この記事の内容
近年、教育現場においても採点やフィードバックにAIの導入が進んでいます。
しかし、AIによる採点は効率性や一貫性といった利点がある一方で、フィードバック、例えば記述試験のような主観的な評価に対してはどうなのかという疑問が個人的にはあります。みなさんは、もしそういった記述問題のような機械的な判断に対して、AIと人間の評価のどちらを信頼しますか?
人間の評価では、好みや偏見も多少入ると思うので公平性が保てていない可能性もある。AIの方がブレのない基準で正確に評価できるのでは…という考えでしょうか。
逆にAIは、評価基準に当てはまるものしか評価できない。人間の方が、例えば尖った意見に対しても見逃さずにちゃんと見てくれそうだから信用できるのでは…というような考えでしょうか。
そこで、今回はフィードバックに対して学生がAIをどう認識しているかを実験検証した最近の論文をご紹介します。
「Exploring undergraduate students' perceptions of AI vs. human scoring and feedback」(大学生のAIと人間の採点とフィードバックに対する認識調査)です。
この研究は、カナダの大学生159名を対象に、人間の評価者による採点・フィードバックと、AIによるものを比較調査しました。
研究方法は以下の通りです。
調査手順
補足すると、採点と評価の生成は、ChatGPT-4を使用したものです。
また、ベースライン調査について、結果を先に書いておくと、「学生たちは、AIの速さや客観性には期待しつつも、内容の深さや信頼性については不安を感じており、特に自分がテクノロジーにどれだけ親しんでいるかによって、その期待値が左右されている状態だった」となっています。
ただ、全体としては極端にポジティブでもなくネガティブにも偏っていなかったということでした。それを踏まえて、結果を見てみましょう
研究の主な結果は次の通りです。
まず、正確に見分けることができなかったということについて、最新のAIが生成する回答は、一見では人間と遜色ないほどの性能になっているということがわかります。
そして、もう一つの重要な結果だと思うのが、正解かどうかに関わらず、人間の評価だと思ったものを高く評価しているということです。心理的なバイアスがかかっているんですね。
調査結果から言えるのは、「AIの採点能力」よりも「誰が評価したと思うか」が信頼に影響するということなのではないでしょうか。つまり、人間の評価の方が納得できるということなのかもしれません。
著者はこの結果の結論とそれに対する教育現場への示唆を次のように述べています
結論:
本研究は、AIによる自動採点が技術的に可能であっても、学生がそれを受け入れるまでにはまだ心理的な壁があることを浮き彫りにした。学生はAIの効率性を認めつつも、教育の根幹にある「人間同士のつながり」や「深い理解」を依然として重視している。
今後、AI技術がさらに進化し、よりパーソナライズされた(個人に最適化された)フィードバックが可能になれば、学生の認識も変わっていく可能性がある。AIを単なる人間の代わりとするのではなく、人間の教師をサポートし、学習体験を豊かにするツールとして、慎重かつ段階的に導入していくことが重要である。
教育現場への示唆:
・ 透明性の確保
学生に対して誰が評価を行っているのかを明確に伝える
・ AIと人間の「いいとこ取り」
AIは客観的で迅速な採点に優れているが、人間は学生一人ひとりに寄り添った温かみのある、深いフィードバックを得意とする。これらを組み合わせることで、より効果的な教育が可能になると考えられる。
以上が論文の概要です。
人間の評価の方が納得するという結果は、逆に言うとまだ学生たちは人間の先生に評価をしてもらいたいということの表れではないかと思いました。個人的にはこの先、AIがもっと進化して、学生たちのAIへの知識が深まってきても変わらないことなのではないかと思います。
「誰が言ったか」が信頼に影響する現象は、人間が学習において“関係性”や“意図”を重視する生き物だからだと教育心理学では言われているようです。つまり、「AIが書いた」「先生が書いた」で受け取り方が変わるのは、人間は“この人は自分のために言ってくれているのか”を無意識に判断しているということでしょう。
また教育哲学では、「学習は単なる情報処理ではなく信頼できる相手から学ぶ行為」とされているようです。(例えばTrust Between Teacher and Student in Academic Education at Schoolなど参照ください)
この結果からは、AIがどれほど優れた採点を行えるようになったとしても、人間の先生は必要で、大きな役割があるということが一つ言えるのではないでしょうか。教育とは、情報ではなく、人と人との関係の中で生まれるものなのかもしれません。
◾️タイトル:Exploring undergraduate students' perceptions of AI vs. human scoring and feedback◾️著者:Mackenzie L. Thomas、Seyma N. Yildirim-Erbasli、Shruthi Hariharan◾️掲載誌:The Internet and Higher Education (Volume 68)◾️DOI:10.1016/j.iheduc.2025.101052◾️公開日:2026年1月
文:鈴木素子
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