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図工の授業にAIを導入したら、子どもはどう変わる?

図工の授業にAIを導入したら、子どもはどう変わる?

AIはアイデアの種になれるか

小学校の時の図工の授業は覚えていますか? 絵や立体的な作品など、自由にのびのびとつくっていた記憶がありますが、不正解のない教科というのは魅力的ですよね。

 と言いつつも、個人的には、いいアイデアは浮かぶけれど、どう作ったらよいのか分からなかったり、逆にアイデアや発想がなかなか思い浮かず、しばらく図案が白紙のままだったり、という経験もありました。制作途中に先生に質問したくてもなかなか順番が回ってこなくて困ったこともありました。

 

実は、このようなことは、今も、日本以外の国でも同じようです。教師が一人ひとりに対応できないという悩みも共通しているようです。
そこで、そのような課題を解決するために、さまざまな国で小学校の図工の授業にもAIを導入しようと検討や実験が行われているようです。

そこで今回は、中国の論文をご紹介します。
Exploring the Usage of Generative AI for Group Project-Based Offline ArtCourses in Elementary Schools」(小学校におけるグループプロジェクトベースのオフラインアートコースにおける生成AIの活用の検討)です。

 小学生の図工の授業に導入するAIツールの開発とそれまでの段階的な実験の結果などが書かれています。

 

既存のAIツールを使用した際に生じた課題

まず検証したのは、画像生成AI 「DALL-E 3」と「ChatGPT」の既存のツールです。

小学校3〜5年生132人の子どもに、中国の伝説に登場する「龍生九子(9体の子龍)」の中からそれぞれ割り当てられた龍の創作とポスターを制作するという課題を与えました。
子どもたちは上記のDALL-Eを使用して、龍の視覚的なイメージを膨らませたり、ChatGPTで龍の背景知識や制作方法に関する情報を調べる活動を行い、その様子を調査しました。

調査の結果
・「アイデアの発想に役立つ」「実制作の具体的助言に役立つ」と感じた児童が多かった。

発見と課題
・ 子どもはまずChatGPTで調べ、そのあとDALL-Eで画像を作る「順番利用」をしていた。
・子どもたちの中には「何を質問すればよいか分からなかった」という意見や「入力が難しい」という意見があった。


補足すると、既存のツールは、「龍の眼をどうするか、といった具体的なアイデアの発想など役立った」という評価もある中、ChatGPTとDALL-Eの違いを理解していない子どもや、プロンプトが難しく、期待と違う回答が出る、という児童からの声もあった、と書いてあります。

小学生なので特に低学年ほど入力に慣れていないでしょうし、そもそもAIと「対話する」という発想自体が十分に育っていなかった可能性があるということですよね。

 

既存ツールから改善・開発した子ども専用AI「AskArt」

そこで、上記の課題を受け、研究チームは小学生向け専用のインターフェースAskArtを開発しました。
AskArtの特徴は主に以下の通りです。

・「考えるタンク(ChatGPT)」と「小さな絵描き(DALL-E)」: 二つの機能を左右に並べ、情報の流れを可視化
・音声入力
・関連する質問の自動提案
・ChatGPTの回答から自動でDALL-E用プロンプト生成
・授業テーマに合わせた初期ガイド表示

 少し補足すると、タイピングを不要にして、AIの方から質問の選択肢を見せるようにしたり、AIとの会話で出てきた言葉をマウスで選ぶだけでその言葉が瞬時にDALL-Eの命令文に変換されてイメージが出てくるようにした、ということです。
言葉からイメージを絵にするまでが切れ目なく繋がるということですね。

 

AskArtの実験結果

そして開発したAskArtを、今度は小学校3〜6年生までの108人に、AskArt利用の実験群と、AskArtも他のツールも使わず従来の授業を行う対照群に分けて実験しました。
課題テーマは未来の都市がどのような外見や機能を持っているかを構想し、それを描くポスター制作です。

授業の後に行われたアンケートによる主な結果は以下の通りです。(7段階評価:1が最低、7が最高)

評価項目

実験群

対照群

有意差の有無

全体の満足度

6.64

5.46

あり

創造性の発揮

5.34

5.49

なし

課題の難易度

5.39

5.16

なし

数値から、AskArtを使用したグループは、使用しなかったグループに比べて、授業に対する満足度が高いということがわかりますね。

また、数値からの分析として、著者は、AIツールを導入しても、児童が感じる「課題の難易度」に大きな変化がなかったということは、AIが課題を単に「楽にする」のではなく、より高い満足感を得ながら取り組むためのサポートとして機能したと示唆しています。

そのほか、「考えるタンク」と「小さな絵描き」とをわかりやすくしたことで、使い分けを正しくできるようになったことや、画像生成のプロンプトでは選択機能をつけたことで、単語を付け加えながら繰り返し改善するスキルを自然と身につけたことなどが報告されています。

 

 「楽になった」のではなく「満足度が上がった」

また、論文には教師の視点と懸念が示唆されています。

   AIの導入を概ね歓迎。特に書くのが苦手な子や想像が広がりにくい子にとって、AIが初の一歩を踏み出す助けになるという点は高く評価されている。ウェブ検索のように無関係な広告や情報に邪魔されず、授業に集中できる点もメリットである。
  AIが出した答えをそのまま丸写ししてしまい、自分の頭で考えなくなるのではないか。
描画スキルが高い生徒がAIに頼りすぎることは、創造性の発展を妨げる可能性があるため、児童のレベルに合わせた指導が必要である。

 

先生たちの、想像力が広がりにくい子にとっての助けになるが、スキルの高い子には想像力の発展を妨げるのではないか、という懸念は教師ならではの視点だと思いました。
一方で、創造性の発揮の数値的評価に差がなかったという点は、決してAIは創造力を邪魔していなかったということを示しているのかもしれませんね。

 

最後に著者は議論と結論を以下のように述べています。

「本研究は、生成AIが小学生のグループ学習において、教師の補助的な役割を果たし、子どもたちの探究心や創造性を刺激する強力なツールになり得ることを示した。
重要なのは、単に最新技術を与えるだけでなく、「子どもの思考プロセス(調べてから描く)」に合わせたインターフェースを設計することである。また、AIを「答えをくれる魔法の箱」ではなく、共に考えるパートナーとして使うための指導(AIリテラシー)が、今後の義務教育において不可欠である」

 

これからの図工に必要なもの

以上が論文の概要です。
AskArt開発まで、既存のツールで実際に子どもたちを対象に実験を重ねながら、使用上の課題や改善点を明らかにしていった流れが見え、子どもに寄り添ったものになっている点が良いと感じました。

子どもの想像力を奪わず、でも刺激を与えてくれる。そしてツールを使用したからといって学習難易度は変わらない。そんな“ほどよいサポート”ができるAIツールは理想的ですね。

AIツールは、小さい子ども向けのものほど、時短や効率といった教師や大人の都合だけではなく、学力や評価の向上のみを目的としたものでもなく、子どもの学ぶ楽しさや、発想をちょっと後押しできるようなデザインであってほしいと思います。

 

◾️論文タイトル:Exploring the Usage of Generative AI for Group Project-Based Offline Art Courses in Elementary Schools ◾️著者:Zhiqing Wang, Haoxiang Fan, Shiwei Wu, Qiaoyi Chen, Yongqi Liang, Zhenhui Peng ◾️掲載誌:Proceedings of the 2025 ACM SIGCHI Conference on Computer-Supported Cooperative Work & Social Computing (CSCW ’25) ◾️発行日:2025年6月20日 ◾️arXiv:https://arxiv.org/abs/2506.16874

 

 このコラムのまとめ

  1.   生成AIは小学生の図工において、創造性を奪うのではなく「思考を後押しする道具」となり得る。
  2.   AI導入により課題の難易度は変わらなかったが、授業への満足度は大きく向上した。
  3.   子どもにとって重要なのは高性能なAIよりも、「思考プロセスに寄り添うインターフェース設計」である。
  4.   AIは答えを与える魔法の箱ではなく、問いを深める対話のパートナーとして使うことが鍵となる。
  5.   想像が広がりにくい子を支える一方で、使い方次第では創造性への影響も左右されるため、教師の指導が重要である。
  6.   これからの図工に必要なのは、効率化ではなく、子どもの発想を自然に刺激する「ほどよい支援」ではないかと考える。

文:鈴木素子

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