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幼児にAIを使わせても大丈夫? 〜最新研究が示す「感情の自己制御」と「協調性」への意外な効果〜

未就学児にAIは早すぎる? 〜情緒発達とAI活用の最新研究〜

AIが登場して以来、子どもの学習のをサポートに対してその効果が研究実証されてきていますが、一方で子どもたちの感情や情緒、社会的スキルの発達面にどのような影響を与えるかについての議論や研究などは十分に行われていないように感じます。

特に未就学児のお子さんは勉強よりもまだ情操教育が中心ではないでしょうか。小さい子どもを持つ親御さんは、AIの活用についてどう活用すればよいのか、そもそも活用してもよいのかよくないのか…などいろいろ迷いや悩みを持っていることと思います。


そこで、今回は未就学児を対象としたAI活用と情緒発達に対する実験検証を行った論文をご紹介します。論文のタイトルはSupporting Preschool Emotional Development with AI-Powered Robots(AI 搭載ロボットによる幼児の情緒発達支援)です。

 簡単に言うと、この研究は未就学児にAI搭載ロボットが情緒を教えられるのか?という研究で、実際にAIロボットを幼児教育に取り入れたとき、子どもたちの
①感情の認識や自己制御(エモーショナル・レギュレーション)
②社会的な関わり
③共同作業などにおける協調スキル
がどう変化するのかを実験検証したものです。

著者は特に、研究目的について「就学前の子どもにとって、感情の自己制御は、学業的および社会的な成功の基礎となる重要な要素」であるため教育ロボットがどのようにしてサポートできるのか、AIの新たな可能性を探究するため」だと言及しています。

 

「感情の自己制御」とは、自分の感情をうまくコントロールして周りの空気を読んだり、何か困難なことがあっても回避していく力のことですね。これは生きていく上でとても大事なスキルですよね。

 

スペインで10週間の検証実験  〜 AIロボットが幼児と対話〜

実験に使用されたAIロボットとは以下のようなものです。

 AIロボットがどんなものかというと、
「タッチスクリーンやマイク、スピーカー、カメラ、自由に動き回るための車輪がついた小型ロボットで、GPT-4V とクラウド連携し然言語処理やリアルタイムの感情認知機能を分析するAIが搭載。これにより子どもたちの表情や発話から感情を推定し、適切な声がけや活動提案(落ち着く遊び、共感的対話)など一人ひとりに合わせたコミュニケーションがとれる」
というものです。

 この実験は、スペインにて幼稚園に通う4歳の子どもたち合計40人を対象に全体で10週間にわたって以下のように行われました。

  •  グループ1(20名)
    最初の5週間:ロボット使用 →その後の5週間:ロボットなし

  • グループ2(20名)
    最初の5週間:ロボットなし →その後の5週間:ロボット使用

 

AIロボットの使用期間は感情について学んだり、チームワークを練習したりする授業でAIロボットとたくさんコミュニケーションをとり、ロボット使用しない期間は先生中心のこれまでと同じ従来の授業を受ける、というものです。

 

早期導入は“感情理解”に即効性、長期利用は“協調性”を伸ばす

先述の①感情の認識や自己制御、②社会的な関わり、③共同作業などにおける協調スキル、に関する検証結果を以下にまとめます。数字は各評価に対するスコアです。

  1. 感情の認識や自己制御(3週目)
    ・AIロボット使用のグループ1:平均26/30
    ・未使用のグループ2:平均18/30
  1. 社会的な関わり(友達と協力できるか、順番を守れるかなどの力)(7週目)
    ・AIロボットなしに切り替わったグループ1:23/25
    ・後半にロボットを使い始めたグループ2:平均22/25
  1. 共同作業などにおける協調スキル(10週目)
    ・AIロボットなしに切り替わったグループ1:21/25
    ・後半にロボット使用を継続しているグループ2:24/25

     

     そして結論は以下のように書いています。

     1.早期の学習効果
    ・実験開始から間もない3週目時点での評価では、ロボットに早期に触れたグループ1は、従来の指導法を用いたグループ2と比較して、感情認識の能力において非常に高いスコアを達成した。

     2.継続的な学習効果と協調性
    ・実験終盤(10週目)の最終評価では、後からロボット使用をしたグループ2は、途中で従来の指導法に戻ったグループ1と比較して、優れた協調スキルと持続的な参加を示した。これは、AIを活用した介入に長く触れることが、協調的な問題解決などの複雑なタスクにおいて、より深く持続的な利益をもたらすことを裏付けている。

     3.関係者からの評価と受容度
    ・保護者からのフィードバックは非常に肯定的だった。特に、グループ2の保護者の88%は、感情発達を促す点でロボットが従来の方法よりも効果的であると評価した。
    ・両グループ全体で、95%の保護者が教育活動へのロボットの継続的な統合を推奨した。
    ・教師は、ロボットが授業計画に組み込みやすいこと、技術的な課題が最小限であったことを報告している。また、ロボットが促進する活動において、子どもたちの参加意欲と集中力が増したことを観察した。

     

    要するに、AIロボットの導入は子どもたちに心の発達を教えられるし、親からみても先生からみてもメリットがありそうだ、ということですね。

     

    AIロボットは先生の「強力な相棒」になれるのか  〜 可能性と課題〜

    この実験結果から著者は

    「AIロボットには強力な潜在力があることがわかった」ことともに、「ロボットは、リアルタイムで感情を分析し、子ども一人ひとりの状態に合わせてサポート内容を変えられるツールとして機能する。これにより、従来の指導方法では対応が難しかった、多様な学習ニーズを持つ子どもたちを支援し、教師の指導を補完することができる」

    と書いています。

     

    子どもの適応力とAIとの共存 〜ロボットは先生を支えるパートナー〜

    いかがでしたか?
    私は実験結果を読んで、まずはAIロボットに対する子どもたちの適応力の速さに驚きました。
    AIロボットの技術の進歩も理由にあると思いますが、子どもたちは、人間からでもロボットからでも関係なく、教えられれば基本的な社会性が身に付くのかもしれません。区別や先入観なく接する、子どもが本来持っている純粋さを同時に感じとれました。

    幼稚園など未就学児と接する先生は一人ひとりと向き合わなければいけないので本当に大変だと思います。ですが、先生のアンケートにもあったようにAIロボットは仕事を代替する存在ではなく、先生が本来の先生の仕事をするために、最高のパートナーになりうるものだ、と言っていることが素晴らしいと思いました。

    やはり、AIはあくまでも補助。その限界と使い方を知って上手に活用することが大事なポイントだと思います。

     

    ◾️論文タイトル:Supporting Preschool Emotional Development with AI-Powered Robots ◾️著者:Santiago Berrezueta-Guzman、María Dolón-Poza、Stefan Wagner ◾️掲載:ACM Digital Libraryの予定) ◾️発行日:2025年6月23日


     

    この記事のまとめ

    • 未就学児におけるAI活用は、情緒・社会性の発達への影響がこれまで十分に研究されていない領域である。
    • スペインの研究では、GPT搭載AIロボットが幼児の感情理解や協調性に与える影響を10週間にわたり検証した。
    • AIロボットの早期導入は、感情の認識・自己制御の向上に大きく貢献した。
    • ロボットの継続利用は、協調的な問題解決や社会的参加を強める効果が確認された。
    • 保護者・教師の評価は非常に高く、教育現場でのロボット活用は受容性が高いことが示された。
    • 公平性・倫理・教師のトレーニングなど今後の課題に対応すれば、AIロボットは教育を補完する有効なツールとなり得る。

    文:鈴木素子

     

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