分の仕事をどう再発明できるかなのかもしれません」
どの職業でも職種自体がなくなるのではなく、求められるスキルや役割が変化していて、スキルチェンジが求められる時代に入っている、ということではないでしょうか。
仕事が消えるかもしれない不安から、仕事がもっと面白く進化するというチャンスへ。今回のデータは私たちにそんな視点の切り替えを迫っているのかもしれません。
・ マイクロソフトは業績好調の中でも1.5万人をリストラし、AI・クラウド・セキュリティなどの分野では採用を強化している。
・Microsoft Researchは、Copilot利用者20万人のログを分析し「AIが職業にどう影響しているか」を調査した。
・AIは特に「情報収集・文章作成・助言」に強みを発揮し、知識労働やコミュニケーション重視の職業で適用性が高かった。
・一方で、看護助手や道路整備作業員など、人と直接関わる・物理的作業が中心の職業はAI適用性が低かった。
・分析は「仕事がなくなる」予測ではなく、「AIがどの程度サポートできているか」を示すものである。
・著者によると、ATM登場後も銀行員が減らず役割が変わったように、職業自体が消えるのではなく、求められるスキルや役割が変化していく。
・本当に問うべきは「AIに奪われるか」ではなく「AIをどう使って自分の仕事を再発明できるか」である。
文:鈴木素子
※本記事は、なるべく客観的に、最新の科学的知見を紹介できるように努めています。
また理解しやすい内容にするために平易な表現に直しています。
不正確な表現になっているかもしれませんので、ご指摘いただける方は、お手数ですが下記のアンケートフォームよりご連絡ください。
【アンケートのお願い】
本記事についてのご感想ごご意見、ご感想、また、取り上げてほしいトピックなどを伺いたく思います。
アンケートに回答していただいた方には、本記事でとりあげた論文のAI要約をお送りいたします。
ご協力をお願いいたします。
アンケートフォームはこちら
AI時代の教育と子育てアンケート
2026.03.16 AIが採点する時代でも、学生は「先生の評価」を求める? 〜大学生159名の実験から見えたこと〜
2026.03.09 AI時代でも「ノートを取る子」が伸びる理由 〜中学生405人の実験から〜
2026.03.02 AIで読解力は鍛えられるのか? 〜高校国語授業での新しい挑戦〜
2026.02.24 図工の授業にAIを導入したら、子どもはどう変わる?
2026.02.17 AIで音楽の才能はここまで伸びる 〜音楽教育の最前線〜
2026.02.12 英語スピーキング学習はどう伸ばす? 〜中学の授業で検証したAI活用研究〜
2026.02.06 マッキンゼーの採用試験にAI登場 〜仕事に必要なスキルはどう変わるのか〜
2026.02.02 地理が暗記科目ではなくなる? 〜GeoAIで変わる、体験型・問題解決型の学習〜
2026.01.21 体育の授業にAIが入ると何が変わる? 〜小学生の投球力向上を検証した研究から〜
2026.01.07 幼児のスマホ見過ぎをどう改善するか 〜スクリーンタイム削減に成功した研究から学ぶ〜
2025.12.23 AIは創造力を奪うのか、育てるのか? 〜 美術教育で検証された生成AIの可能性〜
2025.12.09 AI彼氏やAI親友はなぜ生まれるのか 〜人がAIに親密さを感じる“仕組み”を科学する〜
2025.11.27 AIは歴史学習に向かない? 〜論文が示す「文脈力」と「批判的思考」の重要性〜
2025.11.06 AI時代に“根っこ”の学びをどう育てるか 〜人の学びとキャリアの構造を可視化した研究〜
2025.10.22 AIは人間の心を読めるのか? 〜スタンフォード大学の研究〜
2025.10.08 ChatGPT利用で成績はアップする? 〜51研究のメタ分析から見えた答え〜
2025.10.01 なぜAIは「もっともらしい嘘」をつくのか 〜OpenAIがハルシネーションの原因を分析〜
2025.09.03 AI依存はバカになる? 考える力が衰えるのは本当?
2025.08.01 AI時代に求められる人材と仕事とは 〜「全部が60点」という人が不要になる? 〜
2025.07.15 子どもの生成AIとの付き合い方とは? 〜親子で考える教育と家庭の役割
2025.06.24 発明塾式「頭のよい子が育つ家」〜思考を育てる環境設計〜
2025.06.06 文系・理系どちらを選ぶべき? 〜子どもの進路選択に悩む親が知っておきたい3つの視点
2025.05.19 発明塾の手法と子育て
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略